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第27話 大スケ

 家の問題が落ち着いた事から、まだ行っていない方面へ『転生者捜し』に出かける事になった。今回は王都から見て北側だ。

 この転生者については、冒険者ギルドによって簡単な調査は行われている。とは言え、かなり大雑把なもので、どこの街におおよそどれ位居るか、と言う程度で、正確な人数すら出てはいない。個人的には、ここまで調査したなら、まともなリストを作れよ!と思うんだが……。ギルドとしては、そこまでの必要性を感じなかったのだろう。もしかすると、第三クソ王子が転生者の技術者を集め出したので、それに伴って控えたのかもしれない。

 ただ、この調査によって、転生者が、王都を中心とした一定距離にしか表れていない事が分かっている。なんとなく、作為的な気はするが、今更だ。なんせ、この世界の(ことわり)自体がゲームシステムに近似しているのだから。

 俺達は、そのギルドによる調査で分かっている、転生者の現れたエリアの一番外側の街までの片道依頼を受けて、その街へと向かった。

 その依頼は、一般的な商人の護衛依頼で、特に問題も無く依頼を終えた。道中に、モンスターは現れたものの、多少高いレベルでも、レベル15の『泡蟹』ぐらいのもので、相も変わらずミミの『ファイヤーアロー』攻撃だけで事足りた。

 この『泡蟹』は、強酸性の泡を飛ばす、体長1.5㍍程のカニで、外観は沢ガニに似ている。はさみや足は食べられるため、商人の許可を取って確保し、その晩のおかずにした。無論、護衛対象の商人達にも振る舞ったのは言うまでもない。そこら辺は礼儀だからな。

 街へ着いて、依頼の完了手続きを終えた後は、いつもどおりギルドで転生者情報をもらい、話を聞きに行く。

 二日間掛けたのだが、残念ながらティア最後の探し人である安楽は居なかった。それでも、この街では8名の転生者と接触でき、その中には一人ではあるが笹山北高生もいた。俺達とクラスは別だったが、サッカー部の有名人だったので、俺も知っていた。

 その後、そのまま近くにある三つの村を廻り、更に三人の転生者を見付けたが、やはり安楽は居ない。

「ま、帰り道沿いの村や街もあるって! 焦らず探せば良いっしょ!」

 しょげるティアをミミが励ます。

 全てのエリアを廻った訳では無いが、今回の探索で2/3近い街を回り終える事になる。そのため、ティアは若干焦っていた。だが、ミミの言うとおり焦っても仕方がない。とにかく探す以外にはないのだから。

 気落ち気味のティアを全員で励ましながら、帰り沿いに有る村へと向かうのだが、ここで、ミミのやつが一つの提案をした。

「こっからだと、ぐる~っと回り込んで行かないと駄目だから、まっすぐに行くべ!!」

 ミミが指し示すのは、南側にある小高い山だ。ここからの道は、その山などを、かなり大きく回り込む形になっており、確かに時間的に考えれば無駄だとは言える。

「モンスターも狩れて、近道! 行かんでどうする!!」

 俺がシェーラに目で問うと、彼女は肩をすくめた上で答える。

「モンスター分布的には問題ない。だが、言っておくが、ミミ、越える山は目の前に見える山だけではないぞ」

 確か俺の記憶では、目前の山以外にも三つはあったはず。ただ、目前の山も含めて、全て低い山ばかりではあるが。

「えっ! し、知っとった!」

 はい、嘘。思いっきり『えっ』って言ってるし、どもってるからな。そんなミミに苦笑しながらも、俺達は前方の山へと向かう。その山は、村の位置から見ると200㍍もない高さで、険しくもない山だった。

 モンスターという存在が居なければ、軽いトレッキングにすら成らないような山だ。だから、1時間と掛からず山頂まで着いた。出現したモンスターも、レベル18の『ブラックマンティス』と言う体長1メートル程のカマキリが多少強い位で、他はサクサクと狩れる。

 草原と違って森は視界が悪いのだが、『気配察知』が有れば、逆に高速で接近される事がない分安全でもある。この時点での『気配察知』のスキルレベルは19。今回の依頼中に1上がった。そして、スキルレベル19における察知範囲はついに100㍍に達している。森という環境で、半径100㍍が認識できれば、よほど強いモンスターで無い限り問題なく対処できる。対処できるだけの仲間も居るしな。

