第二十一話 互いの秘密
「私は、ある宿命を背負った部族の生まれで、役割があったから封印されていたの」
俺達は火を囲み、改めて話を始める。俺にとって既知の情報だが……彼女は一世一代の決心をして話す。だから口を挟まず無言に徹する。
「この世界は、私が暮らしていた時よりもずっと未来……そしてセレスやロベルドさんから今の世界について聞いて……私達の時代にはいたある存在が消えている」
「そいつは?」
「……邪神」
間を置いて語る。俺はそれに、目を細めた。
「女神と邪神の戦い……それは遠い昔の伝承であり、もう古い文献にしか情報は残っていない」
「私が暮らしていた時代にも邪神が大暴れしていたわけじゃないよ。でも、邪神という存在は確かにあった。私達の部族は、それを封じる役割を持っていた」
沈黙が訪れる。核心部分に触れるところだ。
「……部族の中で魔力の高い人を選んで、女神が消せなかった邪神の力を、その身に封じる。そうやって私達の部族は邪神を封印し、何代も砂漠の中で過ごしてきた」
「つまり、こう言いたいのか?」
今度は俺が口を開く。
「部族が邪神を封印するのに選んだ人間が、リュハだと」
コクリ、と彼女は頷いた。
「もう邪神なんて存在が記憶の彼方にあるこの世界で、信じられないかもしれないけれど……」
「いや、こんな遺跡が存在していたんだ。書物を読んだのもあるし、理解できるよ。遺跡から出られないのは、邪神の力が関係しているのか?」
こちらの問い掛けに彼女は深く頷いた。
「邪神の力をどうにかできれば、もしかすると出られるかもしれない。でも、そこまで到達するには長い時間が掛かると思う。それに、セレスが扱えるかどうかもわからない。女神の力を利用しないと駄目だから」
そう語ると、リュハは一度口を結んだ後、
「……封印する魔法だけなら、誰でも扱えるって聞いたことがある。だからこそ、セレスの手でもう一度私を――」
ここで俺は小説の展開を思い出す。仮に彼女を封印しようとしたら、それで全て解決なのだろうか?
即座に頭の中で否定する。俺がこの遺跡を訪れたことにより、彼女の内に眠る邪神が外の世界へ干渉することはなくなった。よって小説通りの展開にならないかもしれない……が、彼女の件とは関係ないところで邪神の力を得ようとする輩が出るかもしれない。
それは俺が死んで以降かもしれない。そうなったら『神域魔法』を使える存在がいなくなる以上、お手上げだ。
だから、俺がこうして生きている間に決着をつけなければならない。
そして俺は、決意する……彼女がこうして語ったのだ。ならば、
「――リュハ。俺も伝えていなかったことがある」
そうして俺は口を開く。
「まず、結論から言うと……俺は、女神の血を引く存在だ」
「え……?」
「よって、俺は女神が用いていた魔法……神域魔法を使うことができる。そしておそらく、この遺跡の結界も解くことができるはずだ」
戸惑う彼女。それに対し俺は、どこまでも言葉を紡ぐ。
「邪神については、俺も書物を読んでどうするか考えるよ。ここには邪神を封印していたリュハの部族が残した文献がたくさんある。それに基づき、対策を立てることができるはずだし……」
そこまで言って、俺は一つ迷った。
――彼女に全てを伝えるべきだろうか?
そこでちょっとした罪悪感が湧いてくる。俺が書いた小説の世界……彼女の境遇はそれが原因なのかどうかは俺にもよくわからない。剣を学び、彼女と出会い……疑問に思うこともある。
「……セレス?」
沈黙した俺にリュハは尋ねる。どこまでも真っ直ぐな瞳に対し、俺は、
「リュハ、今から言うことは信じられないかもしれないけど……聞いてもらえないか?」
コクリと頷く彼女――これが果たして正しいのかわからない。
しかし、彼女には聞く権利があるだろう。そう思い、俺は自身の境遇について伝えた。
一通り説明を終えると、リュハは神妙な顔となった……これは至極当然なので、こっちとしては驚かない。
「えっと、まあ、本当に俺が考えた通りに世界が組み上がっているのか……それが確定したわけじゃないが、何かしら関係があるのは事実だと思う」
「……つまり、セレスはこう言いたいの?」
小首を傾げ、俺の瞳を真っ直ぐ見ながら彼女は言う。
「私が邪神を身に宿したのは、セレスのせいだと」
「……関係がゼロってわけじゃないんだ。何かしらそういう要素があってもおかしくないだろ」
「負い目があるってこと?」
「まあ……」
頬をかく。伝えたはいいが、リュハが存外冷静なのでこっちとしてもどう言おうか迷う。
「わからないけれど、セレスがいなくても状況は同じだったと思うよ」
彼女は俺の説明に反し、そう答えた。
「邪神の依り代に誰かがなるって事実は避けられなかった……それがたまたま私だったってこと」
「リュハ……」
「セレスが言いたいことはなんとなくわかるよ。でもだからといって、セレスのせいだと私は思わない。だから気にしないで。それに――」
その時、彼女は微笑を浮かべた。
「こうして小説とは違う形で、私に会いに来てくれたじゃない」
「……そう、だけどさ」
「あ、セレスが強くなるためだからなのはわかるよ? えっと、私が言いたいのは私自身はまったく気にしていない。だから――」
一転、どこかあきらめたような顔を見せる。
「――私のことを封印して、ここから出てもいいからね?」
結局は、そこか。
俺もリュハもなんだか相手を思って一歩引いているような印象。
「……創神刻って魔法がある」
「え?」
「邪神を新たな神に作り替えることによって邪神という存在を消す魔法だ。これを発動させるには様々な条件がいる……けど、それを使うことができればリュハも解放される」
言葉をなくす彼女。それをじっと眺めていると、やがて――
「……セレスは、どうしてそこまでするの?」
「まず、邪神をどうにかしなければならないのが第一。放っておいたらリュハだけでなく、世界が無茶苦茶になる」
そう言って、俺は自身の胸に手を当てた。
「女神の血を継ぐ人間は俺しかいないからさ」
「セレス……」
「俺自身強くなろうとしていたし、大なり小なりこの世界の成り立ちと関係あるのなら、やらない理由がないだろ?」
リュハは複雑な表情を浮かべたが、こっちが納得してやっているのはわかったようで、
「……わかった。セレスが言うならそれでいいよ」
「ああ。まずは俺が神域魔法をしっかりと学ぶことと……あと、リュハも魔法を使えるようになった方がいいかな」
「私も?」
「自分で邪神についてある程度理解しておくことも必要だろ?」
「うん、そうだね」
頷くリュハ。これで当面の方針が決定した。
「それじゃあ食事してから早速やろう」
「わかった。あの、セレス」
「うん?」
聞き返した俺に、リュハはやや躊躇いがちに、
「話してくれて嬉しかった……すごく迷惑掛けることになると思うけど――」
「気にするなって」
笑みで応じる。それにリュハもまた笑みで返し――間違いなく、絆が深まった。




