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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第二十三話 攻防

 俺はまず邪神に対し魔力精査を開始し――他とは明らかに違うと即座に理解する。


『私という存在が、どういうものなのか理解できたかしら?』


 邪神が問う。それには答えないまま、俺は思考する。


 その魔力は、例えるなら極彩色――例えばロベルドは魔力量も質も凄まじいものだったが、色は黒で変化はなかった。どれだけ魔力の流れなどを変えても、本質的な部分は同じ。

 だが邪神は違う。視覚化した魔力は時と共に変化する。赤から緑になったかと思うと突如青や紫といった混ざり合ったものへ変わり、さらに金色になったかと思うと対極に位置するような銀色に瞬きをする程度の時間で変貌する。


 相手の結界を打ち破るには手法が二種ある。一つは強引に力でねじ伏せる。そしてもう一つは相手の魔力を解析し、その結界を丸裸にして弱点を突く、あるいは結界そのものを透過する。


 後者こそ魔力精査により成し遂げることができる技術。だが邪神に使えない。刻一刻と変化する魔力……その質に合わせて魔法をくみ上げるのは厳しい。神域魔法を極めれば変化し続ける魔力の質に対応できるかもしれないが、今の俺では難しい。


 ならば――先手は俺。左手で発した白い光を、リュハを乗っ取る邪神へ向け解き放つ。


『あら、滅ぼしてもいいの?』


 問い掛けは無視。すると邪神は光を見据え――右手をかざした。

 着弾直後、ズアアアアッ――と、水が流れるような音が響き渡る。それはまるで邪神を浄化するような音でもあり、実際俺の魔法を防いだ右手は、光に飲まれ黒がはがれリュハの細腕が見えた。


『へえ、なるほどね』


 だが邪神は右腕に力を入れ、一瞬のうちに黒へと戻す。

 次いで右手を振った。光はそれであっさりとはね飛ばされ、遺跡の壁に直撃。轟音が鳴り響いたが――遺跡の壁には傷一つつかない。


『神域魔法の極意……ってやつかしら?』

「そうだな」


 同意しながら次の攻撃準備に入る。


 ――極意とは「対象となる邪神だけを破壊する力」。広義な言い方をすると傷を負わすことのできる相手を取捨選択できるようにするということ。


 女神は凄まじい力を備えている。それはともすれば本来守るはずの人間達を犠牲になってしまうほどに。だからこそ女神はこの技術を考案した。例えば多数の群衆の中でも人間に傷一つつけず戦う手法……それこそ神域魔法の極意。


『ふうん、そんなに若いのにもうこれを習得したか』



 俺を興味深そうに眺める邪神。


『俄然興味が湧いたわ。過去にはなかったけれど、一度やってみたかったのよね。女神の血を引く存在を私のものにするって』

「その野望は叶えられない。お前はここで消えるんだからな」

『消せると思ってるの?』


 肩をすくめ問う彼女――邪神の特徴としては、その伝染性にある。


 仮にリュハをここで死んでも、内に封じていた邪神が完全に復活するだけ。なおかつ封じておかず好き勝手に動き回られた場合、魔力を周囲にまき散らしながら新たな宿主を探す。そして人間の中に入り込み、魔力をもらいながら力を高めていく。


 邪神そのものを破壊しようにも、魔力が四散し同じ結果をもたらす……だからこそリュハの部族は丸ごと封印した。器に留め魔力は四散しないようにする……完全に消すには邪神そのものを作り替えるしかない。

