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第12話 魔法の袋

 金策のための二ヶ月間は、順調に進んだ。

 無理をせず、確実に稼ぐ方法を取ったのだから当然だな。そして、そのために余裕を持たせた二ヶ月と言う期間だという事でもある。

 死んだら終わりな現実世界では、これ位でいくのが当たり前だ。

 正直な話、俺達はこれ以上無理にレベルを上げたり、冒険者ランクを上げようとする必要はない。なぜなら、現状で生活するだけなら十分な額を稼げているからだ。

 一日一人当たり100ダリ以上。日本円に無理に換算すれば、1万円~2万円。十分な収入だろう。普通に貯金しながら生活すれば、全く困らない収入だと言える。

 前世でも、バイトでこれだけ稼げていれば、無理に会社に勤めようと思わないんじゃないかな。まあ、前世の場合、社会的立場とか、人目を気にして正規雇用を、と考えて上(?)を目指す可能性も有るが。

 だけど、この世界の場合、特に冒険者が上、つまり高収入を目指すと言う事は、それはそのまま更なる命の危険に身をさらすって事だ。全く状況が違う。

 一日1万円~2万円を稼げている状態で、日に3万円稼げるからと言ってアフリカのサバンナに槍一本だけ持たされてライオンを狩りに行くのか?って事だ。大多数が否と答えると思う。

 この世界は、ゲームのように無理にレベル上げをする必要はない。別に魔王が襲ってくる訳でもない。世界が滅亡に瀕している訳でもない。だからレベルをカンストさせる必要もなければ、海底ダンジョンを通って隣の大陸に行く必要もないんだよ。

 実際、この世界の冒険者で一番数が多いのは5級冒険者だったりする。

 4級でやっとまともな冒険者として認められるのだが、5級の段階である程度の生活が送れるようになることから、それ以上求めない者が多いって事だ。

 ただ、ロミナスさんいわく、

「あんた達の収入は、4級冒険者成り立てぐらいはあるんだから、他の5級があんた達と同じだけ稼げていると思ったら駄目だからね」

 との事。だから、本当に、ある程度生活出来れば良い、と言う者が多いって事なんだろう。

 そんな訳だが、俺達は、それぞれに目標があり、そのためにはもう少し上を目指す必要がある。だから5級(ここ)に止まるつもりはない。

 俺の目的は、家だ。自分の家を手に入れるのが目標だ。孤児故ってのもあるんだろうな、自分の家って物に凄く憧れを持っている。ボロでも小さくても良いから、家が欲しい。

 ティアの目的は、自分たちが育った、あの南エリア孤児院を何とかしたい、と言う事のようだ。その手段もいろいろ考えてはいるらしい。基本、俺と同じ資金集めって事になる。

 シェーラは、騎士に憧れているらしく、将来騎士になるために、まだまだ強くなる必要があるって事だ。

 ミミは、俺達とは全く違う。

「せっかく、こんな世界に転生したんだよ! いけるところまで行かいでか───!!」

 いわゆる異世界転生・転移モノのノリだ。そんなミミに対しては、安全マージンについて、切々と、滔々と長時間掛けて言い聞かせてやったのは言うまでもない。

 あ、ついでに言っておこう。シェーラが騎士に憧れているのは、彼女の父親が騎士だったからだ。彼女は、俺やティアと違い、7歳で孤児院に入っている。だから、当然父親の事は覚えている訳だ。

 彼女の口調は、もしかしたら父親の影響なのかもしれない。

 その父親だが、モンスター討伐時に死亡したそうだ。母親はそれ以前に死亡しているらしく、彼女も記憶にないとの事。

 あと、一応、この国では、女性も騎士になる事は出来る。無論、狭き門ではあるが。

 

 この二ヶ月間、レベルは1しか上がらなかった。なんと言っても狩っているモンスターのレベルが低いので、これは仕方がない。

 この世界においては、前世のゲームのように、一定以上レベルの差が開くと入手経験値がゼロになると言う事は無い。確実に、そのモンスターのレベルに応じた経験値が入っているのが、経験値バーで分かる。

