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第11話 駆け出し卒業

 休み明けからの活動も、特に問題なく進んだ。そして、成人後20日目にして、ようやく俺の『スティール』とティアの『歌唱』スキルがスキルレベル2となった。

 ティアの『歌唱』は、スキルレベル上昇によって、有効範囲が少し広がり、付与効果も僅かにでは有るが上がっている。ティアの場合は、『精神』のパラメーターの上昇でも付与効果が上がるので、レベルアップも加えれば二重に上がる事になる。シェーラの『強力(ごうりき)』と似ているな。

 俺の『スティール』は、ティアの『ラッキーソング』付きでやっている関係で、今ひとつ実感できないが、多分、成功確率と上位の物を引く確率が上がっているはずだと思う。

 一応、現在まで『スティール』で手に入れた物を列挙すると、『魔石』『低級回復薬』『低級解毒薬』『牙狼ナイフ』『鉄の剣』となる。『鉄の剣』は『グリーンゴブリン』から入手出来た。サビたボロボロの剣や棍棒を持つ『グリーンゴブリン』から盗めるのが、『新品の鉄の剣』って言うのが今ひとつ納得できないが……。

 この『鉄の剣』は鞘も付いていて、一般的に使用されるサイズなので、18ダリで売れる。ギルド販売店での販売価格は20ダリ。

 トマスさんに、この剣を見てもらったところ、可も無く不可もなくと言う品だそうだ。トマスさんいわく『面白みのない品』との事。

 そう言った瞬間、隣にいた奥さんのアリさんから、

「面白のみがあっても、売れなきゃ意味無いのよ!!」

 と言われ、どやされていた。トマス工房におけるいつもの光景である。

 

 俺達が現在活動しているエリアは、西外門を出て北西方面。その先にある森まで続く草原地帯だ。

 森にはまだ入っていない。

 俺の『気配察知』スキルのスキルレベルが5以上になって、有効範囲が30㍍を越えるまでは行かない予定。

 森での危険を冒す必要は無い。そんな無理をしなくても十分に稼げている。無理をする必要が無いんだよ。

 現在、平均して全体で一日に300ダリは確実に稼げている。ティアの八代で亜紀な『ラッキーソング』効果が上がった事で、魔石以外を引く確率が上がっている事から、今後は今以上に収入は増えるはず。一日当たり、一人100ダリも近いと思う。

 そんな状態でギルドに行くと、ロミナスさんから思わぬ宣言を喰らった。

「あんた達、今日で、ここ終わりさね。明日からは、向こうで他の奴らと一緒に換金しなね」

 俺達新成人組は、一般冒険者と違って、ロミナスさんのいる一般受付窓口で換金処理をしてきた。

 最近知ったのだが、ロミナスさんは新成人対応係なのだそうだ。また、実は、この西ギルドの副ギルドマスターでもあるらしい。

 二人いる副ギルドマスターのうち、窓口業務を担当しているそうだ。ちなみに、もう一人の副ギルドマスターは、外回り、つまり営業担当との事。

 つまり、このロミナスさんのいる窓口が使えなくなったという事は、新成人扱いが終わったと言う事だ。

「えーっ! もうロミナスさんと、お話しできなくなるのー!?」

 悲しげな顔で、そう言うティアに、ロミナスさんは笑って答える。

「そんな事無いさね。相談事ならいつでも受けるさね」

 そして、改まって俺達を見回すと、更に意外な事を言ってくる。

「あんた達、今日から冒険者ランク5級さね」

「はぁーっ!?」

「「「えーっ!?」」」

 当然のごとく、俺達は戸惑いの声を上げた。

「いやいやいや、俺達、まだ一ヶ月経ってませんよ! 窓口の件はともかく、ランクアップは早すぎますって!」

 大慌てで、そう言う俺に、他のメンバーもコクコクと首を大きく縦に振っている。

「冒険者ランクの6級ってのは、駆け出し用のランクなのさね」

「いや、だから俺ら、駆け出し…」

「馬鹿お言いで無いよ。四人で300ダリ以上稼ぐ者を、駆け出しなんて呼ばないのさね。初日から実力で(うまや)どころか、雑魚寝すらしてないあんた達には、遅すぎた位さね」

