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10 気の合わない同期

 土曜日の朝。リビングのソファの上にはリュックサックとレインボーフラッグが置いてある。トムがペットボトルを持ってキッチンから出てくると、ソファの前にはカケルが立っていた。


「おはよう、カケル。早いね」

「ああ、もう出るのか?」

「もう少ししたらね。今日はちょっと遠いんだ」

「そうか」

「カケルは飲み会だっけ?」

「ああ」

「じゃあ、夜?」

「いや、昼過ぎ」

「早いね」

「昼食べて、ボーリングだったかするらしい」

「ああ、遊んだ後に飲み会なんだね! 楽しんできてね」

「ああ……」


 あまり浮かないようすのカケル。


「やなの?」

「まあ。楽しみってわけではないな。特別仲いいわけでもないし、付き合いだから」

「そっか……。でもこれを機に仲良くなれるかもよ?」

「だといいがな」


 トムが時計を見る。


「あ、そろそろ出るね」

「ああ、気をつけてな。バカにはあんま喧嘩売るなよ」

「わかった、気をつける」


 トムはそう言って、リュックサックを背負い、笑顔で手を振り出ていった。しばらくしてサヤカがリビングにくる。


「あ、おはよ」

「ああ」


 カケルはサヤカをちらっと見て言った。


「さっき、トムが出て行かなかった? こんな早くからどこ行ったの?」

「デモ」

「え? 何の?」

「同性婚法制化の」

「そんなんあんだ。知らなかった」

「行きたかったのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど。そういう活動してんだね。あいつ」

「ああ、当事者でもないのに熱心だよな」

「そうだね」

「そういや、当事者じゃないからこそやるべきだって言ってたな」

「へえ……。ところであんたも出かけんの? 早いじゃん」

「飲み会だ」

「そっか」

「おまえは?」

「とくに何も」

「そうか。まあ、ゆっくりするのもいいんじゃないか」

「そうだね」


 サヤカはそう言って笑った。



 昼過ぎ、カケルは待ち合わせの駅前に向かった。少し早く着いたのでまだ誰も来ていなかった。カケルは近くの壁にもたれて待つことにした。しばらくして3人が一緒に来た。カケルを見たタクマが声をかける。


「お! カケル早いな!」


 カケルが3人に気づき、軽く手を上げる。あとの二人の同期がにやにやとカケルを見て茶化すように言う。


「ノリノリじゃないか!」

「実は痩せ我慢してただけで、前から来たかったんじゃねえの」


 タクマは不安そうにカケルをちらっと見た。カケルは眉をひそめて言う。


「昼、どこ行くんだよ」

「そ、そうだな。とんかつ食いに行かねえか? うまい店見つけたんだよ!」


 タクマ慌てて言った。


「お、いいねえ!」


 同期の二人が笑って言った。タクマは3人を店まで案内する。店は落ち着いた雰囲気の静かな店だ。店に入るなり、同期の二人はトイレに行った。その隙にとタクマはカケルに話しかける。


「今日は来てくれてありがとな。さっきはごめんな」

「おまえは何もしてないだろ。バカのために謝るな」

「そ、そうか。でも帰らないでくれてありがとう」

「あそこで帰ったら来た意味ないからな。ただ、昼食べたら急用ができたとか言って帰ろうか迷ってる」

「待ってくれよ。あいつらカケルに紹介したい店があるみたいなんだよ」

「どうせろくでもないとこだろ……」

「まあまあ、そう言わずに。付き合ってやってくれよ」


 カケルは軽くため息をつく。そこへ二人が戻ってくる。


「お! 何の話だ?」

「いや、別に。何食うかって話だよ」


 タクマが言った。


「メニューも開かずに?」


 同期のひとりがメニューを手に取り言った。


「あ、ああ。俺は来たことあるから」

「ふーん」


 皆それぞれが好みのとんかつを注文し、雑談しながら食べた。そのあと、時間をつぶすようにボーリングやダーツをして過ごし、19時ごろになると同期の案内で『Lily』というガールズバーに向かった。カケルは足取り重くついていった。同期が店の前で立ち止まり指をさして言う。


「ここだ。俺も最近見つけたんだけどさ、ここかわいい子が多いんだよ! カケルにもいいやつ絶対見つかるぜ」


 同期の男たちは浮かれたようすで店に入っていく。


「だといいがな」


 カケルはそっけなくつぶやいた。


「悪いな、付き合わせて」


 タクマが言った。


「いいって。俺のこと考えてくれたんだろ?」

「いや、自分のためかも」

「どういうことだ?」

「俺が嫌なんだよ。カケルが嫌われんの」

「つまり俺のためだろ?」

「いや違う。カケルはたぶんあいつらに嫌われても関係なく過ごせるだろ?」

「ああ、まあそうかもな」

「だろ!? でも俺はあいつらからカケルの悪口聞きたくねえから今回カケルを巻き込んだんだ」

「変なやつ。何でそんなに聞きたくないんだ? 聞き流せばいいだろ」

「大事なやつの悪口を聞き流せるか? 俺にはできねえ。きっと喧嘩になる」

「だから悪口言う前に口封じか?」

「まあ、そういうことだ。ほら、自分勝手だろ?」

「たしかにそうかもな」


 カケルはフッと笑って言った。そして二人が店に入っていくと、数人の若い女性たちがカウンター内に立っているのが見えた。先に入っていた同期の二人がカケルたちに気づき手招きしている。カケルたちは二人のもとに向かった。席についたカケルたちにひとりの若い女性が声をかける。


「いらっしゃいませ! ドリンクは何にしますか?」


 二人はそれぞれ注文し、飲み始めた。同期の二人とタクマは女性店員のリリカと楽しそうに話している。カケルは少し店内を見渡したあと、皆の話を聞きながら黙々とお酒を飲んでいた。するとリリカが突然カケルに声をかける。


「カケルさんは寡黙なんですね。それともリリカが嫌いですか?」

「え? いや、べつにそういうわけでは」

「カケルはこういうやつなんだよ。気にしないでくれ」


 タクマがフォローするようにリリカに言った。


「そっか、嫌われてなくてほっとした!」

「ねえねえ、リリカちゃんはさ、俺ら4人の中で誰がいちばんタイプ?」


 同期の男が突然言った。タクマが不安そうにカケルをちらっと見る。カケルは射貫くような鋭い目で同期の男を見ていた。

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