襲撃された時のお話
「ようやく直ったー」
ブンブンと剣を振ってみる。刃がすっぽ抜けることはなかった。
「ふむ、ようやくまともな言葉が喋れるな」
「ったく、無駄に奇妙な構造しやがって。それとも剣は皆だいたいこんな物なのか?」
「…………」
この場にマーチェはいない。「ファニーの気配を探知しました!」とか言って何処かに行ってしまった。体内にレーダーでも入れてるんだろうか?
まあ、マーチェはもうどうでもいい。問題はエルシの方だ。
最初に誠は「手を使うから離してくださいな」と言った。そして何故か悲しそうな顔してるから「邪魔にならないならどこ掴んでてもいいから」と言ってしまった。
その結果、なんかずっと後ろから抱きつかれていた。
「よーしよしよし炎とかちゃんと出せるか確認だ」
軽くテンションがおかしくなってきているが、美少女に延々と抱きつかれていたら気分がおかしくなってもしょうがないのだ。
(これはなんなんだろうねこの子はもう! 女の子がそんな簡単に男に抱きついちゃいけません!)
因みにここまでされたら「もしかして惚れられてる?」と思ってもおかしくないのだが、誠の中でそういうのはイケメンのみの話であり、ブサイクな顔の自分はありえない。と可能性を完全カットしてる。
実際そういったラブコメではなく、ただ温もりを感じようとしてるだけだが。
エビルがそんなエルシを見てポツリと呟く。
「……無茶をしているな、エルシ」
「え、何が?」
「…………」
「おーい無視かーい」
トントンと剣を叩くのだがエビルは無視している。誠はエビルの刃を掴み、こんなことをポツリと呟いた。
「……へし折ったらどうなるんだろうなぁ」
「ま、待て! 我の力では再生出来ないのだ容赦してくれ!」
はあ、と剣から溜息が漏れた。実際空気は出てないが。
「ま、まあ話せねばなるまい。これから必要になる情報だ」
「何の情報?」
「契約の話だ。我とそなたが交わした、契約のな」
「…………」
後ろのエルシが誠から離れた。振り返ると、いつもの無表情に別の感情が宿っている気がした。
「契約についてはエルシも関係ある。というよりエルシとも契約してもらいたい」
「なんで?」
「……、」
その先は、言葉にならなかった。いや、正確には誠の耳に言葉が届かなかっただけだ。
ゴガバゴン!! と全く聞いたことない音が、誠の上から響いてきた。
元凶は誠の目の前に降り立っていた。
武士、侍だ。浅葱色の袴を着た武士は、腰の刀に手をかけていた。
「一刃百刀」
「やばっ!」
誠が咄嗟にしゃがんだのと、武士が刀を引き抜いたのはほとんど同じタイミングだった。
「乱花」
ズバンッ! という音と共に壁がズタズタに斬られた。
一振り刀を振るっただけなのに、壁は何度も斬られたように跡がついている。
「ほう、今のを避けたか」
武士は関心したように言った。誠が立ち上がるのを武士は止めなかった。
「……居合いなんだから横にしか振れないでしょ? だったらしゃがめばいいだけじゃん」
「その判断を一瞬でこなしたのか? やはり依代は厄介だな。元が一般人でも一度依代となれば人を超えることができるのだから」
「なに、依代?」
武士は答えず、鞘へ刀を納めた。
「単刀直入に言おう。左眼とその剣を差し出せ。そしたら命は助けてやる」
「は? どういうこと?」
「それは人の手にあまる物だ。処分せねばならん」
「だってさエビルさんやいどうする?」
「……愚か者め。我を消せばどうなるか、分からないというのか?」
エビルの言い方は、完全に相手を馬鹿にしている言い方だった。
エビルは一息おいて続ける。
「我は世界を構成する元素の一つ。その我を消せば世界から火の恩恵が消え去ることが分からないのか!」
武士はエビルの言葉を聞くと、なんだそんなことかとでも言いたげに首を振った。
「もうそのような恩恵はいらないということだ」
「なに?」
「科学は神様、貴方達を超えた。そのような物がなくとも世界は動く。……それよりも、化け物達が我々以上にその力を扱えることが問題なのだよ」
武士は刀へと手をかけ、誠を睨む。
「もう一度言おう。左眼とその剣を差し出せ。死にたくなければな」
「…………………………」
ボソボソと、誠は何か呟いていた。
「なんだ? はっきりと言え! 渡すか、ここで死ぬか!」
「…………………………」
ボソボソと、何かを言い続ける。武士は少し近づいて呟きを聞き取る。
「これはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれはゲームこれは……」
「げぇむ?何処の言葉だそれは……」
轟ッ! と誠を中心に爆炎が生じた。
「斬壁」
刀を一振り。それだけで武士の目の前に壁が現れたかのように炎が周りへ逸らされた。
「いやー、なんていうかどのゲームも変わらないな」
誠は気楽に言う。何かの感想でも言ってるかのように。
「……人間の愚かさをどこまで再現すれば気が済むんだ? おい」
「愚か? 若造が何を知っていると言うんだ?」
「あんたらが宇宙レベルに馬鹿なのは知ってるよ」
ふぅと、誠は一息吐く。
「まああんたらみたいなのはお説教したところで変わらないのは知ってるからねー」
「だったらどうする?」
「もちろん」
剣を床に突き刺し、笑顔で言った。
「逃げる」
轟ッ!と爆炎と共に誠が空高く飛んで行った。
「……偉そうなことを言って逃げ出す、というよりは……」
その光景を見ながら、武士は呟く。
「……なるほど、乗ってやろう」
ダンッ! とこちらは単純な跳躍でロケットのように空へと跳んで行った。
「…………」
その場に残ったのは、何もせずに傍観していたエルシ。
二人を追いかけるべきか彼女が悩んでいる時、
襲撃者は音もなくエルシの後ろに降り立つ。
隙だらけの獲物を前にして、狩人がどうするかなど、考えるまでもなかった。




