20160409 野良戦士の防衛戦(ぽふぽふを添えて) ファンタジー 戦闘 約2,100字
脚色部分:『ぽふぽふ』という名前の生き物が出てきますが、夢の時点では名前は付いていませんでした。『彼ら』や『小さな同居人』だけでは使いにくいので、小説風の本文にするために名付けました。
高い木々に埋め尽くされた深い森の中に、木々の根で不規則に隆起した地面を踏みしめる音が繰り返し聞こえていた。木々の合間を縫って進む男の外套が危なげなく揺れる。
細身の外套はささやかな月明かりをも拒絶するような黒で、厚い布の生地には長く使い込まれたしなやかさが見られる。装飾のない仕立ては強固で、幾度となく雨や泥を啜ったために染み付いた砂の色は趣となった。男はこの堅実さを信頼していた。
男は奥地の洞窟に迷いなく潜り込んだ。狭い道を前進しつつ、長剣を吊る剣帯とともに緊張を解いていく。大きな空洞に行き着いたとき、彼は両手を上げて伸びをした。腰と肩が心地良くぱきりと鳴った。
洞窟に外の光は届いていないが、火を焚かずとも十分に見通せる明るさがあった。空洞の壁には大小様々な穴があり、それらは別の空洞へ繋がっている。男は内部の地理をおおよそ把握していた。
いくつかの穴から縦長の白い毛玉のような生き物が顔を覗かせた。男は小さな同居人達の出迎えに手を上げて応えた。
洞窟の中には言葉を持たない大人しい種族の群れが住んでいる。男は彼らのことを『ぽふぽふ』と名付けていた。
彼らの身長は男の膝の高さで、小石のような瞳は黒く、瞼も白目も無い。口は見えない。丸い頭頂以下は全くの寸胴であり、四肢にあたる部位は存在しているが、それらは口と同様に汚れ知らずの真白の毛に仕舞われている。彼らの奇妙なシルエットは、この羽毛のように柔らかい体毛が仕上げていた。太って見えていた獣が実は毛長なだけで、解体してから肉の少なさが判明して落胆することは多々あるが、彼らはそう毛長なわけではない。移動はおそらく二足歩行で、地面を滑るように音もなく進む。
ぽふぽふは昼の間にたびたび外へ出て、様々な拾い物をして帰ってくる。気に入ったものがあればそれぞれの隠し場所に仕舞い込んで、残り物は空洞に並べて共有する。男はそこら中に転がっている拾い物を確認していき、罠仕掛けや調理に使えそうな素材を好きなだけもらう。
男は昼に自分が捨てたばかりのごみを見つけ、「こんなものどうしようもないだろう」と苦笑した。
最近住み着いた居候の若者が馴れ馴れしく話しかけてくる。肌は青白く、瞳は黒い。自分と同じ人種だろうと推測しているが、出身や年齢を尋ねる気は無く、尋ねさせる気も無い。興味が無いし、興味を持たれても面倒だからだった。
男は居候を冷たく躱して池のある空洞に移動した。調理場にしているそこに狸の死骸を二つ横たえる。これらはぽふぽふ達のための拾い物だ。
居候はしぶとく付いてきて、人懐っこい笑顔で無駄話を持ちかけようとする。
入り口を見張れと言っただろう。男が苛立ちを覚えた次の瞬間、何者かが洞窟に侵入した気配を感じ取った。
男は長剣を手に調理場を駆け出て、思考を後回しにして外へ通じる穴へ跳びかかった。
透き通る暗紅色の鋭い刃が、待ちかねていたかのようにぬるりと光る。男は暗く狭い通路から迫る気配に殺意を認め、黒ずくめの侵入者が空洞へ飛び出してくると同時にその頭部を突き壊した。血液と脳漿を浴びて尚、長剣は研磨された鉱石のような妖しい透明感を失わなかった。
絶命し崩れ落ちる侵入者の向こう、新たな殺意が潜んでいることに気付き、男は死体を足蹴にし勢い良く後退した。二人目の侵入者は、死体の着ているものと同じ仕立ての、頭巾の付いた黒い外套を纏っていた。男はまだ数人が後に続くだろうことを察知した。
始めの空洞を通り抜け、複数ある穴の内の一つへ誘い込む。そこは幅は狭いが高さのある通路だった。今までに幾度となく歩き回って熟知したこの環境では、多少の戦力差があろうと焦燥感には邪魔されることは無い。
突きと切り上げを主にして三つ目の死体が出来ると、連戦が途切れた。
死体の絨毯の向こうに、目を細めて笑う赤髪の長身が立っていた。先程まで対峙していた侵入者との格の違いを直感する暇もあればこそ、赤髪は男の目前にまで迫っていた。
一点の曇りもない動きで鋼の長剣が突き出された。男はそれを剣身で受けようとした。よろめいてでも反撃に出るはずだった。
襲い来る切っ先が彼の構えた長剣に触れた瞬間、彼は真正面から爆風を受けたかのような激しさで吹き飛ばされた。瞬く間に隘路を抜け、広大な空洞に投げ出される。空中で体勢を整えようとするも、赤髪の追撃に阻止された。
地面に背中から叩き付けられる衝撃は存外軽かった。すぐに、居候が身を挺して男を受け止めたのだと分かった。別の空洞から回り込んで来たのだろう。男は礼を言う間も惜しんで立ち上がろうとしたが、身体がほとんど動かなかった。
「強いな」赤髪は心底楽しそうな顔で言った。「だが、もっと強くなるべきだ」
男は漠然とした怒りを覚えた。
背後にいた居候が男から離れ、軽い歩調で赤髪の隣へ向かった。男は完全に身動きが取れなくなっていることに気付いた。
赤髪の前に靄のような赤い光が浮遊していた。
近付いてくる光を見ながら、男は根拠もなく、このままでは自分の存在が何か違うものになってしまうと感じていた。
「やめろ!」
男は吠えた。赤い光は仄かな熱を感じられるまでに迫っていた。
光の向こうに見える赤髪の隣で、居候は嬉しそうな顔をしてこの光景を眺めていた。
ストーリーがかなりしっかりしているので、『このまま小説にできるぞ!』と思いました。いつか書きたいです。