 山の山頂部に立った時、ミミのやつが前方に見える山々を見て「うげっ!」と言っていたが、無視だ。

 そして、その山を下り、林や川を越えて次の山へと登る。今度の山と更に次の山は更に低く、先ほどの山を下りきった所からは100㍍程の高さしかない。この二つの山は、実際は東側にある山の一部で、俺達の位置から2キロ程の所で合流している。

 二つ目の山を下り、その山と、三つ目の山が形作る谷間へ居りようとしていた時、ティアの声が谷間に響く。

「スケルトン!!」

 こういう時に、ティアは絶対に嘘を言わない事を全員が解っているので、無駄に『嘘だろう?』とか『またまた~』などと言ったりはしない。

 全員がティアが指す方向を見る。だが、残念ながら俺達の目では『スケルトン』を捕らえる事が出来なかった。ティアの目はやはり特別製のようだ。

 俺が必死に目をこらす中、ミミのやつが『魔法のウエストポーチ』から何かを出した。それは、以前『黒死鳥戦』の際カチアさんが使っていたオペラグラスと同じ物だった。いつの間にか買っていたようだ。

 そのオペラグラスは、前世のものとほぼ同じ構造のようで、ミミはパチンと開いてティアの指さす方向へそれを向ける。

「…………おった──! スケ公発見! その数……木が邪魔で見えん!! だけんど、そんな数は居らん!」

 ミミからオペラグラスを受け取ったシェーラも、見える範囲を全て見回した上で、

「あそこが先端部だろう。どうする?」

 と聞いて来た。

 ティアの方を見ると、彼女も頷いて返す。俺も頷く。

「うっし! 取りあえず、泉の位置だけでも確認すんよ。1.5キロを上限にね! そこで発見でけへんかったら、戦略的撤退!!」

「両サイドが山で、幅が狭い谷間だ、奥へ行けば行く程狭くなる。『不浄の泉』がこの谷間内にあるなら、まだ出現して間もない可能性が高い」

 先ほど言ったように、この二つの山と言うか峰が合流しているのは2キロ程先だ。だが、それは峰の頂上部分であり、谷間の合流地点はそれより近い。つまり、1.5キロ程しかないと言う事だ。

 そして、谷間に『不浄の泉』が発生した場合、平地と違って、通りやすい方向、つまり谷の出口側に大半の『スケルトン』は向かうはず。その上で、俺達がいる地点より1キロ程の地点までしか『スケルトン』が来ていないという事は、それだけ『スケルトン』が少ないという事でだ。そして、それは、泉の発生後間もないと言う事でも有る。まあ、あくまでも、谷間内に泉がある場合のことだが。

「うんみゅ~、木が多いから魔法が使えん! 出てくるなら、原っぱに出てこいや~!!」

 身勝手な事を言うミミはともかく、それぞれが準備を整えながら一気に谷底まで駆け下りた。

 谷底に着くと、谷の奥、つまり『スケルトン』がいる方向から逃げてくる他のモンスターの対処をしつつ、進んでいく。

「あれから、まだ一ヶ月程度だろ、早すぎないか?」

 俺は、疑問に思っていた事を、皆に問いかけた。

「あんね、前回の時、カルトのおっさんに聞いたんよ。そしたらさ、前回のスケ公も、少し早い気がしますね、何て言っとったんよ。つ~事で、今回のこれ、確実に早いと思うんよ。ま、たまたまっちゅう可能性も有っけどさ。……ティア、山田君の…」

「唄ってないよ!!」

 不運ソングで『不浄の泉』が発生するかどうかは分からないが、やはり、異常と思った方が良さそうだ。

「魔王とか、出現しちょらんだろ~な~」

「ミミちゃん! フラグ会話禁止!!」

「まおう?」

 シェーラは『魔王』を知らない。と言うか、この世界には『魔王』と言う存在は居ない。その概念すらない。

「ティア、シューベルトの、魔王…」

「唄って無いって! ドイツ語版も、日本語版も!」

「でも、唄えるんだ」

「……唄えるけど」

 ミミとティアの会話を聞いていたシェーラが、困惑顔で俺を見てくる。

「スルーしとけ、スルー」

 いつものように聞き流させる。

 しかし、シューベルトの『魔王』か。クラシック音楽に歌詞があると初めて知った曲だったな。そして、クラシックを聴いて、初めて爆笑した曲でもある。あ、勿論日本語版、ね。

