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第40話 バカ+アルファー

 キヌア領サラサから帰ってきて10日程が経過した。

 この間ティアは、桜場と寺西へ安楽発見の手紙を送り、その返信も受け取っている。二人とも安楽が男として転生した事に驚きながらも、見つかった事を喜んだようだ。

 安楽は、サラサをベースとする冒険者なので、直ぐにとは行かないだろうが、できるだけ早く二人に会いに行くと言っていた。やっと4級になったばかりなので、もう少し掛かりそうだ。安楽が所属するパーティーの意思もあるしな。

 ティアも三人とまた会いたいようで、『不浄の泉』異常発生が早く終了する事を願っている。

 ティアは念願であった親友三人との再開を果たし、その全員が前世の事が偽りではなく本当に親友であった事で、やっと本来の彼女に戻った。今まで以上に笑顔を振り撒き、前世での『エンジェルスマイル』が復活しいる。

 前世のような美少女ではなく、鼻が低くて平坦な顔立ちで、ブスと言う呼称が否定しきれない顔なので、万人を魅了する、とは行かないが、周囲の者全てを笑顔にしてしまうような笑顔となっている。

 俺は、前世より、今の笑顔の方が好きだな。以前は、芸能人と言う制限があり、学校においても、どうしても素が出し切れていなかった気がする。当時の彼女が、本当の自分でいたのは、桜場達といた時だけだろう。

 当時俺は、例の女性不信がらみで、逆ストーキング(?)を行っていて、その姿を見ていた。だからこそ、ある程度、女性不信から脱却出来た。

 そんな前世の事を思いだしていると、俺が現世で『盗賊』と言うJOBを神的なヤツから貰った事は、ある意味当然なのだという事が分かった。なぜなら、前世の時点で既に、ストーキングと言う『隠密』行動を行っており、その行為を周囲の者に見とがめられない技能、つまりスキルが有ったことに成る。前世の時点で『盗賊』の才能があったと言う事だ。

 逆に言えば、生まれ変わったとしても、才能は無くなることはないと言う事に成るのかもしれない。歌の上手い者は生まれ変わっても上手く、運動能力に長けた者は生まれ変わっても運動能力に長けている、と言う事。

 当然、マイナスの特性も受け継ぐのだろう。運痴は運痴として生まれ変わり、オタクはオタクとして生まれ変わる。ミミ言う所の『性格は生まれ変わったぐらいじゃ、変わらん!!』理論だが、身体的な能力も同じかもしれない。

 俺のストーキング能力(?)は置いておくとして、立花綾乃の歌は、多分に身体的な要因であり、魂には根ざさないはず。技能や感情的なものは魂そのものに根ざすとしても、声質・音域の広さは肉体的要因であり、魂には根ざさない。

 だが、ティアの歌声は前世同様の美声であり、音域も特に違和感は無い。となれば、身体的な能力も転生時に引き継ぐと言う事に成る。これは、俺の周囲の転生者だけから導き出した考えなので、確証はないが。

 

 この10日間で特出したことと言えば、新成人の『盗賊』が接触してきた事だろう。成人後、4ヶ月が経過した上での接触だ。

 その第一声によって、俺達の対処は決まった。

「おい、あんたのJOB盗賊なんだろう。スティールで大金稼いでるって聞いたぜ。俺にもやり方教えろよ。何も盗めねーんだ。こつとか有るんだろ。自分だけ、良い思いすんなよ」

 その『盗賊』は、同じ新成人四人とパーティーを組んでいて、その装備を見るとかなり良い品で統一されている。だが、彼らの動きを見る限り、その装備を自力で購入出来る者の動きには見えない。

 最近は、そう言う事も分かるように成って来た。ミミに至っては、他者(モンスターも含む)の魔法の発動の予兆を察知出来るようにすら成って来ている。

「それが、完全に出来るようになれば、3級相当さね」

 ロミナスさんいわく、俺達は信用的な問題は既にクリアーしているので、それが出来るようになった時点で、3級に昇格する事に成るそうだ。ただでさえ目立っているのに、この若さで3級冒険者なぞになれば、ろくな事に成らないのが分かり切っている。願い下げだな。仮に、そう言った『スキル外の認識力』が身についたとしても、ロミナスさんには言わないでおこう。

 その、現時点での『スキル外の認識力』で、彼らの装備と能力を比較した所、それが全く合っていないことが分かった訳だ。多分、彼らのパーティーメンバーに、ある程度裕福な家の者が居り、そこからの支援を受けているのだろう。

 ひょっとしたら、パーティーメンバー全てが、一定以上の家庭の者であるかもしれない。全ての冒険者が、俺達のように孤児や貧乏人の子供と言う事は無い。俺達的には、何を好き好んで、と思わないではないが、結構な数が居たりする。中には、貴族の者も居るとか。さすがに、頭に『没落』が付く者だが。

 装備と能力の乖離(かいり)はともかく、彼の言動によって俺達の表情は変わった。個々にその度合いに違いはあるが、全員が芳しくない方向にだ。

 父親という(実際の騎士団には存在しない)理想の騎士を目指していたシェーラに至っては、無意識に『威圧』を発している。この『威圧』も、接近戦闘職の者が身につける『スキル外スキル』で、大気中のMPの元たるマナを媒介にして、周囲の者に精神的な圧力を加える技能だ。

