第8話 傭兵酒場の主
サグの遺品を調べていると、野次馬から大きなどよめきが上がった。
彼らは死体ではなく、酒場の奥に注目している。
そこには赤い髪の女戦士がいた。
防具は最低限しか着けておらず、鍛え上げた肉体を惜しげもなく晒している。
露出した肌を魔術刻印の刺青がびっしりと覆い尽くし、独特の威圧感を醸し出していた。
(これだけの刻印……一体どれだけの金がかかっているんだろう。身体の負担だって大きいはずだ)
女戦士が俺のもとまで歩み寄ってくる。
そして冷めた目で俺に尋ねた。
「サグを殺したの、あんた?」
「そ、そうだけど……」
「ちょっと来て。話があるから」
女戦士がいきなり俺の腕を掴んで引っ張ってきた。
強引な行動に俺は驚く。
「ちょっ!?」
踏ん張って抵抗しようとするも、俺の身体はどんどん引きずられていく。
怪力の祝福があるのに勝てないなんてどうなっているんだ。
魔術刻印には身体強化もあるらしいが、そこまで強力なものなのか。
混乱する間に、俺は酒場内の別室に放り込まれた。
薄暗くて何もない部屋だ。
扉を閉めた女戦士は煙草をくわえる。
指を鳴らすと煙草の先端に火が点いた。
しばらく煙を味わった後、女戦士は気だるそうに名乗る。
「あたしはレニ。傭兵酒場の主人だ。あんたの名前は?」
「……アルフ」
「そう。よろしくね、アルフ君」
レニが手を差し出してくる。
俺は恐る恐る手を握った。
その瞬間、体が浮いて壁に叩き付けられた。
あまりの衝撃に息が詰まり、意識が飛びそうになる。
「が……っ!」
「あたしさ、サグに金を貸してたんだよね。それで借金返済を名目に、色んな仕事を押し付けるつもりだったんだ。あんたが殺したしたせいで計画が台無しだけど」
「あいつに、喧嘩を売られたんだ……決闘は合法なんだろ。俺に罪はないはずだ」
俺はふらつきながらも立ち上がる。
レニは煙草を吹かしながら天井を眺めていた。
「罪はない、か……うん。まあそうだね。だけどさ、世の中そんなに甘くないんだ」
刹那、レニの手から煙草が飛んでくる。
ちょうど俺の眼球を狙う軌道だったそれを躱す。
それを予想していたかのように、レニの蹴りが腹に突き刺さった。
俺は身体を折って嘔吐する。
そんな俺の前髪を掴み、レニは静かに要求してくる。
「アルフ君には、サグがやる予定だった仕事をやってほしいんだ」
「断ると言ったら?」
「引き受けたくなることをする。君には拒否する自由があるけど、こっちにもワガママを通す自由がある」
「――ふざけんなよ」
理不尽な展開に俺は怒り、至近距離からレニの顔面を殴る。
拳は頬に直撃するも、彼女は平然としていた。
人体が軽く破裂する威力を込めたにも関わらずだ。
「えっ」
「良い祝福持ってるじゃん。あたしには効かないけど」
そう言い終えたレニの拳が俺の顎を打つ。
脳が揺れる不快感と共に、視界が暗転した。




