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お陰様でくーぴーたん  作者: 稲村正輝
第1章 「黎明」
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第55話 「勇者からの挑戦」

気づいた時には俺は学校の中にいた。身も心もボロボロになった俺は、渡り廊下を這いつくばるようにして歩いていた。まさに疲労困憊という状態だ。

その時、俺の背後に何者かの気配を感じた。

「だ、誰だ!」

俺は身の危険を感じ、振り向きざまカンフーのようなポーズをとった。


「あんたね。もう一人の裏口入学者って」

その怪しき者の正体に俺は意表をつかれた。何故ならそこに立っていたのは、腰あたりまで伸びた長い金髪が何とも美しい可愛い女の子だったからだ!一見、北欧諸国あたりからやってきたゲルマン民族だろうかと考えたのだが、その顔付きは日本人と思われるものであり、おそらく髪の毛は脱色しているのであろう。それにしても何ていい匂いなんだ。俺は、瞳をとじて匂いを嗅ぐよそれだけでいいと心の奥底で呟きながら鼻をびくつかせて数秒が経過した。

しかし、ここで俺がアヘアヘ状態になってしまうのは男として最低そのものであり、絶対に駄目だと歯を食いしばって我慢をし、

「お、おまえはいったい何者なんだ!おのれ許さんぞ!!畜生が!!!」

と声を荒げ叫び散らした。

「初対面の女性に向かって、そんな大きな声出さないでくれる?私は東條みゆき。勇者になるために生まれてきた女よ」

そう言うと、その女、東條は両手の拳を腰にあてがい、胸を張ってウルトラマン一族がよくやるポーズをしてみせた。


東條みゆき。どこかで聞いたことがあるような…。

しかし、度重なる惨事に見舞われ続けた俺は、意識が朦朧とする状況の中でまったく思い出せる余裕など無かった。東條は俺に対して自信満々な顔つきで威風堂々としている。その鋭い目つきを見る限り、とても俺と仲良くしたいと思っている様ではなかった。

「おい。何が目的だ。お、俺の命か?」

俺は自分でも意味不明な発言であると分かっていながらも、少しずつ命乞えをする方向へと持っていこうとしていた。男のくせになんて情けない醜態なのだろうかと自分でも嫌になってくるが、命はやはり大切だ。俺は親や学校の教師に小さい頃からそう教わった。命は本当に大切なのだ。


「勘違いしないでよ。あんたが死のうが生きようが私にはどうでもいいわ。だって、真の勇者は私なんだから」

俺は動揺した。今、ここで起こっていることが何なのかまったくわからない。こいつが何を主張しているのか、まったく理解できないのだ。

いや、待てよ…。この女は演技をしているのかもしれない。俺を騙して笑い者にするために。いや、絶対にそうだ。これは演技だ。急に現れた女の子が自ら勇者宣言なんて馬鹿な真似をするはずがない。おそらくこれはここの学長が考え出した罠だろう。学長ならやりかねない。糞ったれが。後で学長には一発食らわしてやらねばならない。屁を充分にためておいて、学長の顔面の形を変えてやる。俺はそう決意した。そうとなれば、派手にいかせてもらうぞ!


「くっくっく。俺は絶対に騙されんぞ、馬鹿者が!」

そう言い放つと、俺は獅子舞踊りの体勢に入った。

「その薄汚い目でよーく見るが良い。俺の伝説の奥義をな!」

俺はこの瞬間、凄まじい快感を覚えていた。獅子舞踊りを披露する格好良い俺の姿を、敵ながらも可愛い女の子にタイマンで見せ付けることができるからだ。俺はかなり興奮しており、体中から湯気が次から次へと湧き出てくる。鼻の穴からは蒸気機関車のように左右交互に煙が噴出して止まらない。その雄姿はまるで特急あじあ号を彷彿させるのに充分であった。

しかし、東條はそんな俺を見ても至って冷静であった。


「あんた、いったい何してんの?」

俺のガラスのハートはもろくも崩れさった。

俺…、獅子舞踊り…、俺…、獅子舞踊り…、俺…。

俺の獅子舞踊りはやはり無力だったのであろうか…?しかも女の子を目の前にして二度もこうもあっさりと切り捨てられるとは。俺は一体何のために生きてきたのだろうか。何のために生まれてきたのだろうか。誰か教えてくれよ!俺の心の中ではエクトプラズム現象が起こっていた。


「ま、別にいいわ。そんなことより、本当の勇者は私ってことをすぐに分からせてやるんだから」

東條は俺に宣戦布告的な台詞を吐いた。俺にとっては誰が勇者でどうのこうのの話なんてまったく聞く耳などなかったが、俺はそれどころではなく、獅子舞踊りがこんなにも世間に受け入れられないという現実にガッカリしていた。俺はもう生気もなく、

「ほな、勇者さん、さいなら…」

と呟いて、その場を立ち去ろうとした。すると東條は、

「ちょっと待ちなさいよ!何勝手に逃げてんの」

と言って俺を引き止める。

そして、何やら一冊の分厚いノートを突き出してきた。表紙はやや赤みを帯びた西洋風で知的な印象を受けた。俺はポカーンとした表情で東條の顔を見上げた。


「これ、あげるわよ」

俺はしばらく間をあけてから、

「え?」

としか言い返せなかった。

「あんたにあげるって言ってんのよ。いらないの?」

いらないの?と言われても…。俺はもう魂の抜け殻状態で、大きく震える手でノートを受け取った。

「なんなんだよ、これ…」

そう言いながら俺はノートの中身をペラリとめくって確認してみると、そこにはびっしりとプロ野球選手のトレーディングカードが貼り付けられていた。あの有名なプロ野球チップスのオマケについてくるあれだ。

「こ、これは…!?」

俺はとっさに東條の方へと向き直った。

「べ、別にあんたにあげるために集めてたわけじゃないんだからね!」

東條はそう言うと、華麗にターンをし、その場を去ってしまった。


東條が去ってから十分程、俺は放心状態で廊下の床にうずくまっていたのだが、改めて受け取ったノートの中身を確認してみた。やはりそこにはびっしりとプロ野球選手カードが貼り付けられている。

「いらねえよ、こんなの…」

俺はノートを投げ捨てようとしたが、途中で思いとどまり、そのまま学長室へと向かった。

ちなみに、学長室へ向かう直前に東條の髪の毛が落ちてないか数時間確認してみたのだが、落ちていなかった。

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