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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
不老不死の魔女

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8 白い猫


 夕方になってクラウディオは館に戻ってきた。


「ただいまー」


 まだ仕事中のヴィルヘルムの書斎にやってきて、クラウディオは挨拶をした。

 

 身に着けていた外套を脱ぎすててソファの上に放りだす。

 

 そしてソファに座りこみ一息ついた。

 

 あまりの遠慮のなさにヴィルヘルムは苛立って叫んだ。

 

「ここはお前の部屋じゃないんだぞ。与えた部屋で寛げ!」

 

「やーん、しばらく俺がいなかったからヴィルヘルムが寂しがっているんじゃないかって思ったんだよ」

 

 それにヴィルヘルムははっと笑った。

 

「誰が寂しがるかっ!」

 

「おやおや、幼い頃は俺が外出するといつも泣きじゃくっていたくせに」

 

 ぷくく、とクラウディオはヴィルヘルムの昔話をした。


「いつの話しをしているんだ。俺はもう19の男だぞ。若づくりで見境なく女を口説く不貞な輩を寂しがるわけがない。むしろせいせいする」


 ヴィルヘルムははんと笑った。


 クラウディオは幼い頃に、叔母の紹介で家にやってきていた。

 

 ユリアン国で神経医学を学んでいたから、神経症を患っていた母を診ていた。

 その片手間で、クラウディオはヴィルヘルムの面倒を見てくれていた。

 はじめは良い友人としてすごし、兄のように懐いていた時期もあった。

 

 しかし、年を重ねるとクラウディオがかなりの女たらしで、あちこちの貴族と浮名を流しているというのを知った。

 しかも、かつての友人の姉にも手をだしているようで苦情の嵐が来たこともあった。

 

 今は舞台女優の恋人がいるらしく、時折彼女との逢瀬を楽しみ外出しているようであった。


「ところで椿は?」


 クラウディオはきょろきょろとあたりを見渡した。


「さぁな、書庫なんじゃないか?」

 

「うーん、さっき書庫にはいなかったんだよね。ヨーゼフも見ていないて言うし、部屋にもいなかったし」

 

 その為ヴィルヘルムの書斎にいるのかなと思いやってきたのだがいなかった。

 

 クラウディオは首を傾げながらテーブルの上の菓子をつまんだ。

 

「ねぇ、俺が留守中、椿とうまくやれていた?」

 

「さぁな……、お前と違い俺は怖がられているようだ」

 

「ふーん、怖がらせることを言ったんだね」

 

 クラウディオはじっとヴィルヘルムを見つめた。

 

「何を言ったの? 場合によっては許さないよ」

 

「別に大したことない」


 ヴィルヘルムは目を背けた。

 別にやましいことなどしていない。

 堂々とすべきだろうに。

 

「あのお菓子、椿が作ったものだよ」

 

 それを聞き、残った菓子を見た。

 確かにヨーゼフが作ったものではないというのが一目でわかる。

 形が少し崩れていた。


「彼女はね、ずっと君のことを気にかけていたんだよ。いつも助けてくれたお礼をしたいけど一言いうのも難しくて何かきっかけが欲しいて言っていた」


 けど、今の自分は何も持っていないし仕事についてもよくわからない。


 せめて、君の好きなお菓子を作ろうとして頑張ったのだろう。


「椿を探すよ。家のどこにもいないから、きっと外だよ」


 そう言いクラウディオは外套を手にとりそれをはおった。


「別に大丈夫だろ。子供じゃあるまいし」


「君は本当に想像力がないね」


 クラウディオは呆れたようにヴィルヘルムをにらんだ。

 

「いらないならもらうね」

 

 そう言い残った菓子をごっそりと奪っていっあ。

 

 ヴィルヘルムは苛立って髪をぐしゃぐしゃとかきだした。


「何だよ。邪魔するだけ邪魔して、言いたい放題いいやがって」

 

 面白くない。

 

 書類に目を通しても、集中力が途切れがちになってヴィルヘルムは舌打ちした。

 

「ヨーゼフ、外套を」

 

 執事に外套を出させ、ヴィルヘルムは館を出た。


  ◆◆◆


 夕方が過ぎ、あたりが暗くなっていった。

 街灯の明かりがつき始め夜の道を照らしていく。

 

 通り過ぎる人を捕まえては東海人の女を見なかった尋ね歩いた。

 身に着けていた衣装や特徴を思いだしながら説明し、ようやく手がかりが出てきた。

 

「昼にみたな。商店街の方で……、一人で不安そうに歩いていたよ」

 

 それを聞き、急いで商店街の方へ向かった。

 閉店時間になった店が次々と灯りを消していっていた。


 日中は人通りの激しい場所であるのだが、もう夜になりしんと静まり返っていた。

 

 ヴィルヘルムにはそれがとても寂しいもののように感じた。

 

(俺でもこう感じるんだな)

 

 それを考えると不慣れな異国に放り込まれた椿はどんなに心細くしているだろうか。

 

 内心焦りつつヴィルヘルムは足早に椿の行方を追った。

 

 商店街の通りをくまなく探したが椿の姿はなかった。

 

(もう別のところへ行っているのか?)

 

 確かに聞いた話では昼間といっていた。

 では、すでに別の場所に言っていると思った方がいい。

 しかし、他に思い当る場所が出てこない。


 にゃー……


 猫の声がした。

 すると目の前に白い毛並みの猫が鳴きながらヴィルヘルムにすり寄ってきた。


「……」

 

 ヴィルヘルムはそっと白猫を撫でた。

 

「なぁ、お前……東海人の女を見なかったか?」

 

 猫に質問する自分があまりに滑稽でヴィルヘルムは思わず自嘲した。

 

 にゃーと猫は鳴きヴィルヘルムの傍を離れた。

 向こう側の路地裏の方へ消えたと思うとそこでごろごろ言いながら鳴いていた。

 

 ヴィルヘルムは子猫でもいるのかなと路地裏の方へ近づいた。

 すると白猫は黒い人影に抱きしめられていた。

 その影はよくみると黒い長い髪をしていた。

 

「椿?」

 

 ヴィルヘルムがそう呼ぶと黒い影が顔をあげた。


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