 いつもの通りの会話で、リラックスしながら進んで行くと、500㍍程進んだ辺りから他のモンスターが出てこなくなった。

 一匹目の『スケルトン』と遭遇したのは、800㍍地点。

「ティア!」

「うん!」

 まだ早いのだが、念のために『般若心経』を唄わせる。

「ロウ! MP回復薬も!!」

 俺にもミミから注文が入った。

 その後は、以前の『スケルトン戦』と同じだ。少しずつ密度を増していく『スケルトン』を、ティアの『般若心経バリアー』で防ぎつつ前進。その間、俺は『スティール』三昧。シェーラは左右の『スケルトン』の数を減らすべく『地裂斬』を中心に剣を振るう。

 そして、ミミは……

「うひょひょ~! 楽ちん! 楽ちん!!」

 などとほざきながら、魔石を『魔法のウエストポーチ』に吸い込んでいる。『スモールテール』産の『袋』の『手を触れていなくても、一定範囲内であれば、対象を認識する事で収納できる』と言う機能を使って、立ったままでの回収作業だ。

「谷間にあるなら、もう500㍍は切ったはずだ。山の斜面に有ったとしても1キロ無い」

 シェーラが『ブラッデッドソード』でMP吸収作業中に、そう言ってくる。

 谷の両サイドまでの距離も、既に50㍍程まで縮まっている。谷の終わりが近い証だ。

 そして、更に進む事200㍍。ついに、『不浄の泉』が見えた。それは、そこから50㍍程先に有り、周囲と比べると不自然に木々が存在しない空間になっている。

「あった~! つーか、本当に出たばっかじゃん! 一時間経ってないんでないかい?」

 その漆黒の泉からは、続々と『スケルトン』が湧き出してきている。その湧き出している量は、今まで見てきた二ヶ所の『不浄の泉』より圧倒的に多い。5倍は確実にあるな。

「ティア! せっかくここまで来たんだから、二時間ライブ行ってみよ~か!!」

 ミミややつがそんな事を言い出す。慌ててティアを見ると、彼女は微笑みながら頷いていた。まあ、唄いだしてから、ここまで30分と経ってない。大丈夫か。前世でも、二時間程度コンサートは普通だったし。

 ティアは『般若心経』を唄ったまま、『不浄の泉』直前まで移動した。

 『浄化師』の爺さんの時とは違い、泉から湧き出してくる『スケルトン』は完全には止まらない。だが、全身が現れた時点で、近くの者は消滅し、遠い者もスローモーションで近づいた上で停止して消滅していく。

 この間、シェーラは後方から近づいてくる『スケルトン』を対処していた。この場に来るまでの間に、出来るだけ数を削っていた事もあって、それ程の数は居ないな。

 そして、泉に到着して40分程で、泉から湧き出してくる『スケルトン』以外は存在しなくなった。

「うっしゃ~! 第一段階終了! ティア! 後は泉を消滅させれば、目出度く完全終了だかんね! もちっと頑張るんよ! ちゅう事で私は魔石回収~♪」

 ミミは、シェーラが『地裂斬』で消滅させた跡に、『魔石』の回収に向かう。

「なっ! 何んじゃこりは~!!」

 ミミの絶叫が谷間に響き渡る。俺は、ミミの方を向かずに泉の方を警戒したままだが、ミミの絶叫の理由は分かっている。

「地面が────!! 魔石が────!!」

 シェーラが『地裂斬』の練習に使用した王都外門側と同じ事だ。縦横無尽に走る斬撃による地面の亀裂があるのだから、そこにドロップした『魔石』が落ちないはずがない。そして、落ちてしまって見えない『魔石』は、『認識できない』訳で、新たな『魔法のウエストポーチ』でも収容する事は出来ない。

「シェーラ────!!」

 いや、シェーラに文句言っても、ね。ほら、シェーラも困っている。

 そんなアホな事もありつつも、『般若心経』は少しずつではあるが効果を上げ、『不浄の泉』の明滅速度は確実に上がってきている。

 そして、予定時間の二時間を30分程オーバーした頃、『浄化師』の爺さんが『浄化』した際の消滅寸前と同じ明滅速度になった。

「うっしゃ~! ティア! もうちょい!!」

 ミミがそう言った瞬間、それがフラグだったかのように、高速で明滅する泉から、今までとは桁違いの大きさの頭蓋骨が湧き出してきた。

「ミミ! ロウ!」

 いち早く気付いたシェーラが注意を呼びかけてくる。

 その巨大な頭蓋骨が湧き出してきたのは、泉の中央部分だったため、ミミが即座に『ファイヤーストーム』を放つ。だが、その巨大な頭蓋骨は、『ファイヤーストーム』に焼かれながらも、ゆっくりと湧き出してくる。

