私は幼児 私は幼児
『それでは、私は下がらせていただきますね。ゆっくりお休みください……湯などのことについては女官に聞いてください』
4名いる女性の中からスッとひとりの女性が前にでて礼をするので慌ててこちらも頭を下げる
『なんなりとお申し付けくださいませ』
「よ……よろしく、お願いします」
いくら美形でも男性に囲まれる状況には免疫が無かったため緊張で体がガチガチだった。そのため、背は見上げるほどなものの女性の登場に心なしか緊張が和らいだ気がする。…………が…………、
つり目がちな美人さんなのだが、如何せん、デカイ。私の中の女性の常識は背が高くても180㎝までだった。女官さんは200㎝はあると思う……上から見下ろしてくる目がキラキラ……ギラギラしてるように見えて147㎝の私は獲物になった気分。
思わずお隣に立つヴァルトさんの後ろに少しだけ隠れて顔を覗かせる。無意識です。無意識なので、悪気はないのです。
『うふふふ、お可愛らしいですね』
『ふふふ、どうされました? 』
おふたり並びに後ろに控える女官さんたちは小さな子どもがちょこちょこと動くのが微笑ましいとニコニコである。ヴァルトさんはわかりやすく上機嫌になり、あげくは抱き上げられる始末。
「あ……あの……ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」
なんとか、なんとか下ろしてもらいヴァルトさんは『仕事が残っていますよ』と迎えの騎士によりとても名残惜しそうに去っていった。なんだか、イメージが変わってしまったような。
『お嬢様、改めまして滞在中のお世話を仰せつかりましたErikaCarinaSibeliusと申します。どうぞ《エリー》とお呼びくださいませ』
「よ、よろしくおねがいします。《優月》です‼️」
『それでは、お疲れでしょうから湯の支度をさせて頂いてよろしいでしょうか?』
「あ!湯ってお風呂ですよね、せっかくですが入浴は済ませてきましたので大丈夫です!!いりません。」
お風呂で通じるか心配だったが理解してもらえたみたいでひと安心。あの目のギラギラは恐らく赤子よろしく介助されたはず……。
その証拠に非常に残念と言うのが滲み出ている
『そうですか? では、軽食かスイーツを御用意いたしましょうか?』
「ありがとうございます。では、お茶を戴けますか?」
『はい。少々お待ちくださいませ』
笑顔で返事をしたのち、そばの女官へと何か指示をだし部屋においてある茶器で用意してくださってます。
茶葉はなにかな、日本茶は特殊だからないよね……。
植物オタクとしては気になる
『お待たせ致しました。おやすみ前ですのでクルムパームティーを御用意致しました』
「クルムパームティ-?」
やっぱり聞いたことがないな。こてんと首をひねる。
香りはカモミールローマンに近いかな?
『少々苦味がありますので蜜晶を加えております。リラックス効果があるのでゆっくり召し上がってくださいね』
「いただきます」
ほうほう、味はカモミールではなくてアップルティーの濃いやつに蜂蜜を垂らした感じかな?体がぽかぽか温まるような、生姜みたいな作用があるのかな?詳しく調べたいな、恐らく土から違うよね。
御茶の感想は癖になる味。緑茶がいちばんすきだけど、また違う良さが出ていて美味しゅうございました!
もう一杯ほしいな…………チラッ
「美味しかったです!あの、もう一杯……」
『申し訳ありません。そのお茶は飲みすぎると利尿作用が出てしまうので…………違うお茶をご用意しますね』
うるうるおねだり攻撃いたしました。ふふふ
『こちらは、リ-ムティーです。私も好きなお茶でお肌によい効果があるといわれています。冷茶でお召し上がりください』
「ありがとうございます!」
美肌!美肌!エリーさんも飲んでるなら、美人の茶、美人茶と呼ぼう!
このお茶は、柚子茶ですね!喉によい感じで爽やかな柑橘の香りと甘さがたまらんです。
「ごちそうさまでした」
『それでは、お口を綺麗にいたしましょうね』
「………?」
『洗浄しませんと、虫歯になってしまいますからね? あーん』
「あ、あの、歯ブラシとかありませんか?」
幼児じゃあるまいし人様に口を見せるなんて恥ずかしい。
『あることはあるのですが、ルナ様の可愛らしいですね歯には少々合わないと思いますよ』
こちらです、と見せられたのは馬の毛でも使ってるのかというような硬そうなブラシ。これは血だらけになるのが容易に想像できる。さすがに、無理か……今回だけ、私は幼児、私は幼児。
「おねがいします。あーー」
手をぎゅっと握りしめ、エリーさんを見つめて口を大きく開ける。
『ルナ様は良い子でございますね。痛くないですよー《cleanwash》』
パアッと自分の口が光のを感じて気持ち悪い。うえーっとなりそうなのを意地で絶える。やり直しなんて嫌だもの!!!
そんなこんな、バタバタとしたが洗浄後は疲労感で睡眠を欲していたためエリーさんに身を任せ……抱き上げられて天蓋つきのドデカイ寝台へ運んでいただきました。(届かないんだもの)
終始エリーさんはご機嫌で、布団をかけてくれたあとは子どもを寝かしつけるようにトントンとリズムを刻む。
おばあちゃん、私は図太い神経の持ち主のようです。摩訶不思議な出来事の真っ只中でありながら爆睡、最近でいちばんの安眠を貪るのでした。ははは