第1話 花葬機動部隊入隊
2170年頃、日本はとある奇病に悩まされていた。その奇病は人間の体内に入り、生命力を奪う危険で奇妙な病気。
その奇病はまたたく間に広がり、人のすれ違いが激しい東京では1人感染しただけで3日を持たずして陥落した。
だが、その奇病に抗い適応する人間も現れた。人はそれを「開花者」と呼ぶ。開花者は奇病で魔物化した人間「花骸」を適応した花の能力で制圧していく。
開花者は軍隊を作り「花葬機動部隊」と名乗った。花葬機動部隊は開花者である戦闘員と非開花者である非戦闘員を含めた部隊となり、今日まで花骸から人々を守ってきたのだった。
現在2200年、日本は8割の人口と土地を失っていた。安全区域とされているのは九州だが、この九州も危険区域になるのは時間の問題だろう。
時を同じくして非戦闘員として配属された1人の男がいた。名を「夏希ミユ」。彼は鹿児島出身の日本男児、勉強の成績は普通、運動能力は高いといったどこにでもいる成人男性だったのだが奇病である「花蝕」にかかってしまった。
花葬機動部隊の非戦闘員の医療班は夏希ミユの花蝕である芽を排除するべく緊急治療室で治療してたのだが、間に合わなかった。
この間に合わなかった時点で「花骸」となり魔物化したとみなされる。先ほどまで普通に生きていた人間だったのに、理性を失って同族を襲ってしまう…ように思われた。
花葬機動部隊の部隊が緊急治療室に駆け込んだ時には、事態は急変していた。
なんと花骸になった人間が花骸をも「死」をも乗り越えて適応者へとなり、生還したのだ。
過去に花骸になった後に戻った例はなく、異常事態だったため意識はあっても拘束される夏希ミユ。
花葬機動部隊も医療班も異例の出来事に混乱してしまうが、国の上層部は夏希ミユを「特異点」とみなし、監視のもと花葬機動部隊で保護されることとなった。
現在夏希ミユは地元鹿児島の花葬機動部隊支部の深山隊に配属されていた。
深山隊には6人の適応者が既におり、花葬機動部隊の部隊でも上位に入る部隊である。
深山隊の深山宗一郎は「ミヤマキリシマ」の適応者である。ミヤマキリシマは火山性の土地に生える植物であり、過酷な環境でも咲く花として有名である。
次に参謀の朽名慶は「クチナシ」という花の適応者。目は細めで目をつぶってるように見える。常に冷静であるが、仲間なのに裏があると思わせる感じがする。
次は副隊長の烈桜眞。桜というのは散っていく儚いイメージがあるが、この男にはその言葉は似合わない。常に大声を出して戦場を切り開く深山隊のパワー担当。
ここからは隊員で、美咲ネモ。ネモフィラの適応者で、深山隊の可愛い担当。長身ながらスカートを履いている「男姫」のような存在。隊員や非戦闘員は男多めの為、皆からはネモちゃん呼びされているんだとか。
次の隊員は特殊で、菊の適応者で元々別の隊の隊長をしていたけど実質現役引退した隊員。名前は菊地仙道。戦いの経験や知識が豊富なことから菊地先生として親しまれている。
次は神出鬼没な隊員。といっても影が薄いと本人が言っており、あまり目立たないだけらしい。ホトトギスの適応者で帆十倉裕貴という。本人は戦闘向きじゃないと言ったりと、自分の力を過小評価している。
最後に夏希ミユ。この男は花骸後適応者、つまり開花者?の中でも稀な存在である。ただ…今のところ力が強いわけでもないしどんな能力を秘めているのかも分からない未知数。
夏希ミユは深山隊に配属され、拠点に向かうと正面の門をくぐった後に花壇が設置されている。ここには深山隊の隊員たちの適応した花が植えられている。
花葬機動部隊は適応者に最初に一蓮托生の花である一蓮花を渡す。この一蓮花に自分の血を一滴吸わせることで、自分の体調を体で見なくても判断ができる。
一蓮花を植える…というのは、花葬機動部隊の開花者の一員として、仲間と生死を共にする覚悟を示すという意味もある。
夏希ミユが深山隊の拠点内を歩いていると、新人というのもあり隊の人間にチラチラと注目を浴びていた。
深山隊には開花者(夏希ミユを含めた7人)以外にも非開花者兼非戦闘員である医療班・広報班・料理班等が存在する。ただの拠点ではなく、生活・訓練・任務を行う総合施設になっている。