 だが、それでも、レベルが上がれば上がる程、次のレベルになるための経験値の量が急激に増えるため、低レベルモンスターだけを狩っていては、簡単には上がらなくなる訳だ。

 一応、やろうと思えば、ゲームで言うところの『初めのお城の周りでレベル99』なんてのも、出来ない事はない。無論、膨大な時間を費やせば、だ。


 取りあえず、現在のステータスはこんな感じ。

 

  ロウ  15歳

  盗賊  Lv.9

  MP   84

  力    2

  スタミナ 2

  素早さ  20

  器用さ  20

  精神   2

  運    7

  SP   ─

   スキル

    スティール Lv.3

    気配察知  Lv.6

    隠密    Lv.2


  ティア  15歳

  歌姫   Lv.9

  MP   200

  力    4

  スタミナ 10

  素早さ  7

  器用さ  3

  精神   30

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    歌唱   Lv.3


  ミミ   15歳

  炎魔術師 Lv.9

  MP   250

  力    5

  スタミナ 4

  素早さ  11

  器用さ  3

  精神   30

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    ファイヤーボール  Lv.4

    ファイヤーアロー  Lv.4

    ファイヤーストーム Lv.4


  シェーラ 15歳

  大剣士  Lv.9

  MP   108

  力    20 +4

  スタミナ 20

  素早さ  6

  器用さ  3

  精神   2

  運    ─

  SP   ─

   スキル

    強力(ごうりき)   Lv.5

    加重   Lv.2

    地裂斬  Lv.4

 

 PSに関しては、俺はいつもの『運』、ティアとミミは荷物持ちの事もあって『力』、シェーラは『火蜂』戦の事もあってか『素早さ』に振っている。

 レベルに関しては1しか上がっていないが、スキルレベルは結構上がった。一番上がりづらい『スティール』と『歌唱』が1ずつではあるが上がったのは大きい。

 『気配察知』は、ほぼ常時と言っても良い程使い続けた事もあり、6まで上がっている。現在の認識可能範囲は40㍍。

 ミミは、相変わらず均等に上げている。ここら辺は性格か? ……若干違和感。

 シェーラは、上げやすい『強力(ごうりき)』は順調に上がって5になって、パッシブ効果も1上がって+4。

 俺の『隠密』とシェーラの『加重』は合間を見ながら試している間に、2に成っていた。現状、まだそこまで必要性のないスキルなので、積極的には育てる気は無い。あくまでも、今の時点では、な。

 ミミとシェーラの攻撃スキルは、戦闘時に使用するだけでは上がりが悪いため、帰りがけに外門そばの壁際で、スキルレベル上げを毎日のようにやった。

 おかげで十分にスキルレベルが上がったんだが、10日目位に、門の衛士がやって来て、スコップを手渡された。

 シェーラの『地裂斬』によって出来た、地面の亀裂を埋めろ、って事だった。まあ、確かに、ひどい有様ではあった。『地裂斬』の岩杭は、ミミの炎魔法同様に一定時間の経過で元の土に戻るが、地面を走った斬撃の跡、つまり深さ30センチ程の亀裂の帯は消えない。

 長さ30メートル程で深さ30センチの亀裂が地面に大量に刻まれているのだから、怒られて当然だろう。その一帯だけ、ミミの炎魔法によって焼かれた跡もある関係で、荒野と化していた。

 いくら郊外とは言え、問題があったようだ。多分、門に近すぎたのも理由の一つだろう。全員で手分けして埋め戻したよ。

 まあ、シェーラの申し訳なさそうな顔が見られたので、良いんだけどね。これが、ミミのせいだったら、ボロカス言ってやるところだけど。

 

