冒険者ギルドで働こう!
食事処<明けの明星>では話しに花を咲かせた。ミントさん、マンゼフさんもすごく優しいギルドに関するいろいろなことを教えてくれた。
ギルドは午前中はクエスト依頼が多いこと。午後は完了確認の業務が多いこと。最近ギルドで話題になっているパーティなど話題は多岐に渡った。
お昼からはマンゼフさんとともにクエストの完了確認と素材の検品作業を手伝うことになった。
「カインちゃんは冒険者だったからわかると思うけど、素材の検品作業と完了確認がギルドで一番大事な仕事と言っても過言ではないわ。完了していない状態で完了のスタンプを押しちゃうと依頼してくれたお客さんにも迷惑がかかっちゃうし。しっかりと頼むわね。」
まっ素材をごまかすような輩はわたしが締めるけど。マンゼルさんが首をコキコキと鳴らした。
「今日は初日だし、カインちゃんが受付して頂戴。素材の検品は私がやるから。」
適当に頼むわね。分からないことがあったら聞いてちょうだい。とぽんと肩をたたき検収室へ入っていった。
◇
受付をこなしていると、見知った顔の男が話しかけてきた。顔を見た途端、背中に嫌な汗が出る。
「おう。カインじゃねえか。こんなところで働いてたのか。無職を満喫しているかと思ったぜ。」
ニヤニヤしながら嫌みを言うのはイグニスの槍パーティリーダーのルークだ。
「相変わらず性格が悪いなルーク。それでギルドに何しに来たんだ。」
正直ルークの顔なんて見たくない。ルークは俺を追放しておいてどんな気持ちで話しかけてきているのだろうか。
「90Fに挑戦する前に、おまえの替わりにイグニスの槍に新しく入ったメンバーを紹介しようと思ってな。盗賊のニコラだ。カイン。お前と違ってニコラは俊敏性が高いから活躍してくれそうだぜ。」
「はじめまして。盗賊のニコラです。無能なカインさんの替わりに新しくイグニスの槍に参加しました。もう会うことも話すこともないですが、よろしくお願いします。」
皮肉たっぷりの自己紹介をしてくるのは新メンバーのニコラだ。ニコラは茶髪で目も茶色だ。盗賊ということもあり小柄で細身。魔法使いのルキナと同じくらいの身長だろうか。
到底攻撃力が強いようには見えない。
イグニスの槍の槍のパーティ構成を考えると必要なのは絶対的に前衛のはずだ。盾役がいなくてあれだけボスに苦戦していたことをルークは覚えていないのか。
「てっきり僕の代わりには前衛の盾役を加入させると思っていたけど、どちらかというと後衛役の盗賊を入れたんだな。」
「はァ? なに雑魚カインがえらそうに言ってるんだよ。無能が俺に意見しようってのか。」
「いや。意見するとかじゃなく。事実だろう。」
「俺はなカイン。1から90Fに到達するイグニスの槍を作ってきたんだよ。おまえごとき、ギルド職員の雑魚が偉そうに口出すんじゃねえよ。」
だったら一々俺の前まで説明しに来なくてもいいじゃないかと思う。
「少なくとも、前衛はルークと戦士アパムしかいないんだから、これ以上後衛を入れてもボス戦では陣形が破綻するだけだろう。90Fは下見だと古龍が3匹は出現するはずだ。盾役が2人しかいないのにどうやって攻撃を防ぐんだ。」
「無能のくせにいちいち口をはさまないでください。嫉妬ですか。」
ニコラが便乗して攻撃的な言葉を投げかけてくる。正直少しでもイグニスの槍に戻りたい気持ちがなかったかと言われれば嘘になる。その気持ちも一切消えてしまった。
もう勝手にしてくれ。
隣の窓口で心配そうな顔をしているミントさんが会話を遮った。
「カインさん、もうほおっておきましょうよ。今はギルドの職員なんですから。ルークさん、ニコラさん依頼受付は終わったんですからあまり業務の邪魔しないでくださいね。ギャラリーも集まってきていますし。」
他の冒険者もNo.1パーティである『イグニスの槍』の揉め事には興味津々のようだ。好奇の目で見られている。
「カイン。謝るなら今のうちだぞ」
今にも剣を抜きそうな剣幕でルークがにらむ。
「僕がなにを謝るんだい。イグニスの槍の活躍を応援してるよ。」
