追われてる時のお話
ドドドドドドドドドッッッッ!! と銃からしてるとは思えない音が鳴り響く。
サイボーグの持っていたサブマシンガンから出てきたのは、銃弾でもレーザーでもなく、水だった。
「いやどうなってんの!? どんだけ圧縮したらそんな威力出るんだよ!? そしてサブマシンガンなのに単発銃だ!!」
今誠達は街の上を移動していた。最初は人がいない所に行こうとしていたのだが、逃げる所がなくていつの間にか街に入っていたのだ。
彼らが水鉄砲を撃つ度に街の建物が壊れていくので、誠の頭に『損害賠償』という四文字が浮かび上がる。生き残れても借金地獄は勘弁してもらいたかった。
因みにエルシ達は人間ではありえない速度で移動している。車くらいなら余裕で追い越せそうな速度だ。
誠がそんな速度について行けるわけもないので、エビルに全力で引っ張って貰っている。
ジェットコースター(安全装置無し)に乗ってる気分だが、楽しむ余裕なんてない。
「これって何処まで逃げればいいの!? 地平線の彼方まで!?」
「そろそろ反撃したいところではあるが、こんな所で此方も力を出せば大きな被害が出るぞ!」
「エビル、蜃気楼! それであいつらの目を誤魔化す!!」
「そんなものが効くものか! 相手はロボだぞ!?」
「あのゴーグルにサーマル付いてるなら砂煙の時も見失わない! あいつらは肉眼で物事を見てるよ! いいから早く!!」
ぐにゃり、と周りの景色が歪んだ。エビルが蜃気楼を発生させたのだ。
「全員一斉にバラバラに逃げろ! どうも相手は問題を一々口にしないといけないみたいだから、バラバラに逃げれば数十秒くらいあいつらは止まってくれる!!」
言いながらも誠はエビルの向きを変えて建物の隙間に突っ込む。エルシと葉奈も別々の方向に逃げていく。
「逃げるのか? 隠れるのか?」
「隠れよう。相手の性能はそんなに良くないみたいだから、一度撒いてしまえばそれで大丈夫だろ」
エビルを左眼の石に押し込んで誠は鉄で出来た大きな箱に目をつける。ダストボックスだ。
臭いはあるが中身がなかったのは運が良かった。逃げ切るために臭い場所に何十分も居たくないからだ。
「(何故わざわざ我を眼に?)」
(声で気付かれたらアウトなんだよ!!)
……別に声じゃなくても心臓の音で気付かれるかもしれないのだが、流石にそこまで頭は回らないようだ。
トンッと誰かが着地したような感じがした。
(気付くなよ。頼むからどっか行け……!)
誠の祈りが通じたのか、その誰かは地面を蹴って何処かに跳んでいった音がした。
「…………ふぅ」
エビルを取り出し、ダストボックスから出る。
そこには、頭に耳のある一人の男がいた。
和服のような何かの赤黒い服を着た男は、こちらを見て驚いたようだ。誠も同じように驚いて動きが止まる。
ここで、誠は突然こう思った。
ダストボックスからいきなり剣を持った男が現れたら、俺ならどう判断するかな? と。
「っ!」
反応が早かったのは男の方だった。一切の躊躇なく誠に向かって拳を振るう。
「くっ!!」
「のわっ!?」
エビルが動くと、必然的に握っていた誠も動く。バランスを保てずにその場に倒れこむ。
誠に当たらず空ぶった拳は建物の壁てと当たった。
ゴバッッ!! というとんでもない音ともに、建物が吹き飛んだ。
「……………………は?」
「…………」
男は無言のままこちらへと向き直る。
「ま、待った! ストップ!! こちらから危害をくわぁぁぁ!?」
再度轟音が鳴り響く。反対側の建物も壊れて随分と見晴らしが良くなった。
「マコト、戦うぞ! 見た所ただの獣人だ。此奴を倒すことくらい今の我の力でも出来る!!」
「無茶言うな! お前の力って炎とか熱だろうが!! んなもん使ったら相手が死ぬわ!!」
「……何を言っているのだ貴様は」
突然、エビルの声色が変わった。誠の知らない、冷たい声に。
心臓が鷲掴みにされているかのような感覚がした。
「戦いは生きるか死ぬか。それだけであろう。死にたくなければ戦え!!」
「……ふざけんな。ふざけんな!! 出来るわけねえだろうが! 誰かを殺すつーことを、お前はちゃんと理解してんのか!!」
誠は構えることをせず、ぶらりと剣先を下に向ける。
エビルの冷たい声を吹き飛ばすつもりで、誠は叫ぶ。
「生きるか死ぬか? 馬鹿かてめえは! 人が死ぬことを生死だけで表せるとでも思ってんのか! 長く生きててそんなことも知らねえガキなのか、エビル!!」
「……くそっ!!」
グンッ!と剣先が突然男に向き、剣が莫大な熱を発し出す。炎が吹き出ようとしていた。
「ぬおっ!」
炎が吹き出る直前、誠が身体ごと捻るようにして無理やり向きを変える。炎は男にすぐ横を通り抜けていく。
男の方を見れば、拳を振るう直前だった。
今から回避行動は無理だった。その拳はあっさりと誠を吹き飛ばすだろう。
そう思った、直前だった。
「お父さん待って! その人間は敵じゃない!!」
振るわれた拳は、誠の目の前で止まった
全身から嫌な汗が出るのを感じながら誠は声のした方に目を向ける。
「……葉奈と、エルシさん? って、お父さん?」
「……葉奈。無事だったか」
男が安心したような声を出した。敵意など一切ない、何処にでもいそうな普通の人の声だった。
そんな声を聞いて、誠はへなへなとその場に座り込んだ。