 ……この間言ってたアレか。

「ま、良いじゃん。驚いたけど、別に、何か変わる訳でもないかんね~」

 ミミのヤツは、お気楽に言って来る。

 まあ、5級から4級だと護衛依頼の件があるから大きく違うけど、6級から5級だと確かに特段の変化は無い。ただ、『駆け出し』と言う評価が無くなるだけだ。

 とは言え、それでもランクアップはランクアップだ。しかも予想外の。本当に良いのか?と思ってしまう。

「あの~、私達、金銭的にはスキルの関係で何とかなってますけど、戦闘や採取の実力はまだまだですよ~」

「それが分かっている事が、5級って事さね」

 不安げなティアの言葉を、さもそれらしい言葉でバッサリと切るロミナスさん。……納得できるような、上手く誤魔化された様な感じだ。

 結局、俺達は全員の冒険者証であるドックダグを渡して、5級用の物へと更新してもらった。変わったのは、そのドッグタグだけなんだが、何か違う様な気がするから不思議だ。


 予定外に5級冒険者となった訳だが、やる事が変わる訳では無い。今までと同様、安全マージンを十分に取って、モンスターを狩りまくるだけだ。

 異常とも言える早さで繁殖しまくるモンスターは、枯れる事の無い泉の様な物だ。俺達のレベルでは、狩り尽くす事など出来ない。

「ティア! ぜっとだ!」

 そう言ってシェーラが、12匹いる『火蜂』の群れへと突っ込んで行く。

 ティアは直ぐに、(くろがね)の城なZの歌をイントロ飛ばしで唄う。

 俺は、シェーラが向かったのとは逆の群れに『ファイヤーストーム』を叩き込んでいるミミと、ティアを守るために動けない。一応、手には5枚の『十方手裏剣』を持っており、いつでも投げられる様にはしている。

 『火蜂』は全長20センチ~25センチ程の蜂のモンスターだ。名前に火が付いてはいるが、別段炎系魔法を使う訳ではない。この名は刺された時に、火が付いた針で刺された様に痛いと言う事から来ているらしい。

 この『火蜂』のレベルは2~3程度なのだが、何より、群れで行動し、その群れの数が多く、更にその大きさゆえに剣などでの攻撃が当てづらいと言う特徴がある。レベルの割に、かなりやっかいなモンスターだ。

 だから今回のように、二つの群れに挟まれるように同時に襲われると、非常に困った事になる。

 当初、片方の対処を最適な対処スキルを持つミミがやっている間、もう一つの群れの牽制に『素早さ』の一番高い俺が当たろうとしたのだが、この数の攻撃を全て躱す事は不可能だという事で、防御力の一番高いシェーラが攻撃を受ける事を前提として当たる事になった。

 シェーラの範囲スキルである『地裂斬』は空を飛ぶ敵にはほとんど当たらないんだよな……。だから、完全な牽制役。と言うか、囮だな。

「あっ! 二匹残った!!」

 ミミが、いつになく無駄な事を全く言わない。それだけ余裕がない証拠だ。

 ミミが連続で放った『ファイヤーストーム』から漏れた個体がいたらしい。

「ミミ! その二匹は俺がやる! シェーラの方を!! シェーラ!!」

 当たらない大剣を振り回すシェーラに声を掛けてから、俺はミミが取りこぼした二匹の元へと走る。

「二匹なら!!」

 怒鳴るように声を出しながら突っ込む。

 一匹目にロングナイフを叩き付ける。刃筋がどうとかは無視だ。とにかく当てる事だけを考える。当てさえすれば、その大きさゆえにある程度のダメージとなるはず。

 その『火蜂』は、俺のロングナイフが当たる寸前に軌道を変えるが、ギリギリでその翅に当てる事が出来た。

 良し! 翅が壊れた! 翅の片側二枚が壊れれば、飛べない。飛べない蜂は蜂じゃない!