 目前の状況は、大陸を蹂躙するために俺の体を奪おうとしている……結界により外部に魔力が露出することはないが、もしそれが解けたら間違いなく世界は崩壊するだろう。


「やってみないとわからないな」


 俺は邪神にそう答えながら、足を前に出した。


 次に放ったのは剣戟。刀身に魔力を注げば神域魔法と同じようにできる。斬撃が効くとは思えないが、牽制効果でもあれば――

 刹那、邪神は笑う。五年間共に近くにいた女性の顔で、まったく知らない醜悪な笑みを見せる。


 直後、視界が白に染まった。何が起きたのか一瞬で理解し、俺は即座に右手を振って剣を投げ捨て、後退した。


『すごいじゃない。今のを察するって』


 どこまでも余裕の言葉。一方俺は自分が握り締めていた剣を一瞥する。


 刀身が半ばから消失していた。先ほど現象は邪神が剣を破壊したことによるもの――いや、剣に干渉して破壊したのだと見当をつける。

 目の前の存在がどういった攻撃をしてくるのか……俺の小説は邪神と戦う前までしか書かなかった。邪神が具体的にどういった能力を持っているかなどは決めていなかった。


 だから俺にとってまったく知識のない状況下……しかし不安はない。


 それより使命感があった。何としてもリュハを救う。その感情が、足を前に出す。

 遠距離からの砲撃ではおそらく通用しない――この短い時間で悟り、接近戦に持ち込もうと駆ける。両腕には神域魔法の収束。同時、邪神が右腕を掲げ、手の先に赤黒い火球を生み出した。


 ――それは炎に見える別の何か。熱を発さず、その代わりに虚無へ誘うような黒々しい魔力を感じ取る。

 俺と邪神が放ったのは同時。俺は青白い光を伴った光。それが巨大な塊となって邪神へ迫る。

 青と赤。対極に位置する双方の魔法が中間地点で激突。それと共に巻き起こった衝撃は、遺跡を鳴動させ轟音をもたらした。


 その中で青と赤が荒れ狂う。俺は咄嗟に両腕に力を加えた。赤黒い光が青を押しのけ俺を目指す。一時力を抜けばそれだけで俺は飲み込まれ、命を絶つだろう。

 さらに力を入れる。魔法を出し続けることは女神の魔力をもってすれば可能――押し込め!


 心の中の絶叫と共にとうとう青が赤を押し込んでいく。そしてある一点で突如赤の光が弱まり――青が飲み込んだ。

 視界が青一色となる。探知で邪神は先ほど立っていた場所からやや離れた地点にいるとわかる。


 その時、突然パアンと弾くような音と共に光が消え失せた。そうして見えたのは平然と佇む邪神。とはいえ、魔法が直撃したためかさっきよりもまとう魔力が薄くなっている。


『本当に、気に入ったわ』


 だが邪神はどこまでも冷静に語る。


『数奇な運命、最高の素質。私が乗っ取れば、この世界を手にすることも不可能ではないわ』


 俺は無言で右手に魔力を集める。方針は変わらない。直接魔力を叩き込んで、倒す。

 足を踏み出し疾駆した瞬間、邪神の両腕の闇がとどろく。それは巨大な刃に変じ、俺へ目掛け振り下ろされる。


 こちらはそれを――見切ってかわす。追撃の横薙ぎを左腕に魔力をまとわせ防ぐと、さらに肉薄。邪神は刃を瞬時に小さくし、俺へ向け放つ。

 それは愚直な斬撃。どれだけ力を持とうとも、リュハを器としている以上、技量面から考えれば対処できるレベルのもの。


 体をひねって剣をかわす。邪神は剣を引き戻そうとしたようだったが、それもまた一歩遅い。


 刹那、俺の拳が突き刺さる。


『……はっ』


 笑いか、吐息を発したのか。声が聞こえたと同時、拳には攻撃が決まり抜けた感触があった。

 とはいえ、まだリュハの体は邪神のもの。ここで畳み掛けるようにさらに魔力を乗せ、トドメを――


 その矢先だった。邪神が両手を左右に広げ、闇が――俺の全身を囲むように形成される。


『あなたの戦法は正解よ。遠距離で魔法を撃たれても私は平気。だから拳に乗せる……けど、それはある危険性もはらんでいる』


 全身に力を入れる。体の内から瞬間的に湧き上がった魔力を、防御全てに注ぐ。


『近づけば、こうやってあなたを取り込もうとすることができる……勝負をしましょう。抵抗できたらあなたの勝ちよ』


 前後左右から闇が押し寄せる。濁流を避けることはできず、俺は闇に飲み込まれた――


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