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第39話 男

 『不浄の泉』を消滅させたあと、俺達は最後まで討伐に参加した。討伐三日目にネムの事が一般冒険者にバレて、大騒ぎになったが、大喜びして騒ぎまくると言う大騒ぎだったので問題はなかった。

「これで、完全にヤツは要らん事に成ったな!」

「おう! 死んでくれれば清々するぜ!」

「歌姫達だけだった時ですら、役立たずだったんだから、完全に要らん子ね」

 そんな感じで、大騒ぎの中で、話は自然とクソロムンの事と成っていった。ヤツが現在どういった立場にいるのか、キルドもつかんではいないらしい。状況を見て、城へ侵入してみるつもりなので、その時までには情報を仕入れておきたい。取りあえずはカンストした『隠密』が通用するか、と言う問題があるのだが……。

 今回、ネム以外のレベル及びスキルレベルは上がっていない。ネムはJOBレベルが1上がってレベル20となった。『浄化』は2つ上がり5、『聖域』は1つ上がって6と成っている。『聖鎧』に付いては、『巨大ゾンビ』以外では積極的に使用しなかったため、5のままだ。

 やはり、ネムの『浄化』のスキルレベルが上がる速度は速い。初日からすれば次第に遅くは成っはているが、それでも一般のスキルと比べれば確実に早い訳で、本来は、年一回程度しか無い『不浄の泉』発生率のために、スキルの成長がブーストされていると考えるのが正しいようだ。

 討伐完了が宣言された日、俺達は今日まで宿泊していた宿にもう一泊する事になった。終了宣言が出されたのが昼過ぎだった事と、街の者達がパーティーを開いてくれる事になったからだ。

 他の街から来た応援冒険者達は、ほぼ全て帰っており、このパーティーに参加するのは、この町の者と俺達だけとなる。それでも、パーティーの行われている中央広場は、人で溢れかえっていた。

 本来は、討伐に参加した冒険者達を労う事が目的のパーティーなのだが、完全に祭りと化している。まあ、街の一般人達も、炊き出しや支援、ポーション類の生産等を行ったので、『討伐参加者』なのは間違いない。

 昨日までの炊き出しとは違い、今日は酒も出されており、方々で騒ぎが起こってはいるが、悪い意味での騒ぎではなく、はっちゃけ気味なバカどもによるものなので放置されている。

 そんな中、一番目立っているのはティアだ。広場中央で歌を唄っている。

 当初は、軽度のケガや疲労が残っている者のために『ヒールソング』を唄っていたのだが、周囲からのリクエストによって、そのままコンサート状態に移行した。

 時折前世の曲も入れながら、この世界の曲を中心に唄っていく。只でさえ目立つ所に、『エフェクト』で曲調に合わせて、ミラーボールだのレーザー光線だの、歌劇のワンシーンだのを出現させているので異常に目立っている。

 3Dフォログラムのように映し出される歌劇に至っては、

「続きも全部見せて────!!」

 と、叫ぶ女性が複数いる程だ。戦闘では全く役に立たない『エフェクト』だが、今日は大活躍だ。

 シェーラは、今日は酒を飲んでいる。明日は馬車移動のみなので、飲み過ぎない限りは問題無い。男性冒険者だけでなく、この町の若い男達も寄って来ていてモテモテだ。お持ち帰りされるなよ。

 ミミは、大串に刺さった肉を持って、どこかへ早々にいなくなった。まあ、ミミは大丈夫だろう。いろんな意味で……。

 ネムは方々で餌付けされている。

「ネムちゃん、これ食べてごらん」

「はいです。……美味しいです!」

「これもうめーぞ」

「美味しそうなのです! ネム幸せなのです!」

 時折、『魔法のウエストポーチ』から取り出した、少し温くなりかけのサイダーを片手に、食べ歩きを続けている。

 ネムは、新たな『浄化師』である事が街の者全てに認識されており、その上、宿の者から『食いしん坊』である事もリークされたようで、あっちこっちで料理片手で呼ばれる人気者だ。