拠点に入ってすぐの場所に「居住区」がある。開花者の個室と非開花者の寮、食堂・浴場・共同リビング・洗濯、生活設備がある。
中を進んでいくと事務所がいくつかある。依頼の受付や出動指示、報告書の作成などを行う場所であり、開花者の事務所の他、オペレーター・広報班・事務班の事務所がある。
事務所の区画を通り過ぎると開花者や非開花者が訓練する訓練所に着く。ここでは基礎訓練・模擬戦闘訓練・能力訓練・武器訓練・屋外訓練ができる。
その先を抜けて、一旦外に出る。少し先を歩くと「医療区」に着く。ここは普通の病院としても機能するが、開花者専用の治療も受けることができる。
ここは花葬機動部隊の拠点であるため、一般市民は近づくことや入ることは特別な許可が出ない限りは入れないし、メディアに露出することはない。
まぁ、こんな日本全土の8割を失った状況でメディアが機能しているかと言われると、機能していない。テレビ局の殆どはローカル局となっていて、ニュースの映像しか流れない。
夏希ミユは個室に案内される。開花者と非開花者では別の場所に部屋が用意されていて、ドアを開けるとマンションの一室の様になっていた。
部屋は2LDKになっていて非開花者と違い個人のリビング・浴室・トイレ・寝室が用意されていた。家具などは取り揃えてくれるみたいなので、いくつか要望を出して花葬機動部隊の役員の方と別れた。
ここが僕が今から生活する場所…と部屋の中を見渡す。ベランダから先ほど植えたばかりのユーカリが風になびいている。
ここしばらくは自分の力になれるため任務は控えるよう言われている。なので深山隊の人たちに会えるのは少し先になりそうだ。夏希ミユが部屋のソファーでくつろいでいるとピンポーン…とインターホンがなった。
ドアを開けると同じ隊服を来た女性が立っていた。その女性は
???:君が新人の夏希くん?身長高いね。
夏希はとりあえず挨拶を交わす。そう言えば役員の人に隊員の名前や見た目を聞いてなかった事を思い出す。
???:ボクの名前は美咲ネモだよ、同じ開花者としてよろしくね。
夏希:失礼なことを言いますが、男性ですか?
美咲:ボクを一発で男性だって見抜いた人、新人くんだけかも。どこで分かったの?
どこでって言われても、身長が170cmと高いところとか。女性にしては体格がガッチリしているとか、あと胸が壁。
美咲:新人くん、さっきからボクの胸ばかり見てるけど興味あるの?
夏希:それよりもスカートの方が気になります。
花葬機動部隊は基本的にその人の要望に合わせてコスチュームを変えることができる。上半身は男女ともに同じ服で下半身はズボンかスカートのどちらか決めることができる。
美咲ネモは夏希ミユの部屋の中に入る。一応仲間として今後の訓練や任務の時間を教えてくれる。僕は温かいお茶を美咲に注いで、2人で話していた。
僕は入隊したばかりで花葬機動部隊の事をよく知りません。先輩である美咲さんに色々聞こうと思ってるのですがよろしいですか?
美咲:新人くんの方が年上でしょ、ボクまだ18歳だよ。
夏希ミユは驚く。自分より2個年下の子が開花者として働いていることに。でも確かに開花者は花に適応した時点で、普通に生きる選択権を失い、強制的に花葬機動部隊に入隊させられると聞く。
美咲先輩はいつ開花者になって深山隊で働いているのだろうか。
美咲:ボクはね、旅行先で家族みんな感染したんだ。生き残ったのはボクだけで、家族は…
と、美咲先輩は少し暗い顔をしていた。その時点で分かる。美咲先輩が適応したってこと、適応できなかった家族は花骸になったってこと。
夏希:こんな話をどうして僕に?
美咲先輩は少しためらって口を開いた。
美咲:これから共にする仲間として事情を知ってもらおうと思ったんだ。新人くんの話も聞きたいな。
僕のこと、僕のことは上層部から一部機密事項だと言われているため、その分だけは話せない。
僕は元々花葬機動部隊とは関係のない一般市民でした。今日も仕事場に向かおうとした時、足元からツタが生えて口の中に入り込んでいきました。
そこから自分が奇病である「花蝕」にかかったと治療室で言われました。それから麻酔で眠っていて状況が分からなかったのですが、「花骸」から適合者になったと後から聞いております。
美咲:花骸から、戻る?