 地面へと落下していく『火蜂』を横目に、俺の目はもう一匹を捕らえている。そのもう一匹は、俺に針を刺そうと尻をこっちに向けている所だった。

 チャンスだ! 蜂が針を刺そうとする時、それは一番速度が落ちる時でもある。

 先ほど振り切った右手のロングナイフは間に合わない。俺は、左手をボクシングで言うところのフリッカー気味に振って、その『火蜂』の横から左腕に取り付けている楯を叩き付けた。

 弾かれた『火蜂』は3㍍ほど先で態勢を整えるが、もう遅い。

「終わりだ」

 事実上、空中で停止した状態になっていた『火蜂』へとロングナイフを突き立てる。手応えあり。死んだな。

 一匹を完全に仕留めた俺は、先ほどの地面へと落ちた『火蜂』は無視して、シェーラの方へと目を向けると、……シェーラが地面に這いつくばった状態で、その直ぐ上で『ファイヤーストーム』の炎が荒れ狂っていた。

 ……シェーラ、大丈夫か? あ!高速匍匐前進で抜け出してきた。そんなシェーラに、ティアがZな歌を唄ったまま『低級回復薬』をぶっ掛ける。あ、今度は『低級解毒薬』もぶっ掛けた。どうやら、大丈夫そうだ。

 ミミも、シェーラがいなくなったので、遠慮なく、更に2発の『ファイヤーストーム』を放っている。今度は回避した個体はいないようだ。

 ミミの方が問題ないようなので、周囲を確認した後、先ほどの地面にいる生き残りへと向かう。

「ティア!」

 声を掛けるだけで状況を理解してくれたティアは、直ぐにZな歌から『ラッキーソング』へと切り替えてくれる。

 念のためにステータスを見ると、『運』に+5が入っている。スポットで付与効果が入っているな。よし、『スティール』実行。一発成功だ。

 うん? アイテムが出現する時の発光がいつも以上に強いぞ!。

 そして、光の中に姿を現す大きなX型をした物。

 それは、X型に固定された鞘に入った剣だった。サイズ的には短剣だろう。双剣って事か。

 地面に落下したしたそれを取ろうとすると、横からかっさらわれた。ミミに。……お前、いつの間に来た? さっきまで向こうにいただろ? お前の『素早さ』の補正値は、こう言う時のためかい!。

「今までの光と違っちょった!! ニューランクのアイテム!! 新時代来た───!!」

 叫びつつX型になった鞘から一本の短剣を抜くミミ。その抜かれた短剣の刀身は真っ黒だった。

「おお! 何ちゅう中二臭いデザイン! 双剣で黒! 厨坊かっ!!」

 いつものごとくアホな事をのたまうミミは無視。

 その双剣を見ると、X型の鞘にはシェーラの大剣と同じように、鎧に固定する金具が付いている。

 その頃になると、毒と刺し傷から回復したシェーラと、ティアも集まってきた。

「短剣だから、ロウが使えば良いんじゃない?」

「ん、その前にトマス氏に確認してもらった方が良いだろう」

「そうだね、性能も分かんないからね」

 そんな、まっとうな事を言っているティアとシェーラをよそに、ミミは何やらアホな事をほざき続けている。

「売れる!! こりは売れる! この中二臭さは、絶対に顧客がおる!」

 いつものミミである。


 結局、その日の夕方、トマスさんに『鑑定』してもらうと、『闇の双剣』と言うベタな名前だったが、その性能は意外にも突出した物だった。

「マジックアイテムの一種だな。牙狼ナイフと同じようにMP吸収の効果があるが、これは十倍以上だ。あと、少しだがスタミナ吸収効果もある。まあ、これはおまけレベルだが。

それはともかく、この剣の肝は切れ味だな。刃物のパラメーターに『斬』って値があってな、この値が高い程斬撃、つまり切れ味が上がるんだが、この剣の値は、今ロウが使ってるロングナイフの6倍を超えている。

言っとくが、そのロングナイフも鉄製としてはかなり良い物なんだぜ。その6倍って事だ」

 トマスさんのようなJOBが『鍛冶師』の人は、『武具鑑定』と言う武具専用の鑑定スキルがある。このスキルは、ただの『鑑定』と違って武具限定でかなり細かなところまで分かるらしい。それが『斬』『刺』『硬』『しなり』などの値だ。