 俺は、『隠密』を発動させて、静かに料理を楽しんだ。……実際は、ネムとティアの護衛だったりする。

 『スキルの実』を提供という名の販売を初めて一ヶ月半が経過した。それに伴って、ネムの名はともかく新たな『浄化師』の存在は諸外国に通達されている。

 『スキルの実』を三つ使用した新成人の『浄化師』だ。自国へと取り込もうとする動きがあってもおかしくない。以前までは、将来の事を考えて手控えただろうが、現状の『不浄の泉』異常発生状態の中ではそうならない可能性が有る。『今国が滅べば、将来もへったくれもない』と考える者が出るのは当然の事だろう。『他に二人も浄化師がいるから良いだろう』という考えも、それを後押しするかもしれない。それ故の護衛だ。

 ティアに関しては、『浄化能力者』と言うだけではなく、『ラッキーソング』の存在も理由の一つになる。俺のJOB『盗賊』はレアJOBではあるが、『歌姫』などと違って一定数は存在するJOBだ。このJOBが今まで評価されなかったのは、『スティール』の成功率の低さとそれに伴う成長速度の遅さのためである。結果として、このスキルの育成を諦める者が大半だった。

 せめて、『一般品』を『スティール』出来ていれば希望が持てて、レベルアップ時のSPを『運』へと振り込もうと思えるのだろうが、成功しても『魔石』しか『スティール』出来ないのでは、大切なSPを『運』へと振り込もうと思うはずもない。

 『盗賊』JOBの者自身の考えもだが、所属するパーティーの者がそれを許すはずがないからだ。『運? そんなもの上げる位なら、素早さを上げろよ!』と言った事になる。

 そんな訳で、『盗賊』の『ティール』スキルは『死にスキル』と言われており、『盗賊』に求められるのは『気配察知』 による索敵と言う事に成った訳だ。

 だが、俺と言う存在が現れ、『スキルの実』という特殊な物を入手する事が出来る事が知れ渡った事で、状況が変わった。

 そして、そんな『盗賊』の『スティール』を育てる事が出来る『ラッキーソング』を使える『歌姫』であるティアがクローズアップされるのは、必然だったと言える。

 ティアは、諸外国にとっては、二重に美味しい存在だ。『浄化能力者』であり、『ラッキーソング』によって『盗賊』の『スティール』を育てられる者として。だから、守らなくちゃ成らないのさ。まあ、家族だから、守るのは当然だしな。

 一応、俺自身が狙われる可能性も有るが、こういった場合は男より女の方が狙われやすい。実際、ティアとネムは、実質的な攻撃能力が無い。それが見た目からも分かるので狙われやすいはずだ。

 俺は『闇の双剣』を装備している事もあって、その辺りは警戒されるはず。まあ、ハニートラップの可能性は有るかな?。

 だが、前世で、強度の女性不信を煩った俺は、よほどの長期間を掛けたハニートラップで無い限り、掛からない自信がある。……借金トラウマと言い、女性不信と言い、ミミのオタクカルマを笑えないぐらい前世を引きずっているな。これも『(カルマ)』の一種なんだろうか?。

 

 『隠密』によって、路傍の石と化し護衛を行う俺の目に、一人の人物が目に付いた。仮設ステージで唄っているティアを見つめる、俺達と同年代の男性冒険者だ。武器は身につけていないのでJOBをうかがい知る事はできないが、身長がシェーラ以上ある事から『大剣士』の可能性が有ると思える。

