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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
夜の晩餐会

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1 医務室



 王都――【銀十字】で仕事に一区切りついた頃にヴィルヘルムは、医療室へ向かうよう言われた。


 検査結果の説明だろう。


 【人狼】としての本能を押さえつけているが、いつまた何が起きるかわからない。


 仕事に戻ってからヴィルヘルムは合間を縫い、採血に協力していた。


 生きた新鮮な【人狼】の血は珍しい為である。

 あまり良い気分はしないが、今後の役に立つかもしれないと従っていた。

 

 いや、骨髄採取はもうしない。1ヶ月前の骨髄採取はさすがに激痛で1日立てなかった。


 医療室へ行くと、そのまま部屋へと案内される。


 

「何でお前がここに」


 医務室にいた男を見てヴィルヘルムは明らかに怒りの声をあげた。


「やぁ、久しぶりだね」


 ハンス・フランケンシュタインは特に気にする様子もなく挨拶をした。


 研究員らしく白衣を身につけているが、手首には拘束具がついていた。


 マルクがそわそわしながら2人の様子を伺った。


「それにしてもびっくりした。まさか君が【人狼】だなんて……」


 ハンスは楽しげに話かけた。

 あまりに不快な様子のヴィルヘルムは冷たい声をあげた。


「くだらない話なら帰る」


 腹が立った。

 

 あの事件の後、まさか研究員として採用されていたなど知らなかった。

 拘束具が付いているから、【銀十字】も完全に信用している訳ではないとわかっている。

 

 だが、前回椿が入院した時点でいた可能性があると考えると心穏やかにはいられない。

 大事なことを黙っていた【銀十字】にも、公爵にも苛立ちが拭えなかった。


「君の今後の選択に幅を持たせたくなって呼んだんだけど」


 あくまで君の為と言わんばかりの台詞にヴィルヘルムは吐き出した。


「今のお前に殴る選択肢しか思い浮かばない」


 ハンスは肩をすくめて、テーブルの上に箱を置いた。開けてみると、中にあるのは2つの瓶であった。赤い紙と青い紙がとりつけられている。


「君の血を使って実験を試みて、仮説をひとつ作ってみたんだ。これは君にとっていつか使いたくなる仮説かもしれない」


 一体、自分の血を使い何を思いついたのか。


 ヴィルヘルムは気まぐれに耳を傾けた。

 あまりにくだらない、不愉快なものであれば殴ればいい。

 

「どんな仮説だ?」


 ヴィルヘルムは質問した。


「理性を維持した状態で【人狼】の力を表出させる」


「理性を? そんなことが可能なのか」

 

 ヴィルヘルムの反応にハンスは面白げに笑った。


「君の血は椿の血によって活性化された。なら沈静化させるのに椿の血は使えるだろうか……それを試みてみたところ、制御可能である仮説が生まれた。毒は毒をもって制するだっけ」


 ちょうどいい言葉が思いつかずハンスは首を傾げた。

 

「本当に可能なのか?」

 

「可能かもしれない。一応動物実験では……あ、君の骨髄を移植した【人狼】化したねずみね。10例中2例で成功できたよ。もう少し成分調整すればうまくいくかなぁ」

 

「10例中2例て、残りの7例はどうなった?」


 あまりに低い成功率にヴィルヘルムはため息をついた。

 

「2例は死亡、6例は同胞を捕食」

 

 その答えに、ヴィルヘルムは馬鹿らしいと首を横に振った。

 

「あまりにリスクが高すぎる……そこまでして使うメリットはないな」


「もし、椿が誘拐されたら使えるかもしれないよ」


 ピクリとヴィルヘルムは反応した。


「【人狼】の能力は、追跡能力がずば抜けている。嗅覚で、探し物ができる。通常の犬より広く、早く


 エーデルシュタインの隔離部屋にいた時、まだ【人狼】の本能が強かった時を思い出す。


 椿の甘く切ない匂いを感じ取れていた。

 どのくらいの距離にいるのか、椿が部屋にいるのか、庭を歩いているのか、とありありと脳内で想像できた。

 

 ヴィルヘルムは思わず考えてしまう。


 確かに誘拐された後に、行方がわからなくなった時に有用かもしれない。


 ヴィルヘルムが興味を持ったところでハンスは瓶の説明をした。


「赤の瓶か【人狼】の血を活性させる作用、青の瓶が沈静化の作用だ。さらに改良できればいいけど、実際使ってもらえるならデータがとれる」


 ヴィルヘルム自身を使った実験を申し入れているのだ。


「もし、【人狼】の能力を有効活用できたら、君は色んなことができる」


 まるで魅力的なことのように思えた。


「ですが、まだ安全性は確認できていません」


 マルクは話に入ってきた。


「使う際は、ヘル・ベルモンドと相談の上で決めてください。暴走のリスクはあります」


「大丈夫だよ。沈静化の瓶がある」


「効果が弱い場合もあるし、安全性だって……」


 マルクはハンスに呆れながら呟いた。


「大丈夫だよ。大量投与したら、全部の鼠が沈静化した。ひたすら青の薬を飲ませ続ければ、暴走は止まる」


「過剰投薬のリスクを考えろ」


 マルクは頭を抱えた。


「やはり、使用は待ちましょう。今回は薬の説明だけで……」


 薬を片付けようとしたマルクの手をヴィルヘルムは止めた。


「いや、一応受け取ろう」


 ヴィルヘルムは箱に手を触れた。

 内心考えたことがある。

 自分は、【吸血鬼】に勝てるだろうか。

 キリルはアルブシルヴィウスの民の中で高位の存在だった。

 クラウディオがいても勝てる見込みがあまりに低い。

 だが、【人狼】の力を使えたらどうなるか。


 いつか来るかもしれない戦いの為に必要な選択肢に思えた。


「ああ、そうだ。どうせなら沈静化の薬の濃度を濃くできるか?」


 ヴィルヘルムの質問にマルクは青ざめた。


「中毒のリスクがあり……」


「どうせ沈静化するまでひたすら飲み続けないといけないなら、量が少ない方がいいだろう」


 使うことは今は考えていない。


 だが、万が一利用して、他人を傷つけるリスクがあるなら沈静化を効率よく投与する方法を考えなければならない。


「いやぁ……実はここに濃度濃いめのがあるんだ」


「ハンス!」


 小さなアンプル、1回使い切りの薬をハンスは見せた。それにヴィルヘルムは手を伸ばした。


「いいですか! ちゃんとヘル・ベルモンドに相談してください!」


 ヴィルヘルムが立ち去る間際までマルクは叫び続けた。


 ◆◆◆

 

 執務室へと戻ると部下が動揺していた。


「何があった?」


 部下はおそるおそる報告した。


「学園都市フリードから応援要請です」


 街名を聞いてヴィルヘルムは胸騒ぎがした。


「【吸血鬼】が現れました。フリード支部の【銀の騎士】、【狩人】が対応中ですが数が多すぎて緊張状態……」


 部下はさらに続けた。


「エーデルシュタイン伯爵令嬢が【吸血鬼】に暴行され、フローエ男爵家の客人が誘拐されました」

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