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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
最終章 新天地編
355/364

313 元勇者の魔王、最期に願うは

 常とは異なる、賑やかな食事風景。


 それもそのはず、人数の桁が違う。


 屋外にてきょうされる食事の数々。


 集う村の人々。


 加えて、よくよく見知った人間も居た。



「えっうぇっ」


「さっきから泣き通しじゃないの。いい加減泣き止みなさいよ」


「だ、だっでぇ~。うれじぐでうれじぐで」


「羨むぐらいじゃないと駄目じゃない。いい歳なん――」


「ちょっと魔法使いさん。あちらで大事なお話があります」


「怖っ! あ、ちょっと、コラ!? 放しなさいよ!?」



 僧侶さんに魔法使い。


 他にも学者くんや戦士も居る。


 僧侶さんと学者くんは、態々王都からお忍びで来てくれていた。


 もちろん、空間の歪みを使ってだ。



「お、お二人とも。お、おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


「久々の再会にしては、賑やかになり過ぎましたがね」


「い、いえ! よ、呼んで貰えて嬉しいです!」



 村を挙げての催しは、他ならぬ俺たちの婚礼である。


 村全体を会場と化し、縦長に伸びた端に二人して座らされている。


 昼ぐらいから始まり、気が付けばすっかり夜。


 学者くんと入れ替わるように、戦士が腹をさすりながら歩み寄って来る。



「ふうぅ~、久々に腹一杯食ったぜ」


「そうなんですか?」


「妖精の住処に入り浸りだったからな。偶には胃袋を満足させてやらねぇと」



 妖精の住処内では、必要となる食事量が激減する。


 必要とはしなくとも、消化器官はその分使われなくなるわけか。



「そちらの進展は?」


「お? 嫁を貰って粋がってやがるな?」



 カァーッ。


 一瞬にして秘書さん――いや、妻の顔が赤く染め上がる。



「うぉっ!? だ、大丈夫かよ!? 真っ赤になってるぞ!」


「お、落ち着いてください。深呼吸をしましょう。ヒッヒッフゥー」


「それは多分ちげぇやつだぜ。オマエも落ち着け」



 照れっぱなしの妻を介抱する。


 未だに実感が薄い。


 妻が母さんに報告し、そこから一気に伝播したらしい。


 あの夜から数日でこの騒ぎである。



「まさかこんな日を迎えられるなんてねぇ。あんな騒ぎがあったし、一時はどうなることかと心配したもんさね」


「お祝いの席ですよ、もぅ。とてもお似合いのお二人で。末永くお幸せにね」


「あの時の娘さんが、まさかこうして夫婦になるなんてねぇ。さしずめ、アタシャ二人を結び付けたってことになるかもしれないねぇ」



 こちらも王都から来た二人。


 宿屋の女将さんに孤児院の院長さんだ。


 僧侶さんたちが連れてきてくれた。


 王都での数少ない知人、いや、お世話になった人物。


 良い報告ができて何よりだ。


 けれども、宿屋の女将さんの物言いは相変わらずか。



「お二人とも、お変わりないようで」


「ご無沙汰しております」


「こちとら長いこと面倒見てやったからねぇ。何だか我が子のごとく嬉しくってたまらないったら」


「料理の手伝いまでしていただき、ありがとうございます」


「久々にアタシの料理でも食べたいかと思ってね。どうだい、美味いだろう?」


「えぇ、もちろん。よく存じていますとも」


「そうだろう? 当たり前さね!」


「あまり絡むんじゃありません。お二人もほどほどになさいませんと、翌日辛いですわよ」



 院長さんが引きずるようにして、この場から離れていく。



「変わらずご壮健で何よりですね」



 流石は魔王候補ともくした人物。


 相も変わらずな迫力。


 そう見せようとしていた。



「ははは……ですが少し、疲れていらしたようにも見えましたがね」


「そうでしたでしょうか?」


「いえまぁ、何となくですがね」



 少しやつれた印象を受けた。


 身体がふらついてもいたような。


 こちらに心配をかけまいと、気を張ってくれていたのだろうか。



「皆さん楽しまれているようで何よりねぇ。二人は疲れていない?」


「お母様。はい、大丈夫です」


「しかし流石にこれは、規模を広げ過ぎたんじゃ? 何も村全体でやらなくても」


「集落では祝い事は皆で参加するものだ。村になろうがやることは変わらん」


「ですって」



 様子を見に来たのは両親。


 今の物言い、もしかしてこの状況へと至った要因は、母さんではなく父さんの仕業なのだろうか?



