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20160319 母を絞殺(とばっちりの父) R-15 現代ドラマ 約2,000字

 遺跡の趣を持つ石造りの広間には、乾燥した土の匂いがあった。

 タンクトップ姿の兵士が、上官とみられる太った男へ何かを訴えている。

 五人の兵士の内、二人が上官へ詰め寄り、命令は不当で自分達は従わない旨を主張する。その一歩後ろの一人は、二人と同意見であるが上官に逆らうことは躊躇われるといった様子で口を噤んでいた。彼等の後ろでは、鉄格子に縛り付けられた二人の兵士が、緊張した表情で行方を見守っている。

 上官は聞く耳を持たず、全員を軽んじた。己がこの場のルールだと笑い、己が行うと決めた残虐な死刑に前向きであった。今この時にも、仲間の死刑執行を認められないと己へ詰め寄る兵士の、より反抗の強い方を、死刑とする三人目の兵士に加えた。死刑を告げられた兵士の男は怒りに顔を歪め、反抗していたもう一人の兵士は言葉を無くした。

 上官は、言葉を失った者と、元より黙していた者へ改めて死刑の執行を命じた。

 彼らは息を呑み、拘束されている二人の横に立つと、鉄格子の上部から垂れ下げられている棘付きの太く黒い縄を一本ずつ手にした。

 縄は有刺鉄線を編み上げて直径を補ったもので、黒色は古い血と錆が成していた。執行では、これを拘束した人間の首に巻き、ゆっくりと締めていく。

 なおも執行を撤回させんとする男の大声に、執行を命ぜられた兵士達は動きを止めていた。勇敢な彼の主張によって上官の命令が撤回されうるのであれば。

 砂粒程であった希望は徐々に膨らんだ。上官へ声を荒らげている男も手応えを感じていた。

 上層部の存在を持ち出し、その規則によるところの上官の責務、振るえる威力の限度を理詰めで説けば、上官は機嫌を悪くしながらも迷いを見せた。

 遂には上層部側の人間がこの場に現れ、上官よりも強い権力によって上官の横暴は収められた。背の低い、黒い背広を着た女性であった。


 現代日本の一軒家の、一階の居間。私は庭へ続く窓辺に立ち、上官を降格せしめたあの女性となんらかの会話をした。


 ここで記憶は飛ぶ。


 帰宅した母は非道な悪魔へ向けるような目で私のことを見ていた。

 父が心労により、失踪、もしくは自殺したからだ。父を追い詰めたのは私でないのだが、母は明らかに私を敵視していた。

 あの人は自分の権力を振りかざして、戯れに部下を処刑しようとするような人だったんだぞ。それに限らず、普段から理不尽な言いがかりで兵士達をいたぶる嫌われ者だったじゃないか。死を持って償うべきだとまでは思っていなかったが、自殺は自業自得の結果でもある。

 私は夫を喪った母に同情する一方、まるで私が彼の死を望み、それが叶って喜んでいるかのような認識には異を唱えたかった。しかし意見は行わなかった。

 何も言わない私に、母はますます感情的になっていった。私は可哀想でたまらず、どうすれば母を落ち着かせられるかに思いを巡らした。遂に母は形相を変え、私を組み伏せようと飛びかかってきた。確かな殺意を感じられた。

 私は躊躇なく迎撃した。母の手を肩に掠めさせてやり過ごし、強く体当たりをして転ばした。腰を強く打って呻く母の首の上部を右手で掴み、顎の骨をえぐるように指を押し込んだ。私は不確実な窒息よりも、早急な失神を選択した。

 母はすぐに大人しくなったが、意識はあった。私は右の手のひらを用い、首を圧迫した。

 私は左手も使い、扼殺を試みた。ボールの空気穴を開放し体重をかけたときの、ゆっくりとした縮小が、母の首にも現れた。

 待て、死んでしまうぞ。いいのか。私はふと手を離した。首の直径は元の四分の一くらいだ。

 いや、もう死んでる。これでいい。私は再び手を添え、水道用のホースに似た感触の首を絞め終えた。

 千切れてしまった首の切断面は、弾力のある皮を残して空洞となっていた。詰まっているはずの肉も骨も無く、革のきんちゃくの口に似ていた。

 切断面の左右二箇所を摘んで引っ張り、二辺をぴったりと重ね合わせた。構造のよく分からないミシンに挟む。ミシンはガタガタと鳴って二センチ間隔の縫い目を付けた。縫い目は不十分に見える。両端は下手な餃子のように歪んでいた。これでは漏れる。

 私はもう一度、より丁寧にミシンに通した。今度は間隔も密に、歪みの部分も機能上充分といえる程度に縫われた。縫い目はチャック付きビニール袋のようだった。


 さて、この死体をどうしようか。

 その頃、私は目を覚ました。午前三時五十分。目覚めたきっかけは、自営業の両親が揃って帰宅した物音だった。私はドアの開閉音や足音、二人の普段通りの会話に耳を澄ました。


 夢の中盤の記憶が飛んでしまっている。

 中途覚醒直後は夢の内容をほとんど記憶していたように思うのだが、メモを取っているうちに一時間以上が経ち、間に合わずに眠ってしまった。

 中盤の忘れてしまった部分は、それほど面白みは無かったように思う(そう思いたい)。ドラマティックな場面を優先して記録するのはやはり重要だ。

 いつのまにか上官の設定を受け継がされ悪役となった父、ごめんなさい。


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