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PERFECT WORLD  作者: ヤトミ
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第十九話 【新たな異変】


校庭での激戦を終えた3人。魔法学校の校舎に足を踏み入れては先導するラムの背を追う様に校内の廊下を歩いて行く。校庭ではまだヒュグルの魔力の残余によって生成された雪が降り頻っている様で、時折窓の外には小さな銀色の粒がチラつき始める。

その幻想的な風景とは裏腹に、ラムは何事も無かったかの様な振る舞い。だが彼女の秘められた実力が明らかになった為に、その態度も至極当然な事かと納得してしまうのも事実。そんな事を考えながら真紅のカーペットを規則的なリズムで踏み締める2人。

淡々と時が過ぎる中、ラムが2人を連れ出した理由についてアリスは疑問に思った。


アリス「ラム先生。今からどこへ?」

ラム「ん?この魔法学校で一番魔法自体に詳しい先生の所に向かおうかなって。」


魔法に詳しそうな教師、と言えば誰だろうか。戦闘科担当教師の彼女も十分詳しそうな人物だが、彼女以上に詳しい人物となるとシルフには見当が付かない。シルフには。彼の隣で歩みを進める女性、アリスには凡そ見当が付いている様で。

今現在の状況は突如として姿が変異したシルフの詳細を探る事にあり、つまりはシルフの扱う魔法について深く認知した者に聞く事が最適。シルフの扱う魔法は『古代魔法』。と言う事は、古代魔法について最も理解している人物がベストマッチという訳で。


アリス「ラム先生、その先生って...ゼイ先生だったりします?」

ラム「えっ、そう、大正解。よく分かったね。」

アリス「直感です。それに...このコートを返さなきゃいけないので。」


やはり直感は嘘を吐かない様で、目的の教師は予想通りの彼。一つ溜息を吐いた後に、丁寧にも畳まれた彼のコートを抱えるアリス。今彼女が抱えているコートのお陰でアリスが極寒の中で生命活動を維持出来たと言っても過言では無い。

そのコートの持ち主はゼイ。普段ならば彼に対しての印象は決して良い物とは言えないのだが、今回のヒュグル騒動に限っては彼との関係性を否定すると、助けられた命すらも否定する様な気がして居心地悪いのだ。

今は目の前の命を救ってくれた事への感謝が勝つべき。その事をアリスは自覚していた。

___やがて歩く事数分。3人は神話学準備室前の扉へ辿り着く。扉をノックする事3回。閉じられた扉の向こうから相変わらず飄々とした声で、入室の許可を示すゼイの声が響き渡る。

顔を見合わせた後に扉を開いて神話学準備室へと足を踏み入れる3人だが、彼等はその先に待っていた光景に瞳を小さくした。当然の様に部屋で待機していたゼイ。しかし、部屋に存在する人間は彼だけでは無い。


ゼイ「やぁやぁ、シルフ君にアリス。そして、ラム先生。入って話をしようではないか。」

シルフ「あっ、ゼイ先生。お願いします。」

ゼイ「良いんだよシルフ君。君は本当に良く頑張ったからねぇ。」


準備室内で待ち受けていたのはゼイだけでは無い。部屋内に存在する長机に腰を掛け、書類を読み耽る女性教員が1人。薄茶色の髪を後ろで二つ、大きな三つ編みで結った姿に映える緑の瞳。彼女の雰囲気はまるで植物の様な優しさと穏やかさを感じさせる。

その姿の主は、部屋に足を踏み入れた3人全員が知る人物だった。


ウィズン「お疲れ様、皆。大変だったでしょ?ゆっくり座って休憩しましょうか。」


その言葉に催促される様に用意された椅子へ腰を下ろす3名。長机を各々の椅子で挟み、左から順にゼイ、ウィズン、ラム。そして3名の教師の正面にシルフとアリス。視線を交わし合う5人。静寂の後。最初に動きを見せたのはゼイ。