 その男に俺が注目した理由は、単純に目つきだ。周囲にいる歌を楽しむ者達の目と、明らかに違う。表情も安定していない。いろいろな感情が現れては消えている。

 俺は、ネムの方も確認しながらも、その男をロックオンし続けた。

 その男が動き出したのは、パーティーという名の祭りが終わりかけとなった頃だ。

 3時間ライブを終えて、ティアが仮設ステージを降り、ネムの方へと向かおうとした時、男が何かを決意したような表情でティアへと向かって動き出した。

 俺は、その男の後ろに忍び寄り、そのまま付いて行く。何があっても即座に対応出来るようにだ。カンスト『隠密』によって男には認識されていない。

 その男は、ティアの前に回り込んだ。そして、彼女の行く手を遮る。

 俺は、右手に装備した『双魔掌』に少なめのMPを込め、軽度の『スパーク』を即時実行出来るように準備を行う。

「あ……綾乃」

 だが、俺の予想と違い、その男が口にしたのは、ティアの前世の名前だった。転生者らしい。と、成れば、危険は少ないか。そう思ったが、それでも『スパーク』の準備は解除しない。転生者を装った者の可能性も有るからだ。なにせ、ティアが転生者だという事、前世の芸名が『アヤノ』である事は広く知れ渡っているから。

 それ以前に、アンチであったり、逆に熱狂的ファンである場合も問題がある。警戒は続ける。

 男から話しかけられたティアは、一瞬驚いたが、直ぐに笑顔に変わる。

「はい。前世と似ても似つかない顔になってますけど、立花綾乃です。転生者の方ですか? 初めてお会いしますよね。私達ではなく、ギルドが会いに行った方でしょうか?」

 ティアの言う『ギルドが会いに…』と言うのは、転生者リストを作りたい俺達を、『不浄の泉』対策のために遠方へと行かせたくないギルドが、転生者捜しの代行を申し出た事である。

 俺達が地方へと行っている間に『不浄の泉』が発生すると、その連絡や移動だけで数日をロスする。それを防ぐために、ギルド側から提案してきた事だ。

 その試みは、即座に実行され、転生者の存在が報告されている全ての町や村のギルド員が動き、あっと言う間に全てのリストが埋まった。本当に、数日の事だった。『こんな事なら、初めからやっとけよ』と俺達全員が思ったのは言うまでもない。

 ただ、その結果として、ティアの肝心の捜し人である、安楽恵美は居なかった。ティアにとっては、かなり残念な結果となった訳だ。

 このギルドによる探索は、俺達が行った場所も再度行われており、漏れがあった可能性は低い。

「メグちゃんは、あの時死なずに済んだんだね。前世で生きているんだね……」

 ティアはそう言って、自分を納得させていた。二ヶ月以上前の話である。

 男は、ティアに向かって首を横に振る。

「……少し、込み入った話になるんだが、静かに話せる場所に来てくれないか?」

 要注意。

「良いですよ」

 おい!ティア! 知らない人にホイホイ付いていくな! そんな俺の心の叫びを余所に、ティアはニコニコ顔のまま男の後を付いて行く。

 二人が向かったのは、家と家の間にある、人一人がやっと通れる程の路地。パーティーの明かりは届かず、街灯もない。屋根と屋根の間から、僅かに覗かせている月明かりだけが(ほの)かに二人を照らしている。

 笑顔で男に話を促すティアだが、男は口をつぐんだままなかなか話そうとしない。夜目の利く俺には、男が躊躇(ちゅうちょ)しているのが見て取れた。

「えっと、お話は?」

 ティアが言葉で促すと、男は、やっと意を決したようで、話し出す。

「綾乃、信じられないかもしれないけど、私、恵美なの。安楽恵美なの!」

 俺は、右手の『双魔掌』を振り上げたまま固まっていた。思考が完全に停止している。だが、ティアは違った。全く逡巡(しゅんじゅん)する事無く行動に移っていた。

「メグちゃん!!」

 ティアは、安楽恵美であると称する男に飛び付くようにして抱きつく。

 おいこら!ティア! 一言で信じるなよ! って言うか、男だぞ! 安楽恵美は女だ!。

「メグちゃん! メグちゃん! 会いたかったよ~!!」

「私もだよ! 綾乃の事、ギルドのリストで知って、何度も会いに行こうと思ったんだよ! でも、私男なんだよ! 男だよ! 男に生まれ変わっちゃったんだよ! だから…会いに行けなかったんだよ……」

