仔犬と仔狐と神官さん
「ぅわぁぁぁ、わぁぁぁあ! すごいです! お花いっぱい! 水路きれい!」
『ルナは花が好きなのだな。 あぁ、用事が終わったのち植物園を見学できるよう手配しよう』
ひろいひろい宮殿の一角を彩る花々、ここルナンクトュス帝国宮殿における八大庭園のひとつ“Rurudy庭園 (通称:花の庭園)。脇を流れる水路にはアヒルが優雅に流れ泳いでいる。透き通る水は綺麗で中にある石もまた宝石のような輝きを放つ。宮帝庭師の放水魔法により、そこからシャワーのように花へと放水される。
その光景はキラキラと水路の宝石と日の光の反射で美しい虹色の雫となり、大陸絶景スポットのひとつだとか。
改めて庭園や植物園の話は聞くとして、花の庭園からのびる通路を進むと二階建一軒家ほどの大きさの神殿が花々に囲まれるように存在する。扉の前の草原には日向ぼっこをする白い子ギツネと白い子犬がコロコロとお腹を出して転がっている。
もふもふのふわふわ。なんと和む光景だろうか。
『『『…………』』』
『みゃー』
「可愛いですね。キツネさんもひっくり返って眠るのですね、ふふっ」
同行者のご紹介、まず始めに美形さん、ヴァルトさん、エリーさん、フィーさん、私をいれて四人と一匹。
私とフィーさん以外の三人は何やら無言でやり取りをしているのか、目を合わせて頷いたり首を横に振ったり。みゃー、と心なしか呆れているような雰囲気でフィーさんがひと鳴きするまで三分程待ちました。
『おや? これはこれは、お出迎えもせずに失礼致しました。
どうぞお入りくださいませ』
私の声が大きかったのか、フィーさんの鳴き声に気づいたのか、扉が開き中からは神主さんのような格好。社殿というより神殿に神主さんとは違和感を感じるけど、この神主さんも金色に輝くウェーブ掛かった髪が腰までのびる美形さん。優しさが滲み出ている。
『いいえ、神主ではなく神殿庁に所属する神官です。
AgettoAdolfEngdahlと申します。
どうぞアゲットとお呼びくださいませ』
「あ、は、はい! すみません! 声に出てましたか!
ルナです、よろしくお願いします」
『ふふふ、どうぞ中へお入りください』
促されて一歩脚を踏み入れると、外観からは想像のつかない広いひろい造りの宮殿。どうなっているのかなんて聞かなくてもわかる、魔法の効果でしょうけど、何百人と入れるでしょう広さで教会のイメージとも違っていて神殿は見たことないけど豪華絢爛煌びやかとも少し違った、やはり教会のような?うーん……、反対側に扉がありそちらへと進むとお洒落なカフェのようにナチュラル女子が好きそうな空間になっている。
『アゲット、外にスキロスとミアが転がっていたが……』
『あぁ、またですか! はぁ、申し訳ありません。 何度注意してもイタズラか昼寝ばかりでして、そのくせ夜になると何を思ってか走り回ってドタバタと……、神々が可愛がるのですっかり怠け者になってしまって……はぁ
申し訳ありません。お掛けになってお待ちいただけますか、少々失礼いたします……はぁ』
大変力のこもった言葉に大変さが滲み出ており、一同何とも言えない感情で見つめるしかない。
「大変そうですね……」
『いつもあんな具合いなのだ。スキロスとミアがいつも何かしら仕出かすからな、くくくっ』
「スキロス? ミア?
さっきのかわいい子達でしょうか?」
『さきほどあの二人の額に宝玉があるのは気づかれましたか?