 シェーラのこの技能は、まだまだ未熟で、対象を絞れない上に、その威力も弱い。今回は、意図したもので無かったこともあり、数名が身を震わせただけで終わっている。

 いろいろ思う所はあるが、別段秘密にしている訳でもないので、その新成人『盗賊』に教えてやる。

「レベルアップ時のSPを、全て運に振り込め。運が8を越えれば、失敗はかなり少なくなる。失敗が少なくなれば、スキルレベルも上がるから、失敗が更に少なくなる。後はスキルレベルを上げていけば良いだけだ。今の俺の運は16。スティールのスキルレベルは13だ。こつなんか無い」

「運に全部だぁ!? 冗談じゃねーよ! そっちのぶっさいくな女が何か出来るって聞いたぞ! 嘘教えてんじゃねーよ!」

「自分たちだけ、良い思いしようなんてせこいぞ!」

「ミルトのスティールが成功するようにしろよ!」

 新成人パーティーの連中は好き勝手な事をがなり立てる。

 第一声で、こいつらの人間性は分かっていたから驚かないけどな。驚かないからと言って、怒らない訳ではない。俺の事をどう言おうが構わないが、ティアの事を中傷するのは許さない。

 俺は怒鳴り付けようとし、シェーラは『威圧』を今度は意図して発する。

 そんな中、ミミがぼそりと呟く。

「あんた達、燃えたい?」

 そして、その瞬間、ヤツらの周囲を青い炎が取り囲む。状況が分からず一瞬唖然とするヤツらだったが、直ぐに悲鳴を上げ、その悲鳴は間もなく絶叫へと変わる。

 ヤツらと青い炎の間は、30センチ程しか無いが、ヤツらが燃えたり火傷を負っている様子はない。ミミが『デュアル』+『エレメント』で、一定以上熱が伝わらないようにコントロールしているからだ。

 その時俺達がいたのはギルドの前で、当然、周囲には冒険者達がかなりの数いた。だが、誰一人としてミミを止めたり(いさ)める者は居ない。

「あいつらバカか? よりによって炎旋にケンカ売って、どーすんだよ」

「炎旋のヤツをチビって言ったヤツの末路を知らないのか、あいつら」

 ……ミミ、何やらかした?。

「それ以前に、あのパーティーにケンカ売るって意味を分かってるのかしら、あの子達」

「分かってねーから、ケンカ売ってんだろーよ」

「だな、無知ってのは恐ろしいもんだよ」

「この国の冒険者全てを敵に回すのにね」

「バーカ、冒険者達だけじゃねーぞ、ギルドもだ。あと、ついでに民衆もな」

「あ、そうね、忘れてた」

 周囲の冒険者達は、そんな事を言いながら冷ややかな目で、新人冒険者達を見ていた。

 ヤツらを囲んでいた青い炎は、1分程で地面に吸い込まれるようにして消える。そのあとには、へたり込んだ五人の新人冒険者だけが残った。彼らは、全くの無傷である。

「あれだよ、あの距離で火傷すら負わせてねーって、ありゃー、絶対セカンドスキルだぜ」

「確かに、魔法の制御で出来る範囲を超えてるな」

「噂の、スキルの実を使ったって事だろ」

 他国へ情報を渡した事で、自然国内にも情報は漏れている。まあ、アンデッド戦で、あれだけやらかしていて、バレないと思う方がおかしいだろう。多分、俺達の大半がセカンドスキルを手に入れている事は、周知の事実となっているはず。

 多分、唯一俺だけは、そのスキルが表面上見えないため、疑問形のままだとは思う。なんせ、『サーチ』と『マップ』だからな。それでも、他の四人がセカンドスキルを持っているのは確定しているのだ、俺も持っているはずだ、と考えられてはいると思う。まあ、今更秘密にするつもりはないので、知られても良いんだけど。

 取りあえず、変なやっかみを買わないように、アンデッド戦では『スティール』したポーション類を提供して、他の冒険者と出来るだけ良い関係を築くようにしよう。

 『盗賊』を含む新人冒険者パーティーは、その後知り合いの先輩冒険者達からしこたま怒られたそうだ。翌日には、その先輩冒険者達がわざわざ謝罪に来た。彼らには全く関係の無い事なのだが、教育出来ていなかったから、と言って謝られた。今後特段の事がなければ、特に問題無いと伝えておいた。

「絶対に、妙な事はさせないから!」

 そんな風に、妙に強く言われた。

 どうも、あの時、周囲の冒険者達が言っていたように、現時点で俺達のパーティーにちょっかいを掛けると全ての冒険者を敵に回す、と言うのは本当の事らしい。彼らも、同僚からいろいろ言われたようだ。

 あと、この謝罪の際、彼らは常時ミミの顔色をうかがっていた。ビクビクとしながら……。ミミ、お前、ホントに何しでかした?。

 そんな訳で、この10日間は、思った以上に濃い日々となった。

 