 シェーラも『地裂斬』を連発するが、砕けた骨は一秒と掛からず繋がってしまう。俺は、ミミに『低級MP回復薬』をぶっ掛けるしかやれる事はない。

「やば! あの巨大スケ公、他のスケ公を使って自分の身体修復しちょる!!」

 ミミに言われて、俺もそれに気がついた。ミミの『ファイヤーストーム』によって焼かれ、崩れた部分に周囲に湧き出した通常サイズの『スケルトン』がバラバラになった上で張り付き、修復されていく。

「すまん! 私の攻撃ではダメージを与えられていないようだ!」

 シェーラの攻撃は、確実に『巨大スケルトン』を切り裂くのだが、それは一瞬であり、直ぐに修復されてしまう。ミミの『ファイーストーム』のように、他のスケルトンを修復材として使ってすらいない。そのまま、ただ繋がるだけだ。

 多分、その修復にも、ある程度はMPを消費しているはず。それで考えれば、全くダメージが入っていないと言う訳ではない。だが、MPの自然回復と言うやつは、当然モンスターにもあるはずなので、実質的にはあまり効果が無い事に成る。

 そしてついに、その『巨大スケルトン』の上半身が泉から出た。その姿は、通常の『スケルトン』と全く同じだ。タイプは両手剣持ち。そんな『巨大スケルトン』が、ついに動き出す。

「「下がれ!」」

 俺とシェーラの声がハモる。『巨大スケルトン』の下半身はまだ泉の中なので、移動は出来ないのだが、比率的に考えて全長8㍍になると思われるヤツの大剣の攻撃範囲は広い。泉の縁に居るティアにも十分に届く。

 俺達の声で一足飛びに下がったティアだったが、5㍍程しか下がっていない。

「ティア! もっと下がれ!!」

 俺が叫ぶがティアは下がらず、泉の方を指さした。『歌唱』スキルの効果範囲を気にしているようだ。

 あ~畜生! そう心の中で叫ぶと、俺は向かって左側の泉の縁へ沿って走り出す。

「ロウ!!」

「俺がこっちで囮になる! その間に泉だけでも!!」

「無理すんな! ヤバかったら泉も放って逃げっかんね!!」

「了解!」

 俺の行動に驚いたミミに、説明しながら、囮として『巨大スケルトン』を引きつける。この囮役は『素早さ』補正値が少ないシェーラには出来ない。出来るのは、このパーティーでは俺だけだ。

 俺は、振るわれる巨大な剣のギリギリの間合いに位置取り、攻撃を引きつける。そして、その上で少しずつ左側、つまりティア達の居る反対側へと誘導していく。

 俺の目は、『巨大スケルトン』によって振るわれる剣と、明滅する泉の間を忙しく往復していた。まだか? まだなのか!?。

 『巨大スケルトン』の身体は、既にくるぶし部分まで泉から出ていた。完全に出てしまえば、移動が可能となってしまう。

 ミミとシェーラも攻撃を続けてはいるが、相も変わらず湧き続けている一般サイズの『スケルトン』を吸収する事で、修復され状況に変化はない。ティアも、これ以上無いと言う位に心を込め『般若心経』を唄い続けている。

 チッ! 間に合わないか! 完全に出てしまったら、谷の奥側に誘導して泉から離すしかないか。俺がそう思って覚悟を決めた時、周囲に青い光の粒子をまき散らしながら、ついに『不浄の泉』が消滅した。

「うっしゃ~!!」

 右手側から、ミミのそんな声が聞こえてきた。

 そして、俺の目前には、『不浄の泉』が消滅した事によって、その場に元々有った木々が一瞬にして現れている。そして、その木の枝をへし折る音が響いていた。

 『巨大スケルトン』は、ギリギリくるぶしが泉から出切る前だったようで、その下が存在しない状態だったが、泉消滅の瞬間まで湧き続けていた一般サイズの『スケルトン』を吸収する事で、直ぐに完全体となっていた。

 その時点では、『巨大スケルトン』の修復のため、一般サイズの『スケルトン』は5匹しか残っていない。これを幸いと言うかどうかは微妙な所だろう。まあ、今後の修復材料が少ないと考えれば良材か。

 『不浄の泉』が消滅し、元の木々が出現したために、ミミの『ファイヤーストーム』が使えなくなった。シェーラの攻撃が事実上効果が無い以上、この場では俺達に『巨大スケルトン』を消滅させる手段がなくなった事になる。