口を静かに開いた彼の目は真剣味を帯びており、それがシルフに向けて放たれる言葉だと認識するのに時間は要さなかった。丸眼鏡の内に覗く深緑の瞳は普段の飄々とした態度を微塵も感じさせず、冷静且つ落ち着いた口調で問いを投げる。


ゼイ「さて、まずは聞かせて貰おうかな。シルフ君にアリス。先程の戦いを簡潔に纏めて話してくれないかな?」

アリス「じゃあ...私から説明させてもらうわ。私達はヒュグルに襲われた。彼の能力は吹雪や氷の礫を生成しての攻撃。そこで私が隙を突いた彼に捕まって、でもシルフが助けてくれた。自分の危険を省みず、更に能力を覚醒?させて。

そしてそこからはシルフの独壇場。シルフがヒュグルをボコボコにした後に、ラム先生が助けに来て下さった。勿論ラム先生も圧倒的な実力でヒュグルを完膚なきまでに叩きのめしたわ。」

ゼイ「なるほどねぇ。ありがとう、アリス。んー...どこから話そうか。」


一通りの説明を終えたアリス。その内容を咀嚼する様に思考を巡らせるゼイ。結った髪の毛先を指でクルクルと回しながら考える姿は妙に魅力的で、彼の端正な顔付きも魅力を倍増させる。

暫く思考の時間を設けた後にゼイは改めて語り出した。シルフの変貌を含めた謎についてを。


ゼイ「そうだねぇ。まずはシルフ君が姿を変貌させた理由について話そうか。まずシルフ君が容姿を変えたのは、アリスの身に死が迫ったから。間違いないね?」

アリス「えぇ。それが何か関係するの?」

ゼイ「関係、と言うよりも直接的な原因だろうねぇ。恐らくアリスの身に危険が差し迫った際に、シルフ君から湧き出る感情によって魔力が一時的に賦活した。

その作用で『覚醒』したシルフ君の容姿にも変化が訪れて、古代魔法の本来持つ力を引き出す事に成功してヒュグルを圧倒した。と言うのが簡単な説明だ。あくまで私の推測に過ぎないがね。」


彼の推測は要点を簡潔に纏めた的を得た物であった。実際シルフもその時に何があったのかは覚えておらず、記憶があるとしてもそれは朧げな物ばかり。しかし、アリスの身に迫る危険に激情に駆られていた事だけは紛れも無い事実。

だがゼイの説明によって徐々に光景を想起出来る様になって。アリスに危険が迫った時、確かに自分の身体に流れる血液が滾る様な感覚があった。そして元を辿れば、脳に湧く怒りと殺意が取り留めもなく膨張していた事も。

ならばゼイの推測に狂いは無い。示した指針が正しかった事を確認する様に若い男女2人は頷く。次に挙がるのはアリスからの質問。


アリス「ゼイ、あっ、ゼイ先生。それともう一つ。ヒュグルは...どうして唐突に校庭で魔法を発動したのでしょうか。」

ゼイ「あぁ、その問題についてはウィズン先生がご存知だろう。ヒュグル君の担任ですからねぇ。」


彼は隣に座るウィズンの方へ視線を送り、代わりの説明役を任せた。ウィズンはそれに応じる様に自身が調べ尽くした内容を語り出す。その内容はシルフとアリスに次なる衝撃を喰らわせる程の物で。


ウィズン「その事ね、実は一部教師の中で話題にはなっている事があって。それは『魔法を悪用して、この魔法学校を潰そうとする一派が生徒の中で発足されている』っていう噂。

こんな馬鹿馬鹿しい話、私は嘘だと思ってたんだけど、ヒュグル君の一件から現実身を帯びてると分かった。更に古代魔法を扱うシルフ君を相性があるとは言え、対等に戦っていたらしい事を聞いて...この件も看過出来ないと判断したの。」


その内容に驚愕が隠せない表情で固唾を飲み込むシルフとアリス。古代魔法の使い手を探っている中で、同時進行の新たな問題が生じている事態。しかもその首謀者は教師の権限を利用してでも素性を割り出せない程狡猾。

今の話から推測するにそうだろう。緊急事態のはずなのに首謀者の存在、そして組織の存在すらも曖昧で噂止まり。あまりにも抽象的な状況下に、2人は苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべてしまう。