「すまし顔ですけど、この人めちゃくちゃ悔しいんですよ。なんせイグニスの槍を無能だから追放されたんですから。ルークさん雑魚の相手して時間使うの勿体無いです。はやくダンジョンに行きましょう。他のメンバーも外で待ってますから。」
追放されたのは事実かもしれないが、何を後悔することがあるのだろうか。一切話し合いには応じなかったのだから、なにも後悔する要素はない。今はギルドの職員なのだから。
「そうだな。まあ頑張れよカイン。せいぜいギルドでは足引っ張んなよ。またクビになったら荷物持ちとして雇ってやってもいいぜ。」
ルークは捨て台詞をはき笑いながらニコラとギルドを出ていった。
遠巻きにこちらを見ていた他の冒険者たちがカインはクビになったといううわさは真実だったんだと話をしているのが聞こえてくる。
ルークがいなくなるとミントさんが泣きそうな顔でつぶやく。
「カインさんはわたしたちの仲間で、無能でもなんでもありませんから。そんな事を言う人は私が許しませんからね。」
怒っているミントさんの顔もかわいい。
「ミントさんありがとうございます。僕は全然気にしていませんから大丈夫です。それより、イグニスの槍は90Fは攻略に失敗しますから。そちらのほうが心配です。」
「?? 攻略失敗するってなんで分かるんですか? 」
「いいですかミントさん、前提として魔獣は人間よりも強いんです。だからこそわれわれ冒険者はパーティを組んでダンジョン攻略をしています。もし人間より強い魔獣の数がパーティ人数より多い場合はどうすれば敵を撃破できると思いますか。」
「ううう。わからないです。どうするんですか。」
「様々なシチュエーション・敵の特性にもよりますが、部分的に数的有利を作りだし各個撃破が一番手っ取り早いです。全体を相手にしてると数の差で押し切られますから。ボスが3体いて前衛が2人しかいない。となると、残った1体が後衛に攻撃しますよね。そうなるともう陣形が崩壊する可能性が高いんです。」
「なるほど~さすがはカインさんですね。」
ミントさんは腕を組みふむふむ言いながら話を聞いている。
「それに。イグニスの槍はパーティ全員個性が強く、協調性があるタイプではないので…たぶん90Fまでいくことも危ういかもしれません。」
「すごい分析ですね。たしかにそう言われるとそんな気がします。」
数年間組んでいたパーティだ。うまく切り抜けてほしいとは思うが望みは薄いだろうな。
「ザワザワしていて今は誰も受付しに来ないと思いますので。念の為、副ギルマスのマンゼフさんに報告しておきますね。」
と言いミントさんは検品室へ去っていった。
周りを見渡すと物珍しいものを見る目で俺を見ている。確かに。こんな状態で俺に話しかけられる冒険者はいないだろうな。納得の雰囲気だ。
◇
先程の騒動から数分たっただろうか、冒険者は遠巻きにこちらを見ているだけで、誰も受付にはこない。
そんな中、「今、受付しても大丈夫かしら。完了確認をお願いっ。」とB級冒険者<エンリルの弓矢>のパーティが申し出た。依頼書を見ると40Fのボス骸骨ロード討伐で、ドロップアイテム骸骨ロードの刃を検品してほしいらしい。
「間違っていたら申し訳ないけど。あなた、イグニスの槍のカインさんよね?」
「はじめまして。はい、カインです。」
「やっぱり。カインさんと話してみたかったのよ。わたしはエンリルの弓矢のリーダーミナト。あなたイグニスの槍を追放されたってほんとう? 」
「…はい。今はギルド職員としてお手伝いをしています。」
「ルークたちが偉そうに、カインは無能だから追放してやったっていろいろなところで言いふらしてるわよ昨日バーで聞いたもの。」
噂をされることはしょうがないとは思っていたが、まさかこんなに早く噂になっているなんて思いもしなかった。
「もしよかったらなんだけどさ、わたしたち『エンリルの弓矢』とパーティを組まない? パーティメンバーのシンラもユキナもカインさんと一緒にダンジョン行きたいって話をしていたのよ。カインさんはすごいっていつも話題にしてるの。」
『エンリルの弓矢』はエルフの女性3人で組んでいるパーティだ。強くてかわいいエルフ三銃士だと冒険者界隈では話題になっていた。