美咲先輩の表情が変わり、僕の胸ぐらをつかんできた。先ほどまで綺麗な方だな…と思っていたその表情は悪魔の様になっていた。
美咲:ボクの家族は戻らなかったのに、なんで君は戻れたの?ねぇ、なんで?
掴む力がどんどん増して鼻息が荒くなっていた。僕にはどうして…と言われても分からないとしか言葉を返すことができなかった。
美咲:分からない、どうして?
夏希もどうしてなのか答えがでず、黙るしかなかった。
美咲:本当は戻ってほしかった、父さんや母さんに生きててほしかった、みんなで旅行して楽しく帰りたかった。
掴んでいた手は緩み始めて僕の胸で涙をこぼす美咲先輩。18歳は成人しているとは言え、まだ弱い。この子にはまだ家族は必要だったはずなのに「花骸」というのはなんて残酷なんだ。
美咲:ごめんね…ごめんね…。ボク、本当はこんな事したくない、家族に会いたい。
僕も家族に会いたい。けど僕の家族は生きている、美咲先輩の苦しみを理解したいが、状況が違う事もあり全部は理解しきれなかった。
家族を目の前で失って、開花者として配属され、失った痛みを抱えたまま戦場で戦ってきたなんて…計り知れないよ。
僕はそっと美咲の頭に手を置いた。そして撫で始める。それと同時に美咲を包むように腕を回して抱きしめる。
夏希:大丈夫です、泣いていいですよ。
美咲:………っ。
夏希:ずっと1人で頑張ってきたんですね、僕が美咲先輩を褒めます。
美咲:………うん。
夏希:無理に前を向こうとしなくていいです。悲しいなら悲しいままでいい。泣きたいなら、泣けばいい。
美咲:新人くん。
夏希:僕は美咲先輩の隣にずっといますから。
美咲:本当、離れない?
夏希:嘘はつきませんよ。
だって、こんなところに何もわからず連れてこられて知らない人たちに囲まれて不安だったでしょうに。ましてや家族と二度と会えない不安定な状況に立たされながら任務をこなすなんて大変だったでしょう。
僕がいるときはいっぱい美咲先輩を褒めてあげますから、迷わず抱きついてください。そう言うと美咲先輩は僕の服を掴んだまま離さなかった。
次の日、朝食を食べるため食堂に向かう夏希。廊下を歩いていると既に横には美咲先輩がいた。
美咲:おはよう、夏希。
夏希:おはようございます、美咲先輩。
美咲:今日の朝食なんだろう。
夏希:僕、昨日の夜、食べに行きましたけど食堂のご飯美味しいですね。
美咲:うん。僕、ここのご飯好き。
そんな他愛のない話をしながら食堂に向かう。夏希にとっては昨日のことがあったから美咲先輩が隣にいることは何も違和感はなかった。だが、周りからは少し浮いているように見えていた。
夏希は仲間だから隣を歩くのは普通だ…と思っていた。美咲は違った。美咲が夏希の隣を歩くとき、わざと夏希は歩幅を美咲と同じくらいに変えて歩きやすくしてくれていた。
食堂についても隣に座る美咲先輩。さすがに僕と一緒にいるのは居心地が悪いのでは…と思った夏希は少し席を離れる。だが、夏希の隊服の裾を掴む美咲。
美咲:どこに行くの、離れないでよ。
昨日の出来事で美咲には仲間としての夏希ではなく別の感情が芽生えていた。この人と隣にいたい、離れたくない、もっと一緒にいたい。
けど言わない。それを断られた時の反応をされたら立ち直れなくなるからだ。だから、嫌がらない位の立ち位置を保つ美咲。少しスキンシップだな…と思うくらいの夏希、はたから見たら初恋したてのカップルのようだった。
すると奥の方からボディービルの様な体格をした人が来た。その人は隊服がピッチピチで今にも破れるんじゃないかと思わせるくらいだった。
声も大きく、一声で食堂内に響き渡り、ガラスが揺れるほどだった。
その人がだんだんこちらに近づいてくる。もしかして美咲先輩に何かようでもあるんだろうか…とくっついていた美咲先輩に目の前の人のことを伝える。
美咲:副隊長じゃないですか、もう訓練終えたんですか?
???:ハハハ…、男たるもの筋肉を鍛えてこそ朝が始まるものよ!
この巨漢は深山隊の副隊長「烈桜眞」。身長が200cm超えで筋肉質なため、横にも大きい。声もデカくて足音もデカい。
今日の朝食は和食でメインが秋刀魚だったのだが、烈桜副隊長はその秋刀魚が数匹と野菜の盛り合わせ、白飯の茶碗ドサ盛りが数杯と並んでいた。
烈桜:ガハハハ…、食えば食うほど筋肉が喜んでるぜ!