 泣きながら抱き合う二人。

 ……マジか。泣いたまま、これまでの葛藤や、前世での事を吐き出すように話す男の姿は、とてもではないが演技には思えない。何より、語られる前世の話に、彼女達でしか知り得ない情報が複数存在している。

 男…安楽いわく、『託宣の儀』の瞬間まで、普通に男として生きてきて、メンタル的にも普通に男だったそうだ。初恋も女の子が相手だったとの事。だが、あの『託宣の儀』によって安楽恵美としての記憶とメンタリティーを取り戻した事で、混乱に陥ったそうだ。多分、その混乱は俺達の比ではなかったはずだ。

 現時点でのメンタルは、男性の意識の方が強いらしい。多分身体が男という事で、脳の構造及びホルモンの効果が大きいのだろう。男と女は、肉体的には全く別の生き物だからな。

「一番辛かったのは、三人の事を知っていて、顔を出せなかった事……」

「バカだよ! メグちゃんはバカ!! 私達が、そんなの気にするはず無いでしょ!!」

「……ごめん」

「許してあげる! 会えたから! 会いに来てくれたから! 許してあげるよ!!」

 身長2㍍近い筋骨隆々な男が、女言葉で号泣する姿は微妙を通り越して不気味ですら有る。だが、まあ、こればかりは仕方がないか。

 二人は、その場で延々と話し込みそうだったので、俺が『隠密』を解いて話しかけた。

「宿に入って話せよ。ゆっくりとな」

 当然二人っきりだと思っていた彼女達は、かなり驚いていた。そんな二人を追い立てるようにして宿屋へと向かわせる。二人が宿屋に入ったのを確認してから、『気配察知』で追跡していたネムの元へと向かった。

「これ美味しいです! なんて言う芋なのです?」

 ネムは、相変わらずのんきに、焼き芋のような物を食べていた。ネムは、いろいろな意味で幸せ者だ。

 それからしばらくして、おなかポッコリなネムを、無理矢理宿屋に放り込み、俺の影の護衛も完了となる。

 ティアの部屋からは、その後夜遅くまで話し声が漏れ聞こえていた。一晩ではあるが、存分に話せば良い。

 ……そう言えば、男と二人きりという状況だな。安楽のメンタリティーは男側だと言うし、二人がくっつく可能性も有るのか? あり得るな。そうなれば、『骨拾い』は解約だな。……ちょっと待て、その場合でもミミの『骨拾い』は残るのか? 拾った覚えのない骨だが、拾った事になっている。 シェーラと違って、ヤツは確実に売れ残る。……となれば、俺が『拾う』のか? よし、段ボールを用意しよう。『誰か拾ってください』と書いて電柱の脇に置いておくんだ。

 さて、その段ボールに入れられて電柱の脇に捨てられるのが決定したミミだが、まだ部屋に帰っていない。シェーラも帰っていないが、彼女は広場で酒を飲んでいるのが分かっている。

 ミミのやつはどこへ行った? 『気配察知』の圏内にいないんだよな。ミミの事なので、大丈夫だとは思うのだが、やはり心配ではある。段ボールに入れて捨てるまでは、俺の管轄だからな。一応、念のために探すか。

 俺は、『気配察知』を使用して街を廻りながらミミの気配を探した。『気配察知』にミミの反応が現れたのは、探索開始から20分近くが経過した後だ。

 ミミの反応があったのは、街を囲む内塀の上だった。そして、その横には別の見知った反応がある。カルトさんとカチアさんだ。どうやらデートではなかったようだ。残念。段ボール箱の準備は必須だな。

 三人が居たのは北門近くの塀の上だ。北門横の階段から上がったのだろう。俺は面倒なので、その場から塀の壁面を駆け上がる。今なら、アメコミの蜘蛛男に近い事が出来る。さすがに天井は無理だが、垂直な岩壁なら僅かな突起を使って楽勝で登る事が可能だ。