「下がるぞ! 俺が囮になって時間を稼ぐ! その間にミミの魔法が使える場所を作ってくれ!」

「ロウ!」

 ティアの声が聞こえてくるが、今はそれに応えている余裕は無い。

「5分だ! 5分で作ってみせる!」

 振り下ろされる『巨大スケルトン』の剣を右に躱しながら、シェーラの声を聞いていた。

「無茶すんな! バカ────!!」

 ミミの声はキーが一つ高いので、よく通る。でもさ、無茶せんと、全員死ぬだろうが、バーカ!。

 そんな事を考えながら、近寄って来た一般サイズの『スケルトン』を『闇の双剣』で切って消滅させる。雑魚の残りは4匹。あ、『巨大スケルトン』が横薙ぎした巨大な剣によって、二匹の一般サイズの『スケルトン』が消滅した。サンキュー。残り一匹だ。

 俺は、円を描くようにして逃げながら時間を稼ぐ。一直線に逃げると、シェーラ達が作ってくれる戦闘可能エリアから離れすぎるからな。

 とにかく回避だ。振るわれる巨大な剣を躱し、その剣によって切り倒される木々も避ける。そして、タイミングを見計らって、最後の一匹の一般サイズの『スケルトン』を切って消滅させた。これで、この『巨大スケルトン』が修復する事はないはず。

 一般サイズの『スケルトン』がいなくなった事で、俺の行動はだいぶ楽になった。更に、『巨大スケルトン』によって周囲の木々が切り倒されて、ある程度の広い範囲が生まれた事もそれを助けている。……このまま、ここで逃げ回っていれば、『巨大スケルトン』が自分で木々が無い広場を作ってくれたかもしれないな。いや、倒れた木はそのまま残っているから、周囲への延焼は防止できないか。あと、左右の山の位置も近か過ぎる。やっぱりこの場ではミミの炎魔法は使えないな。

 シェーラはあの時5分と言ったが、『強力(ごうりき)』と『加重』のコンボでも、延焼を防げる範囲の木々を切り倒すのは容易ではないはず。しかも、外周の木々は周囲に延焼しないように移動させる必要もある。10分だな。10分引き付けて見せる!。

 俺は、ただ躱すだけでなく、手の届く足回りを『闇の双剣』で攻撃も行っていた。『斬』値が異常に高い『闇の双剣』ではあるが、俺の剣の腕前自体が低い事と、『力』の値も低い事から切断までは至っていない。

 それでも、5回目の攻撃で、左足の二本ある骨を同時に切断する事が出来た。いわゆる『クリティカルヒット』と言うヤツだ。この『クリティカルヒット』は、別段特別な力が加わったと言う事ではなく、本来であれば可能であるが、何らかの理由でその効果が発揮されていなかったものが一時的に発揮されたにすぎない。今回の場合は、未熟な剣技の分が偶然上手くいった、と言う事だ。剣、そして、身体能力共に、本来はそれだけのポテンシャルがあったと言う事に成る。

 左足を膝下から切断された『巨大スケルトン』は、左前方に向かって倒れ込んで行く。俺は、即座に倒れた背骨の上を走り、頭部へと行き、『闇の双剣』二本を頭蓋骨へと突き刺した。

 通常、『ゾンビ』や『スケルトン』のような実体を持つアンデッドは、頭部を破壊されると消滅する。だが……やっぱり無理か。ミミが再三、頭部へと 「ファイヤーストーム』を放っていたが消滅には至らなかった。シェーラの『地裂斬』でもだ。それでも深くさせば、と思ったのだが、残念ながら無理だった。

 『巨大スケルトン』の足は、10秒と経たず修復され、立ち上がる。

 俺は、高度を増す頭蓋骨から飛び降りる際、行きがけの駄賃とばかりに『スティール』を発動した。そして、その瞬間『バリアーシールド』出現時と同じ光量の『ステール光』が発生する。

「なっ!!」

 思わず声が漏れてしまう。それ程の驚きだった。

 そして、その光の中に現れた小さな物体を、飛び降りながら『魔法のウエストポーチ』の機能を使って吸い込む。

 驚きもあるが、取りあえずはそれは後回しだ。バク宙を切って降り立つと、即座に回避行動に移る。回避、回避、回避、攻撃、そしてまた回避。延々と続けられる攻防も、当然限界がある。俺の弱点である『スタミナ』によってだ。