「で、いくらで売れるん?」

 ミミがそう言った途端、ティアからのブーイングが飛ぶ。

「ミミちゃん!!」

「え~、ほら、売るかどうかはともかく、値段は知りたいやぁ~ん」

 ミミは、いつにないティアの強めの声にびびったのか、若干良い訳臭い事を言っている。

 ミミのヤツは、絶対売る気だったな。まあ、俺としてはどっちでも良い。高く売れれば、それで全員の装備をアップグレードできるし、な。

 一人だけ突出した装備を身につけているより、全体的に装備のグレードが高い方が良いと思う。まあ、この辺りは考え方しだいだけど。

「値段か? この手はな、値段があってないような物だからな。まあ、1000ダリを下回る事は絶対に無い。上は正直分からん。オークションなら1万ダリいくかもな」

「「「1万ダリ!」」」

「売ろう!!」

 三人がハモって、一人が別の事を言った。誰が、って、言う必要もないよな。

「オークションで買い手があれば、って事だ。買い手がなけりゃ2000ダリ位かもしれん」

「オークションだもんね……」

「2000ダリなら一週間で稼げるじゃん!」

 おい、ミミ、確かに一週間あれば今の俺達なら2000ダリは稼げるけど、それ、宿代とか食費とか引いてない金額だろ? 実際、それだけの浮金を手に入れるには、倍は掛かるぞ。しかも、全員のお金を集めて、だ。

 とは言え、確かに、2000ダリと考えれば微妙だと思えるのも間違いない。

「ほらぁ~、やっぱりロウが使った方が良いよ」

「だな、ロウは運を上げるためにSPで力を全く上げていない。その攻撃力を補うのに丁度良い」

「うんみゅ~、しょ~がないね。つー事で、ロウ! 感謝して使うように!!」

 何やら、ミミのヤツが上から言ってくるが、この剣、一応俺が引いたアイテムなんだぞ……。まあ、良いけどさ。

 

 その後トマスさんに、鎧を少し改造してもらって、この双剣を背負えるようにしてもらった。

 その上で、今まで使っていたロングナイフも整備してもらい、ロミナスさんへ返却。

「またまた早い事だね」

 ロミナスさんから、あきれ顔で言われたよ。

 そしてその際、ロミナスさんから意外な頼まれごとをされた。

「別に急いでいないし、まだまだ先で良いんだけどね、盗賊の坊やのスティールで手に入るアイテムのリストを作って欲しいのさね。どのモンスターから何がって言うリストをね。もちろん代金は払うさね。数は少ないとは言え、ある程度いるJOBだからね、データは取っておきたいのさね」

 これに関しては、元々俺も作るつもりだったので、全く問題な。快く引き受けた。

「しかし、あんた達が孤児院出で良かったさね。孤児院出の子は字が書けるからね」

 確かに、字が書けないとリストの作成は出来ないからな。

 ところで、孤児が字が書けるのは、成人時に職に就ける確率が少しでも高くなるように、院で教えているからだ。

 金も食料も衣類も無い孤児院だが、時間だけは十分にある。そして、一度教えれば、それを下の者達に教えて行く事が出来るので、その後は職員の手間も掛からない。古くてボロボロで、売り物にならないレベルの教本もある。

 いろいろとマイナス条件ばかりの孤児院ではあるが、この事に関しては農村出身の貧乏人より恵まれていると言えるかもしれない。

 ちなみに、ミミのヤツは当然字は読み書きできなかったが、この20日程であっさり身につけている。まあ、アルファベットに近い文字体系なので、前世の知識があれば覚えるのは然程難しくはないからな。

 

