表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第三章 夜半の目醒めに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/45

20 これも、やっぱり【セオリー】ってヤツ




          (2)



  

 その後、しばらくして、


 ――ザッ、バーッ……!!


 と、水を滴らせながら、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、暗闇の海から上がった。

 水の、穏やかになった間隙の岩場に、いったん身を置いて。

「ハ、ハァッ……!! ハァ、ハァッ!! しっ、死ぬかと、思ったぁ……!! ハァ、ハァ……!!」

 ドン・ヨンファが、両手両ひざをついて、息を荒げながら言った。

 顔面蒼白で目を見開いており、まさに、死にそうな顔といった表現が合っているだろう。

 まあ、真っ暗闇の中を――、それも30メートル以上の高さから海面に向かって降下し、何とか着水してからも、上下の空間認識を失いかねない海中である。

 死ぬかと思ったのも、無理はない。

 そんな、ドン・ヨンファとは対照的に、

「まあ、良かったじゃん。これで、おしっこ漏らしたのも、洗えたじゃん」 

「そっ、そこじゃ、ないでしょが……、ハァ、ハァ……」

 と、隣の相方のパク・ソユンだが、こんな状況でもケロッとしていた。


 そのようにしながらも、岩場に上がってから、ふたりは少し落ち着いてくる。

 そうすると、次にすべきは状況の把握と整理である。

「そっ、それで、さ……? ソユン?」

「ん? 何?」

「何って……、いや、いったい? 何なんだろうな? あの……、さっきの、グロテスクな、クリーチャーみたいなの?」

「さ、あ?」

「だ、だって……、間違いなく、幻覚とかじゃ、ないだろ? そっ、ソユンも、間違いなく見ただろ?」

「うん。……まあ、ふたりとも、“同時に同じ【幻覚】を見た”んじゃないかと言われれば、それまでだけど」

「ま、まあ、それはそうだけど……」

 と、ドン・ヨンファは、そこは確かにな、と思いつつも、

「と、とりあえず……、僕たちが見た、その、【異形のモノ】――っていうのかな? この、異形のモノたちが、【幻覚“ではない”】との前提で、話を進めよう」

「うん」

 と、パク・ソユンも頷いて、ドン・ヨンファのいう前提に同意する。


 また、ドン・ヨンファが続けて、

「そう、すると……? あの、【異形のモノ】たちってのは、【何物】なんだろうな?」

「……」

「島の、どこから、現れてきたのか……?」

「……」

 と、疑問を列挙するドン・ヨンファに、パク・ソユンは無言で耳を傾け、

「それで……、僕たちに、“した”みたいに……、この島の、招待客たちを襲っているの、か――」

 と、ドン・ヨンファはそこまで話しながら、途中、言葉をつまらせる。

 すると、



「――それとも、招待客たちが、【アレ】に変えられたか」



 と、パク・ソユンが【何か】を察したのか、その続きを言葉にした。

 その言葉に、


「……」


「……」


 と、ふたりは、互いに沈黙を挟む。


 …………、…………


 沈黙を破って、

「うっ、嘘……、だろ……?」

 と、ドン・ヨンファが、半ば絶句するように言った。

「まあ、仮説よ――。アンタも、“そう”、言おうとしたんじゃない?」

「ま、まあ……、そうだけど……」 

 と、ドン・ヨンファが答える。

 ただ、【この仮説】は、できたら言葉にしたくはなかった。

 多くは、知らない他人ではあるものの、昨夜、同じパーティに居合わせたばかりの人たちである。

【人間】――、なのである。

 それが、“あのような”、むごたらしくもグロテスクな姿に変えられてしまったなど、とは――

 確かに、想像したくはないことである。


 そのように、何とも、気味の悪くも悍ましい仮説に、

「し、しかし……! も、もし、そうだとしたら……、それはいったい? どんな力で? そして、僕たちが、まだ“そうならない”でいるのは? もしかして、主催者の、【X財団】とやらが、これに関与しているのか?」