 俺の現在の『スタミナ』補正値は8。一般人からすれば十分に高い値だろう。だが、全力で回避を繰り返すような戦闘では、全くもって足らない。

 10分持たせるつもりだったが、8分持ちそうにない。逃げる際のスタミナを考えれば、あと一分が限界だ。

 そう考えていた時、目の端に見えていた空に、複数の『ファイヤーストーム』が現れたのが見えた。ミミからの合図だ!。

 俺は走り出す。谷を出口側に向かって。脱兎とばかりに走る俺を、当然ながら『巨大スケルトン』は追ってくる。

 全長8㍍程の『巨大スケルトン』は、谷間に生える木々よりもかなり高い。それに故に、木々をなぎ倒して歩くイメージがあった。多分、アニメや特撮の怪獣のイメージから来たものだろう。だが、『巨大スケルトン』にはそれ程の破壊力は無かったようだ。木々をなぎ倒す事無く、木々の間を枝をへし折りながら抜けてくる。

 そのため、当初想定していたような移動速度はない。十分に余裕を持って逃げられそうだ。こんな事なら、一ヶ所にとどまらずに、森の中を逃げ回るんだった、と後悔するが後の祭りってヤツだ。

 後方から枝のへし折れる音を聞きながら、走る事5分程。前方に大きく開けた場所が現れた。見ると、その外周部以外は真っ黒に焦げた灰が溜まっている。多分、シェーラが切り倒した木を、ミミが炎魔法で燃やしたのだろう。

 地面はまだ熱を持っており、所々熾火(おきび)のように燃え残った場所もある。広さは直径40メートル程。

 どうやら、この範囲内全ての木々を切り倒すのではなく、周囲の木々だけを切り、それ以外の立ち木をミミが炎魔法で燃やすことで対処したようだ。

 俺は、そんな熾火(おきび)の残る広場の中央を駆け抜け、向こう側にいたティア達と合流する。

「ケガ無い!?」

 両手に『低級回復薬』を持ったティアが問いかけてきた。若干泣きそうな顔だ。

「無傷だよ。来るぞ! 雑魚スケルトンは始末した! あいつ一体だけだ! あと、ヤツは木をなぎ倒す力は無い! 逃げるだけなら簡単だ!」

「O~K、O~K。ほい来たよん。出来れば、ここで始末すっからね! でも、無理っぽかったら、全力で逃げる!!」

「オウ!」

「うん!」

「了解」

 俺より大分遅れて広場に到着した『巨大スケルトン』が、中央部へ達した時、その前方に直径5メートル程の光の楯が出現し、『巨大スケルトン』の行く足を止める。ティアが使用した『バリアーシールド』だ。

「ロウは、ティアにMPポーションぶっ掛け役!」

 ミミは、そう指示を出しながら『ファイヤーストーム』を放ち続けている。

 シェーラも、ダメージ目的ではなく、足を切り裂く事で行動不能にする為に『地裂斬』を一定周期で放っていた。どうやら、俺がこの場に来るまでに、ある程度作戦を練っていたようだ。

 ティアは、這いずって移動しようとする『巨大スケルトン』を『バリアーシールド』を顕現させて留めている。俺は、そんなティアに『低級MP回復薬』をかけ続ける。なにせ、『バリアーシールド』は燃費が悪いからな。

 ちなみに、ポーション類は、飲む以外にも身体にかける事でも効果がある。だが、飲んだ場合と比べると8割程度の効果にしか成らない。それでも、ジュースなどと同様に、物理的に飲める量の限界がある事もあって、連続使用する場合は身体に掛ける事になる。今回の場合は、それ以外にも、一瞬の油断が命取りになる可能性が高いため、飲む動作によってその隙が生じないようにする理由も大きい。

 ミミの場合は、ティアと違って自分で飲んだり被ったりする余裕があるので、自分でやっている。シェーラも同様だが、両手剣という特性上、ポーションが使いにくいため、時々ミミが掛けてやっている。

 『低級MP回復薬』に付いては、前回の『スケルトン戦』で大量に確保してあるため、全く問題ない。通常の森での活動などでは、ほぼ使わないからな。ミミも俺と同じで、RPGなどで『完全回復薬』的なアイテムは、大事に取っておき、結局エンディング後未使用で残るタイプのようだ。まあ、今回のように、本当に必要な場合は躊躇(ちゅうちょ)無く使うけどな。

 ティアの『バリアーシールド』によって顕現された光の楯によって、広場中央に釘付けにされた『巨大スケルトン』は、徐々にその体表を焼かれ失う事で、体躯を小さくしていった。