 その日は、昨晩の雨が大気中の塵を洗い流したのか、普段に無く澄んだ空気になっていた。

「良い天気!」

 ティアは、深呼吸した後、ラジオ体操の歌を唄い出す。その歌は良いのだが、その後の、太陽が西から昇って東に沈む歌はどうなんだろう……。『精神』に-5のデバフ効果が乗ってるぞ。味方にデハフを掛けるな。


 その日も、俺達は西の森へと向かう。

 家が西門に近い事もあって、俺達が王都で狩り場としているのは、基本王都の西側だ。一番行くのが北西の森。次が南西の森となる。昨日は北西の森へと行ったので、今日は南西の森へと行くつもりだ。

 本格的な狩りをやろうと思えば、野宿して二泊なり三泊なりする必要があるのだが、ギルドより『遠くに行っちゃ駄目』指令が出ているので、俺達は一泊すら許されない。まあ、野宿の準備も出来ていないし、仮に指令が取り消されても、当分は野宿をする予定は無い。

 以前の言ったように、金銭的にもレベル的にも全く困っていないので、そこまで無理をする必要を感じていないからだ。

 西外門を出た俺達は、しばらくの間は西街道を進み、草原地帯の途中から道を外れて南西方向へと向かう。

 そこには、本来の道では無いが、冒険者達が長年歩いた事によって出来た獣道のような道が存在している。この獣道ならぬ冒険者道は、途中で複数に枝分かれして、森の方々へと繋がっており、末端に行く程道幅が狭い。

 俺達が向かった枝道は、幅1㍍程で、その両サイドにはススキのような1㍍程の草が生い茂った道だ。そのため、俺は『気配察知』を当然使用している。

 この一帯は、レベル10を越えるモンスターはめったに現れない所ではあるのだが、油断すればレベル20なかばの俺達でも簡単に全滅する。この世界の理には『HP』と言うものが無いからだ。奇襲を受けても『HP』が残っていれば大丈夫、と言う事は無い。

 そして、肉体自体に『防御力』と言うパラメーターも存在しておらず、レベルが50になろうが鉄のナイフで切れてしまう。一応、レベルが上がれば、それに応じて身体の機能が上がる訳で、それに耐えられる強度には成るが、それは『防御力』ではない。あくまでも、『力』や『素早さ』によって筋肉や腱が切れたり、関節や骨が折れたりしないための強度だ。

 ただ、これは人間限定で、モンスターの場合は、高レベルになれば外皮や外骨格が高い防御力を持っていたりする。まあ、これも、レベルアップに伴って、と言う事では無いので、その生き物自体が元から持つ硬さ、と言う事に成るのかもしけないが。

 いろいろ理屈はこねたが、要は、人間は奇襲なら、たとえ低レベルのモンスターからの攻撃でも簡単に死ぬ可能性が有る、って事だ。だから、『気配察知』による索敵を(いと)う事は無い。

 カンストした『気配察知』は、MP1ポイントで1分程効果が維持出来る。MPの自然回復速度が、10秒毎である現在は、このスキル単体で使用する分には、実質MPを消費しないのと同じ事に成る。フルに使用可能だ。

 そんな『気配察知』の認識エリアである半径150㍍内に、不自然な動きをする人間が現れだしたのは、森まで後1キロ程の草原が途切れ岩が多く存在している場所だった。

「100㍍程離れて、俺達を取り囲むようにして移動する人間がいる。少なくとも10人。全部男だと思う」

「盗賊っちゅう事はないんでないかい?」

「この場所に、盗賊がいるとは思えん」

「だやね~」

「えっと、ひょっとして、スキルの実が欲しい冒険者とか……」

「「あり得るな」」

「ありえ~る」

「ほえ? そうなんですか?」

「一応、そんな(やから)が現れたら、最悪殺してもええ、つー許可もろうちょるんよ」

「えー!!」

「「・・・・・・」」

「ほえ!」

 『スキルの実』の事が知れ渡った後、「入手した実は全てギルドに渡してある」と、事あるごとに言っているのだが、それを信じない者が出るのは、残念ながら仕方がない事だ。

 ギルド側も、その辺りを考慮しての『許可』なのだろう。今、俺達のパーティーに問題が発生すれば、この国の『浄化能力者』が事実上ゼロに成ってしまうからな。それだけは避けたいという事だ。

「殺しのライセンスだ~ね~」

「要らないよ! そんなライセンス!」

「状況にもよるが、我々が想定しているような事態であれば、赤は付かんはずだ」

 シェーラが言った『赤』とは、『赤称号』の事で、犯罪に関する称号の事である。

 『称号』は前世のRPGなどでも存在するため、大半のものが分かると思う。周囲の者から、一定以上の評価を受けた者に付く二つ名のようなものだ。国を破滅から救った者に『救国の英雄』とか、歌で銀河を救った者に『銀河の歌姫』などと言った感じだ。

 この世界の『称号』には、ゲームのような『効果』は無い。ただ単に行動の結果として、それに合った称号がステータスに記載されるだけだ。

 通常の『称号』は、他のステータス部分と同じで、白色で記載されている。だが、犯罪に関する称号だけは、赤文字で書かれており、それをもって『赤称号』、略して『赤』と称される。

