第29話 エレメント
『巨大スケルトン戦』から40日目、俺達はいつもどおり森での活動を終えて帰ってきた。今日は『ワイルドボア』が三匹狩れたので、ギルドへと行く前に『熊々亭』へと寄り、家政婦三人娘の教育代金として一匹を渡す。丸々一匹なので内蔵もある、と言って喜ばれた。おばちゃんには、三人娘の件以外にもいろいろお世話になっているので、まめに貢いでいる。
そして、ギルドに行ったのだが、入り口近くの一般受付窓口でロミナスさんから呼び止められた。何事か?と思って居ると、またまた、アンデッドらしい。
「アンデッドが出たよ。明日の朝一で、行ってくれないかい」
あれから一ヶ月ちょいしか経っていないだけに、さすがに驚いた。
「来た~! 森よさらば!! 炎魔法無双タ~イム!」
ミミの奇声が響き渡るが、一瞬だけこちらに目を向けるだけで、皆がスルーする。完全に見慣れた光景に成ってしまっている。
「アンデッドの種類は何ですか?」
ティアが、ミミの頬をつまみながら尋ねた。ロミナスさんは若干眉をひそめて答える。
「ゾンビさね」
ロミナスさんも、あの匂いを思い出したのかもしれない。
「で、で、場所は!? 草原!草原だよね!!」
ミミはあれほど嫌がっていた、『ゾンビ』の臭いも今は関係ないようだ。自分の炎魔法が自由に使用できるかどうかの方が大事らしい。
そんなミミの願いが届いたのか、『ゾンビ』が現れたのは、王都から東へ馬車で一日行ったところにある街の近くで、木々はまばらに生えてはいるものの、ほぼ草原といって良い所らしい。草も、土の栄養が無いためか丈の低い草ばかりで、延焼もし難と言う。
ミミの『ファイヤーストーム』や、それを複数使った変形である『火炎旋風』が存分に使えそうだ。
シェーラも、対象が『スケルトン』では無く『ゾンビ』なので、精神的には安定するはず。
俺達は、明日の打ち合わせを行い、それぞれが準備に走った。俺は『熊々亭』に再度行き、事情を説明した上で家政婦三人娘の給料を渡して、後を頼んだ。
ティアは、家政婦三人娘全員に会い、留守番を頼みに行った。一応、孤児院の職員にも説明はする。
シェーラは装備の点検と、整備をしにトマスさんの鍛冶屋に行く。一番、武具の消耗が激しいのがシェーラなので、出来る範囲でやって貰うようだ。
ミミは、多分10日程掛かると思われる『ゾンビ』討伐に必要な物資を購入に行った。食料品は、基本支給されるのだが、それ以上を望むとなると、現場の街ではまず手に入らない。だから、ある程度はこっちで買って持っていく事にした。8立方㍍の容量がある『魔法のウエストポーチ』が四つもあれば十分に入る。しかも、時間の流れが1/5なので、食料品も日持ちする。野菜類なら、10日なら保つはずだ。
草原という事は、女性陣が用を足すための衝立も必要だな。忘れないで持って行かないと。
翌日、日が昇る前にギルド前まで行き、ギルドが準備していた馬車に乗って目的地へと向かう。
この馬車に乗ったのは、俺達と、例のごとくまたギルド側の担当者となったらしいカルトさんだ。他はいない。他の冒険者は後の馬車で向かう事になっている。俺達が優先されたのは、ティアの『歌唱』による対アンデッド効果を期待されてだ。
ロミナスさん及び、副ギルドマスター以上は、ティアの『スピーカー』の事も知っているので、その辺りもあって、特別扱いとなったのだろう。ただ、この特別扱いが、俺達にとって嬉しい事なのかは別問題ではある。ミミのヤツだけは嬉々としているが……。
現時点の『スピーカー』のスキルレベルは以前のままの5。増幅率も1.8倍のままだが、相手が『スケルトン』より下位の『ゾンビ』と成れば、『浄化師』の『浄化』スキル程ではないにしろ、かなり効果は期待できる。
