第38話 暇つぶし
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静まり返った深夜、トマス邸の客間に四人の人物がテーブルを囲んでいた。領主トマスの隣りに衛兵のカトレア。向かいの席に、トマスの兄で政務補佐を務めるゲイター。隣りにゲイターの息子で実務に明るいパーシーが座っていた。
カトレアとトマスから、娘ダリアと貴族が手を組んで起こしたディジー暗殺未遂事件を聞き、ゲイターは両手で顔を覆い項垂れていた。一方のパーシーは腕を組んで、茫然と天井を見上げていた。
「ダリアは罪を犯したが、不満のある貴族を放置していたわたしにも責任の一端がある。幸いディジーは無事だったので、怒りは収める事が出来た。ゲイターとパーシーを呼んだのは、謝罪を要求するためではない」
トマスは落ち着いた口調でパーシーに言った。
「しかし一つ間違えばディジーの命が失われていた。謝って済む問題ではないよ」
俯いたままのゲイターを見つめて、パーシーが答えた。
「ダリアの事は追い追い結論を出そう。差し迫った案件は、ダリアに協力して盗賊を引き入れた貴族たちだ。わたしに不満を持つとは言え、後ろ暗い連中と付き合いがある者はいずれ弱みを突かれ、領地を蝕んでいく。まずはその貴族たちをあぶり出して排除しなければならない。そして先延ばしにしてきた貴族たちの不満を聞き、徐々に解消していく道筋を示さねばならんのだ」
トマスの発言を聞き、ゲイターはゆっくりと顔を上げた。
「わたくしはそろそろモリエスの任務に戻ろうと思うのですが、よろしいでしょうか?」
カトレアが立ち上がり、敬礼をして言った。
「ああ。遅くまで引き留めて悪かったな。くれぐれもディジーをよろしく頼む」
トマスは敬礼を返し、カトレアを見送った。
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通りに残った馬車の轍を辿りながら、目的の館へと足を運んだ。窓から漏れる明かりが眩しくなった辺りで、あたしはアイマスクを下げクレアの手を握った。手をつないでしばらく歩くと、ドアの開く音が聞こえ、人が出て来た。
「お二人とも、どうしてこちらへ?」
館に到着したところで、ちょうどカトレアと鉢合わせたようだ。
「お店がどこも閉まってて、暇だからあなたを追ってここまで来たのよ」
クレアがあたしの頭を撫でて言った。
「ふふ。暇つぶしですか。それなら、わたくしにご提案があります。聞いて頂けますか?」
カトレアは苦笑して言った。
「面倒事は嫌だけど、聞くだけ聞くわ。言ってみて」
クレアは馬車の座席にあたしを座らせて言った。
「領主様は、お嬢様を暗殺しようと結託した貴族たちをあぶり出して排除しようとしています。ですが領主様たちが動くと角が立ち、下手をすると領地運営が成り立たなくなってしまいます。そこで、通りすがりの正義の味方、エレナ様の登場です。悪者たちをぶった切り、悪の芽を潰して頂けませんかねぇ?」
カトレアの提案に、クレアは軽く吹き出した。
「エレナ、どうする?」
「悪者を倒すのは面白そうだわ。でも都合よく利用されるのは嫌。労働に見返りは必要よ」
「引き受けてくださるなら、今すぐ領主様と交渉して参ります。クレア様はいかがですか?」
「私はエレナに従うわ」
クレアはあたしの隣りに座って手を繋いだ。
「わかった。とりあえず領主と交渉して来て。今夜の寝床と朝ご飯は確定要件よ」
あたしの返事を聞くや否や、カトレアはドアをノックして館の中へ入って行った。
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ディジー暗殺を狙った貴族たちのあぶり出しと排除方法に頭を悩ませていた三人にとって、舞い戻って来たカトレアの提案は渡りに船だった。トマスは藁にもすがる思いでクレアとエレナを迎え入れた。
「まずはディジーを守ってくれて感謝する。出来る限りのお礼はするつもりだ」
「その件はもういいわ。ディジーにお返しはもらったから。それよりも貴族のあぶり出しと排除の件よ。見当はついているの?」
「首謀者はディジーの従姉のダリアだという事だが、結託した貴族の名を素直に白状するかどうか。自らの関与もはぐらかす恐れもある」
トマスはクレアの質問に、苦々しい顔をして答えた。ゲイターとパーシーは同時にため息をついた。
「ダリアに会わせてもらえれば、私の魔法で有無を言わさず白状させる事が出来るわ」
クレアの言葉を聞き、トマスはゲイターとパーシーに視線を合わせた。二人とも無言で頷いた。
「今夜はこれくらいにしよう。明日の朝食にダリアを連れて三人で来てくれ。ディジーの件は気づいていない振りをして、客人の二人をその場で紹介する。ダリアは戸惑うかも知れないが、あとは君の魔法に任せる事にしよう」
クレアは頷いて、エレナの頭を撫でた。
「少し気が早いが、貴族のあぶり出しと排除が成功したら、わたしに何を望む?」
トマスは屈んで、アイマスクをしたエレナに尋ねた。
「そうね。成功したら、クレアと相談するわ。それでいい?」
エレナはクレアの手をつかみ、強く握った。