「アラム王国は、国王に召し上げられましたね。不本意ながら、ギルド側が高額で売りつけた、と言う情報もあります。現在確認をとっている最中です」

「うちと言い、ギルド内部も腐ってますよね!」

「うんみゅ~、結局、まともに浄化師ん所に行ったんは、アスランとルミレニアだけか~。アルム、トルシン、チルキニア、サクラメンティアの四カ国はクズ、と」

 『隠密』状態で塀の上の通路に上がると、三人の会話が聞こえてきた。どうやら、『スキルの実』を送った周辺各国での結果について話していたようだ。だったら問題無いな。『隠密』解除。

「ぎょえ!!」

「「ロウ君!」」

「よ!」

「よ!じゃないっちゅうの!! 驚いたっしょ!!」

 例のごとく足をゲシゲシ蹴ってくるミミ。三人の足下を見ると、10本近い竹串と、サイダーの空き瓶3本が置いてある。どうやら、最低限はパーティーを楽しんだようだ。

「つーか、ネムとティアの護衛は?」

「二人は宿まで帰した。ティアに関しては、安楽と一緒だ」

「安楽!? 見つかったん!?」

「ああ、向こうから接触してた」

本物(ほんもん)か!?」

「四人しか知らない話題で盛り上がっているから、まず間違い無い。と言うか、偽装するにしても、生まれ変わったら男でした、は無いだろ」

「……ちょっち待て!! 男!?」

「そ、安楽は、今世では男に転生していたよ」

「マジか────!!」

「男に転生?」

「えっと、私も、次に生まれ変わる時に、男に生まれ変わる可能性が有るって事?」

 ミミだけでなく、カルトさんとカチアさんも驚いたようで、その後しばらくは、本題そっちのけで安楽の事だ盛り上がってしまった。

 だいぶ時間が経ってから、やっと本題に戻る。

「今後、更なるスキルの実の要求があるでしょう」

「浄化師の派遣要請もあるんじゃないですか?」

「あり得ますね」

「実、貰うだけ貰っちょってかい! ……つーか、まあ、思った通りっちゃあ、思った通りなんよねー」

「更なるスキルの実の提供をさせるために、浄化師の派遣を要請するという形をとる可能性も有ります」

「だ~ねぇ~」

「この国の王家がしっかりしていてくれれば、対処も出来ると思うんですけど……無理ですよね」

「無理です」

「クソロムンのおかげで、王家自体の影響力が低下しちょるけんね。そこらが、国家間の力関係にまで波及しちょるんよね……クソロムン一人のせいで、無駄な苦労せにゃいかんやんか!! ロウ! ロウがもっと早くプチッとやっとかんから悪いんよ!!」

「アホか! 隠密がカンストした時には、既に手遅れだっただろが!」

「おにょれ~、クソロムン────!!」

 一時、違う形で、また話題がずれてしまった。事、クソロムンの事になると、どうしても話が脱線する。ヤツの事に関しては、全員がいろいろと思う所があるからな。

「ロウ君、今後もネム君とティアさんがさらわれたり、強引な勧誘をを受ける可能性が有ります。気を付けてください」

「分かってます。……状況は変わりそうにないですか?」

「現状では、無理でしょうね」

「スキルの実を、バラ撒くだけバラ撒けば、落ち着くと思うんだけど……」

「カチアさん甘い!! 砂糖水にブリリアントの蜜をドバーっと入れたぐらい甘い!! 欲ボケたヤローどもは、俺も!俺も!俺も!って、際限ないっちゅ~の! 今と同じように浄化師に回さんと、奪い合うに決まっちょる!! んで、それはそれとして、浄化師を派遣しろ、って言ってくるのが目に見えちょる!!」

 当のカチアさんだけでなく、俺とカルトさんもミミの言葉を否定出来ない。というか、多分そうなると思う。

「ちゅー事で、以降、スキルの実を要求された時には、正規の値段で売っちゃれ! アスランとルミレニアには二個までは今までの値段にして、その途中で浄化師に回さんかったら、次からは正規の値段に変更、ってな感じでどない?」