俺達を乗せた馬車は、ティアの『競馬ソング』や『ヒールソング』の効果もあって、昼前には目的の町まで着いていた。その町は、中規模の宿場町で、その町の三キロ程離れたところに『ゾンビ』が現れたため、かなりの混乱をきたしている。
カルトさんは、その町のギルドへと向かい、俺達は門番から現場を聞き、そちらに向かって移動する。
「草原ちゅうより、荒野じゃん」
現場へ向かって移動を開始して5分程経った所で、ミミがそんな事を言い出した。確かに、草よりも赤茶けた土の方が目立ち、2㍍と無い丈の細い木がチョロチョロとしか生えていない。もう少し草の量が少なければ、確実に『荒野』と呼ばれるようなところだ。
「イサム! イサムを探せ!!」
ミミのヤツが、また何か言っているが、他の者は全員スルーだ。ど~せ、アニメか何かのネタだろう。
門番に指示された遠方の山を目印に進むと、あの懐かしい嫌な臭いが漂ってくる。シェーラですら眉をひそめた。二回目とは言え、慣れるような臭いでは無い。
そんな臭いに文句を言いつつ、前方の小高い丘を回り込むと、その前方500㍍程のところから『ゾンビ』の絨毯が広がっているのが見て取れる。
「うげっ!!」
ミミが女の子らしくない声を上げたが、他の者の気持ちも同じだ。
「10万は超えているな……」
シェーラが言うように、見える範囲だけでも10万匹近くはいるように思える。
「うっしゃ~! 地元冒険者と合流して、般若心経無双、行くよ~!!」
ミミはそう言って、前方で戦っている20組の冒険者達のところへと向かって走り出した。
前回、前々回と違って、村では無く町なので、常駐する冒険者の数も多いようだ。俺達は、彼らに合流し、簡単な事情説明をした上で直ぐに戦線へと参加する。
「ティア! ブースト般若心経GO!!」
ミミの微妙な掛け声と共に、ティアは『スピーカー』を起動して『般若心経』を歌い出す。
そして、その効果は即座に現れた。ティアの前方にいた『ゾンビ』が一秒と掛からずに消滅して行く。その範囲は、ティアを起点にして50度程の角度で、距離は50㍍にも及んだ。そして、その50㍍以降も若干消滅速度は遅くはなるものの70㍍まで効果があった。
以前『スピーカー』の検証を行った際、『運』のパラメーターに付与される範囲としては、射程距離60㍍だったのだが、どうやら『般若心経』の場合は違うようだ。付与ではなく、唄(経文)そのものに効果があるからなのだろうか? いま、考える事じゃないな。効果が高いのであれば問題は無い。
元々の『歌唱』による効果範囲もそのまま有効で、『般若心経バリアー』も顕在だ。
一通りの検証が終わった辺りで、ミミのヤツがまだ何やら言い出す。
「不浄の泉、探しに行くべ!!」
俺達、ここに来たばっかりなんだが……。その場で、全員で話し合った結果、ミミの案を実行する事になった。まあ、要は『般若心経バリアー』が維持できてさえいれば危険は無いし、できるだけ早く『不浄の泉』を消滅させるに越した事は無い、と言う事からだ。
今回は、『スケルトン戦』の時とは違って、ティアは『スピーカー』も同時起動している関係上、MP消費が発生する。だから、『低級MP回復薬』を定期的に使用する必要が出てくる。『低級MP回復薬』の在庫自体はまだ十分にあるので、問題は無い。
俺達は、周囲の冒険者達に説明をした後、戦線最右翼からゾンビの絨毯の中へと突っ込んでいった。
前回までの『般若心経』のみの場合は、アンデッドが消滅するまでにある程度のタイムラグが存在した。だが、今回の『スピーカー』範囲に関しては、ほぼ即時に消滅に至っている。
