着いたばかりの頃のお話
「……あづい」
建物から出て開口一番にこれだった。
誠は忘れてたが、気温は赤道に近づけば近づくほど上がっていく。北上=寒くなると考えていた誠にとって予想外だった。
「暑いよ暑いよ〜。この暑さはエアコンが要るレベルだろ」
「本当に暑いですわね」
「溶けてしまいそうですね……」
ファニーは高そうなハンカチで額の汗を拭っている。マーチェは白衣を脱いだせいでその胸がさらに存在感を出している。
エビルは誠の腰に下げてあり、エルシは茶色の外套を着ようとしている。
「ってエルシさんちょっと待てい」
「…………?」
「いや、この暑さで何故に更に服を重ねようとする?むしろカーディガンを脱ぐところでしょ」
「こんな所で脱げなんてマコトさん大胆ですねぇ」
「黙れおっさん」
「ちょっと扱い酷くないですか!?」
騒ぐマーチェは無視しておく。
「まあそこらは本人が調整するのが一番だからな。そもそも人間と同じように熱さを感じるのかも知らねえし」
「…………」
エルシの表情に少し変化があったが誠は気付かない。エルシから背を向けるように誠は振り返る。
「それはそうとこの後どうするんですか? 俺は何も聞いてないんでずぼぉ!?」
言葉の最後がおかしなことになったのは、誠に誰かがぶつかってきたからだ。
ついでに言えば、その誰かの身長が小さくて、その頭部が綺麗に誠の鳩尾に頭突きするようになっていたからだ。
「ぐ、おおおぉぉぉ……」
「ご、ごめんなさい!」
声を聞く限りだと小さな女の子の声だ。もっとも、黒い外套に目深にフードを被っているので顔も見えない。
誠は呻きながら声を絞り出す。
「き、気を付けて走れよ……」
「は、はい。ほんとにごめんな――あっ!」
ビクビクゥッ! と何かに怯えるように女の子が震えた。女の子が見てる方を見ると、槍を持った兵士のような人達が数人こちらにやってきていた。
「追われるの?」
コクコクと、割と全力で女の子は首を縦に降った。
「エルシさんエルシさん」
誠はちょいちょいと手を振ってエルシを手招きする。
そして…………。
兵士の一人、エドワード・クロックは『それ』を追いかけていた。四人一組でチームを組み、『それ』が抵抗しても少しは抑えられるようにしていた。
「おい、あいつ何処に逃げた?」
仲間の一人がそう尋ねてくる。ここまでは一本道の筈で、隠れる場所もなかったはずなのだが……。
「ちょうどあそこに人がいる。あいつが来なかったか聞いてみよう」
エドワードは他の三人と一緒に尋ねに行く。
なかなかに奇妙は奴らだ。少年は左眼に眼帯をしてるし三人の少女のうちの一人はこの気温の中外套を着るという自殺行為をしている。何より全員若かった。
「失礼。このくらいの身長の黒い外套を着た奴を見なかったか?」
そう言ってエドワードは自分の胸より下辺りを示す。少年はすぐに答えを出した。
「見ました見ました! ていうかぶつかりましたよ! 謝ったと思ったらすぐに向こうに行っちゃいましたよ」
そう言いながら少年は指差しで道を示してくれた。
「そうか。ご協力感謝する」
「何かあったんですか?」
「いや、何も。お前たちが気にすることではない」
エドワード達はさっさと『それ』の追跡を再開する。
相手の種族を考えれば、もうかなり引き離されている。
「行った?」
「行きましたわ」
誠はエルシの外套を捲り上げる。そこにはさっき話していた女の子がいた。
「あ、ありがとうございます……」
女の子はお礼を言いながらもフラフラしている。誠は何気なしに外套に手を当てる。
「あっづあ!? あっついよ! どんだけ熱を溜めてんだ!?」
「あーうあー……」
「あーもう熱中症になりかけてるじゃん! もしくは脱水症状か!?」
誠は外套に手をかけ問答無用で外套を剥ぎ取る。
「…………あ?」
外套を剥ぎ取れば、そこには可愛らしい女の子がいた。白い色の髪に、妙に布が少ない着物に近い服。そんな物に誰も目がいかなかった。
全員の視線は女の子の頭部に注目していた。そこには耳があった。大きな大きな、犬のような耳。
「……コスプレ?」
誠が疑問を発したその瞬間、ファニーに服を引っ張られ、首が締められる形になる。
「ごっぼぉ!? ファニーさんなにゆえにこのようなことをぉぉ!?」
誠の問いにファニーは答えない。その身体は震えていた。
絞り出すように、ファニーは声を発する。
「じゅう……じん」
「獣人?」
「はぅ〜……」
ばたり、と女の子が倒れた。誠はファニーを振り払って女の子を持ち上げる、
「マコト!」
「何!? とりあえずこの子を日陰に運ぶからその後ね!!」
ファニーの静止の声を無視して誠は辺りを見渡す。地形のせいで綺麗に日陰がない。
「あああもう! めんどくせえ!!」
日陰を求めて、誠はファニー達を置いて走り出して行った。




