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【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第一章 Xパラダイス

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3 ネットで真実ガー


 それはさておいて、

「――で? これって、何なん? しかも、島の名前が分からないっていう、」

 と、パク・ソユンが、あたり前の疑問を口にした。

「何か、国内外のエンタメ界やセレブ、インフルエンサーたちにも、同じような招待状が届いているみたいよ」

 女が答えるも、

「いや、それは分かったけど、さ? この、【Xパラダイス】って、何なん? そこで、何すんの?」

「さあ? パーティとかじゃ、ない? それに、カジノもあるし。ソユン、君は、ポーカーやってるから、ちょうどいいじゃないか」

「はぁ、」

 と、求める答えを返してくれない二人に、パク・ソユンは気の抜けた相づちをするより他なかった――



          ******



 ――といった感じことが、昼間にあった。

 ふたたび、場面は屋台に戻って、

「そんな感じな、わけよ? ほんと、肝心の、島の名前が出てこないのが、イミフなんだけど」

 パク・ソユンが言った。

 それを聞いて、

「島の名前が、出てこない、か……」

 と、カン・ロウンが、どこか引っかかるように言葉にした。

「まあ、いいじゃねぇか? 行くのは、どうせ、“こいつら”だからな」

 キム・テヤンが貝を焼きながら、さらに続けて、

「――ていうか? そもそも、いっしょに行くってのが、よりによって、“こいつ”かよ? ソユン」

 と、改めて小馬鹿にするように、ドン・ヨンファを指さした。

「“こいつ”かよって、失礼だな、テヤン」

 黄色の花柄レリーフの入ったスーツに身を包んだドン・ヨンファが、ムスッとする。

 そのドン・ヨンファが、貝をつまみに、焼酎を飲みながら振りかえる。

 マトリョーシカじゃあるまいに、振りかえりの中の振りかえりなのだが、それは、次のようになる――




          (3)




 ――ここで、またまた、時間軸は今日の昼へともどる。

 黄色の、奇抜なスーツでビジネス中の、ドン・ヨンファのこと。

 なお、実業家ではあるものの、そもそも中堅の財閥のボンボンであり、せかせかと仕事をする必要はないという。

 ただ、『仕事とは人生の暇つぶし』とは、誰かの名言か――? このドン・ヨンファも、その例に漏れず、 恐らく、何もしないというのは退屈だからこそ、ビジネスでもやっているのかもしれない。

 そんな、有閑的な生活――

 訪れた先は、“ある医療ビジネス”を扱っている友人のところだった。

 侘び寂のある日本の茶室に、オールド朝鮮様式や、その調度品を折衷したような空間――

 ――ファ、ァーン……

 と、コーヒーの香りが、ただよう中、



「【トランス、ヒューマニズム】――、だって?」



 と、ドン・ヨンファが、恐らく直前に友人から発せられたキーワードに、確認するように聞き返した。

 目の前に座している友人というのは、黒ぶちメガネに、日本人でいえば昭和風の黒髪をした男。

 男は、螺旋文様の入った浴衣を着て、コーヒーカップを手にしていた。

 その、風変わりな友人が続けるに、

「ああ……、どこかで、聞いたことあるだろ? 身体の一部、もしくはほとんどを、マシン、あるいは、“もっと高度に作られるもの”に置き換えたりして……、【あらゆる自然の制約からの解放】を目的とした、思想というべきもの――、かな? まあ、ヨンファたちのような、すでに、サイボーグ的な異能力を使える人間には、あまり関係ないかもしれないが」

「そんな、過大評価してくれるなよ、カジ」

 と、ドン・ヨンファも、同じくコーヒーカップを手にしながら、謙遜して答えた。

 カジとは、日本に所縁ゆかりがある、この友人のニックネームのようだ。


 また、ドン・ヨンファは、コーヒーカップを手にしたまま続けて、

「まあ、確かに、どこかで聞いたこともあるな。で? カジが扱っている“とこ”が、そういう研究をしているわけかい?」

「実用化には、少し遠いけどな……。ちなみに、件の核酸医薬の技術も、もしかすると……? 【そのような発想】で、研究されているのかもしれないね。まあ、ちょっと、陰謀論のようだけど……」

「陰謀論、ねぇ……」

 ドン・ヨンファが、【陰謀論】という、手垢もついていながらも一般に使われるようになって久しい言葉を口にしつつ、天井を仰いでみた。

 天井の、面白き木目を眺めていたところ、カジが、

「まあ、【陰謀論】というもの自体は、本来は、バックボーンとなる思想や事実はある……。また、そうしたものを扱っていた“界隈の方がた”っていうのは、“ある一定の自制心”というのを、持っていたようにもみえるのだが……、いまのネット民というのは、どうしようもないな」

「う、ん……?」

 と、ドン・ヨンファは、友人が振ってきた話題に、『その心は?』との相づちをする。

「そうだ、な……? 何と、いうかな? 『ネットで真実ガー』とか、『目覚めたー』とか言ったりする人たちって、いるじゃない?」

「あ、あ……、いるね」

「だろ? 界隈は、SNSの記事や動画の切り抜きなんてのをくっつけながら、【ネットで真実ガー】なんて、もっともことを言ってるわりには、ぽっと出た、SNSの真偽のあやしい記事なんかに、パクっと喰いついてばかりいるじゃない? だから、ああいうのは、【陰謀論者】とバカにされるわけだ」

「ああ、」

「まあ、ただ……、それは、陰謀論者をバカにする側というのも似たり寄ったりで、ね? 情報の、複雑な事情だったり、細かいところ吟味することなく、『ホンそれ~』と、脊髄反射で反応して、互いに叩いているようにも見えるんだがね」

 と、そこまで友人が話すと、

「まあ、陰謀論者も、それをバカにする人たちっていうのも……、両者ともに、出てきた情報っていうのを、“真に受けすぎ”なんだよ、ね。陰謀論者は、【政府や財閥、権力者がわの闇を暴くような情報】というのは、常に、【すべて善意に基づいたしんである】とするし……、反対に、反陰謀論者って、いうのかい――? は、【政府や公的機関、企業の発信する情報】というのは、【常に理性と善意に基づいた公正なものであり、そこに嘘はない】、と――」

「ほう」

 と、こんどはドン・ヨンファの言葉に、友人が相づちしてやる。


 ドン・ヨンファは続けて、

「まあ、両者ともに、さぁ? 昔から、【性悪説】って言葉があるっていう事実を、もうすこし考えようよ、とは思うね」

「ほう……! そうすると、例の、【ディープステート】も、それを暴こうとするわれわれ貧民というも、結局は、どっちもクズでカス――、って考えるのが正解ってことかい? ヨンファ」

「まあ、そうなるだろうね。しかし、僕らが、自分たちのことを貧民っていうと、嫌味になっちゃうだろうけどね」

 と、ドン・ヨンファは、カッコ笑いのように言った。

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