 カチアさんのJOBである『判事』には、この『称号』を見るスキルも存在しており、以前言ったギルド馬車を襲った者を時間と手間さえ掛ければ発見出来る理由の一つである。

 また、『判事』のように『称号』を見る事は出来ないが、『赤称号』の有無が分かるマジックアイテムは存在しており、大きな事件が発生した際には街中や門で使用されている。

 ついでなので言っておくが、罪を犯した者が、一定の刑を受けた場合、その『称号』自体は残るが、色は白表記に変わり、後ろに『罪を精算せし者』と付く。罪自体は消えないが、この世界の神的な存在から許しを得た事になる訳だ。

 この『赤称号』の存在が、この世界の犯罪抑止力の一端を担っている。

 シェーラは、仮に他の冒険者達が、俺達を脅すなり傷付けるなりして『スキルの実』を奪おうとした時、俺達が反撃して相手を傷付けたり殺してしまった場合でも、俺達に『赤称号』は付かない、と言っている訳だ。

 前世の正当防衛のようなものだな。命の値段が安いこの世界では、そう言った基準も低い。

「一応、念のために、ティア、エフェクトよろ」

「……良いけど。でも、出来るだけ傷付けないようにしようよ。子守歌歌うよ」

「ティアの歌唱を知った上で来る者達であれば、その辺りは対策を講じているのではないか?」

「対策?」

「「「耳栓」」」

 俺、ミミ、シェーラの声がハモる。

「えー! 耳栓で利くの!?」

「利くんでないかい。モンスターの咆哮スキルも、耳栓で対処しちょるし」

「全てのデバフが利かなくなるとは思わないが、ティアはブースト系に専念した方が良いかもな」

「ネムやんのスキルは、対人用やないけん、今回はお休み。中央におって、低級MP回復薬を掛ける係」

「は、はいです」

「俺は、今のうちから隠密に入るぞ」

「了~解。出来るんなら、スパークよろ」

「分かった。俺も人間は、あまり殺したくはないからな」

「つっても、郊外で盗賊行為やらかしたら、基本処刑なんやけどね~、結局」

「状況次第だが、私は全力で行くぞ」

「ええんでないかい。私らの安全が第一だかんね」

 ティアは若干渋い顔をしていたが、反対する事はなかった。ネムは、初めて狩りに出た時のように、深呼吸をして落ち着こうと努めている。

 俺達は、全員がそれぞれの準備を行った上で、そのまま同じスピードで森の方へと向かって進んでいった。


 その男達が行動を開始したのは、俺達が森まで500㍍の位置に来た時だ。

「動いたぞ。数は全部で14人。前後に五人ずつ、左右に二人ずつだ。30秒で30㍍まで接近」

「ほいほ~い。ティア、スタート」

「う、うん」

「香水の匂いがキツいのです」

 香水? 犬鼻ネムが変な事を言い出す。まあ、良い、準備だ。俺は『双魔掌』の左右共に少なめのMPを込める。今回は左の『フリーズ』も使用するつもりだ。当然『マジックシールド』も身につけている。準備は万端だ。

 そいつらが、俺達の前に姿を現した。ヤツらは、俺達を完全に囲む位置へと陣取っている。訓練が行き届いている証拠だろう。

「一人居らんぞ! 盗賊のガキだ! 隠密を使っている可能性が有る! 後方も警戒しろ!」

 前方に陣取っている五人の内、中央にいる大剣を抜剣した30代後半の大男が声を上げた。その時、俺の右前にいたシェーラから、大きな歯ぎしりが聞こえてくる。

「はりまぁ、そう来るんかい」

 ミミが肩をすくめながら呟いた。シェーラとミミの反応を(いぶか)しんでいると、その声が後方の五人の中から聞こえて来た。

「お前達のせいだ! お前達の!! お前達さえいなければ!!」

 ヒステリックに叫ぶその声には聞き覚えがあった。振り返ってみてみれば、それは冒険者風の装備に身を包んだクソロムンだった。

「シェーラ、例の八人+アルファ?」

「あるふぁの意味は分からんが、生き残りの元騎士と元白竜騎士団団員だ。現在の所属までは知らん」

 ミミの問いに答えるシェーラの声には、怒りが込められている。

「ち~っと、まずいかもしんない」

 俺達が逃げたりしなかったのは、相手が冒険者であろうと考えたからだ。冒険者であれば、ある程度は話が通じる。即座に殺しに掛かってくる事はない。だから、十分に対処出来ると考えたのだが、これがクソロムンと、腐れ騎士達となれば前提条件が全く違ってくる。

「ロウ、バックを取れるか」

「警戒されているから、多分無理だ」

「やはりか」

 なおも、訳の分からない事をヒステリックに喚き散らすクソロムンを余所に、俺達は現状からの打開策を検討していく。

 ネムは、一人あわあわとしているだけだが、これは仕方がない。

「ヤツらの平均レベルは?」

「レベル30前後のはずだ。だが、パワーレベリングによるもので、実際の実力はそのレベルには見合わないはずだ。ただ、ヤツらは、対人の訓練を積んでいるからな……」

 シェーラが騎士団の事を、『ヤツら』という言い方をしたのは、これが初めてだ。この言葉が、シェーラの騎士団に対する思いを表しているのだろう。

 そんな事を考えていた時、ミミのやつが両手を強く打ち鳴らした。パンパンパンと三回だ。そして、クソロムンに向かって話し出す。

「で、あんた誰?」

「貴様!自国の王族の顔も知らんのか! 第三王子ロムン・アウラだ!!」

「またまた~、嘘ばっかり」

「何が嘘だと言うんだ!!」

「え~? 仮にも第三王子たる者が、冒険者の姿で盗賊のような事、する訳ないじやん。あんた、ただのそっくりさん。決定! 他にも、浄化師のじじいを見殺しにして逃げ出した元騎士そっくりな(もん)が八人も居っけど、全~部、他人のそら似! 元騎士や現役の騎士が冒険者の姿で盗賊は絶対せぇへんもん」

