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魔物と出会った時のお話

「か〜ぜ〜が〜す〜ず〜し〜い〜」

 誠は船の上でそんなことを言っていた、

 船といっても、浮かんでいるのは海の上ではなく空だ。なんでも船の後部にある大きな装置が浮力を生み出してるらしいが、魔法の話しは誠にはちんぷんかんぷんだ。

 誠たちは今アルティルナという国に向かっていた。海は腐ってるらしいので空から行こうということらしい。

(……『加護』、ねぇ)

 手すりに凭《もた》れ掛《かか》りながら誠は数時間前のエビルとの会話を思い出す。

『加護ってなんだそれ?』

『この世界でいう魔法の素質のようなものだ。火の加護を強く受けた者は強力な火の魔法を使え、逆に水の加護を全く受けてなければどんなに簡単な水の魔法も使えない』

『……いや待て。俺はお前らと契約出来る出来ないの基準を聞いたはずであって、この世界の魔法事情はどうでもいいよ。使えないし』

『そう、その使えないことが重要なのだ。以前我は契約出来るか試す際にその者を我が炎で焼くと言ったな?』

『それが?』

『あれは意図的に行っているわけではないのだ。あらゆる生物には受けられる加護に限界がある。我らと契約するということは巨大な加護を受けるということ。その巨大な加護を受け止めきれず溢れ出した結果ああなるのだ』

『……え、えっと、器に水入れたらこぼれていく感じ?』

『うむ。我らと人間たちが持つ器の大きさはほぼ同じ。器に我らを入れようとしたら必然的に元よりあった加護が溢れる。そして溢れ出した分その者はダメージを受ける。我の場合は全身が炎で焼けたりな』

『は、はぁ』

『そのため我らと契約出来る者は限られる。火の加護を全く受けてなければ我と契約することができるが、風の加護を少しでも受けていればエルシと契約することは叶わず全身が風で切り裂かれるであろう』

『あー……俺は異世界の住人だからお前らの加護なんぞこれっぽっちも受けてない。だからお前らと契約しても全然平気ということでおけ?』

『それでよい』

 とまあこんな感じの話しをエビルとしていた。さらに今ならいくらかの魔法をエビルやエルシを介さなくても使えるらしい。

(でもあれスッゲー長いんだよなー。ゲームの魔法使いたちは魔法を使うたびにあんな長い呪文呟いてたのか。…………駄目だネタが終わった他になんかあったっけ? そうだ服だ)

 今の誠の服装はだいぶ変わっていた。何でも防刃服とかいう見た目ただの服なのに、そこらの剣では切れない服を着せさせられている。長袖長ズボンなのだが暑くも寒くもない。

 ズボンは黒色で、服は白を基調せている。腰には剣帯《けんたい》と呼ばれる剣を吊るすための帯があり、そこにエビルが吊り下げられている(流石に鞘を作ってもらった)。

「…………はあー」

 そしてさっきからずっとなのだが、エルシが誠の後ろから抱きついてきている。

 何でもこの状態が一番回復量が多いらしいが、誠からすれば落ち着かないので本気でやめてほしい。

 あまりこのことを考えないようにエビルとの会話を思い出したりしていたのだが、効果はあまりなかった。

「エルシさんやーい、頼むから離れてもらえまいか?」

「…………」

 無言の拒否だった。

 さっきから船員たちの視線が辛かった。時々「リア充爆発しろ」という言葉まで聞こえてくるが、それなら今すぐ代われと心の底から叫びたかった。

(いっそ魔物でも出てこないかなー。そうすればいくらか離れられるかもしれないのに……)

 そんなことを適当に思っていた、その時だった。

「ま、魔物だー!!」

「マジで!?」

 驚き半分、喜び半分で誠は叫ぶ。

 これ幸いと魔物を探そうとする。が、その必要はなかった。

 何故なら、その魔物は誠の目の前にいたからだ。

 それは、黒い翼の生えた巨大な蛇のようだった。心臓の脈動のように細長い身体が脈打っている。

 そんな巨大な蛇が宙に浮き、とぐろを巻いている。その見た目は、見ているだけで精神を削り取っていくようだった。

「ってこれただのクトゥルフ神話生物だろーが!? なんなの、なんでクトゥルフ!? なんで忌まわしき狩人!?」

 見れば周りの船員たちはその場にへたりこんだり狂気の顔で暴れたりしている。アイデアロールが成功したのだろうか。

「ふふふ、逃げ回るがよい人間ども」

「喋ったー!? もうやだこの世界ツッコミどころが多すぎだ!!」

 なんかもう考えるのが面倒になってきて頭を抱え込む。

 すると何を勘違いしたのかどうも目の前の人間が恐怖でおかしくなったと思ったらしく、誠の身体をその細長い身体で締め付けて自分の下へと引っ張る。

「フハハハハ、苦しめ!泣き叫んで我を楽しませろ!」

「…………あの、全然苦しくないんですが」

「……なに?」

 ギシギシと魔物は誠の身体を締め付けるのだが、まるで痛くなかった。

「ふんぬぬぬぬ!」

 どうも魔物もかなり力んでいるようなのだが、痛くも痒くもない。

「くそ! なんなのだ貴様!」

 締め付けるのを諦めたのか、魔物は誠に噛みつこうとする。

 その直前に、ズバッ! とその顔が縦半分に裂けた

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

「うおっ!?」

 締め付けが緩み、誠は解放される。ただし、空中で。

 誠の顔が一気に顔が青くなり、空中でジタバタと暴れる。

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬし――!?」

 ガシッ、と暴れる誠の腕をエルシが左手で掴み取り、片手で釣り上げる。

 空いている右手は、透明な刃か何かを掴んでいるようだった。事実、何やらヒュンヒュンと音が鳴っている。

「あ、あの、エルシさんや? 予想はつくんだけどそれはいったい……」

 声はなく、答えは行動で示された。

 空中でのたうち回る魔物に向かってエルシは手を突き出す。

 轟ッ!! と右手から風の刃が飛び出した。

 風の刃はそのまま魔物にぶつかり、魔物を真っ二つにし、血と肉を辺りに撒き散らした。

「うっ!」

 自分にもかかった血、嗅いだことのない匂いが誠の気分を害する。

 堪えることも出来ず、誠は胃袋の中身を吐き出した。

 エルシが誠の背中をさすろうとして、直前でやめて手を引っ込める。

「…………」

 パクパクと、エルシの口が開いては閉じた。何度も繰り返してある程度吐き終えた誠が、エルシの奇妙な行動に気づいた。

「どうしたのエルシ…………うーぇ」

 エルシは結局、何も言わなかった。

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