美咲:夏希、朝食が終わったら色々案内するよ。
烈桜:新人よ、あとで我と訓練に参加するんだぞ!
朝食を済ませた後、美咲先輩は施設を案内してくれた。まず行った所は非開花者達の共有リビング。夏希ミユは開花者であるが新人として顔合わせをする必要があった。共に生活していく仲間だから最初の印象が大事だな。
共有リビングに着いた途端、美咲先輩はクールな感じに変わった。元々誰も寄せ付けない程、冷たいクールポジションだった事が見てわかる。
非開花者を見ても分かる。美咲先輩が前を通ると皆が敬礼する。誰一人ふざけている人はいない。これが美咲先輩本来の姿なのか。
美咲:こちらは新人の夏希ミユだ、くれぐれも新人いびりをすることがないように。
その言葉を聞いた非開花者達は
非開花者:美咲様の仰せのままに!
と、アイドルの信者っぽい感じで返事をしていた。今日の朝や昨日みたいな子供っぽい感じはなく、僕よりも大人びていた。
共有リビングを抜けて訓練所に向かうと、クールさが抜け落ちて夏希の腕にくっついてくる。
美咲:さっきのボクの態度…引いた?
夏希:いえ、美咲先輩ってあんなにも非開花者の皆さんに慕われてクールでカッコよかったんですね。
1で発した言葉が100で帰って来た事で美咲はますます夏希にベタ惚れしてしまい、顔では見せず、腕を掴む強さが上がったことを感じる夏希だった。
訓練所に着くと模擬訓練が行われている最中だった。非開花者の人たちは非戦闘員ではあるが、並の力は備えられている。
花骸を斬るには専用の武器が必要で、開花者なら自身の能力を使えば武器は問わないが、非開花者はそうもいかない。そのため花葬機動部隊が非開花者専用で作った刀があり、非開花者でも花骸を斬ることができる。
だが、効力はそこそこなので使う場面は逃げる時や、市民の避難のときを想定して訓練を行なっている。
訓練をしていた非開花者達は美咲先輩に気づき挨拶と敬礼。新人である僕にも敬礼してくれる人達がいた。
夏希:僕にもしてくれるんですね。
美咲:新人とは言え開花者だからね、会社の上司的ポジションだから。
美咲先輩は訓練所内を歩いていると立ち止まり、こう言う。
美咲:せっかくだから夏希の力、見せてよ。能力は使わない組み手をしよう。
初日であると思って身構えていた。いつかこういう日が来ると分かっていたけど、大衆の場で、しかも美咲先輩とするなんてプレッシャーがヤバい夏希。
能力なしなら純粋な組み手になる。なら経験や知識、身体能力の差でこの勝負が決まると言ってもいい。
周囲の非開花者達が集まってくる。美咲と夏希を囲むように集まり、今か今かと待っていた。
美咲:準備はいい、いくよ!
美咲先輩が飛び出してきた。能力なしとは言え油断してかからないほうがいいだろう。経験の差で夏希は劣るかもしれないが、それを運動神経の差で埋めようとしていた。
飛びかかって来るなら避けるだけ、足を絡ませて転ばそうとしたが甘くはなかった。美咲先輩は間合いをすでに取っていて夏希の出方を待っていた。
それはまるで獲物を睨みつけるヒョウのようだった。
顔色を一切変えずに飛び膝蹴りをかましてくる。その際スカートを履いていたので謎の歓声が入るが、気にせず避ける。
美咲:避けるだけじゃ訓練にならないよ。
夏希:なら、これはどうですか。
夏希は美咲に近づく、それも急スピードで額を寄せる。
そして、額にキス。
美咲:………?
美咲が一瞬反応を遅らせたところで、肩をつかみ重心を崩す。美咲は尻もちをつく。
夏希:勝負あり。
美咲:ず、ずるくない!?
夏希:勝つ為なら何だってしますよ。
美咲先輩との組み手後、ある程度施設を回って最後に来た場所は開花者達の事務所。入る前から何やら中で話し声が聞こえる。
美咲:緊張してる?
