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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第十三話 彼女の境遇

 夕食を調理する間、俺はこれからのことを思案する。


 まずこの遺跡から邪神を絶対に出さないようにする……そのために結界に関する勉強をした上で、さらにリュハに対し何かしら魔法を行使し、邪神が目覚めるのを防ぐ。

 小説で邪神が胎動し始めたのはまだまだ先……とはいえそれは五、六年といったところ。それまでに勝負をつけなければならない以上、決して長くはないだろう。


「でも、やるしかないんだよな……」


 呟きながらスープをかき混ぜる――場所は遺跡の中央。リュハが封じられていた場所の上でたき火により夕食を作っていた。


 水晶が存在していたため最初は気付かなかったが、彼女が封じられていた場所の天井は、石造りの他とは異なりガラスのような素材でできていた。それにより空を見上げることができる。今はもう夜に入ろうとしている時間帯なので、夜空と星が綺麗に見える。


 ちなみに調理の煙は遺跡が広いため煙たくはなく、なおかつ風の魔法で流しているので問題はない。


「よし、できた」


 小さく呟き、俺は椀にスープを注ぐ。鍋の反対側にいるリュハはそれをただ眺めるだけで……俺は気になり問い掛けた。


「どうしたんだ?」

「う、ううん。なんでもない」


 首を左右に振る。仕草は気になったが、ひとまずお腹を満たそうと思い、彼女に椀を差し出した。


「はい、リュハの分」

「……私も、食べて良いの?」

「当然だろ」


 おずおずといった様子で受け取るリュハ。先ほどの疑問、俺は心の内でどういう意図で発せられたものなのか記憶から引っ張り出す。


 彼女はある日、邪神の依り代となる宿命を背負った。そのため両親からは半ば迫害され、友達にも見放され、ただ一人孤独な中で過ごすことになった。

 邪神に身を捧げなければならないため、誰もが忌避し蔑んだ。部族にとってはまさしく人身御供であり、その体を大切にされながらも精神的に差別を受け続けた……邪神を抱える少女であるため俺はそんな物語にした。


 本当に俺が描いた通りの世界……ロベルドやリュハの存在を改めて思い返し、到底これが全て前世のケインから生み出されたものとは思えなくなってきた。

 この世界はどういう成り立ちなのか? あるいはこの世界自体、やはり夢の中……いや、目の前の情景がとても夢だとは思えない。現実に立脚していると考えていい。しかしそれが全て俺の空想の産物……?


 と、考えたところで思考を振り払った。どれだけ考えても結論は出ない。仮にこれが夢だとしても、この世界には生きている人々がいる……そして邪神がそれを消そうとしている。

 そして俺は強くなりたいと願い、邪神を止めるため今ここにいる……それだけで十分だ。


 リュハが黙ってスープを一口飲む。そんな彼女に俺は一言添える。


「熱いから気をつけて。あと、口に合わなかったら言ってくれ」


 スープをすする音が聞こえる。自分の分を椀に注ぎ、パンを渡そうと彼女に声を掛けようとして、


「……う」


 突然、椀を抱えたまま泣き始めたリュハの声が聞こえた。


「え……? もしかして不味かった?」


 問い掛けに彼女は首を左右に振った。


「違うの……美味しいよ。とても……」

「えっと……」

「ごめんなさい、こんな私に……」


 どう答えていいかわからなかった。邪神の依り代になって封印され、目覚めて……何もかもが突然の出来事で、感情が溢れてしまったのかもしれない。

 俺はそれ以上何も言わず、ただ黙って泣き続ける彼女を見守り続ける。そうした中で、俺は彼女に何を言おうと考え、やがて心の中で形にした。


 少ししてリュハは落ち着き、スープを飲み始める。パンを渡すと彼女は「ありがとう」と呟き、口に入れる。


「……俺は、君がどういう理由で封印されていたかは知らない」


 やがて俺は、彼女に言う。


 ――彼女について色々と考えることはあった。けれどそれ以上に、


「だけど、俺は君に一つ約束する」

「……約束?」

「ああ」


 ――この世界に転生して、とうとうこの遺跡まで到達した。


 それには邪神を止めるため、『神域魔法』を習得するためなど理由はあるけど……それともう一つ、リュハと出会い確信する。

 彼女を救う――それが、俺の成すべきことだ。


「絶対にこの遺跡から出すから」


 目を見開く彼女。次いでまたも彼女は涙を流した。

 ……会ったばかりの俺にどれだけ信用してくれるのかわからなかった。けれど、それでも、


「……うん」


 彼女は泣きながら、俺の言葉に頷いた。






 翌日、俺は一人遺跡を出て砂漠の中を歩く。あまり遺跡から離れると戻れない可能性もあるので、それほど距離があるわけではない。

 周囲に目を配り……少しして、


「お、いた」


 ズズズ、と砂の中をうごく存在が。大きさから確実に砂竜だ。

 今回遺跡の外に出たのは砂竜と戦うため。といっても倒すわけではない。砂竜に幻魔の王の力が通用するのか、それを確かめたかった。


 俺は剣を抜くと同時に空いている左手に魔力を込める。そして手の先から放ったのは、白い光弾。

 それが地面に着弾すると、破裂音と共に砂塵が舞い上がる。結果、その下を移動していた砂竜が突如飛び出した。


「来い……!」


 それなりの大きさ……さすがにロベルドが倒した巨大さとは比べものにならないが、それでも俺を一呑みするくらいにはデカい。

 口を開け迫ってくる砂竜に対し、足に力を入れ回避行動をとる。足をとられそうになるがイメージ通りの動きになった。俺が立っていた場所に砂竜が通り抜ける。


 左手に魔力収束。動きを止める必要がある……よって気絶が望ましい。


「ふっ!」


 撃ち出したのは太い光の帯。それが一直線に砂竜の横っ腹に直撃し、吹き飛んだ。


 これで気絶してくれれば……と思ったのだが、予想外のことが起こる。俺の魔法の威力がどうやら大きすぎた――突如、魔法が砂竜の胴体を貫通し、悲鳴が聞こえた。自分でビックリする間に竜は倒れ伏し……動かなくなってしまった。


「……加減が上手くできなかったか」


 左手に乗せた魔力は人間のものを利用した。三つの魔力どれを使うかによっても威力が変わるのだが、今の俺にとっては一番弱いはずの人間の魔力でも砂竜を一撃で倒すほどらしい。


「強くなった……けど、上手く調整できるようにならないと」


 俺は呟いた後倒れた砂竜に視線を移す。このまま放置するのも……剥ぎ取りくらいはしよう。


「すまないな」


 呟き、俺は砂竜に近寄る。砂漠の中の修行……それがいよいよ始まった。


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