 浄化師を約束どおり強化した二国には、前回同様割引料金で販売する事で、それ以外の国に対してこちらの意思を示すと共に、損得勘定に訴える訳だ。

 前回『スキルの実』を近隣各国に提供した際の価格は、一個100万ダリ。一辺が3㍍な『魔法の袋』の価格と同じである。事実上の『提供』と言って良い価格だ。

 その際、『浄化師の強化に使う』『これを販売する代わりに、浄化師の派遣を求めない』と言う条件は相手国に飲ませている。ただ、これは、対象が相手国のギルドであって、国自体ではない。だから、国からの要求が有る可能性は残る訳だ。

 なまじ、前回『スキルの実』を渡した事で、この実の力を目にしている関係上、その分欲求が高まっているとも考えられる。

 ちなみに、『スキルの実』の正規売価は、1億ダリを下回る事はないそうだ。一昔前なら、オークションで天井知らずだっただろう。複数が入手可能な現在でも、対アンデッド能力の強化、と言う事を考えれば、それ程価格が下落する事は無いと思われる。

 まあ、他国の『盗賊』が『スティール』出来ていれば、この問題は全て解決するはずだ。当然、実行はしているはず。

 俺達の検証では、『巨大アンデッド』は『スキルの実』しか持っていない事が分かっている。勿論、『運』の補正値の関係で、『クズ品』を引いていないだけで、『魔石』も持っている可能性もなくはないのだが、その場合は、『運』を上げていない『盗賊』では、成功しても『魔石』しか『スティール』出来ない事になる。

「カルトさん、他国の盗賊はどう成ってますか? 情報入ってませんか?」

 一応、確認してみた。サックリとした言い方だったが、話の流れで俺が聞きたい事は理解してくれたようだ。

「実をスティール出来たかどうか、ですか? さすがに現時点で全ての国の情報はありませんが、トルシン皇国と神聖サクラメンティア王国では、複数の盗賊を使って実を手に入れようとしたようですが、成功はしなかったようです。他のほとんどの国は、スキルの実を提供後、まだ不浄の泉が発生していませんから、確認出来ていません。あ、現時点では発生している可能性は有りますが」

「ど~せなら、他国の盗賊にもスティールでけるのが、いっちゃん良いんよね~」

「そうだよね」

「そうだと助かるのですが……」

 ここで、この場の誰一人として、『この国の優位性が揺らぐ』などと言う者がいないのが嬉しい。俺とミミは勿論の事、ギルドの二人も聖人君子などではない。だが、現状をしっかり理解しており、まともに考える能力は有るという事だ。そして、その考える方向性も同じであるという事はありがたい。

 その後、正規の販売価格で販売した場合の、俺達の取り分に関して話し合った。無論、一ギルドのサブマスが決定出来る事ではないので、仮の話ではある。

 一億ダリを超える金額となった場合は、その9割をギルド側に提供し、その全額を(・・・)アンデッド戦参加者の報酬ならびに、物資を含む諸経費に充てる、と言う案が決まった。

 残りの1割の半分を俺達の取り分とし、残り半分を西ギルドで運営を正式に始めた『銀行業務』の運営、運用資金とする。

 つまり、俺達の取り分は、全体の5分、5%と言う事に成る。一人当たり1%。一億ダリなら100万ダリ。日本円換算で、1億から2億円。『スキルの実』一つで、である。今回だけで5個を手に入れていて、一個ネムの検証に使用して無くなってはいるが、4個残っている。仮にこれを全て1億ダリで売ったとすれば、一人当たり400万ダリだ。4億円から8億円。一生働かなくって良いかもしれない……。

 取りあえず、二個割引価格で売る事が決まっているので、半額に近くなるが、それでも大金だ。

 だが、『スキルの実』に関しては、いろいろな事が不確定過ぎるため、捕らぬタヌキな事を考えても仕方がない。その辺りは、実際にその金額を入手してからの事だ。

 そんな事より、先ずは目先の問題を一つ一つ解決しよう。それが、良き未来へと続く道だろう。

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