 そんなこんなで、二ヶ月が経過した。それは、つまり目的の金策が終了した事を意味する。

 と言う訳で、俺達は翌日を休日とした。

 翌日は、全員普段着で王都の中心へと向かって歩いている。目的地は『アルヌス』だ。

 やはり、中古の出物は見当たらず、新品を購入する事となったのだが、それなら、どうせ買うなら見物がてら有名店で、となった訳だ。

 その商店の前まで来ると、以前の俺同様に、ほとんどが店構えの立派さに気圧されている。

「ねぇ、私たちが入っても大丈夫かな?」

 ティアは前世では、仕事柄高級店へは行き付けているはずだが、今世の孤児根性がそれを上回っているのだろう。

 シェーラは、入り口前に立つ二人の警備を担当している冒険者を気にしている。……いや、シェーラ、あんまり意識すると、かえって挙動不審に思われるぞ。思いっきり、慣れていないな。

 で、一番の問題児ミミだが、意外にも全くと言って良い程気圧された様子がない。いつもの通りという感じだ。

「さて、見せてもらおうか、アルヌスとやらの品揃えを!」

 ……あ、ホントに、いつもどおりだ。悪い意味で。

 思いっきり挙動不審な俺達だが、メンツがメンツなので不審者とは思われなかったらしく、警備に止められる事もなく店内へと入る事が出来た。この辺りは、ミミのスーパーミニマムボディーに感謝だな。

 店内に入ると、朝早い時間帯にもかかわらず、貴族らしき者が一組おり、店員から接客を受けていた。その貴族の男性側が俺達を見ると、露骨に顔をしかめたのが分かった。

 ハイハイ、ごめんなさいね、買う物買ったら、とっとと出て行きますんで、ご勘弁を。そんな事を内心で考えながら、以前話した執事風の店員を見付け、そちらへと向かう。

「すみません。魔法の袋の一番小さいタイプを買いたいんですが」

 俺がそう切り出すと、隣にいたミミが、なぜかお金を入れてある袋を握り若干身構えたのが見えた。

 ……おい、こら、ミミ、お前まさか、この店員さんに「はあ? ご冗談を、貧乏人のあなた方に買える訳ないじゃないですか」的な事を言われた時、その金が入った袋を叩き付けるように出そうとしているのか?

 そう思って、少し焦ったんだが、そもそも、その必要性すらなかった。なぜなら、その執事風の店員さんはそんな事を言わなかったからだ。

「では、こちらにどうぞ」

 執事風の店員さんは、社交辞令とはとても思えないような微笑みと共に、俺達を(いざな)った。俺の横から、ミミの舌打ちする音が聞こえる。やっぱり、思った通りかよ……。アホが。

 そんなミミはともかく、シェーラの様子がおかしい。異常に緊張しているのがあからさまに見て取れる。動きがぎこちなさ過ぎるぞ。挙動不審だぞ。シェーラは、こういうところは不得意みたいだな。

 方や、ティアは、やっと前世の感覚が戻ってきたのか、リラックスしている。

「凄い品揃えですね」

「ありがとうございます」

 などと、普通に会話している程だ。

 そして、目的の『魔法袋』を置いたショーケースへとたどり着き、「こちらでございます」と示された途端、ティアとミミがショーケースにへばりつく。

「ミミちゃん、ミミちゃん! どれにする? デザインは断然このポシェット! でも、実用性で言ったらこっちのウエストポーチかな!?」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……、100万ダリだと~! いつか! いつか()うちゃる!!」

 会話がかみ合ってないぞ。溜息を吐きつつ、シェーラに助けを求めようと目をやるが、まだ絶賛ガチガチの不審者モードのままだ。駄目だ、今日のシェーラは頼りにならん。俺が何とかするしかないな。

「ティア、決まったか? ティアかミミが使うから、自分たちが良いと思うやつで良いぞ」

「分かった~。ミミちゃん、どうする?」

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 結局その後、5分程掛けて、実用性を優先するという事で、ウエストポーチ型を購入した。

 あの執事風店員さんは、時間の掛かる商品選びに、嫌な顔一つしないで対応してくれた。ここの店員教育は凄いな。

 ちなみに、俺達が来た時にいた貴族達は、俺達が買い終わった後もまだ迷っているようで、当分掛かりそうだ。まあ、ここの買い物だから、貴族にしても、安い買い物ではないだろうから、時間を掛けるのは当たり前かな。しかも、女性への贈り物みたいだし。俺達は目的が決まっていた分、早かったほうなのかもしれない。

