古びた箱②
翌朝、また、腹部の一撃で目が覚めた。目の前には、レイちゃんがいる。俺は、寝ぼけた目で、レイちゃんの瞳を見つめた。
『ああっ‼︎レイちゃんだ‼️』
思わず大声を出した。レイは、キョトンとしている。昨日、見たレオナルドダヴィンチの絵の聖母の瞳は、まさしくレイちゃんの瞳と同じだ。これは、偶然か。それとも何かあるのか。俺は、再び、あの絵をテーブルの上に広げた。中央に座っている聖母の瞳。やはり、レイちゃんの瞳に似ている。もちろん、絵の中の聖母とレイちゃんでは、年齢が違う。しかし、よくよく見ると、瞳以外にも、顔の輪郭や鼻の形など似ているところがある。俺が絵に集中していると、レイちゃんが覗き込んできた。
『この絵、どうしたの?』
『ある人から貰ったんだよ。古い絵だけど、なんだか心を惹きつけられちゃうんだ。』
『へー、レイもこの絵、好きかも。だって、ちひろちゃんが描かれてるから。』
えっ!そんな馬鹿な。どこに俺が描かれてるんだ。
『どこに、俺がいるの?』
『真ん中がマリア様。そして、左の赤ちゃん、ちひろちゃんにそっくりよ。瓜二つ。右の赤ちゃんは、十字架を持ってるから、キリストね。右の大人の人は、天使ガブリエル。』
えっ!左の赤ちゃん。これが俺だというのか。そう言われて見ると、そう見えないこともない。しかし、レイちゃんの洞察力は相変わらず鋭い。そして、絵画の知識も持ってるとは、唖然としてしまう。
『レイちゃん、この絵のこと知ってるの?』
『だって、有名な絵画と同じだもん。でも、ちょっと違うのは、ちひろちゃんが描かれてること。他にもあるよ。』
『そうなの?何が違うの?おじさんには、全然分からないよ。』
『多分、この絵は試しで描いたものって感じ。だから、色々と違うところがあると思うの。』
とても三才の子の発言とは思えない。
『ぼんちゃん、信じてないでしょ。』
レイちゃんの口が膨らんでる。
『そんなことないよ。でも、どうして、これが俺なの。理由は似ているからだけでしょう。』
『ちがうよ。似ているのもあるけど、ちゃんと書いてあるもん。』
『えっ、書いてあるって。何が書いてあるの?』
『名前よ。』
『名前って。この絵の中に名前が書かれてるっていうのかい?』
『そう、書いてあるよ。4人の名前が。はっきりと。』
俺は、絵を隈なく見たが、文字などどこにもない。どういうことだ。
俺には全く分からない。降参だ。
『全く分からないよ。』
レイちゃんは、得意そうな笑顔で答えた。
『ここと、ここと、ここと、ここ。』
俺は指さされたところを見たが、全く文字が見えてこない。レイちゃんは、嬉しそうに、部屋を出て行った。しかし、すぐに大きな画用紙と、鉛筆を持って戻ってきた。テーブルの上の絵の横に画用紙を置き、鉛筆で何やら文字を書き始めた。
『ほらね。4箇所にこの文字が書かれてるの。』
確かに。絵に隠れているので、全く気がつかなかった。だが、書いてある文字は、全く読めない。何語かも分からない。レイちゃんは、これが読めるというのか。まるで暗号のようだ。
『レイちゃん、これ、読めたの?』
『うん。すぐ分かった。やったあ、ぼんちゃんに勝ったあ〜。』
レイちゃんは、また部屋を出て行った。そして、また、すぐに戻ってきた。その手には何かが握られてい。
『これ使えば分かるよ。』
レイちゃんの手には手鏡が握られていた。俺は、それを見て、ハッとした。レオナルドダヴィンチと言えば、鏡文字が有名なのだ。鏡文字とは、左右対象に書かれた文字のことである。レイちゃんは、それを見抜いたのだ。本当に、末恐ろしい子だ。俺は画用紙の文字に鏡を当てた。すると、暗号にしか見えなかったものが、くっきりと文字として浮かび上がってきた。イタリア語だ。
レイちゃんの言う通り、4人の名前が書かれている。マリア、ジーザス、ガブリエル、そして、なんと『chihiro』とはっきり書かれている。左側に描かれている赤ちゃんは、俺のことだ。体が熱くなるのが分かる。この絵は予言書なのか。ならば、中央の聖母マリアは、将来のレイちゃんを表しているのかもしれない。誰が、この絵をダヴィンチに書かせたのか。ハート軍のキングは、なぜ俺にこの絵を譲ったのか。謎は深まるばかりだ。
『レイちゃん、ありがとう。やっぱり、レイちゃんは天才だね。さすが、ちひろのお姉ちゃんだ。』
俺は、心から感謝した。




