一緒に寝ることになったお話
「…………」
声が出せない。そもそも喋ろうとするのは何年ぶりなのだろうか。
依代となった誠はピクリとも動かない。だが微かに息をしているのを感じられるので死んではいないようだ。
「いっったいなあ」
ミシェルと呼ばれていた吸血鬼がゆっくりとこちらに歩いてきていた。右手にはいつの間に取り出したのか、一振りの剣を握っていた。
「あーあ、せっかく僕もお父様のお役に立てると思ったのになー。……こいつ殺すかな」
そう言いながら剣を誠に向ける。その表情には、静かな怒りがあった。
「駄目よミシェル。そろそろ時間が来てしまうわ」
そう言って止めたのはカトラお姉様と呼ばれていた少女だ。こちらもいつの間にか服が元通りになっている。
「それに手負いの獣ほど怖いものはないわ。自爆特攻で融合爆発でもされたら私たちでも耐えられるかどうか」
「けど、今こいつの意識はないよカトラお姉様。今なら出来ないんじゃないの?」
「そっちの剣とその子の意識があるでしょ。本気で危ないから帰るわよミシェル」
「はーい、カトラお姉様」
渋々と剣を収めるミシェルの頭をカトラは優しく撫で、ブツブツと言葉を呟く。
「さようなら。空間跳躍」
吸血鬼二人が光りに包まれ、光りと一緒に消えていくのを、エルシは見ることしか出来なかった。
「…………んぁ」
気がつけば、誠はベッドで横になっていた。とてつもなく柔らかくて寝心地の良いベッドだ。
「ね、む……」
あまりの寝心地の良さに、何でここで寝てるのか、あの後どうなったのか、とかそういったことを考える思考を放棄する。それくらい心地よかった。
もう一度寝ようとすると、何か大きな物があるのを感じた。
(抱き枕抱き枕……)
誠はそれを抱き枕だと思い手を伸ばす。
ムニュ、という、なんだかとても、抱き枕とは思えない不思議な感触がした。
(ん? この世界の抱き枕ってこんなもんなのか?)
半分寝たまま抱き枕らしき物がある方を見てみる。
そこには可愛らしい寝顔のエルシがいた。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
思考が完全に停止した。
軽く十分は思考停止に陥り、誠はふと我に返る、
(待って! 待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待ちんじゃい!! どゆこと!? 何があったの!? これは夢!?)
全力で頬を引っ張るが何も変わらない。正真正銘現実のようだ。
(ま、待てい。ならばわたくしめが触ったのは……やめよう別のこと考えて忘れようそうしよううん)
とりあえずエルシに毛布を被せて隠蔽しておく。顔を見るたびに思い出すのは避けたかった。
ちなみに今は完全に真夜中で光りは月明かりしかない。毛布を被せなくても充分見えないのだが、そこは気持ちの問題だ。
「おい、エビル。聞こえてるか?」
大きい声は出せないので小さい声でエビルを呼びながら辺りを見渡す。誠はすぐに机の上にある抜き身の剣を、エビルを見つける。
コンコンとエビルを叩く。
「起きたか、マコト」
「なんでエルシが俺と寝てたか三行でどぞ!」
「我々は怪我をしてるのと同じ
治療するには依代の近くにいる必要がある
だから結果的に同じベッドで寝ることになった」
「ありがとう何故か頭が痛くなってきたぜこんちくしょう」
というか目眩もしていた。誠は気づいてないが今も立ってるだけなのにフラフラしている。
「無理をするな。腕を切られた時にだいぶ血を流していたのだ」
「……腕? 腕は、は?」
言われて気づいたが、誠の両腕は確か吸血鬼に取られたはずだ。なのに誠の両肩から先にはしっかりと腕が存在した。
「…………ふむ、これはつまり、あれだな」
ギャルゲでしかないシチュエーション。腕が当たり前のようにあること。それらの事実から誠は結論を出す。
「夢か」
「違うぞ」
さっき痛い思いをしたばかりだが、こんなの夢としか言いようがない。現実には腕がちぎれたのにあっさり再生する人間などいないのだから。
「だから違うと申しておるだろう。だいたい我が渡した眼を忘れたのか?」
エビルに言われて思い出す。そういえば左眼も貫かれたが代わりに赤い石があったのだ。エビルのと同じ色の。
「つまり依代は怪我をしても再生するということか!?」
「違う。使い物にならなくなった左眼の代わりに我が作ったのが今のそなたの左眼だ」
「……眼と炎に何の関係が?」
「流石に我が力を侮りすぎではないか? 人の身体の一部を作るくらい造作もない」
「俺の眼石ころなんだけど?」
「……………………」
そこでエビルが黙ってしまった。得意じゃないんだなと適当に思っておく。
「じゃあこの両腕はエルシさんか。エビルだと多分赤い石で工作して作った腕みたいになるだろうし」
「……ま、まあそこはよい。そんなことよりだな」
露骨に話題を変えていこうとエビルがするのを誠は放っておいた。流石に可哀想だと思ったのだ。
「エルシが少々力を使い過ぎたようでな。すまないが一緒に寝てやってもらえぬか?」
「……いやさあ、一応理解はしたよ? 俺の近くにいればエビルやエルシの力が回復していくってことは。だけど一緒に寝るのはマジ勘弁してくださいお願いします」
スムーズに土下座に移行しながら誠はエビルに懇願する。
そんな誠を見て、エビルは不思議そうな声を出す。
「人の子というのは、異性の者と一緒に寝たがるものだと思っていたのだが……違うのか?」
「そういうのは恋人同士でやるもんなの! 少なくとも出会って数日の奴らがやることじゃないからな!?」
「……しかし、くっつくくらいの距離でないと回復しないのも事実。ここは耐え忍んでもらえないか? それに、その腕を作るのにもかなり消耗したようだぞ?」
「うぐぐぐ……」
話しは終わったと言わんげにエビルは黙る。後は自分で決めろと言わんばかりに。
「…………ぬ、ぐう」
呻きながら悩んでいると、ある事に気づいた。
なんか、いつの間にかエルシが毛布から顔を出していて、さらになんか手を伸ばしていた。誰かを待つように。
ついでに言えば、そこまで大きいわけじゃないベッドに、もう一人寝れるくらいのスペースが不自然に空いていた。
「……はぁぁぁぁぁぁ」
大きな溜め息を吐きながら、誠はベッドの空いているスペースに寝転がる。流石にエルシから顔は背けている。
と、誠の腕をエルシが掴んできた。何やらムニャムニャ言っている。
そんな状況で、誠は心の中で叫ぶ。
(なんてギャルゲだよこれ!? そしてこんな中絶対寝れるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)
朝が来るのは、まだまだ先だった。