 この『闇の双剣』などと中二臭い…『厨』の字を使うんだっけ? まあ、それはともかく、この剣だが、トマスさんが言ったとおり切れた。……いや、切れまくった。

 『グリーンゴブリン』などは、今まではロングナイフで重傷を与えられるレベルだったのが、身体を両断してしまった。手加減が、非常~に難しい。

 双剣なので、両方の手に持って使うのが本道なのだろうが、まだ、とてもではないが使いこなせない。

 あと、ミミいわく、

「双剣ってさ、攻撃重視なイメージあるっしょ。でも、本当は防御よりなんよね。片方の剣で防御しつつもう片方でグサッとか、両方の剣をクロスさせて防御とかね。

だいたい、剣って、片手で使うより両手で使った方が力が入って攻撃力は上がるんよね。片手の方が攻撃範囲は広くなるけど、威力限定で言えば格段に両手持ち。両方の手に一本ずつ剣を持ったら、力が入る訳無いんよ」

 との事。

 確かに言われてみれば、そうだな。鍛える事で攻撃力を上げる事は出来るだろうが、同じように鍛えた両手持ちにはかなわない訳だ。

「ただね~、その厨坊剣は切れ味が半端ないから、そこら辺でカバーでけると思うんよ。当てて引けばズバッと、力が弱くってもバッサリと、ね。すれ違いざまに剣を当てて走り抜けるだけで真っ二つ的な?」

 ……厨坊剣言うな、厨坊剣。その事は取りあえず置いとくとして、確かにこの剣の『斬』値なら、ミミの言ったようなアニメのワンシーンみたいなことが出来る気はする。

 以前、こちらに向かってくる『痩せ狼』に対してロングナイフでやったことと同じだ。あの時は、腹を割くしか出来なかったが、この剣なら、骨まで切れると思うので、真っ二つまでは行かないにしろそれに近い状態には成る気はする。

 俺のJOB特性的にも合った戦法だと言える。

 と、言う訳で、ミミの提言に従った戦い方を組み立てていった。まあ、元々の俺の戦法とそれ程差異が無いので、意図的にそれを行うようにしただけなのだが。

 そんな試行錯誤を繰り返すうちに、成人後30日目が過ぎていった。そして、この時点で俺達の一日の収入は400ダリを超え、一人当たり100ダリに達した。

「うっしゃ~! 次の目標は魔法の袋! ポシェット買うちゃるど~!!」

 『魔法の袋』の一番安い物は、新品で1万ダリ。中古は多少安いが、物自体が出回っていないので、多分手に入らないと思った方が良いらしい。つまり、新品の1万ダリを買うつもりでいないといけないと言う事だ。

「つ~事で、明日から一人50ダリを強制徴収にはいる! OK?」

 ……強制と言いつつ、了解は取るんだ。まあ、シェーラには『OK』の意味は分からないんだけどな。と言う訳で、俺がフォローしておく。

 一応、全員賛成した。

「多分、二ヶ月は掛かるよね。長いね。でも、有るのと無いのじゃ全然違うから、絶対買わなきゃね!」

 ティアも、いつになく力が入っている。

 俺達が買おうとしている、ポシェット型ないしポーチ型の『魔法の袋』は、内蔵する亜空間は1立方メートルと微妙な容量ではある。だが、この一見狭いとも思える収納空間だが、『グリーンゴブリン』の剣なら100本以上入る。『角ウサギ』なら角を切れば50匹は楽に入る。

 現在、『スティール』で『魔石』以外を引く確率が上がってきている状況では、これらを運搬する手段が必須なんだよ。

 いくら戦闘中に動かないとは言っても、ティアとミミに持たせるのも限界がある。

 今後、森も活動域とするなら、採取できる植物類もますます増えるだろう。出来れば、一人に一個欲しい。

「ロウがスティールで引けば、万事解決なんだけんどね~」

 ミミのヤツが、相変わらずアホなことを言っている。「アホか」と口に出した俺は悪くないと思う。

「あに言ってんの! このゲームシステムそのものっぽいこの世界なら、絶対あるっしょ!!」

 ダムダムと二回右足で地面を踏みつけながら、そう言ってくるが、まあ、それ自体は否定できないのも確かだ。市販の物と同じかどうかは別にして、同じような『魔法の袋』的な物はありそうだ。

