第1話 宮原楓
本作はフィクションです。
実際の試合形式・大会規定等とは異なっています。
また、本作に登場する技の多くは実際の競技技術を参考にしています。
「楓、早くしろ」父が私を呼んでいる。
「今行くから」私は急いで玄関を開けた。
父は車に乗り、助手席のドアを開けてくれた。
私は助手席に乗ると、シートベルトを閉めた。
「じゃあ、行くぞ」と父が言い車を出す。
私は宮原楓。
中学3年生。
もう卒業寸前なんだけどね。
今日は夜に母が出かけているので、父と一緒に夕食を食べに行くことになった。
私が作ろうとしたが「たまには外で食べようじゃないか」と父が言った。
まあ作らなくていいなら、楽だしいいんだけどね。
車は少し行ったところのハンバーガー屋にやってきた。
チェーン店ではなく個人経営の店だ。
店に入ると「宮原さんじゃないか、久しぶりだな」と店長らしき人が父に言う。
「ご無沙汰しちゃったな」
「そちらは娘さんかい?」
「ああ楓というんだ。もうすぐ高校生になる」
「楓ちゃん……楓さんかな。初めまして。よく来てくれたね」と店長の高木と名乗る人が言った。
「はじめまして。こんばんは」私は当たり障りのない挨拶をした。
「楓、好きなの頼んでいいぞ」と父が言う。
一通りメニューを見る。
ハンバーガーが何種類かあるが、パンケーキなどもある。
「う~ん。スペシャルアメリカンバーガーで。あとコーラも」と私が言った。
「はいよ。かしこまりました。宮原さんは?」
「照り焼きバーガーとアイスコーヒーで」と父が言う。
店長の高木さんが厨房に指示を出す。
「楓。ここのハンバーガーは美味いぞ」
「昔から来てるの?」
「まあ、たまにな。母さんには内緒だぞ」
「え~どうしよっかなあ」
「はいお待ちどおさま」と言って高木さんがハンバーガーと飲み物を出してくれた。
「大きいね」
「そうだろう。父さん大好きなんだよ」
私はハンバーガーに被りつく。
厚いお肉にベーコンとチェダーチーズが効いている。
付け合わせのポテトも食べ、コーラで流し込む。
そんな時に外から歓声が聞こえる。
正確には、ときどき聞こえていた。
「外の声、何?」と私が父に聞く
「う~んなんだろうね」どうやら父にも分からないようだ。
「あの歓声かい?駐車場ではじまったんだな」と高木さん
「何をやっているんですか?」と高木さんに聞く。
「じゃあちょっと見てみようか」と高木さんは言い、私達を外に連れていく。
そこには2人の男性がいて、その周りに4人の観客らしき人達がいた。
男性2人は交互に何かを投げている。
私はしばらく2人の男性を見た。
バッグみたいなものを穴の開いた木に投げているようだ。
そしてバッグが穴に入るたび、ギャラリーから歓声が上がるといった感じだ。
「あれはね。コーンホールという競技なんだよ。アメリカ発祥でね。ビーンバッグと呼ばれる布袋を穴に入れるんだ」
「それだけ?」
「穴に入れば3点。ボードに乗れば1点。まあそこから細かいルールはあるが先に21点取った方が勝ち」
「へえ。そうなんですか」
私はしばらく2人の試合を見ていた。
試合が終わった。
勝った人が負けた人にハンバーガーを奢らせている。
すると「どうだい、ちょっとやってみないかい?」と高木さんが言う。
「えっ私?」
「そう。ちょっとバッグを投げてみないかい」
私は興味が湧いていたのでラインのところに向かった。
「投げる時は下から投げるんだぞ」と高木さん。
ビーンバッグを取り、先ほど見ていた通りに投げてみた。
バッグはボードに届かなかった。
もう1度投げる。
またしても届かない。
「全身を使う感じで投げてみたらどうかな」高木さんがアドバイスを送る。
足のバネを使い、投げてみた。
バッグはボードにかすった。
「あ~惜しい」思わず声が出てしまった。
「うん。よくなってきたね。その感覚」と高木さんが言う。
そして次もその次もダメだった。
私が諦めようとしていた時に
「楓、諦めるな!」と父の声
私も何を諦めてるんだ、と思い気合を入れ直す。
遠いけど、届くようになった。
後は角度などの調整。
今までの軌道を思い出し、ほんの少し我慢して投げる。
そして足をブレさせない。
ボードの穴だけを見る。
入れる。
今度こそ入れるんだ。
ビーンバッグを手に取り集中する。
目標をしっかりと見据えて投げた。
バッグは美しい弧を描いてそのまま穴に入った。
「エアメールショットだ!」高木さんが叫ぶ。
雑談をして見ていなかった観客が一斉に私の方を向く。
そして拍手が沸き起こる。
後で、直接穴に入れる投げ方を“エアメールショット”というのだと知った。
通常はボードを滑らすようにして入れるらしい。
初めての体験に私は興奮をしていた。
楽しい。
もっとやりたい。
こうして私とコーンホールが出会ったのだ。
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