シルフ「そ、そんなの今すぐに対処しなきゃいけないですよね。もし僕達に出来る事があれば何でもしますから...!」

ウィズン「シルフ君...。貴方がその気持ちならありがたいけど、貴方達は古代魔法の使い手を探す役割を与えられてるでしょ?これ以上貴方達に負担を掛けさせる訳にいかないの。生徒達に負担を掛け過ぎる事は、教師として言語道断だもの」


ゼイ「まぁ、これに関してはウィズン先生の仰る通りだねぇ。君達が古代魔法の使い手を探す中で、仮に目当ての相手が見つかったタイミングと同時に組織が動き始めたら。両方を同時に追う事は不可能だろう。

決して君達2人が悪い訳じゃなく、単純に作戦面での問題点。だから、この問題は我々大人、教師の領域。君達は古代魔法の使い手を探す事を優先して欲しいんだ。古代魔法の使い手を探す事の真意を覚えているかい?

『始祖の復活を止め、奴が世界を創り変える事を防ぐ為』だ。どちらの方が緊急性が高いと思うかい?」

アリス「どっちも大事な事だけど...古代魔法の使い手を探す事でしょうね。」

ゼイ「ふっ、賢い君ならそう言ってくれると思っていたよ。では君達は古代魔法の使い手を引き続き探してくれたまえ。組織に関しても私達で可能な限りは探ろう。そして組織を突き止めた際には私達で対処する。

もし仮に、仮にだ。私達の実力で敵わない場合は...君達の力を借りる事になるだろうけどね。逆も同じだ。君達で敵わない相手が出て来た場合には、私達教師陣が支援に行こう。

まぁそういう事だ。組織探しの進展があったらまた共有するつもりだから安心してくれたまえ。」

その後に短く続いた話し合いは終わりを迎え、教師陣を除いた2人は神話学準備室を後に。その帰り際にアリスはゼイへコートを返した。勿論命を救われた礼を忘れずに。彼女は誠意の籠った言葉を放ったのだが、ゼイの口から放たれたのは、


ゼイ「はっはぁっ!良いだろう。これで借りが出来たねぇ。いつか君の頭脳を利用させて貰うよ。」


と相変わらず軽口を叩くだけで。その結果として、彼の言葉に食らい付くアリス。そのやり取りは予想通りと言った具合なのか。苦笑を漏らしながら目の前の光景を見つめるシルフ。

微笑ましい光景に暖かい空気が流れる傍らで、同じ空間の神話学準備室には別の物語が紡がれようとしている。残されたのはウィズンとラム。彼女達の関係は、以前ラムの口から語られた通り。

かつては仲の良かった2人だが、生徒達の評判や劣等感に苛まれたラムが一方的にウィズンとの関係を断ち切ってしまった。その件以来、ラムは現実から目を背ける為に酒に溺れた。取り残された2人は互いに言葉を発さず、いや。発せずに沈黙を貫く。

しかし重々しい空気に耐えきれなくなったラムが喉から言葉と認識出来る音を発して。その理由は本当に空気に耐えきれなかったから、なのかは不明だが。


ラム「...ねぇ、ウィズン。」

ウィズン「...なぁに?」

ラム「...ちょっと、話がしたい。もし授業全部終わったなら...部屋に来て欲しい。」

ウィズン「ええ、じゃあ...後で。」


端的なやり取りだが、これがこの空間における彼女達の精一杯のコミュニケーションなのかも知れない。しかし不器用さが垣間見えるやり取りの末にラムは席を立って背を向けるが、その間次に席を立つ音がするまで一歩も踏み出さなかった。

そして彼女の行動の意味を理解している様に、もう片方の彼女はラムの方へと一歩踏み出して。やがて彼女達の足音は重なり、生徒達よりも先に神話学準備室を後にした。

廊下に敷かれた真紅のカーペットは相変わらず整然と並んでおり、2人の行く先を示している気がして。果て無く、無限に続くと錯覚してしまう程に。

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