「ありがたい申し出ですが、今はギルド職員として精一杯がんばっていますので、残念ですがお断りさせていただきます。」
さすがに3カ月は働くと約束したし、すぐに辞めるなんてできない。拾ってくれた恩もある。
「そう…残念ね。私たちはカインさんのことをすごく評価してるのよ。アタッカーもサポートもできて。加入してくれたらすごくパーティのバランスがよくなると思ったのに。」
エルフ美人3人組にパーティ参加を誘われるのは光栄だ。エンリルの弓矢は3人ともエルフという種族ということもあり、前衛が不足しているのだろう。
「休みの日は助っ人でもなにかしら手伝えることもあるかもしれないから言ってくれ。ところで、検品は骸骨ロードの刃だと明日には検品が終わると思うから、明日の午前中にでも報酬を受け取りに来てほしい。」
「ありがとう。明日受け取りにくるわ。それに、お言葉に甘えて今度お誘いさせていただくわ。ちょっと面倒な依頼があってすごく困ってるのよ。」
「そうしてもらえると助かる。なにせギルドは人手が不足中だからな。宿屋の部屋番号を渡しておくから連絡してくれ。」
「こちらこそ助かるわ。今日の夜にでもお邪魔させてもらおうかしら。」
じっと目を見つめながらミナトからも連絡先を渡される。それにしてもエルフは美形だというのは間違いない。太陽のような金の髪。宝石のような金色の目。色気を感じる眉毛。スラッとした姿は誰しも見るものを虜にする。絶世の美女と言っても過言ではないだろう。
「19時以降であれば部屋にはいると思う。あいにく狭い部屋だし、少なくとも休日しか手伝えないぞ。」
「それでも十分よ。それじゃあまた後で。」
◇
それから遠巻きに見ていた他の冒険者も受付を済ませていった。カインには直接なにも言わないが、なにか聞きたげな目で見られるのは気持ち良いものではない。
17時の鐘がなりギルドが閉まる時間となった。やっと長い一日が終わった。
「カインさん。今日はお疲れさまでした。」
「こちらこそミントさん今日はいろいろと教えていただきありがとうございました。」
「私はちょっとしか教えていないですよ。それにすごく仕事も早くてさすがカインさんです。明日からもよろしくお願いしますね。」
僕はうなずくと、ミントさんは満面の笑みをうかべた。
「よかったです。初日でやっぱり冒険者に戻りたいと言われたらどうしようってずっと不安だったんです。」
「拾ってもらった恩もありますし、そんな急に辞めたりはしませんよ。まずは業務を一通り全部できるようにがんばります。」
ミントさんがギュッとカインを抱きしめた。
「カインさん。私はカインさんと一緒に働けて本当に幸せなんです。何も知らない人から嫌な事を言われたりするかもしれませんが、私が守りますから。」
急に抱きしめられ動揺する。心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
「ミントさんありがとうございます。僕はがんばりますよ。メンゼフさん、マンゼフさんにも拾ってもらった恩返しをしないといけませんから。」
ミントさんの頭をぽんぽんする。もふもふのミントさんには癒やされる。
「あんたたち。営業時間が終わっててもここはギルドよ。いちゃつくのやめなさい。」
メンゼフさんが扉の奥から目だけを出して、こちらをじっと見ている。
「私にもカインちゃんをギュッとさせない~」
慌ててミントさんがカインから離れる。メンゼフさんに抱きしめられると筋肉がすごいし胸毛が顔に当たる。
「メンゼフさん痛いですって。」
「なにを言ってるのよ。あんたはわたしたちから愛されてんのよ。減るものじゃないし良いじゃないの。それにしても、あんた触るといい筋肉してるわね。」
「冒険者だから鍛えているのは当たり前ですよ。」
ふっと力を入れ、メンゼフさんの抱きしめを力でほどく。
「この後予定があるので、ミントさん、メンゼフさんお先に失礼します。」
とあいさつし、カインはギルドを後にした。
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