お出かけした時のお話
あれから、もう一ヶ月が経とうとしていた。
誠も完全に異世界に慣れて、それなりに充実した日常を送っていた。ように見えた。
実際は、携帯のような便利道具を当たり前に使ってきた人が、手紙でやり取りしたり呼び出しに走ったりするような世界に耐えられるはずがなかった。
情報は新聞でしか手に入れられない。洗濯は全て手洗い。料理をするにもガスや電気などない。数日程度ならともかく一ヶ月もいると気分が悪くなってきた。
異世界に行ってヒャッハーしてる人のお話はよくあるが、正直精神異常者だと誠は思う。
「……ふー」
パタン、と分厚い本を閉じる。
誠の前には同じように分厚い本が大量に積み重ねられていた。
書かれた文字は異世界の言語だが、最近になってようやくスラスラ読めるようになってきた。
読んだ本の内容は、ちょっとした英雄伝だ。異世界云々が書かれてないかと希望を持って読んだのだが、異世界の『異』の字もなかった。
完全に手詰まり。最近は異世界から来たのが妄想だったのかと錯覚するようになってきた。
それだけこの世界に慣れ、それだけ元の世界の繋がりが見つからないということだが、
「マコトー! お嬢様がお呼びだー!」
「わかりましたー! ……あれ、剣はもう終わったよな?」
一ヶ月の間、誠はファニーに毎日剣を持たされていた。
理由を聞いても「そのうち」とか言って教えてくれなく、おかけで誠の腕は妙に筋肉がついてきた(毎日持たされる木剣は段々重くなっていた)
誠は本を置いたまま図書館を出て、ファニーの所へと向かった。
「遅いですわよ、マコト」
「すいません」
数分後、誠はファニーの部屋にいた。
ファニーの部屋にはメルヘンチックな人形が部屋の壁やイス、机に置かれている。これらはただの人形ではなく主を護る守護人形らしいが誠はこれらが動くのを見たことがない。
その人形を抱えながらファニーは言う。
「これから出かけるから、貴方もついて来なさい」
「……いや、まあ構わないけど、何故俺がついていく必要が?」
「行ったらわかる、としか私には言えないわ」
そう言うファニーは、心なしか震えているようだったが、誠は全く気づかない。
「それでいつ行くんですか?」
「今」
「早えよ! 昨日言えば良かっただろうが⁉︎」
「それじゃあ行きましょうか。どうせ貴方荷物なんて必要ないでしょ?」
「……ですね」
ファニーは人形を放り投げて部屋を出て、誠もその後ろを追う。
外を見ると既に馬車が待機していた。他にもごつい男が馬に乗って待っている。
「あの人たちは?」
「傭兵の方々ですわ。一週間の間私たちの護衛をしてもらいます」
傭兵はオノを背に背負っていたり手ぶらだったりと、全員見ただけでかなり強いとわかった。
「強そうだ。そしてお決まりだと傭兵が金で裏切って俺たちが死ぬという……」
「別にいてもいなくても変わりませんし、構いませんわ」
「いやいやいや、だったらなんで雇ったし」
誠のツッコミは無視して歩みを早めたので誠は慌てて後を追っていった。
「いやいいんだけどさ、こっちの方が楽だからいいんだけどさ」
「何を言ってますの?」
誠とファニーを乗せて馬車は今日も順調に進んでいた。
今日で三日経過して、ファニーが言うには明日目的地に着くらしい。
誠たちが乗ってる馬車は中の構造が自動車に似ていて、前半分の座席に誠とファニーが乗り、後ろ半分の座席部分に食料などの荷物が置いてある。誠は剣を置いてきたのでここにはない。
「いやー何のイベントもない移動もつまらないなーと」
「でしたら目的地を変えましょうか? すぐそこには龍が住むらしいですわよ?」
「ご勘弁」
そんな感じに時折雑談を交えながらも馬車は魔物や山賊に出会うこともなく快調に進んでいく。
ファニーは何か分厚い本を読んでいるので誠は暇を持て余してぼーと景色を見ていた、
と、外で傭兵が何かボソボソ喋っているのが見えた。見えただけで内容はわからない。
更に道の先から十人以上はいる山賊のような一団が見えた。
「ファニーさんファニーさん山賊が来た!」
「あら? ここまで平和だったというのに……まあ傭兵もいるし平気でしょう」
「……言いにくいんですけど、傭兵はさっさと逃げてますよ」
