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3-4 偽らなかった銃

「じゃ、そろそろ行こうぜ」

 一軒家の二階、男は友人宅を訪れていた。二人で伯仲のドライブに繰り出そうと、前々から約束していたのだ。

「いよいよか、楽しみだな」

「ああ、そうだね。今日はあれ見せる日だったか」

 言葉の最後のほうに行くにつれて声のトーンを落とす友人。

「前から言ってたもんなオマエ。気になって仕方なかったぜ」

 男とその友人は数年来の付き合いで仕事場も同じだ。しかし、男の抱く友人への感情というのは、親しくとは縁遠いものだった。

 そうなってしまったのは高校の頃だっただろうか。はっきりした理由はなく、本人にもわからぬまま。なにしろ青春期の若者の気持ちなど複雑である。何気ない行動から始まったのだろう。そして、それは友人が男に向けている感情ともよく似ていて・・・

 ヴォッフォォォン 改造された車の排気音がガレージから近所周りまで深いな音として響き渡る。

「弟は?やけに隣静かだったよな?」

「ん? さあ、家にいたとは思うけど」

 シートベルトを締めながら友人が無感動に答える。一人っ子の男にはわからないが、みょうに不干渉すぎる兄弟だと感じた。

「で、あれって何だよ」

「んん? もうちょっと行ってから。あんま人が多いところで見せたくないから」

「車の中にいたら人が多いも少ないもないと思うけどな・・・ま、いいや。とりあえず海岸沿いな」

「そうしようか」

 単調な会話を続けながら、友人の家から街中を抜けマンション街を通り抜ける。

「なぁ、このへんって確か人死んだとこだったよま」

「ん? そ、そうだっけ」

 信号待ちしている間に発した男の言葉に、友人は妙に動揺してる。ビビっているのだろうか、友人は確かに昔から肝の小さな男だった。

「新聞見てんだろ?確か、あの銃ってまたどっかいったんだろう。三発弾が残ってるとか読んだけどよ」

「そ、そうみたいだね・・・その話はまあいいじゃない」

「・・・なんだよオマエ、怖いのか」

 男は笑いながら友人へ目を向けた。嘲りの表情を浮かべながら。

「そんなことはないけど・・・」

 ただでさえ、気弱な友人の声がいっそう弱弱しくなる。それでは自分から怖いと告白しているようなものだ。平静を装う口調が裏目に出ているのがよくわかる。

「ま、いっか」

 助手席の友人に愛想をつかした男は、流れていく外の風景を何気なく見つめる。沈黙が長くてもいいようにか、カーステレオから流行の音楽が流れる。

「そろそろいいだろ、教えてくれよ。前から言ってたヤツ、もったいぶってもいいことないぜ」

 全開の窓に置かれている男の手がトントンと音楽に合わせてリズムをとっているのかと思えばそうでもない。いつまでももったいぶって先を話そうとしない友人に苛立ちを感じているのだろうか。友人もそれを意識したのか、いよいよ観念した。

 適当な脇道に車を止める。

 助手席でしばらく考えていた友人は、意を決してかばんの中に手を伸ばす。運転席に座っている男は興味深げに、そこから出てくるものを見ようと身を乗り出している。

「そんなにいいもんかよ? たいしたもんじゃなかったら許さねぇぞ」

 冗談めかして脅してみせる。表情は笑顔のままなのに、妙に低めの声で。

「これ・・・」

 ゆっくりとかばんの中から出たものを見て、呆然とする運転席の男だったが、しばらくして、

 プッ

 口の中からはっきりとした音の入った吐息が吹き出されたかと思うと、堰を切ったように笑いが起こり、助手席の彼にまでその勢いが押し寄せてくる。

「なぁんだよ、これ?」

「い、いやぁ。あの事件の銃、だと思う」

 確信なさそうにうつむいて答える助手席の彼。運転席の男には、笑い声こそすでにやんだものの、表情はゆるんだままだ。

「バ〜カ、んなわけねぇだろ。ま、楽しかったけどよ、たいしたもんじゃないけど、許してやるよ」

 運転席から手が伸び、その拳銃を取り上げようとする。

「あっ・・・」

 必死に運転席から伸びてくる手を避けながらも、やがて観念したように差し出す。しげしげと銃を見る男。もちろん、二人とも本物の銃を持ったこともなければ、おもちゃと区別するような眼ももってない。ただ、小さい割りに重い、ということが感じられただけだった。

「重いなこれ。本物がどんなのか知らねぇけど、よくできてんじゃねぇの?どうせ弾は入ってねぇんだろ」

「い、いや、三発だけ・・・」

 口篭りながら答える助手席の友人、それを聞いて男は再び笑い出す。さっきより抑え目ではあるが、それでもかなりの笑いっぷりだ。

「なんだよ、事件とそんなに関連させたいかよ。結構センスあるじゃんよ・・・フフン」

 しばし、その銃を見回した後、不気味な笑みとともに拳銃を持った手が助手席に向けられる。

「すぐ撃てるのか? 実はロシアンルーレット式、とかじゃないよな。どっちにしても死ぬことはないか。」

「え・・・」

 無表情のまま凍りつく助手席の友人に向けて、運転席から発砲された弾丸・・・。


 パン


 消音機もなく、むかし映画のどこかで見たような乾いた音が響く。一瞬の静寂のあと、吹き上がる血。

「う、うそだろ・・・おい・・・」

 突然の出来事に男は狼狽していた。手にあるのは実弾入りの銃、隣で倒れているのは本物の銃を拾ったと冗談を言ったはずの友人・・・

 脇道に止められた車は、数分後発車することになるのだが、車のあった場所には、すでに本物かどうかもわからない一丁の拳銃が・・・

 道の先から、無意識に歩いてくる一人の男の姿があった・・・

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