そのため、前回の牛歩状態では無く、サクサクと移動が可能だ。なにせ、50㍍以上の『ゾンビ』が瞬時に消滅するのだから、その距離を直ぐに詰める事が出来るのだから。
ただ、移動が早すぎるため、『魔石』を拾う時間は無い。現在の『魔法のウエストポーチ』でも、『魔石』が見えなくてはどうしようも無いからな。
「魔石が────!!」
と言う訳で、ミミの絶叫が響き渡る訳だが、他のメンバーは全く気にしていない。
「帰りは、絶対拾うかんね!!」
帰りも何も、まず、『不浄の泉』を探さないとな。どこにあるか全く分かっていない状態だから、場合によっては今日中に見付けられない可能性すら有る。そこら辺は運だな。……『ラッキーソング』で効果が出るのか? いや、『般若心経』をやめた途端死ぬから、無理だけど……。
ミミは、『魔石』が拾えないストレスを、『火炎旋風』によって晴らしている。全周囲『ゾンビ』で埋まっているのだから、どこに放っても大量殲滅だ。
シェーラは、ミミの『火炎旋風』の間で生き残った『ゾンビ』に『地裂斬』を叩き込んでいる。ミミのキレ具合に苦笑しながら。
俺は、今回は『スティール』は実行せず、ティアやミミに『低級MP回復薬』をぶっ掛けるお仕事。あと、前回の『巨大スケルトン』の件があるので、イレギュラーな事が発生した際に対処できるように待機という意味もある。
そんなイレギュラー対策のために、ミミとシェーラもMPが50%を下回らないようにしている。
正直、イレギュラーの不安があるので、この作戦は、俺としては反対だった。多数決で負けてしまったし、彼女達を説得できるだけの事も言えなかったので、どうしようも無い。それどころか、ミミの意見に納得してしまった所もある。
「他のパーティーや、バカ騎士達が来れば、逆にやりにくくなるって!!」
前々回の『スケルトン戦』の事を考えれば、確かに面倒になる未来しか見えない。クソロムンなんぞが来た日には、更に最悪だ。だから、イレギュラー発生の可能性が有っても、こうやって突っ込んで来ている訳さ。
俺は、全周囲を警戒しながら進んでいく。
今回の『ゾンビ』は『スケルトン』と違って剣を投げてくる事も無いため、『般若心経バリアー』内全てが安全地帯となっている。ミミのヤツは、『火炎旋風』の合間を見て、その安全地帯をこまねずみのようにチョロチョロしながら『魔石』拾いを始めていた。いじましいヤツだ。時間があれば、俺も拾うけどさ……。
ミミによる『魔石』回収は、通常の1/10以下だ。それでも、ヤツとしては放置する事が我慢できないらしい。スタミナが切れなきゃ良いけど。
ミミの行動はともかく、移動速度が速いため、蛇行を続けて40分としない段階で『不浄の泉』を発見した。場所が、高低差の無いエリアだった事も、発見を容易にした理由だろう。
ティアは、『不浄の泉』の10㍍前に位置取って、『スピーカー』付きの『般若心経』を使用する。この位置取りは、前回の『巨大スケルトン』出現時の反省から設定した距離だ。『般若心経バリアー』が『不浄の泉』に十分に当たりつつ、もし『巨大アンデッド』のようなイレギュラーが出現した場合にも対処できる距離と言う事で設定した。
「ほんじゃ、消滅までいきまっしょい!!」
そんな、ミミの気の抜けるような宣言で作戦は実行に移される。
『スピーカー』付き『般若心経』の効果はかなりあるようで、前回と違い『不浄の泉』の明滅速度が速い。
「これなら、一時間掛からないのではないか?」
確かに、シェーラの言うとおり、前回の時の、かなり後半と同じ明滅速度な気がする。勿論、『浄化師』の爺さんによる『浄化』スキルには遙かに及ばないのだが、それでも十分に早い。