「なんだと!!」

 気色ばむ騎士達。クソロムンはミミの言葉の裏を理解せず、そのまま怒り狂っている。

「私がロムンだと言っている!! アヤノ! そのドチビに説明しろ!!」

「……え~っと、ミミちゃん、あの人、王子に似た、頭の残念な人なんだよ。責めちゃ可哀相だよ」

「だ~ね~。はいはい、良い子でちね~。お姉さん達は忙しいから、遊んであげられないでちよ~」

「ふ、ふざけるな────!!」

 顔面を真っ赤にして、目をむいているクソロムン。ど~せなら、そのまま脳の血管でも切らして、この場で死んでくれれば世のため人のためだぞ。って言うか、死ね。

 だが、残念ながら、そうは成ってくれないようだ。

「貴様ら────!! もう良い!! 殺せ!! 殺した後、スキルの実を盗れば良い!!」

「ちょっち待った──!! 一応言っとくけんど、私らスキルの実持っとりゃせんよ。ぜ~んぶギルドに渡しちょるけんね。今頃、隣国の浄化師が食っちょる予定。あ、そいと、対アンデッド戦力二人を殺したら、この国滅ぶんとちゃう?()えの?」

「実の事は、殺してから確認すれば良い!! アヤノとそのガキが居らんでも、私が居れば問題無い!! 私だけが居れば良い!! そうでなければならない!!」

 おい、お前、アンデッド戦出てきてないじゃなね~か。そう、心の中で突っ込んだ時、シェーラの方から奥歯の軋む音が聞こえてくる。そして、それと同時に放たれる『威圧』。今回の『威圧』は意図したものであり、更に今のシェーラの感情をダイレクトに表したものであった事もあって、クソロムンを含め全ての騎士達にも効果が出た。

 大半の騎士達はその威圧を振り払っただけだったが、一人の若い騎士が過剰に反応する。抜剣していた剣を振るったのだ。『剣士』『長剣士』『短剣士』のJOBが持つ『飛斬』が繰り出される。

 中途半端な体制で、反射的に繰り出されたスキルなので、威力は高が知れている。俺やシェーラは勿論、ミミとティアもその事は分かっており、慌てる事はない。だが、俺達のパーティーの中で唯一未熟なネムだけが反射的に動いてしまう。双方共に、年若い未熟者が反応してしまった訳だ。

 敵の『飛斬』に反応したネムは、反射的に『聖域』を発動させた。普段のモンスター戦の癖だろう。

 ネムが顕現させた『聖域』は、俺が既に展開していた『バリアーシールド』よりも前に現れていた。そして、年若い騎士の放った『飛斬』は『聖域』を消滅させて『バリアーシールド』に当たり消滅する。

「「「!!」」」

 俺、ミミ、シェーラが即座に反応する。

「ネムやん!聖域MPの限り! 今の半分の広さで!!」

「は、はいです!」

「防御系のスキルだと!?」

「セカンドスキルか!?」

「殺せ────!!」

 クソロムンの声で、戦端は完全に開かれた。

 ティアは『魔女っ子ソング』を選択したようだが、その効果が現れるのには5秒程は掛かってしまう。

 俺は、遠距離攻撃を『バリアーシールド』で防ぐために、周囲を満遍なく見回す。シェーラは、クソロムンの居る方に向かって『地裂斬』を打ち込もうとしている。ミミの頭上には、既に14個の『ファイヤーアロー』状の青い炎の槍が、その穂先を取り囲む騎士に向けて準備している。ネムが展開している『聖域』は既に十重を越え、なおも増え続けている。

 『素早さ』のパラメーターによって、擬似的に引き延ばされた時間軸の中で、18人がそれぞれに動き出す。唯一、クソロムンだけは「殺せ────!!」と叫んだまま、次の行動には移れていない。

 周囲を囲った騎士達の放った、スキルが俺達に向かって押し寄せてくる。だが、その大半はネムの展開した『聖域』によって防がれていた。

 これは、本来あり得ない事だ。俺達が行った検証では、人間が放ったスキルには『聖域』は全く効果を発揮しなかった。『聖域』をただ素通りしたのだ。

 最初、シェーラとミミのスキルで確認したのだが、パーティーメンバーのスキルは通す、と言う可能性を考え、孤児院出の冒険者に頼んで確認した。その結果、やはり、素通りする事が分かった。

 その際、念のため、遠隔スキルだけでなく、直接的な物理攻撃も検証したのだが、こちらも完全に素通りした。つまり、『聖域』には、人間のスキル及び直接攻撃を防ぐ効果は無いと言う事だ。