額に藍晶石がある白犬がスキロスで黄水晶の狐がミアですよ』
「宝玉? ごめんなさい、わかりませんでした。」
『貴女がたは毎度毎度、なぜ同じ事を私に注意させるのですかね! 今日は大切なお仕事があると伝えたはずですがね! 分かっているんですか! 今朝早くに取りに行ったはずの祷花はどうされました! まかさ、何処かに放置してはおりませんよね? さあ! お出しなさい! 』
美形さんとヴァルトさんから話を聞いてるとドアの外から聞こえる声。ルナとしては小さな子達が叱られるのが心配になってしまうが、残りの者達は馴れたこととばかりにエリーに御茶の用意を頼んでいる。
「な、なんだか、大丈夫でしょうか、スキロスちゃんとミアチャン怒られて……」
『暫くたてば戻ってくるゆえ気にせず茶でもして待てばよいぞ』
「ええぇ、」
『さぁ、ルナ様もどうぞお飲みくださいませ』
ふわふわと甘い香りに切り替えの早いことに意識はそちらへと移る。しかたあるまい、お茶といえば茶葉!茶葉といえば植物なのだから、何より未知の環境での植物はわくわくするのだから。呆れるならば呆れれば良い!オタクと言いたければ言えば良い!えぇ、えぇ!オタクですよ!
ご覧ください。ふんわりと甘い香りにワインレッドのティー、ティースプーンに乗せられたラズベリーのような粒々、それをティーに入れ混ぜるとスーッと溶けて一瞬キラキラとした七色の光が弾ける。地球にはない素材間違いなし。クンクンと鼻で辿る姿は滑稽だろう、何度目かと味わう生暖かい視線にはもう慣れました。
『ルナ様のは特別にキラキラと光る果実を加えさせていただきました。若い女性に人気のオプションなんですよ』
「エリーさんありがとうです。 皆さんの果実とは違うですか?」
『Savitanteaと言います。味や物事態は同じですが、ルナ様のスプーンに乗せてある実は特別な魔法水を使用されて育ったので美しい変化が表れるそうですよ。勿論お身体に害はありませんのでご安心くださいね』
「凄いですね! いただきます!」
ここでヴァルトさんの解説によると、サビタンティーの原料であるサビタンというのは樹で葉はそのまま茶葉としたり薬草に、実は苺のような甘さを持つためそのまま食すほかジャムや料理に、細枝に関しては甘く、外皮を削り必要な手を加えることで砂糖の代替品になるとのこと。
イメージとしてはブラジルのStrawberryGuavaかと…… 。
「キラキラ綺麗で甘さもクドくない程度だし美味しいです!! これなら氷だしでも、水だしでも美味しいですね! きっと! それから……」
目を輝かせて美味しさと素材の活用方法に心踊らせている姿にニコニコと笑顔で話しに乗って他にも案をだしてくれるエリーさんと、少々驚きながらも慌ててメモを取るヴァルトさん、相変わらず『幼いのに賢いのだな』なんて感心しながらも微笑みを浮かべる美形さん。昨日の眉間のシワが夢だったのかと思える麗しいお顔です。
『おそくなりまして大変失礼致しました』
約15分ほどですかね? お外で叱っていたアゲットさんの怒りが納まったのか、両腕にダラーンと脚をのばした仔犬スキロスさんと仔狐ミアさんを抱えている。美形さんよりも線の細さから、見ようによってはスレンダーな女性。それに加えて愛らしい二匹が加わると女優モデルも真っ青のとんでもない威力の絵になる。が、問題がひとつあります。
彼女……じゃなくて、彼の腕にいる小さな獣さんは絶賛ガジガシ中。アゲットさんの腕にガジガシとかじりついています。
「あ、あの、大丈夫ですか……」
『アゲット……出血する前に離してやったらどうだ……』
『ははは! 少々お待ちを! 』
ガツンッ ガツンッ
『クゥゥ』『グゥッ』
『お待たせ致しました! さっ、本日は神への問いかけと伺っておりましたが宜しいでしょうか?』
後ろを向いたアゲットさんは躊躇いなく拳骨を落とし、二匹から手を離して再び美しい笑顔をくださいました。憐れな二匹は短い前足では脳天に届かないものの頭を抱えひっくり返ってドタバタしていました。子どもが駄々をこねているようにしか見えない。
可哀想だけれど愛らしい……
『ああ、ルナのことで相談があってな』
『承知致しました、ではこちらへお願いいたします』