夏希:緊張してないと言ったら嘘になりますが、今は信頼できる人がいるので冷静でいられます。
美咲:なんか、遠回しに言うの…ほんとうにズルいな。
事務所に入ると、複数のデスクが並んでいた。壁には大型のモニターがあり、花蝕の発生区域や各地から送られてくる情報が表示されている。
美咲:ここが開花者用の事務所だよ。
夏希:思っていたよりも機材が揃ってますね。
深山:そりゃ、国が一番力を入れてるからな。
部屋の機材に夢中だった夏希はすっかり人がいるのを忘れていた。
彼の名前は深山宗一郎。この深山隊及び花葬機動部隊鹿児島支部の代表取締役である。10年前に入隊して若くして隊長に上り詰めたエリート。
深山:少しは施設に慣れたか?
夏希:美咲先輩に案内してもらっています。
深山:美咲、今日の仕事はしてるのか?
美咲:午前中に終わらせてあります。
深山:ならいいが。
事務所を出てすぐに開花者であろう人とばったり会う。夏希はお辞儀をするも軽く無視され、その人は事務所に入っていく。
美咲:気にしないで、朽名さんは新人には心を開かないから。
夏希:心を開かない?
美咲:信用してないってことかな。
適応して開花者になれたとはいえ実戦が来るまでは、その力は未知数といえる。夏希ミユの基本的な情報はあっても、実戦で使えるかどうかの情報はまだ無い。
悪い意味で言っているわけではない。実戦にも得意・不得意がある。後衛なのに前衛で戦わせたりしてしまうかもしれない。だからまだ信用はできない。
美咲先輩以外の開花者はそう思っている。ただ、朽名はその上で深山隊に必要かどうかまで考えていた。能力どうこうの話ではなく深山隊の力になれるかだけを必要としていた。
過去に他の開花者が深山隊に配属されることがあったが、能力を見るやいなや深山隊に合わないとして個人的に深山隊から新人を追放することがあるらしい。通常新人潰しの朽名。
夏希:追放された開花者はどうなったんでさか?
美咲:追放って大袈裟だね、別の隊に移っただけだよ。
夏希:上層部は許してるんですか?
美咲:この世界は実力主義な所あるし、実績出してる朽名さんが言うのは上層部も納得してる。
事務所を出て空気を吸いに外に行く途中で階段裏から声が聞こえてきた。階段裏は物置みたいな場所になっていて薄暗かったのだが、男の声がする。
夏希:美咲先輩、こっちから人の声がするんですが、都市伝説的なやつですか?
美咲:ううん、そこにいるのは開花者の1人の帆十倉くんだよ。
帆十倉裕貴は17歳で感染して開花者になった。17歳という若さで「花葬機動部隊」に入隊し、美咲と同じく1年が経つ。
いつも薄暗い場所を好んで時間を潰していることが多い。いつも猫背で誰かに話しているかのように独り言をしている。
美咲:帆十倉くんはね、心を開いた人しか受け入れないから最初仲良くなるのは難しいかもね。
夏希:何か心の病なんですか?
美咲:帆十倉くん自身が、少しコミュニケーションをとるのが恥ずかしいってだけ。
それでも一部の非開花者からは慕われており、施設内の図書室では帆十倉を中心としたグループができているとか。見た目とは裏腹に優しく話しやすいので趣味が合えば話しかけてみたほうが良いだろう。
美咲先輩についていくこと早4時間が経過した。大体の場所は見て回ったのだが、深山隊にはあと1人、会ってない人物がいる。名を菊地仙道。
2170年の初期に感染して26歳から現在の56歳になるまで「花葬機動部隊」で前線に立っていた男。誰よりも古参で誰よりも花葬機動部隊を知っている…、そんな人だからか夏希ミユも深山隊に来たからには会ってみたかった人物だ。
夏希:仙道さんって人は居ないんですか?
美咲:菊地先生のこと?
菊地仙道は前線での戦闘経験と知識が豊富なことから堅物の深山隊、深山宗一郎と朽名慶や非開花者達から菊地先生と呼ばれている。
美咲:もうすぐお昼だから、食堂近くの売店にいると思うよ。
食堂近くの売店には外と同じ菓子パンやお菓子・飲み物・ホームセンターで買えそうな雑貨が販売されている。食堂は国が負担しているので無料で提供されているが、売店はお金が必要だ。
お金はどうやって稼ぐのかというと、開花者と非開花者では全く異なる。非開花者は隊の施設で住み込みで働く事で給料がもらえる。
逆に開花者は花骸を討伐することで給料が貰える仕組みだ。開花者にはある程度の支援金が出ているが、殆どは施設の設備の修復等に当てている。
夏希ミユはここに入ってきてまだ2日目なので給料はない。自宅から持ってきた少しの貯金があるが、ここでは外のお金は使えない。
「花葬機動部隊」は独自のお金を作り、それを「花弊」と呼ぶ。花弊は従来の貨幣である1円=1花とされており、売店や他の施設でのみ取り扱っている。
夏希:月にどれくらい貰えるんですか?