 そのはずだったのだが、先ほど、若い騎士が放った『飛斬』がネムの展開した『聖域』を消滅させた。素通りではなく消滅だ。つまり、効果があった事に成る。だから、俺達三人は驚いた訳だ。

 なぜ、『聖域』が人間相手に効果を発揮したかは、今の段階で考える余裕は無い。取りあえず、その効果をこの戦闘に生かす。

 あの騎士の放った中途半端な威力の『飛斬』ですら一枚の『聖域』を破壊した。であれば、少なくとも3枚の『聖域』が必要と思える。ネムには、『低級MP回復薬』でびしょ濡れに成りながら、『聖域』を張り続けて貰おう。

 13人からなる攻撃は、ネムの多重『聖域』でも完全に防ぐ事は出来ない。だが、『聖域』を突破してきた分は俺が『バリアーシールド』で防ぎ、ミミやシェーラの攻撃で、敵の攻撃自体を牽制する事で『聖域』の消耗を防ぐ。

 その流れが確立できたときには、ティアの『魔女っ子ソング』も効果を発揮しており、『スピーカー』によって増幅され、ミミとネムの『精神』に大きな付与値を加えている。

 魔法系スキルの威力は、基本的に『精神』値に依存する。ミミの炎魔法は言うまでもないが、ネムの『聖域』も『魔女っ子ソング』によって大いに強化されていた。今まで三枚でやっと防げていた攻撃を、二枚で楽々防げるようになっている。

「おにょれ~! やっぱ準備しとるやん!! 全員炎耐性アイテム持ちかい!!」

 騎士達の見た目は一般冒険者の装備だが、その中には俺達のパーティー対策用の装備を身につけているらしい。ミミは、それを見越して、攻撃面積よりも攻撃力重視で『火炎旋風』ではなく『ファイヤーアロー』型の魔法を使ったのだが、それすらも効果が少なかったようだ。

「ロウ! 全周囲よろ! おどれ死にさらせ!!」

 ミミがアホな事を言いながら放ったのは、先ほどの『ファイヤーアロー』型魔法の、更に三倍ほどの大きさで、魔力密度的なものは5倍は有る『ファイヤーランス』とでも言うべきものだった。

 その『ファイヤーランス』は、魔力密度の高さ故に、見た目は『光の槍』と化している。それは、見た目どおりに、光速とまでは行かないが、先ほどまでの『ファイヤーアロー』型の三倍以上の速度で飛び、雷魔法を使っていた騎士の腹部を貫いた。

「「カドモス!!」」

 周囲の騎士達が、悲鳴を上げて腰の回復薬系のポーションに手を伸ばすが、そうはさせない。ミミの牽制がなくなった事で、『聖域』を突破してきた 『飛斬』や各種魔法攻撃を全周囲展開型の『バリアーシールド』で防ぎながら、騎士達が手にしたポーションを手裏剣で打ち砕く。

 未だに『隠密』を続けていた俺が放った手裏剣を、慌てている騎士が躱すどころか認識する事が出来るはずもなく、手にしたポーションは地面をぬらす事となる。

 俺は、『バリアーシールド』の多用のため、爆速で消耗するMPを補充するため、一度に二本ずつの『低級MP回復薬』を被っている。それでもまだ足らない。

「何をやってる!! さっさと殺せぇ────!!」

 自身は何もしないクソロムンが、また叫んだ。その声を聞いた瞬間、俺は手にしていた二本の手裏剣をクソロムンへと打っていた。反射的ではあったが、その行動に気付いた後も、それを止める事はしなかった。と言う事で、実質意図的に投じた事になる。死ねよ。

 数瞬後、クソロムンの絶叫が戦場にこだまする。今度の絶叫は悲鳴だ。

 左目を押さえてのたうち回るクソロムン。ちっ、右は外したか。

「グッジョブ!!」

 ミミが『ファイヤーランス』を放ちながら言って来た。『Good』じゃなくって『Great Job』だろ、ここは。

「殿下!!」

 一応、旗頭であるクソロムンが重傷を負った事で動揺する騎士達。そして、騎士達の連携が完全に崩れた。

 その上で、そこに突き刺さる『ファイヤーランス』と『地裂斬』。

 シェーラの『地裂斬』は、攻撃と共に発生する岩杭の帯が、消滅するまでの間、敵の攻撃を防ぐ盾にもなっている。

 ミミの『ファイヤーランス』やシェーラの『地裂斬』によってダメージを受けた騎士達は、周囲の騎士による上級と思われる回復薬によって、命だけは助かっているようだが、さすがに即戦力としての復帰は出来ない。故に、敵の戦力は徐々にでは有るが、確実に減って行く。

 クソロムン、お前はいつでも足手まといだな。爺さんの時も、こんな感じだったんじゃないのか? 貴様の行動か、言動で……。まあ、今回だけは、お前に感謝しておくよ。

 敵の攻撃の数が減れば、ネムの『聖域』が破られる事は少なくなる。そうなれば、俺が『バリアーシールド』を使う回数も減る訳だ。だから、尚更手裏剣での牽制が可能となる。狙うのは、騎士達がフタを開けて掛けようとする瞬間のポーションビン。六本は叩き落としてやった。