そして、30分程で、更に明滅速度が上がり、泉消滅が見えてきた段階で、それが起こった。
それまで湧き出し続けていた『ゾンビ』が突然湧き出さなくなる。そして、泉中央部から湧き出してくる巨大な頭部と思われる物体。
「来たぞ!」
「巨大ゾンビ!?」
シェーラとミミは驚きながらも、即座にその巨大な頭部に『地裂斬』と『ファイヤーストーム』を放っている。
俺はティアを下がらせようとするが、また今回も拒絶された。
「5㍍下がれ、デカいヤツ中心で、周囲のゾンビも消せれば良い! 泉には十分届く!」
俺は諦めて指示を変更する。
『巨大ゾンビ』も、『巨大スケルトン』同様に周囲の『ゾンビ』を吸収してダメージを回復する可能性が有る。『巨大ゾンビ』の周囲に一般サイズの『ゾンビ』が存在しない状況を維持しなければ成らない。
ティアも、今度は指示に従ってくれた。
ミミとシェーラの攻撃が続けられているが、『巨大ゾンビ』は少しずつ湧き上がってきて、3分程で全身が泉から出てくる。
「間に合わんかった!!」
ミミの叫び声を聞きながら、俺はティアに『低級MP回復薬』をぶっ掛けながらシェーラに指示を飛ばす。
「足止め優先で頼む!」
「ロウ! 泉が消えたら、スティールもよろ!!」
ミミのヤツは、こんな状況でも全くぶれない。……良い事かどうかは別だけどな。と言うか、『超レア』を引ける確率を考えてないだろ。それ以前に『巨大スケルトン』が何を持っているかって言う問題もあるし。何はともあれ、先ずは『不浄の泉』の消滅と、それまでの間の身の安全が最優先だ。
『巨大ゾンビ』は、シェーラの『地裂斬』によって一定周期で足を切断され、泉内に止まっている。足止めさえ出来れば問題は無い。その間に泉を消滅できるからだ。
「あっ! やっぱゾンビ吸収しちょる!!」
ミミが声を上げたとおり、ティアの『般若心経バリアー』と『スピーカー』の範囲を逃れた一般サイズの『ゾンビ』が『巨大ゾンビ』に接触し、そのまま吸収されたのが見えた。
「おにょれ~! 火炎旋風!!」
ミミがティアの『般若心経』の隙を埋めるべく、『火炎旋風』を顕現させ、周囲の一般サイズ『ゾンビ』を消滅させていく。ただ、『火炎旋風』の規模の関係上、『巨大ゾンビ』は範囲内に入れる事が出来ない。なにせ、近すぎるため、熱気で俺達までやられるからだ。
そんな努力が実ったのか、『巨大ゾンビ』の体躯は少しずつではあるが小さくなっており、6㍍程まで縮まっていた。最初の全長が10㍍だったことを考えれば、半分近くまで達した事になる。いや、体積で考えればそれ以上か?。
そして、シェーラの『地裂斬』による足止めと幾度かの『バリアーシールド』を展開する事で、『巨大ゾンビ』を釘付けにしたまま、『不浄の泉』消滅にまで至る事が出来た。
「うっしゃ~!!」
ミミの声と共に、俺も一拍ではあるが息を吐く。さて、俺も仕事をするか。
「ティア! 巨大ゾンビ中心で頼む! ミミ、シェーラ、ステールに行くから攻撃一旦停止!」
二人の攻撃が止まるのを確認して、『巨大ゾンビ』の繋がった方の足にタッチして『ステール』を実行する。俺としては、当然『一般光』が発生する物と思っていたのだが、予想外な事に発生したのは『超レア光』。前回の『巨大スケルトン』と同じ出現光だった。
そして、その出現光の中に現れたのは、『実』。
「来た────!!」
ミミの絶叫を後頭部で聞きながら、『実』を回収して、シェーラが援護に放ってくれた『地裂斬』を避けるコースで戻る。
「実!! 実を寄こせ!!」
ミミのヤツが『ファイヤーストーム』を放ちながら『スティール』した『実』を要求してきた。
「スキルの実かは、分からないぞ」
「いいから、寄こす!!」
