2 【ギンピギンピ】――、食べることはできない。ただし、現地のワラビーなどの有袋類や、哺乳類ヒト科、DJ兼モデルのパク・ソユンを除く
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――ジュワ、ワァァッ……
と、鉄板の音とともに、食欲に、酒を誘う匂いがただよった。
キンパやチジミ、トッポギはもちろんのこと、エビや貝などの海鮮もの、それからオデンなどと、さまざまに。
ここは、夜の、ソウル市内の屋台街。
「――何? 島へ、行ってくるだと?」
と、チジミを焼く姿が板についた屋台のおっさん、キム・テヤンが聞いた。
でっかいパールつきカチューシャを頭にのっけた、パク・ソユンが、
「うん」
と、焼酎の入ったグラスに口をつけ、答える。
また、キム・テヤンが、
「しかも、この、軟弱野郎とか?」
と、こんどは、ドン・ヨンファを指しながら、
「軟弱野郎って、ひどい言い方するなぁ、テヤン」
「けっ、何が、『ひどい言い方するなぁ~』だってんだよ、このタコッ!」
などと、つっついてみせた。
そこへ、
「それで? その島は? 何ていう、島なのかい?」
と、丸サングラスに、スーツに蝶ネクタイ姿の小太りの男、カン・ロウンが聞いてきた。
ちなみに、このカン・ロウンは、四人のリーダー格でもある。
なお、彼らはSPY探偵団などという、“何かサイボーグ的な異能力”を持ったメンバーによる、兼業探偵サークルというか同好会だ。
パク・ソユンは、先に述べたように、【SAW】との芸名でモデルやDJ活動をしており、ドン・ヨンファは貴族・財閥の実業家、キム・テヤンは元諜報関係で働いていたというプロフィールをもつ。
また、さらに、それぞれコードネーム的なものがあって、リーダのカン・ロウンが、“スタイル”、パク・ソユンが、芸名と某グロ映画に由来して、“ジグソウ・プリンセス”。
ドン・ヨンファが、“フラワーマン”で、最後に、キム・テヤンが“チジミ屋のオッサン”と、そのまんまだった。
そして、このコードネームというのは、たぶんあまり意味がない。何か、“いちおう、それっぽい雰囲気を出す程度のもの”となっていた。
本題にもどる。
カン・ロウンの問いに、
「うん。何か、島の名前は知らないんだけど、さ? “Xパラダイス”ってとこに、招待されて、」
と、パク・ソユンが答えると、
「「X、パラダイス――?」」
カン・ロウンとキム・テヤンが、声をそろえた。
「何か、新しくできた、カジノとか、エンターテインメント・リゾートみたいなんだけど」
パク・ソユンが、スマホ画面を開いて見せる。
そこにあるのは、QRコードに、Xパラダイスなる複合リゾートとイベントの内容。
ただ、それらのページの背景の画像はというと、何故にか――? レオナルド・ダビンチの作品や素描、そして、竹でできた、“何か螺旋の形をしたオブジェ”のようなものが、ゆるり……と、回転していた。
しばらく見ていると、
――ぐ、にゃぁぁ……
と、視界が、まるで錯視か、幻覚を見ているかのように歪みそうになり、どこか不気味な感じがあった。
「何だ? こりゃ?」
キム・テヤンが、顔をしかめる。
パク・ソユンが、この招待というか電子チケットを“貰った”のは、つい今日のことだった。
ここで、すこし時間を戻して、“そのこと”に関して振りかえる――
******
――昼のこと。
DJ・SAWこと、パク・ソユンだが、高層階からのスタジオにいた。
ソウル市内のダイナミックな眺めが映えるガラス張りのスタジオであり、DJ動画の撮影、配信を終えていた。
そこへ、事務所の人間から声がかかる。
「ねえねえ、ソウ? 何か? 君に、こんなものが、届いたんだけど?」
と言ったのは、まるで、水泳のゴーグルのようなサングラスをかけた短髪のシャツ姿の男――通称、ゴーグル・サングラスこと、ホン・ドヒョンだった。
彼は、タブレットの画面を見せてきた。
「へ――? 何? これ?」
パク・ソユンが、ジトッとした目で、キョトンとした。
また、そこへ、ゴーグル・サングラスの仲間の女、キム・ヨナも加わって、
「何か、前も? 変な招待状、届いてたよね?」
「そうそう。“君たち”が、解決に一役買ったみたいだけど」
「あ、あ……? 何か? 確か、“そんなこと”も、あったねー」
と、パク・ソユンはふたりの言葉に、“とあること”を思い出した。
さしづめ、“毒茶会”というべき事件――
狂人的な財閥令嬢が主人となって、招待状を――、否、その実態は、拉致によって客人を強引に招いた“茶会”。
そこでは、毒劇物や、ギンピギンピなどといった激痛をもたらす凶悪な植物を用い、“茶”と称して振る舞うなどという、狂気を行っていたのだ。
そして、この事件の解決に奔走したのが、このパク・ソユンとSPY探偵団だった。
なお、その際に、パク・ソユンは友人、仕事仲間を人質を取られてしまったことにより、茶会へと強制的に連行されてしまい、チェーンソーで手首を切り落とされたり、ギンピギンピやら硫酸やら飲まされるなどの、凄惨な拷問を受けることになった。
命の危険すらあったのだが、SPY探偵団と協力関係にあった“妖狐”の力を借りて助命され、最終的には、事件の解決まで至ったわけである。
「ちなみに? その、茶会事件を解決したときに、ギンピギンピを食える体質になったんだって? ソウ?」
「うん。家に、漬物、あるし」
「「漬物――!!?」」
ケロッと答えたパク・ソユンに、ゴーグル・サングラスたちは、たまげた。
まあ、これは、パク・ソユン自身の、異能力者による部分、体質も大きいのだろうが、事件をとおして、毒劇物や猛毒植物に対する耐性が身についたのかもしれない。
「つまり、【ギンピギンピ】――、食べることはできない。ただし、現地のワラビーなどの有袋類や、哺乳類ヒト科、DJ兼モデルのパク・ソユンを除く――、ってワケか」
「何、その『※』印の注意書き」
と、パク・ソユンが、ゴーグルサングラスにつっこんだ。