 そして、事態は雪崩を打って俺達に有利になって行く。

「なぜ、炎耐性が利かん!!」

「レベルは25程だと言っていたのは嘘だったのか!」

「何だ、あの二種類の防御スキルは! 聞いてないぞ!!」

「リンネン男爵がやられた!! ポーションを!!」

「ちくしょ──!! 殺せ!! 私を殺そうしたヤツらは殺せ!! 全員殺せ──!!」

 悲鳴と怒号が飛び交うヤツらと逆に、俺達はどんどんと冷静になっていく。

「シェーラ、足の5・6本はちょん切ったれ」

「一人当たりか?」

 そんな戯れ言も言えるようになっていた。

 『低級MP回復薬』で水浸しなネムですら、

「香水付けすぎなのです。鼻が曲がるのです」

 などと言えるように成っている。

「お、お前達! 何をやっている! それでも騎士か!!」

 次々と倒れていく自陣の騎士達を、叱咤(しった)するでもなく罵倒するクソロムン。そー言う、てめーが何とかしろよ。

 ミミとシェーラの攻撃で、二人の騎士が同時に倒れたタイミングだったので、俺はクソロムン目掛けて走る。彼我の距離は30㍍と無い。『素早さ』52の俺にとっては一瞬だ。

 『隠密』状態のまま接近し、『闇の双剣』で両足を膝上から切断し、右の『双魔掌』で『スパーク』も追加だ。そして、いつもの癖で、『スティール』も実行してしまう。

 両足を切断されたクソロムンは、悲鳴を上げる余裕すら無く『スパーク』で硬直したまま地面へと倒れて行く。

 そして、俺は、驚愕のために、倒れ伏すクソロムンを見ながらヤツと違う意味で硬直していた。

 失敗した。『スティール』が失敗したんだ。あり得ない。絶対にあり得ない!。

「「「「殿下!!」」」」

 周囲の騎士達の絶叫で我に返った俺は、クソロムンに集まってくる騎士の一人に『フリーズ』を掛け、今度は意図して『スティール』を実行した。……また失敗した。

 体表面を凍らせた騎士が、バランスを崩し地面へと突っ込むのを横目に、俺は頭の中を?で埋めたまま、ネムの『聖域』内へと帰る。そして『隠密』解除。

「うし! 戻ったんなら遠慮は要んないね! うりゃ!喰らえ!!」

 ミミが、俺が先ほどまでいたクソロムンの方に向かって高密度型の『ファイヤーランス』を打ち込んでいく。

「うりゃー! 光の剣じゃ~! 後半はサイコピアに名前が変わっちまったけんど~!!」

 例のごとく、意味不明な事をほざきながら『ファイヤーランス』を立て続けに放っている。

 騎士達は、クソロムンの両足をポーションで治しながら、楯や剣でミミの魔法を防いでいた。そこに、斜め横からシェーラの最大限まで伸ばした『マジックブレード』が襲いかかり、『ファイヤーランス』を剣で防ごうとしていた騎士の右腕を切り飛ばす。

 その際、防ぎきれなかった『ファイヤーランス』はクソロムンへとポーションを掛けていた騎士の右肩を貫いた。

 攻防のバランスが完全に崩れたのを見逃さず、ミミとシェーラが畳み掛ける。

「ニルバムの娘の分際で!!」

 大剣を持った騎士が、シェーラに向かって吠えた。

 ニルバムとは、シェーラの父親が騎士に叙された際に賜った名字である。つまり、シェーラの父親の事だ。

「あ、やば! ロウ! シェーラの援護!!」

 ミミに言われるまでもなく、俺は既に行動に移っていた。シェーラが切れた瞬間から、彼女のサポートに付いている。

「ネムやん! シェーラに『聖鎧』!!」

 ミミがネムに指示を出すと同時に、ティアも歌を切り替えている。『魔女っ子ソング』から『(くろがね)の城』へとだ。敵の戦力が低下したため、ネムの『聖域』は問題無いと判断したのだろう。

 『スピーカー』+『歌唱』の付与効果は、スポットでシェーラに当てられている。シェーラの肉体上のパラメーターだけで無く、防具のパラメーターも跳ね上がっている。元々高い 『力』にも大きな付与値が加わっている。

 最大限にブーストされたハイパーシェーラは、ネムの『聖域』を飛び出し、(くだん)の騎士へと突っ込んで行く。

「下賎な小娘が!! 親子共々我らに刃向かうか!! 貴様もあの世へ送ってやる!!」

 その騎士は、シェーラと同じ『大剣士』だと思われる。年齢や立場から考えて、全てのスキルはカンストしていると思うべきだろう。そして、JOBレベルはシェーラより少なくとも5は上だ。レベルが5違えば、同系のJOBなら『力』は5x3で15違う事に成る。

 防具に関しては、偽装のために冒険者用の装備に身を包んでいるが、剣に関しては元々使っている物なので性能は高いはず。

 普通に組み合えば、シェーラの勝算高くない。普通なら、な。

 咆哮を上げ、上段から振りかぶったシェーラの大剣を、その騎士は剣を横にして受ける。……終わったな。

 俺がそう思った瞬間、『爆砕断』が放たれた。クロスした剣の切っ先を起点に、爆風が騎士を襲う。さすがに騎士の剣は破壊される事はなかったため、その爆風に剣の破片が混じる事はなかったが、その爆風だけで十分だった。