大体の非開花者は20万花ってとこ。衣食住全て負担されていると考えれば妥当な金額と言える。
美咲:ボクら開花者は花骸討伐や侵食した土地を元の姿に戻せたら報酬が手に入るよ。
非開花者と違って貰える量は多いが、活躍度によって変わってくる。だから戦場に出ず、引きこもっていたら開花者であろうが1花も貰えないってことだね。
美咲:その報酬で部屋の設備を買ったりして充実させる…って感じかな。
売店に行きながら美咲に質問をする夏希。
夏希:やっぱり開花者って一般人に会わないように隔離されてるんですか?
美咲:そうでもないよ。許可が認められたら自由に出入りできるからね。
そうこうしていると売店にたどり着く。売店では非開花者達が飲み物を買って話すたまり場になっていた。その中に1人だけ背丈が大きくガタイのいい男が1人いた。
その人は美咲先輩を見るなりコチラに近づいてくる。どんどん近づいてその男の影で覆われるくらい近づいてきた。夏希は思わずエビ反りになった。
???:ほぅ…、君が上層部が「特異点」という存在か。君はこれから深山隊に福を呼ぶか、嵐を呼ぶか…
美咲:先生、そんなに睨んでたら夏希が怖がっちゃうよ!
菊地:すまんすまん…、儂も長年活動しているが、こんな存在を見るのは初めて出興奮してたわ。
この人が菊地仙道か。噂通り先生と呼ばれていた。先ほども非開花者達に囲まれながら何か話していたらしい。それにしても「特異点」ってなんなんだ…と夏希は考えていた。
売店で久しぶりに飲む炭酸水を買う。美咲先輩はミルクティー、菊地先生は黒烏龍茶を買う。
3人は売店から離れて開花者達の個室に行く。行くというか行かないといけないような雰囲気に夏希は少し違和感を感じていた。道中非開花者達は菊地先生に敬礼したり、質問を投げかけたりと良好な関係を見せていたが、夏希ミユに対しては圧がかかっていた。
美咲は夏希のおかれてる状況は知ることもなく、ただ横をついていく。
夏希は自分の部屋を開けた瞬間、菊地は夏希を部屋に強く押して地面に叩きつける。美咲は状況が理解できず慌てふためいていた。
菊地:美咲…、コイツが例の「花骸」から開花者になった人間であってるよな?
美咲:そうですけど…
菊地:だとしたら、まだ「花骸」になる危険性がある。「花骸」にならないうちにここで、殺してしまおう。
菊地は夏希の首を掴んでこめかみに銃を突きつける。夏希は菊地の力に押し付けられて暴れることもできない状況で首が締まっていく。
美咲はどうすることもできなかった。このまま夏希を見殺しにするわけにもいかないが、菊地仙道に逆らえば自分の深山隊としての立場も危うくなる。「花骸」の見方をしたと後で言われてしまえば、殺されるのは時間の問題だ。
騒ぎを聞きつけて深山と朽名が夏希の部屋に来る。菊地が今にも夏希を殺そうとする姿を見て深山は止めに入るが朽名がそれを止める。
朽名:彼の特異点と呼ばれる力を見れるいい機会ではありませんか、深山隊長。
深山:同じ隊の者が殺されそうになっているところを黙って見ていれというのか…。
菊地が引き金を引くと夏希の動きが止まった。先ほどまで動いていた体は次第に動きを止めていた。菊地は首絞めを止めて、夏希を処理するよう手配を進める。
朽名:残念でしたね、深山隊長。彼は力を使う前に死んでしまいました、これは不慮の事故ですね。
朽名は夏希が殺されても何も動じず、深山隊に必要ないと判断していた。このくらいで殺されるようではこの先、生きていけないから人間のまま死ねたことに感謝してほしいと思っていた。
美咲は夏希の手をつかむ。さっきまで温かかった手、自分自身を慰めてくれた手はどこか遠くに消えていくようだった。
初めて表裏なく自分を好きでいてくれる相手が死んだ。まだ好きって言えてない…言ってもらってないのに。
美咲はただ夏希の手を握るだけ…、それだけだった。