 ただ……。

「仮に、有ったとして、それを持ってる…って言うか盗めるモンスターのレベルって、どれ位高いって思ってるんだよ!」

 『グリーンゴブリン』で『鉄の剣』。レアを引いた『火蜂』は一般品だと『低級解毒薬』なんだぞ。レア品なんて、あの『闇の双剣』以来お目に掛かってない。

「レアを引けば無問題(もうまんたい)!!」

「引こうと思って引ければ苦労せんと、言うちょろーがー!!」

 言葉が若干、ミミ化してしまった。いかん、いかん、気をつけなきゃな。ミミ面(ダークサイド)に落ちてしまう。

「ぐぬぬぬぬ……」

 くぬぬ、じゃねーよ。そんなアホなうなり声を上げていたミミが、ハッとしたように顔を上げる。

「ロウ! カンガルーは!? ワラビーでも可! あとコアラでも!!」

 突然何言い出す? ティアとシェーラの方を見ても、ポカーンだ。

 そんな、俺達を見て、ミミはまたダムダムダムと地面を踏みつけている。

「あーもぉー! 有袋類! 有袋類だっちゅーの!! ヤツらなら絶対! 袋系持ってるってばぁ!!」

 激高するミミはともかく、確かにありそうな話…って言うか『設定』ではあるな。この世界を作った、神的な存在のパターン的には。

「ゆうたいるい? なんだ、それは?」

 通常なら、スルーするワードなのだが、シェーラも今回はスルーできなかったようだ。

 この説明は、俺は例のごとく出来ないので、ティアに頑張ってもらおう。がんばれティア。

 そして、ティアの奮闘のおかげで、一通り理解したシェーラは首をかしげている。

「そんなモンスターの事は、聞いたことが無いな」

「ロウ!!」

 ミミが俺にも確認してくるが、答えは同じだ。

「俺も知らないぞ。俺が調べたのは、王都周辺の情報だけだから、それ以外にいる可能性は有るけどな。情報自体は知らないな」

「ギルドに帰ったら、おばさんに聞く!!」

「……ミミちゃん、ロミナスさんに言いつけるよ」

「ウギャッ、わ、私、ロミナスさんの事だなんて、ゆーちょらんもん!!」

 なら、なぜどもる?

 

 と言う事で、ミミ言うところの『おばさん』ことロミナスさんに、有袋類系のモンスターの事を聞いてみた。一応、ティアはミミの事はチクらなかった。

「袋ね~、袋と言って良いかは分からないけどね、一応いるね」

「よっしゃ! ロウ!!」

「まあ、待ちなね。そのモンスターがいるのは、西のダムダ領の草原さね。今のあんた達じゃ、たどり着けもしないさね」

「マジ?」

「本当さね」

「……ガックシ」

 ダムダ領は、俺達がいる王都の西隣の領だ。移動だけで二日はかかる。無論、馬車を使って、な。

 そして、ロミナスさんが言った『ダムダ領の草原』とは、『アラヤ平原』と呼ばれる土地だと思う。

 図書館にあった資料には、『レベル30以上のモンスターが徘徊する危険地帯』と書かれていた。その事をロミナスさんに確認すると、やはりそこらしい……。

「レベル30……無理だよ、ミミちゃん」

「地道にお金を貯めるべきだな」

「マジか……」

 さすがのミミも諦めたようだな。

 一応、念のためにそのモンスターの事を聞いてみると、名前は『ビッグテール』と言い、その名の通り大きな尾を持ち、それで攻撃してくると言う。そして、それ以外にも、足による攻撃は、鋼鉄製のタワーシールドをあっさり凹ます威力だそうだ。その上、飛び跳ねる移動速度はかなり速く、『素早さ』が相当高くないと簡単に逃げられてしまうらしい。

「……やっぱ、カンガルーやん!! まんまカンガルー!! カンガルーの分際でレベル30ですと~! 許すまじ! カンガルー!!」

 ミミのヤツが何やらまたほざきだしたが、全員スルーだ。ロミナスさんはもちろん、周囲にいる他の冒険者達も、だ。慣れたものである。……周囲が慣れるくらい日常だってことなんだけどな。

「ガーッデム!! いつかやっちゃる!! オーストラリア人がやっちょる位に、殺しまくっちゃるからな~!!」

 ミミの奇声は続く

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