「おりょ? 小さくなってね? こりは、効いてるって事っよ!!」

「ティア! 般若心経を唄う余裕はあるか?」

「えっ? うん、大丈夫だけど、どうして?」

「あれでもアンデッドだ。般若心経は少なからず効いてるはず。ただ、あくまでもメインは楯、な。歌が無理ならやめて良い」

「分かった。……魔女っ子ソングの方が良くない?」

「……そっちもあるか。まず、般若心経で試してみて、効果しだいで魔女っ子ソングに切り替えよう」

「うん、分かった!」

 ティアが俺の指示どおり『般若心経』を唄い出すと、その効果はハッキリ現れた。

「動きが鈍くなったぞ!」

 シェーラの言うとおり、見て分かるレベルで動きが遅くなっている。さすがに一般サイズの『スケルトン』のように止まったり、スローモーションに成る事はないが、突発的な動きに『バリアーシールド』で対処するのは大分楽になりそうだ。

「うみゅ~? ちょびっとだけんど、燃え方も良くなっちょるかも?」

 ミミの方は疑問形レベルのようだ。

「よし、これで行くぞ!」

 俺はそう言って、更にMP消耗が増したティアへと『低級MP回復薬』を掛け続ける。

 そして、段々と体躯が小さくなって行く『巨大スケルトン』が『巨大』と言う言葉が適当ではない2㍍サイズに縮み、それに止めを刺したのはシェーラの『地裂斬』だった。今まで、ただ骨を壊すだけだった『地裂斬』だったが、その身体を真っ二つにした瞬間、『元巨大スケルトン』は塵と消え、俺達の身体にレベルアップの感覚が満ちた。

「終わった────!!」

 ミミのヤツは、相も変わらずの奇声を上げているが、他の面々はそこまでの元気はない。俺は、大きく深呼吸をして、息を整えた。ティアはその場に座り込んでいる。どうやら、精神的に疲れだようだ。

 『スタミナ』と『力』特化のシェーラでも、肩で息をしている。彼女の場合は、その前の広場作りにも奔走した分、疲れているのは当然か。お疲れさん。

 そんなぐったりモードの広場に、再度ミミの絶叫がこだまする。

「しまった────!! スティール! スティールするんを忘れてた────!!」

 頭を抱え悔しがるミミに、俺はソレを投げて渡す。

「アベシ!」

 ソレを顔面で受けたミミは、変な声をげている。

「あにすんのよ──!!」

 そう言ってミミは、俺が投げて地面に落ちていたソレを、俺に投げ返した。ソレをキャッチした俺は、そのまま投げ返す。

「おにょれ~! よし! その勝負受けて立っちゃる!!」

 と言う訳で、繰り返されるキャッチボール。

「何をやってるんだ?」

 さすがにあきれ顔でシェーラが言ってくる。ティアは、なぜかニコニコと嬉しそうだ。

「いや、あの巨大スケルトンからステールした品を、ミミに渡そうとしてるんだが、ミミが受けと…」

「あんだって────!! なして、それを先に言わ…アベシ! 投げんな──!! ってか、これ、木の実!?」

 それは、イチジク程の大きさがあるどんぐりのような木の実だった。

「ロウ、その木の実は一般品か?」

 そう聞いてきたシェーラ以外も、そうだったとばかりに俺の方を向く。ミミに至っては、ガバッと言う効果音が似合う程の振り向き具合だ。首傷めるぞ。

 そんな中、

「超レア」

 と答えると、当然、ミミの絶叫リターンだ。

「マジか────!!」

「えっと、木の実って事は、あれかな、素早さとか力とかが上がる木の実」

 ティアはミミの絶叫など無視して、そう言ってくる。ティアの言うのはあれだな、食べれば特定のパラメーターの値が上がるヤツ。あのゲームでは上昇するパラメーターの値は最低+1のランダムだった。

 この『実』が、同じようなものだとしたら、+1と言う事は無いだろう。なんと言っても『超レア』なのだから。+5や+10でもおかしくないはず。……で、あって欲しい。

「ティアの言う、あれ、と言うのはいつものごとく分からんが、どちらにせよロミナスさんに確認して貰う意外ないだろう。この泉の発生、そして、巨大スケルトンの件も報告する必要もある」

 さすがは、我がパーティー唯一の常識人シェーラ。……ティア? 彼女は若干ずれてるからな。常識人ではない。勿論、俺も、だ。ミミに至っては論外なのは言うまでもない。

「ロウ!」

 ミミが勢い込んで言って来る。まあ、次に言う事は分かってるけどな。

「次…」

「ミミちゃん! 不吉な事言うの禁止!」

 ティアに止められてやんの。

 かなり本気なティアに気圧され、

「うっ、でも……」

 と、口ごもるミミ。

「今回は、泉消滅寸前で、他のスケルトンもほとんどいない状態だったら良かったけど、あれが数万匹のスケルトンがいる状態で出てきていたら、延々修復されて勝てなかったと思うぞ」