傭兵は己の武器を振るうでも、山賊らしき一団に警告するでもなく、一目散に馬を走らせ何処かへ逃げ出している。
だというのにファニーは動じることなく本を読んでいる。
誠はやばいやばいとブツブツ呟いているが、状況が変わるわけでもない。
そうこうしてるうちに山賊は馬車を取り囲み、馬を逃がしていた。
「ファニーさーん!? 明らかにやばいんですがどうするんですか!?」
「外に出ますわ」
「イエッサーってはぁぁぁ!?」
ファニーは本を抱えながら馬車から出た。
とてつもなく不安だったが誠も一緒に馬車から出る。するとバッチリ山賊の一人と目が合った。
山賊がニヤリと笑うのを見て誠もヘラヘラと笑う。別に可笑しいから笑ってるわけではないが。
それとは違う山賊が剣を向けて言う。
「命が惜しいなら動くなよ? おらてめえら荷物を運び出せ!」
「オスッ!」
えっさほいさと山賊は荷物を取って行く。
ファニーは山賊達に向かってこんなことを言った。
「荷物は好きなだけ取ってくださっていいので、そのまま帰ってくれませんか?」
山賊の一人、リーダー格であろう男は笑い飛ばす。
「馬鹿じゃねぇのか? 女は売り飛ばして男は殺す。それが常識だ」
「あかん、俺死んだ」
誠は逃げようと周りを見渡すが、山賊がこちらをチラチラと見ていて逃げ出す隙はなさそうだ。
ファニーは微笑みながら言う。
「言い方を変えましょう。ここにいる全員消し炭になりたくないならとっとと消えろ」
「……あぁ?」
「別に貴方達を叩き潰すことは簡単ですの。ただイマイチ加減が難しくて、下手すればマコト、私の仲間も消し炭にしてしまいそうで……ですので使いたくないのでどうかお引き取りください」
淡々と、何かの物語を語るようにファニーは山賊達に言う。
リーダー格の山賊はニヤニヤと笑いながら言う。
「じゃあ使ってみろよ。魔法か剣技かは知らんが、できるものからやってみろよ」
「……後悔しますわよ」
ファニーは拳を高く振り上げる。山賊達も各々の武器を構え、誠はファニーの後ろに隠れる。
「天より来たるは星々の恵み。黒き世界を照らす聖なる光よ! その輝きをもって我が敵をうち滅ぼせ!」
山賊達が強張るのを感じた。ファニーは拳を振り下ろし。
「せいっ!」
握っていた玉を、地面に叩きつけた。
「……は?」
「おい?」
誠や山賊達がポカーンとしながら地面を転がる玉を見る。
カッ! と玉が光り輝き辺りを白に染め尽くした。
「ぎゃー!」
「目が! 目がー!」
「ちくしょう! 閃光玉じゃねえーか!」
「み、見えん! 目が痛い!」
ギャーギャー山賊が喚く横をファニーは誠を引っ張りながら抜けて行く。ちなみに誠の目もやられていた。
「このやろっ!」
グチャ! と、誠の背中を何かが裂いた。
激痛が、走る。
「っがあああああああ!?」
「おい! 誰か当たったか確認してくれ!」
「見えるわけあるか! つーか見えてないくせにオノぶん投げんじゃねーよ!!」
どうも山賊の投げたオノが偶々偶然誠に当たったらしいが、誠はそれどころではなかった。
背中が今まで感じたことないくらい痛い。痛みで意識が飛びそうで飛ばない状態で、身体がろくに動かない。
「マコト!」
「い、いたぞそこだ!」
「どこだよ!?」
「ええい俺が捕まえる!」
「きゃ! ちょっと離しなさい変態!」
「とった! でも今どんな状態!?」
何かやってるが、誠にはそれを確認する手段がなかった。
しばらくして誠は誰かに引きずられていく。もう誠の身体の感覚はほとんど残ってなかった。
「おい、こいつどうする?」
「せっかくだ、女の目の前で殺してやれ」
「や、やめて! 離してよ!」
「おーい、こいつらの荷物にいい感じに剣があったぞ!」
「なんだその変な剣? まあいいや、それでこいつの眼をくり抜いてやれ」
「おーけー」
髪の毛を掴まれ、顔を上げさせられた。
目に入ってきたのは、泣き喚く少女と、笑う男達と、持ってこなかったはずの赤い宝石がある奇妙な剣。
それらを視認することはできても、そこから何かを考えることは出来なかった。
代わりに、うっすらとした意識でこんなことを思う。
(走馬灯なんて、本当は見れないじゃん)
剣が迫ってきて、視界が赤く染まった。