駄目だ、完全に目が血走ってる。……まあ、今までの事を考えると、『呪いのアイテム』という事は無いだろう。そして、外観が同じで、別の物だった事も無い。
「絶対スキルの実!! 間違い無い!! よ──こ──せ──!!」
結局俺はミミに、その『実』を渡す。そして、ミミは即座にその身を口に入れた。
「うみゅ? あじ無いじゃん」
そんな事を呟きながら、ステータス画面も開いているようだ。そして、この間も『ファイヤーストーム』を放ち続けている辺りは、さすがと言う所だろう。
そして、またミミの絶叫が戦場に響き渡る。
「エレメント!! 炎魔法無双来た────!!」
「「エレメント!?」」
俺とシェーラが疑問を唱える。ティアも聞きたいようだが、『歌唱』中なので喋る事が出来ない。
「エレメント! 魔法現象を自由にコントロールできる! 炎を発生させるも消すも自由自在! 森の中でも使い放題!! 火炎旋風も単独で作れるはず!! ヒャッハ──!! うりゃぁ──!喰らえ!!」
そう言ってミミが放ったのは、『ファイヤーストーム』サイズ程の『火炎旋風』だった。今までように、複数の『ファイヤーストーム』を放った上で、それを操作する事で作り出すのでは無く、そのまま『火炎旋風』を顕現させている。
しかも、その炎は、今までの赤ではなく、透き通った青だった。つまり、炎の温度が遙かに高いという事だ。
ミミは『火炎旋風』を身につけた後も、いろいろと試行錯誤を続けていたからな。だから、『エレメント』と言うスキルを身につけた直後なのに、これだけのコントロールが可能だったのだろう。あと、今までの『魔法現象を後から操作する』と言う試みが、『エレメント』の機能とほぼ同じだった事も有ると思う。
青色の炎は、赤い炎と違って内部がある程度透けて見えた。そのため、焼かれている『巨大ゾンビ』の姿も見える。だから、その状態での『巨大ゾンビ』の動きにも対処できた。
青い炎に焼かれながらも匍匐前進してくる『巨大ゾンビ』を『バリアーシールド』で止める。それをやったのは俺だ。今回、ティアが『スピーカー』を使用する事になった事で、MP消費の問題もあり、『バリアーシールド』は俺が使う事になった。俺はMPは少ないが、この戦闘に置いては最も余裕がある立場なので、瞬間的な対処を行うのは最適だろう。
『般若心経』と『火炎旋風』で『巨大ゾンビ』の身を削りながら周囲の『ゾンビ』を殲滅して吸収を防ぎ、『地裂斬』で『巨大ゾンビ』の手足を切断する事で行動自体を阻害する。そして、突発的な動きは『バリアーシールド』で留める。
一連の流れで、確実に『巨大ゾンビ』は小さくなっている。
「4㍍切った!!」
やはり高温の炎は効果が高いようだ。体表が燃えるに従って体躯が小さくなっていく。更に『般若心経』も効果を発揮しているはずで、確実に小さくなっている。
そして、その後4分程で『巨大ゾンビ』は消滅した。
ある程度予測していた『巨大アンデッド』出現では有ったが、何とかなったようだ。ただ、この戦いが楽勝だったという事では無い。何か一つ失敗があれば、それを切っ掛けに全滅した可能性も有る。
シェーラの『地裂斬』による足止めが完全に機能していたのが大きいだろう。逆に言えば、それに失敗していたら危なかったと言う事でも有る。『バリアーシールド』でカバーできる範囲ならいいが、出来なければ終わりだ。
取りあえず、油断は禁物だな。気を緩めないようにしないと。
戦闘を完了した俺達は、一息吐いた上で戦線方面へと移動を開始する。ティアは、この間もずっと『般若心経』を歌い続けていたので、息を吐けてはいない。もう少し頑張ってもらおう。
そして、移動中、シェーラが話しかけてきた。