 と、恐怖や混乱、さらには訳の分からぬ興奮やらが混じりながら、ドン・ヨンファは慌てて、パク・ソユンに対しいっぺんに質問をした。

「そんな、いっきに聞かれても、分かんないわよ」

「そ、そうだよなぁ……」

「まあ、『主催者が何かしらの関与をしてる』――、ってのが、こういう場合の【セオリー】っぽいけど」

「セオリー、ねぇ……」

 と、ここで、いったん会話は切れる。

 ひと呼吸おくようにして、間を挟む。

 そして、


「――と、いうわけで、さ? さて? どうする、かな?」


 と、パク・ソユンが、核心かつ喫緊の課題を言葉にした。

「確かに……、このまま終わり――、じゃ、なさそうだよな」

「うん。そうでしょね。たぶん、このままじゃ、この島から、脱出できないんじゃない?」

「そ、そんな、」

 ドン・ヨンファは、一瞬だけ、絶望的な表情になりかけるも、

「まあ、でも……、普通に考えて、そうだよな」

 と、そこで“沈み込まない”ように、何とか気持ちを保った。

 そうしないと、冷静さを失い、事態は余計に悪いほうに転がってしまう予感がしたからだ。

 あくまで、SPY探偵団のメンバーのふたりである。

 暇を持て余した、有閑的な探偵サークルのような訳のわからない活動をしているものの、【奇怪な事件】というものを、そこそこ扱ってきたことは確かである。

 その中で、窮地や、修羅場といった危機的な場面を乗り越えてきたことも、少なくはない。

 ゆえに、そのように、メンタルを保つこともできるのだろう。


「とりあえ、ず……、スマホは、壊れてない、か――」

 ドン・ヨンファは、取り出して確認してみる。

 そこで、“すべきこと”、“できること”はというと、『しかるべき救助が期待できる相手』に連絡することだろう。

 ただ、

「ロウンに、掛けてみるよ」

「う、ん……」

 と、通話しようとするドン・ヨンファに頷きながら、パク・ソユンは、【何かの予感】がした。

 その間も、ドン・ヨンファはスマホを発信する。

 しかし、


 ――プル、ルルル……、プル、ルルル……


 と、10秒ほど経っても、ドン・ヨンファのスマホのほうから聞こえるのは“その音”だけだった。

「つながら、ないよ……」

 ドン・ヨンファが、焦り始める顔で、パク・ソユンのほうを見る。

「……」

 パク・ソユンは、ジッ……と、無言である。

 ドン・ヨンファは、

「っ……!」

 と、まだスマホの操作をやめない。

 たまたま、カン・ロウンは、電話に出れないだけかもしれない。

 次は、チジミ屋台のオッサンのほうの、キム・テヤンに電話をしてみる。

 だが、


 ――プル、ルルル……、プル、ルルル……


 と、先ほどと同じく、待機音が鳴るばかりで、いっこうに電話に出る気配がなかった。

「やっぱり、テヤンも出ないんだけど、」

「……」

 ますます険しい顔で訴えるドン・ヨンファだが、パク・ソユンは、まだ無言のままである。


 それから、ドン・ヨンファはSPY探偵団とは仲が悪そうだが、持ちつ持たれつの刑事こと、マー・ドンゴンたちや、はたまた自分の会社の人間など、期待できそうなところに電話を試みるも、そのどれもがつながることはなかった。

「電話が……、まったくつながらないよ、ソユン……」

 ドン・ヨンファが、さすがに心が折れた様子で言う。

「……」

 パク・ソユンは、変わらずに、無言のままである。

 それを見て、「何か、反応を返してくれよ……!」と、ドン・ヨンファは少し憤って言おうと思った。

 そのとき、


「――これも、やっぱり【セオリー】ってヤツなんじゃない?」


 と、ようやくのことで、パク・ソユンが口を開いた。

「えっ――?」

 ドン・ヨンファが反応する。

 ただ、ポカン――とした表情をしているも、パク・ソユンのげんの意味することは、“察して”しまった。

「たぶん、このまま電話は通じることないわ――」

「うっ、嘘……、だろ?」

 絶句するドン・ヨンファ。

 パク・ソユンが、ジッ……と、見て言う。

「恐らく、このまま、誰かの助けを期待することはできない――」

「……」

「つまり、私たちで、この島を調べて……、それで、問題を解決するより他ないでしょ」

「な、何だって――!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