21 アイツら、ふざけたコンビには、お似合い
(4)
「――な、何だって?」
と、驚いたのは、キム・テヤンだった。
同時に、
――ジュ、ワァァッ……!!
と、鉄板から、香ばしい音がした。
場面は変わって、時間もすこし戻ること、ソウル市内の、キム・テヤンの屋台にて。
トラブル真っ最中のパク・ソユンとドン・ヨンファのふたりとは違い、カン・ロウンとキム・テヤンは、呑気なことに、屋台で酒を飲んでいた。
説明はそこそこに、先のキム・テヤンの言葉に、
「ああ……、ちょっと、その、Xパラダイスっていうのを、調べようとしたんだがね……、それが、何ひとつとして、情報が……、引っかかる気配が、ないんだ」
と、カン・ロウンが、丸サングラスに、焼酎の入ったグラスを浮かべながら、神妙そうに答えた。
「何だ? わざわざ、調べてみたのかよ? アイツらが、行った場所の、」
「まあ、すこし、気になってな……。そもそも、『どこにあるのか分からない島に行く』って時点で、本来は、止めておくべきだったんだろうが……」
「けっ……!! そんなもん、別に、アイツら、ふざけたコンビには、お似合いじゃねぇか」
「まあ、そう、言ってやるなよ」
舌打ちするキム・テヤンに、カン・ロウンが言う。
また、キム・テヤンが、何か屋台の作業をしながら、
「それで? 心配でも、してやってんのか? アイツらを」
「そういうわけでも、ないが……、まあ、いちおう……、仲間のことは、気にかけておくべきだろう。リーダーとして」
「けっ、」
「それに……、その、“どこにあるのか分からない謎の島”なんていうのは……、本来、我々が興味を持つべき対象でもあるしな」
「まあ、なぁ……」
と、カン・ロウンの答えに、キム・テヤンが相づちして、手を止めた。
すこし、間をおいて。
キム・テヤンは、酒の入ったグラスを手にして、
「そうすると? 俺も、気になることがあるんだが? ロウン」
「何だい?」
と、カン・ロウンも聞き返しながら、グラスを手にする。
合わせるようにして、キム・テヤンが、
「“アイツら”が――、変態趣味のソユンのヤツと、鈍感なヨンファのガキが、よぅ? 所在不明の、訳の分からん島に行くことに抵抗がないのは、分かる」
「うむ……」
と、カン・ロウンが、器に口をつけながら相づちし、
「だが、な……? “あいつら”の他にも、招待された人間ってのは……、何人も、いるんだろ? そいつらは、何か怪しいと思わなかった――、ってことになるのか?」
との、キム・テヤンの問いに、
「……」
と、丸サングラスの、カン・ロウンが、いったん沈黙した。
まあ、普通に考えても、そうだろう。
“詳細はおろか、場所すら不明”などといった島に招待されるとは、普通の人間ならば、すこしくらいは、何かしら怪しむだろう。
しかしながら、現に、このXパラダイスなる島には、パク・ソユンとドン・ヨンファたちの他に、ゆうに、100人か200人を超える人間が招待されていたのだ。
なおかつ、その全ての者たちが、とくに何か怪しむ様子もなく、島を訪れていたのだという。
まるで、リゾートにでも行くかのように。
また、カン・ロウンが、
「それ、とも……、ソユンから見せてもらったものの他に、関係者以外には……、何か、秘匿されている情報みたいなものが、あるのか?」
「何だ? 会員制の、秘密の社交クラブ的なヤツか?」
「まあ、そういう感じの」
「はぁ? それで、アイツらも、俺たちに必要最低限の情報しか、教えてくれなかったってわけか?」
「まあ、そういう“可能性““が、あるんじゃないか――? ていどの話だ。半分は、適当に、聞いてみただけだが」
「けっ、適当なら、聞いてくんなよ。それに、もし、何か秘匿されているような情報があるとしても、よ? アイツら、ロクデナシどもが、律儀にそれを守るか?」
「確かに……。まあ、それはそれで、問題だが……」
キム・テヤンが、ふたりのことをディスりながらも、カン・ロウンも、そこは納得してしまう。
つまり、いま島にいるパク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、口が軽い人間というわけだ。
また、キム・テヤンが、
「そういうわけで、だ――、この謎の島に、何か秘匿されている情報ってのがあると仮定して……、なおかつ、“俺たちが調査すべき事件の匂いがするもの”があるとなれば……、“アイツら”は、それを、包み隠さず、話してくるだろ? 島に、出発する前に」
「まあ、そう、だろうな……」
と、答えながら、カン・ロウンの丸サングラスが、キラッ――と、光る。
また、キム・テヤンが続けて、
「だが、今回……、“それ”は、なかったわけだ」
「うむ」
と、カン・ロウンがうなづき、
「――と、いうことは……、招待客が知り得る情報ってのは、やはり、“アレ”だけなのか?」
「そうだろうな。謎の島の、ままだ……」
「う〜ん……? そう、すると……? あんな、限定的な情報にもかかわらず、正体不明の謎の島への招待を、誰もが疑うことなく訪れた――。その、“謎”だけが、残るわけか……」
と、キム・テヤンは言った。
続けて、
「もしかすると……、よぅ? ロウン、」
と、また、キム・テヤンが切り出した。
「う、ん――?」
首を傾げながら、丸サングラスのカン・ロウンが聞くと、
「何か、サブリミナルか、催眠的なナニカ――、という可能性は、ないか?」
「“催眠的なナニカ”、か……。まあ、その可能性も、無いとは言えないな」
と、ここで、サブリミナルや催眠との、すこし胡散くさい言葉が並んだ。
まあ、いままで調べてきた案件の中には、“そのような力”が利用されたケースというのも、珍しくなかったからなのだろう。
キム・テヤンが、その仮説で続けて、
「まあ、あくまで、可能性なんだが……、この招待状に、“サブリミナルや催眠的なナニカの力”があるとすれば……、ソユンとヨンファのヤツらや、他の招待された連中ってが、何も疑うことなく……、その、Xパラダイスってとこにノコノコと行ったってことも……、説明が、つかねぇか?」
「まあ、そうだな……」
カン・ロウンが、うなづく。
ただ、どこか、“引っかかる”ような感じがしながら。
こんどは、そのカン・ロウンが、
「しかし、そうすると……? テヤン?」
「ああ?」
「もし、その、サブリミナルや催眠的な力が、招待客に“かけられている”とすると……、この、Xパラダイスに人々を招待した主催者というのは……、いったい? 何が、目的、なんだろうな?」
と、問いを投げかけた。
催眠的な力で、すくなくない招待客を島へと招いた目的――
今回の、核心的な“謎”のひとつだろう。
キム・テヤンが、
「……」
と、無言になり、すこし考えこむ。
間を置くものの、
「さ、あ……?」
と、キム・テヤンは、“何かそれらしい答え”が思い浮かばず、
「そんなもん、俺に聞かれても、分かるわけねぇだろ……」
「確かに……、そうだな」
と、カン・ロウンが納得し、
「とりあえず、だ――、テヤン? この、Xパラダイスに関しては、何か、調べてみないか? こっちでも」
「ああ”ん? また、調べるのかよ?」
「ああ……。まあ、何も起きてはいないだろうと思うが……、念のため」
「はぁ、仕方ねぇな」