「二回続けば、偶然とは言えないな」
『巨大アンデッド』の出現の事だ。俺もその事は重大な問題だと考えている。だから、自然表情が硬くなってしまう。
「ま~完全に、今後も毎回巨大アンデッドが出る事に成ったちゅ~事か、ティアの般若心経に反応して現れるようになった、ちゅ~可能性もあるんよね。あ、勿論、今回もたまたまっちゅ~可能性もあっけどさ」
ミミのヤツは、相変わらずお気楽に言って来る。ティアは、自分のスキルが原因かも、と言われ、困り顔だ。
「ちゅ~か! 次も是非出て欲しい!! スキルの実! 最低一人一個!!」
……今回もまた『超レア』が出た訳だが、確率論で言えば、無い、とは言えないのだが、限りなくゼロに近い確率のはずだ。それが二回連続で出た。と言う事は、確率の前提自体が間違っている可能性が有る。
「もし、今回も偶然ではないとしたら、巨大アンデッドは超レア品しか持っていないって可能性も有るな」
「……その可能性も有るか」
シェーラも、俺の考えを否定はしないようだ。
「ま、二度ある事は三度あるっちゅうことで! 次やって、次も実だったら、間違いないっちゅう事で!!」
今までだったら、ティアあたりが『フラグ会話禁止!』と言うところだが、アンデッドの出現も含め、誰も『次』の存在を否定できない。
何はともあれ、あとは『次』を待つより仕方がない訳だ。無いに越した事がない『次』なのだが。……ミミは除く。
短期間でのアンデッド出現、巨大なアンデッドの出現、共に異常だ。完全な異常事態だと言える。原因も不明なまま。さてはて、この先どう成る事やら……。
その後、俺達は今までと同じように、最終日まで討伐に参加した。今回の討伐は、ティアの『スピーカー』とミミの『エレメント』のおかげもあり、『不浄の泉』消滅から五日で終える事が出来た。
ミミは『エレメント』をほぼ自分のものとしており、かなり自由に炎魔法を操作していた。
この『エレメント』は、新たな魔法として使用するのではなく、既存の魔法である『ファイヤーボール』『ファイヤーアロー』『ファイヤーストーム』を操作して変化させる事で実行される。そのため、最大威力最大範囲である『ファイヤーストーム』を利用する事が多く、他のスキルはほとんど使用しない。
また、このスキルは、既存のスキルの最大射程と最大威力の範囲内でしか変化できない事も分かっており、それ程万能とは言えない。ただ、空気を取り込むなどと言った工夫によって、威力を二次的に上げる事は可能だ。その結果が『青い炎の火炎旋風』である。
今回の『巨大ゾンビ』だが、ドロップした『魔石』からすると、レベルは25だったようだ。そのため、残念ながらJOBレベルは上がっていない。その代わり、『スティール』『スピーカー』『ファイヤーストーム』のスキルレベルが1ずつあがっている。『地裂斬』は多用したのだが、スキルレベル19から20に上がる必要経験値が多いようで、上がってはくれなかった。
ティアに関しては、『歌唱』スキルに、新たに手に入れた『スピーカー』スキルのスキルレベルが追いつきそうだ。多分、早々遅くない時期に追い越すだろう。
あと、今回は騎士団達は来なかった。準備をしていた時に、俺達による『不浄の泉』消滅の知らせが届いたらしく、その場で派遣を中止したらしい。『ゾンビ』は万単位で残っていたんだが、それは無視って事だ。
そして、今回は『浄化師』の爺さんも来なかった。本人の意思はともかく、基本騎士団と行動を共にする関係上、来られなかったのだろう。
一応念のためだが、クソロムンも来ていない。これに関しては朗報である。って言うか、今後も来んな!。顔も見たくない!!。