 俺も一応釘を刺しておいた。

「ぐぬぬぬぬぬ……、広い場所さえあれば……。火炎旋風で周囲の小スケ共々……」

 確かに、ミミの火力があれば可能ではある。広い場所があれば、な。

「ところでロウ、巨大スケルトンと言う存在を聞いた事があるか?」

 このパーティーにおいて、俺に次いでその手の情報に詳しいシェーラも、やはり知らなかったようだ。事『スケルトン』に関しては、父親の死因と言う事もあって、俺より詳しいはず。

「アンデッド関係は、王都全ギルドの図書館を廻って読んだし、カルトさんからもいろいろ聞いたけど、完全に初耳だよ」

「やはりか……」

 シェーラは深刻な顔で呟く。

「ま、そこら辺、底辺の私らが悩む問題ちゃうから。お偉いさんに丸投げ、丸投げ」

 確かに、4級冒険者成り立て風情が悩む必要のある事では無いか。ただ、ティアの『般若心経』の事もあって、また『不浄の泉』が発生すれば間違いなく俺達のパーティーは派遣され、泉消滅班に組み込まれるだろう。そうなった時、今回のような『巨大スケルトン』が出現すれば、地形にもよるが全滅の危険性もある。

 この事を言えば、ティアが自分のせいだと思い悩むのが分かり切っているので、話題に出す訳にはいかない。難しい問題だ。

 

 今回の『巨大スケルトン』だが、意外にも1ポイントでない『魔石』をドロップしていた。『魔石』内に書かれた数字は27。通常のモンスターであれば、レベル27と言う事に成る。

 そして、それを証明するように、俺達のレベルは一気に上がって24と成っていた。どうやら、本当にレベル27と考えて良いようだ。何から何までイレギュラーだった事になる。

 

    ロウ  16歳

  盗賊  Lv.24

  MP   201

  力    10

  スタミナ 10

  素早さ  50

  器用さ  50

  精神   7

  運    14

  SP   ─

   スキル

    スティール Lv.10

    気配察知  Lv.19

    隠密    Lv.13


  ティア  16歳

  歌姫   Lv.24

  MP   540

  力    9

  スタミナ 26

  素早さ  17

  器用さ  8

  精神   82

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    歌唱   Lv.7


  ミミ   16歳

  炎魔術師 Lv.24

  MP   710

  力    10

  スタミナ 10

  素早さ  27

  器用さ  8

  精神   80

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    ファイヤーボール  Lv.15

    ファイヤーアロー  Lv.17

    ファイヤーストーム Lv.16


  シェーラ 16歳

  大剣士  Lv.24

  MP   205

  力    52 +9

  スタミナ 50

  素早さ  16

  器用さ  15

  精神   7

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    強力(ごうりき)   Lv.19

    加重   Lv.14

    地裂斬  Lv.18

 

 今回のレベルアップでは、『黒死鳥』以来に一気にレベルが上がった。+3だ。まあ、ある程度、森での経験値の下積みが有ったからではある。

 今回のレベルアップで特出すべきは、やはり『MP』だろう。俺とシェーラの『MP』が200を越え、10秒に1ポイントのMPが回復するようになっている。ティアも500を越えた事で、毎秒1ポイントのMPが回復する。ミミに至っては、700を越えた事で1秒間にMPが2ポイント回復だ。一般的な狩りにおいてはともかく、アンデッド戦のような長期戦においては、大きな力となるはず。

 SPに関しては、俺は弱点の『スタミナ』といつもの『運』、そして『MP』に振った。ティアは、全て『精神』へ振り、『歌唱』の威力の底上げだ。ミミは『MP』に1、残りの2ポイントは全て『精神』に振った。『MP』を700代に乗せつつ、魔法威力の底上げだな。シェーラは『素早さ』と『器用さ』と言う弱点を補い、『MP』を200代に乗せるべく、1ずつを振った。

 いろいろとイレギュラーな形でのレベルアップであり、今回も、そのレベルに見合った実力はまだ無い。この辺りは勘違いしないようにしなくてはいけない。

「取りあえず、予定どおりこの山を越えて、その先の村まで行くぞ」

「だ~ね~」

「ああ」

「うん。今度こそ居ると良いんだけど」

 俺達は、また山を登る。

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