 爆風に体勢を大きく崩せば、後はない。再度放たれる『爆砕断』。地面に倒れ込んだ所に三度目。更にもう一発。

 騎士のブレストプレートは完全に陥没している。多分、肋骨も大量に折れているはず。……一応、まだ息はあるようだ。頑丈だな。

 俺は、シェーラに攻撃してこようとする周囲の騎士に、牽制の手裏剣を打ちながら、その様子を見守った。

 そして、シェーラの方が終わった事を確認して、残った騎士二名に走り寄り、『スパーク』と『フリーズ』を繰り出す。今回の『双魔掌』にはMPを少し多めに込めてある。死んだら死んだで別に良い、と言う気になっているからだ。俺が気にしてやるような(やから)じゃないからな。

 そのついでに実行した『スティール』は、全て『失敗』だった。

 お、シェーラの『爆砕断』で吹き飛ばされていた別の騎士が来た。はい、『スパーク』&『スティール』。

「にゃにぃ────!!」

 9割方終息したした戦場に、ミミの変な叫び声が響き渡る。今回ばかりは、俺もミミの反応を笑えない。なぜなら、俺も同様の絶叫を心の中で叫んでいたからだ。

 ……『実』が出たんだよ。騎士から。しかも、その時の出現光は『超レア光』。その『実』は、『スキルの実』と形状は違い、ビワの実に似ている。

「にゃして、人間から実がでるん!? ロウ! 何した!!」

 新たな『ファイヤーランス』ミミ言う所の『光の剣』を、残った騎士に向かって放ちながらミミが言ってくる。よほど驚いたのか、『な』が裏返って『にゃ』に成っている。普段のわざとな言い回しではなさそうだ。

「普通にスティールしただけだぞ。ちなみに、他の奴らは失敗(・・)した」

失敗(・・)したん!?」

「ああ、失敗した」

「……成功するまで繰り返せ!!」

「了解」

 既に、まともに動ける者がいなくなった戦場で、死ぬにはほど遠いダメージの騎士に強めの『スパーク』を掛け、その後『スティール』を繰り返す。

 『低級MP回復薬』を四本使った所で、本日二回目の『超レア光』が発生する。出たのは、同じく『実』。形状は今度は栗の種のような形状だ。

 俺が一人目の騎士から『スティール』を繰り返している間に、他の騎士やクソロムンを、シェーラ達が引きずって一ヶ所に集めてくれた。

 全員が動けない程度のダメージを残し、死ぬような者には『低級回復薬』で応急処置だけやっている。一番重症だったのは、シェーラにやられた『大剣士』だ。クソロムンは、騎士達が『上級回復薬』を使ったらしく、左目も、両足も一応治っている。死ねば良かったのに。

 この騎士達については、別段死んだとしても良い。法的な意味でも、俺達の精神的な意味でも、だ。それだけの事をこいつらはやった。

 ミミは、動けない騎士達から、武器とポーション、そして『魔法の袋』を奪い取り、両手を後ろ手で縛った。その際、両手の親指どおしを縛る辺りは、さすがオタクと言う事だろう。

 俺は、そんな騎士達から、ずっと『ステール』だ。

「ミミちゃん、スティールは人間からは盗め無いと聞いていたのです。嘘だったですか?」

「うんにぁ~、嘘ちゃうよ。私らが検証した時は、間違い無く出来ひんかったんよ。失敗(・・)じゃなくって、出来ひんの。手応えなしのスカ」

「でも、出来てるです」

「……スキルレベルが上がって、人間からも盗めるように成った、っちゅ~んが、いっちゃん可能性が高いんよね。つー事で、ロウ、ネムやんにスティール!」

「ほへ?」

 ネムの頭に手を置いて、『スティール』を実行して見る。

「……駄目だ。出来ない。ミミ、お前でも試すぞ。……やっばり駄目だ」

「失敗ちゃうんね?」

「ああ、手応え無しだ」

「どゆこと?」

「俺が聞きたい」

 この『スティール』の話題に、シェーラは参加していない。周囲に転がる騎士達を強く睨み付けている。その姿は、警戒している姿ではない。まあ、仕方がないだろう。図らずも、父親の死の原因がやはり騎士団の仕業だった事が分かったばかりなのだから、平常心でいろと言う方が無理だ。しかも、その(かたき)たる騎士達が、目の前に抵抗出来ない状態でいると成れば尚更だろう。

 今、シェーラが、クソロムンを含む騎士全てを殺そうとしても、俺は止める気は無い。多分、他の三人も同じだろう。そして、それを実行したシェーラと、今までと同じように付き合う。

 前世の田中一(たなかはじめ)であれば、そこまでは考えなかったであろうが、命の価値が違うこの世界で生まれたロウは、それを良しとする。

 安楽も言っていたが、前世と今世では、やはり今世の方が影響力が強いようだ。まあ、今生きている世界なので、当然と言えば当然なのだが。

「いろいろ有るけど、ロウはとにかくスティ────ル!!」

 へいへい、分かりましたよ。

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