 そして、買ったばかりの『魔法のウエストポーチ』を早々と身につけたミミが、皆無な胸を張って店を出た。

 数段しかない階段を降りたところで、シェーラから大く息を吐く音が聞こえてくる。

「シェーラは、ああいう所は駄目なタイプか? ガッチガチだったぞ」

 若干からかい気味に俺が言うと、シェーラはは俺を見ながら大きな溜息を吐き出した。???。

「そう言うロウは、よく平気だったな。アルヌスの店主と言えば、甥に爵位を譲ったとは言え元伯爵様だ。私としては、普通に話が出来る皆の方が不思議だぞ」

 ……? 元、伯爵? 誰が? 話していた? 俺達が? ……オイ!!。

「ちょっと待ってくれ! あの店員さんって、店主で元伯爵様!?」

「……知らなかったのか?」

「全く! 全然!!」

 シェーラは、先ほど以上に大きな溜息を吐き出した。

 何でもシェーラは、以前騎士団の閲兵式を見に行った時、まだ伯爵位にいたあの店員さん改め店主さんを見た事があり、その際、周囲の者が『アルヌス』の経営の事も話してい事から、知っていたそうだ。

 マジか……あんな貴族もいるんだな。固定観念って怖いな。……とは言っても、間違いなくあの人は例外中の例外だとは思う。一般的な貴族は、俺達が固定観念として持っているアレのとおりだと思う。

 俺が事実におののいている時、ティアとミミはこっちの事は全く気にしておらず、買ったばかりの『魔法のウエストポート』にいろいろな物を入れては出して遊んでいる。

 まあ、知らなきゃ知らないで良い事だな。その方が自然な対応が出来るだろうし。ティアは、別に相手が誰であっても失礼な言葉を使う事はないから、問題になる事はまず無い。……ミミのヤツには……あとでしっかりと教えておこう。こやつは危険だ。

 ……俺、どうしよう。次行ったとき、平静でいられるかな? まあ、あの店に次に行くのは、大分先のはずだから、今は考えないで置こう。先送り先送り。

 

 念願の『魔法袋』が手に入った俺達は、今回までは草原地帯で活動する。

 一応、活動場所を森へと移す事になっているんだが、その前に慣れた草原地帯で使い勝手を試してみようと言う事だ。

 武具程戦闘に直接影響する物ではないが、初めての場所で初めての物を使うのは、やはり不安だ。ティアとミミのどっちが使うのが良いか、と言う事も見極めたかった。

 結果で言うなら、『魔法のウエストポーチ』自体には全くと言って問題はなかった。それどころか、望んだ種類のポーションを目で見なくても取り出せる事から、緊急時には非常に助かる事が分かった程だ。

 そして、中に入れた物の重量が全く掛からないって事には、ティア、ミミ共に大絶賛だった。

 いくら『力』のパラメーター補正値を上げても、重い物は重い。疲れるものは疲れる。持ってもらう立場の俺としても、大分気が楽になった。

 あと、植物を採取した際も、『魔法のウエストポーチ』内に放り込むだけで良く、今までのようにきれいに並べたり位置関係を気にする必要がなくなった。そして、どんなに動き回った場合でも、その動きは『魔法のウエストポーチ』内には影響を与えないため、採取物が傷む事もない。これも、かなり大きな利点だと思う。

 薬草類は、買い取り時の品質で値段が変わってくるから、一つ一つの値段が僅かずつでも確実に変わってくる。その集大成としての差異は無視出来ない金額になるだろう。

 どこかの目の大きな人も言っていただろう、『小さな事からコツコツと』ってさ。大事な事だよ。

 

 その日、ギルドへ帰ってきて、買い取り手続きを済ませたあと、いつものようにロミナスさんの所へ行くと、会って早々溜息を吐かれた。

「魔法袋を自力で購入で出来る駆け出しなんて、いるもんかね。5級でも4級目前の者だけさね」

 あきれ顔で、言われてしまった。

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