7 Kamelie
椿自身、椿を育てたことがある。
庵の近くで、綺麗に咲かせた椿を見るのが椿の心の拠り所だった。
椿の花は好き。
花の終わりを迎える時、花まるごと一気に落ちていくから。
だから椿は願った。
あの花が全て落ちる時、私の命も終わる。
しかし、椿の花が全て落ちても彼女は生きたままだった。
そして次の年になり、椿を眺めてまた願う。
いつかきっと終わるのだと思えば、心のどこかが軽くなっていった。
(そんなこと、ヴィル様に言ったら困らせてしまう)
自分のこの考えが歪んでいることを椿は気づいていた。
ただ彼女はヴィルヘルムが見せてくれた椿をみて何を思ったか。
思わず目の奥が熱くなっていくのを感じた。
「つ、椿」
植物園で椿の花を見た瞬間、椿は涙をこぼした。
ヴィルヘルムは慌てて椿の様子を伺う。
「悪い。あまり好きじゃなかったか?」
「いいえ、いいえ」
椿は首を横に振った。
ヴィルヘルムからハンカチを渡されて椿は涙を拭く。しばらくして落ち着いたのか椿は微笑んだ。
「ありがとうございます。私、椿の花が好きになりました」
「好き……やっぱり苦手だったのか」
ヴィルヘルムは困ったように頭をかいた。
そうとは知らずに、椿に髪飾りを贈ってしまった。また新しいものを贈った方がいいのかと悩んでいると椿は「違います」と否定した。
「別の意味で好きになりました」
椿は照れながらいう。
今まで椿の花は終わりを願う花だった。
だけど、ヴィルヘルムから贈られた花になった。
2回も。
1回は椿の花飾り、2回はこの美しい椿の花を見せてくれた。
◆◆◆
夕食も植物園の近くのレストランで過ごし、ようやく2人は帰宅することになった。
帰りはへとへとでヴィルヘルムは馬車を拾い、帰ることとした。
馬車の中で椿は苗木を大事に抱えた。
先程の植物園で購入したものだ。
「帰ったら早速館の庭に植えよう」
ヴィルヘルムが言っていたことが嬉しく感じる。
しばらくして椿は「あれ?」と呟いた。
「どうした?」
ヴィルヘルムが尋ねると椿は慌てた様子で尋ねた。
「今日は私の役目は?」
まだヴィルヘルムのいう役に立つということが引っかかっていたようだ。
今更のことでヴィルヘルムは思わず笑った。
腹を抱えて盛大に。
ひとしきり笑った後にヴィルヘルムは椿の頬を撫でた。
「お前の役目は俺を休ませることだ。問題なく役目は終わったぞ」
「え、ええ」
椿は動揺をかくせない。
「でも、今日は私がしてもらってばかりで……私が楽しかっただけで」
混乱した様子でヴィルヘルムは目を細めた。
「それでいいんだ。お前のやりたいこと、好きなことを見られて俺は楽しかった」
椿は顔を真っ赤にした。
しばらくしてようやく椿は顔を上げた。
「こういうことははじめから言ってください」
少しばかり不服な様子だ。
「悪かった」
そう言いながら椿を引き寄せた。ヴィルヘルムの腕の中、とても暖かく心地よいのか椿は瞼を閉ざした。
1日歩き続けていた為、疲れがたまっていたようだ。
その寝顔をみてヴィルヘルムは穏やかな表情で椿の髪に触れた。
◆◆◆
2週間後に旅行へ行く。
ヴィルヘルムはその為に仕事を一気に片付けていっていた。自分が不在の時の指揮代理はフローエ夫人に依頼するとして、後は部下でまわせそうな内容を割り振りしていっている。
ようやく1日の仕事を片付けた後は荷造りである。
(ヨーゼフが適当にやってくれて大丈夫だろうが……)
馬車から降りて館へ戻ると椿が迎え入れた。
「お帰りなさいませ」
クラウディオからもらったエプロンを着て、ヴィルヘルムの帰り喜んだ。
「ああ……」
椿がそわそわしているようでヴィルヘルムは首を傾げた。
「あの、私からの贈り物を受け取ってください」
椿は決意したようにヴィルヘルムに箱を渡した。
渡し終えたらそのまま彼女は自分の部屋へ逃げてしまった。
「……」
ヴィルヘルムは書斎へ入り、外套をヨーゼフに預ける。手に持っているのは先程椿がくれたもの。
青いリボンを外して中を確認するとヴィルヘルムは思わず声を失った。
青い透き通るガラス細工のカフスであった。
左右にとりつけるために2つセット。
どこで何を払って得たものかはすぐにわかった。
あのガラス工房で、ヴィルヘルムに隠れて女性にお願いしたものだ。
「全く、自分の為に使えばいいのに」
ヴィルヘルムは困ったように笑った。
彼は2つを取り出して、シャツの袖口に留めた。
「うん、悪くない……」
ヴィルヘルムは目を細めて愛しくそれを見つめた。
(つづく)




