認容―受け入れる―
『ルナ、戸惑う気持ちも無理ない。ひとりで眠れるか?』
神殿でアゲットら三人と別れ城内の談話室へ移った。机を囲むゆったりとしたソファへと腰かける面々。ルナは移動したまま美形さんに抱かれたまま、心配そうに問いかけられた言葉に首肯く。
トントントン
『失礼致します。パームティーをお持ち致しました』
『あぁ、ご苦労』
入ってきたのはエリー。何度見ても美女な彼女が歩くと瑞瑞しい朝露に濡れた薔薇のような薫りがするのだ。頭と心の整理をつけながらも雑念を考え始められる自分はどうかしていると思う。
『さぁ、ルナ様もお飲みになられますでしょう?どうぞ』
優しく手渡されたカップはぽかぽかと温かで冷えた指先にじわんと心地よい温度が伝わってくる。
「ありがとうございます」
『はい、さぁルナ様も美味しくお召し上がり下さいませ』
美形さんもヴァルトさんも今まで出会った男性と比べると紳士的かつ女性並みの美青年な見た目と動作から嫌悪感を感じることもない。むしろ、しっくりと落ち着くと思えるまでになった。しかし、やはり女性のもつ母性というか慈愛のようなまなざしと優しい空気は所々に凍りつく心を優しく溶かしてくれる。
「いただきます。
あ、美味しいです……紅茶みたい……」
火傷しないように慎重に嚥下していく。パームティーとは、マンダリンハニーのような柑橘にしては柔らかな香りと仄かにはちみつの甘さを感じるお茶。
『そにらは、パームという果実を使用したお茶になります。安眠効果も御座いますので眠れない時などにもお飲みになられますとよいそうですよ』
「パーム……」
『はい。では、私は失礼致します』
穏やかい微笑みながらエリーは下がっていった。
『少し落ち着いたかい?』
カップが空になり、ちょうど良い壁となっている美形さんの胸へもたれかかり目を閉じた頃、寄せた耳から振動と共に声が降ってきて状況を思い出す。寄りかかるものが美形さんだということに一時忘れていたのだからビクッと驚いた。
「す、スミマセン、寄りかかってしまって!」
『うん? 何を謝っている?』
〈自分だけ赤面、慌てて、相手動揺なし……ってね。
虚しくなんてないです、だって私は幼子ですものね……〉
「いえ、えと、あ! 落ち着きました!」
『ふふふ、ルナさん? それは落ち着いていませんよ』
噛みに噛みまくる私にツッコミをいれるヴァルトさん。………そういえば居ました。フィーさんも上品にソファに座りながら肘掛けのカップ置きからお茶を飲んでいる様子。吃驚するほどに自分の世界に入っていたと理解する。
落ち着けるためにお茶のおかわりを貰い、沈黙のままティータイムを堪能。
カチャッ
すぅーはぁー
腕をのばし机にカップをおく。そして、深く深呼吸をいっかい。
「あの……今日は折角お時間をつくっていただいたのに途中ですみませんでした」
『気にすることではない』
『殿下の仰有る通りです。誰でも状況が同じであれば戸惑って当たり前ですからね』
『ただでさえ身ひとつで飛ばされてきたのだ。不安も恐怖も我らの想像つかないものであろうに……ルナは気丈に過ごしてくれる。常識が異なる環境へと来たというのに、お前は凄い子だ。
神々がルナの味方と言ったように、我々もルナのそばにいる。独りにはならない。明日、何を聞いても其れは心に留め置いて欲しい』
うるうると涙が浮かびそうになる。
『今日の殿下は良いことを仰いますね。『うるさい』
何はともあれ、本日ルナさんの存在が神のお答えにより証明されました。失礼ながら、城に留まる名目が必要でしたので……これまでは形式上要注意監察人物とさせて頂いておりました。申し訳ございません。
これより貴女様は“子神様”というお立場となりました。城に留まる事の出来るお立場です。加えて“皇太子殿下ご友人”という付加もお付きいたします』
立場が、身分が変わる。それは何が変わるのだろうか……。
『ヴァルト……お前はなにがいいたいのだ……』
『つまり……周囲の目は変わります。恐らく今後、殿下が妃どころか許嫁すらも作ろうとなさらないせいで。せいで、ルナさんに対してあらゆる思惑が動きがあるでしょう。ですが、私どもはルナさんの味方です。幼い身体で全てを受け止めなくて宜しいのです。不安や憤りなどを身の内に隠す必要はありません。
もちろん、危険なことや宜しくない事をなされた場合にはお叱り致します。ですが、私たちに対して遠慮はいりません。相談してくださるとヴァルトは嬉しく思います。同性がよろしければ、エリーに相談されると良いでしょう』
『ヴァルト……なーがーい……』
『殿下、失礼ですよ』
二人の優しい言葉が胸に熱をくれる。不安も恐怖も理解しようとしてくれる人がいる。行く先の不安にも付き合ってくれる意思を示してくれる人がいる。これまでの人生が酷いものだったかは分からないけれど、ここまで人と繋がる安心感を感じたことはないと思う。
〈大丈夫だ。ひとりではないのだから生きていける〉
「美形さん、ヴァルトさんありがとうございます。
なんだか、どうしようもないことに落ち込んでても仕方ありませんね。まだ、前向きに考えていきます!!」
〈そうだよ。摩訶不思議な出来事はここへ来たときから始まっているのだから。もはや、いちいち難しく考えていても仕方がない。何しろ常識が違う国で魔法がある国だし、獣人さんも神様も具現化して見えている国、しかも日本の神様にも会ってしまった。自分の成り立ちなんて些細なこと! 親が沢山なんて素敵じゃない! しかも大半が神様なのだから凄いこと! もう何でもバッチコーイ! 〉
モヤモヤと燻る脳内がさーっと晴れ間へと変わり思考も正常化してきた。本来の自分は順応性が高くて切り替えも早いのが取り柄!
その日の夜、ひとり静かに昼間の神々との会話を振り返り自分の中へと改めて落とし受け入れていくルナの心は穏やかな波のようで、無ではないが荒くれない穏やかな心境と時間であった。
〈独りじゃない。お祖母ちゃん、お父さん、お母さん、写真も何も残ってないし顔も記憶が薄れてしまったけれど大切な人。みんな私の親にかわりない〉
〈自分が神のひとりとは今は実感ないけれど、神々に話をきいていこう。私は私、何者でも私は私〉