「お父様。お心遣い感謝いたします」


「その丁寧口調は止めてくれないか。どうにもむず痒い」


「あ、済みません」


「フフフ。子供に慣れてないのよね。単に恥ずかしがってるだけだから、あんまり気にしなくて大丈夫よ」


「全部聞こえてるぞ」


「あらあら。聞かなかったことにしてください」



 これまた見慣れない光景。


 父さんが軽くあしらわれていた。


 両親の真の力関係を垣間見た気がする。



「こうして家族を迎えたんだ。二度と行方知れずになるなよ」


「え? あ、はい」


「なんだその気の抜けた返事は」



 父さんにこうして言葉を掛けられる状況に、どうにもまだ慣れない。


 親子の会話ってどういうものなのだろうか。


 いつもぎこちない感じになってしまう。



「オマエは――」


「まぁまぁ、この場は堪えてくださいね」


「ぐっ、続きは明日だ」



 母さんに腕を組まれ、遠ざかって行く。


 何だか先程も似たような光景を見た気がする。


 宴は続く。


 結局は明け方近くまで、誰かしらは騒いでいた。






 夫婦となり、まず取り掛かったのは新居の建造。


 実家でも妻の家でもなく、それどころか村からも離れて。


 居を構えたのは、山を挟んだ反対側。


 魔物たちの住む場所。


 村はもう、俺が居なくとも上手く回っている。


 そもそもが魔物を保護するために来たのだ。


 相応しいついの住処はここ以外にあるまい。


 村ほどではないが、こちらも賑やかになっていた。






 瞬く間に一年ほどが経過する。


 いつの間にか、ブラックドッグが家に住み着いたりもして。


 更にはアルラウネも一室占拠していた。


 体調の良いときに魔物を保護しに出掛けたりもするが、屋内で過ごすことが多くなった。


 戦いからも、もう随分と遠のいた。


 デヴィルお兄さんはどうするつもりなのか。


 挑んで来る気配は微塵も無い。


 急速に時が奪われゆく、そんな錯覚に見舞われる。


 震えが止まらぬ手を、ずっと握りしめて貰うことも。


 ピクシー越しの会話だけでなく、偶に顔を見せに来てくれる仲間たち。


 伝えて来る話は、どれも楽しげで。


 不穏さは欠片もなくて。


 情報が意図的に選別されている。


 気遣いを嬉しく思いつつも、焦燥はくすぶる。


 これは偽りの平穏。


 閉じた箱庭。


 未だ悪意は絶えず、平和は程遠くて。


 されどもう、この手では届かない。






 更に数年が経過した。


 起き上がれず、ベッドで過ごす日々が続く。


 時間の感覚は曖昧に。


 明日も昨日も今日も、定かですらない。


 変わらないのは、常にそばに居てくれる人。


 どれだけ感謝を伝えられただろう。


 どれだけ愛をはぐくめただろう。


 きっと一人きりでは耐えられなかった。


 一人きりでは駄目になっていた。


 あるいは、勇者のままであったらならば、こうも弱くはならなかったのか。


 感情に晒されることもなかった。


 そして、得られた温もりを、嬉しくも有難くも思えなかった。


 ならば後悔はすまい。


 今こそは最善の結果。


 幸せで、幸せで、幸せなんだと。


 碌に舌の回らぬ言葉を紡ぐ。


 伝える。


 隠さずに、ありのままを。


 あぁ、よく話すようになったなぁ。


 以前は聞くばかりだったのに。


 すっかり話し手は俺になってしまった。


 でも仕方がない。


 いつだって、どこをどう好きなんだと、話して聞かされるのだから。


 どうにも照れ臭い。


 まだ自由に動けたころならば、口を塞ぐ良い手があったものだが。






 眠りが増える。


 覚醒するのは、僅かな合間。


 それでも、いつもそばには愛しい人が。


 胸の奥を吹きすさぶ風がうるさくて、もう声も聞き取れないけれど。


 その声を覚えているから。


 紡がれる言葉を覚えているから。


 微笑み返すんだ。


 精一杯に。






 ずっとずっと続く暗闇。


 何時から居るのか。


 どれだけ過ごしたのか。


 分からない。


 何も無いし、誰も居ない。


 見えず聞こえず触れられず。


 胡乱うろんな頭は考えを寄越さない。


 フラフラと当所あてどもなく彷徨い歩く。


 何処かへ行きたかったような、そんな気がするのだ。


 漆黒。


 重量すら伴って。


 身体が酷く重たい。


 歩みを一度でも止めてしまえば、もう二度と歩けないような。


 不安が脚を動かし続ける。


 どれだけの時間を過ごしたのか。


 何日か、何ヵ月か、何年か。


 変化は訪れず。


 歩いて歩いて歩き続けた。


 嫌だ。


 ここは嫌だ。


 ずっと同じで。


 何も無くて。


 誰も居なくて。


 こんなもの望んでいない。


 朧気に浮かんではすぐ消えてしまう、誰かの顔。


 もっとちゃんと見せてくれ。


 きっと、大事なモノのはずなんだ。


 俺から奪わないでくれ。


 頼む、頼むよ、頼むから。


 心は千々(ちぢ)に乱れ。


 足がもつれ倒れてしまう。


 失敗した。


 もう立ち上がれない。


 ならば歩けもしない。


 目に熱を感じ、次いで頬へと伝わる。


 温かな感触。


 そう、感じている、感じているのだ。


 目が薄っすらと光を感じた。


 寸前までの暗闇はどこへ消え去ったのか。


 だが、ハッキリとは見通せない。


 全てが酷く曖昧で。


 ぼやけてしまっている。


 周囲には幾つもの気配を感じる。


 一人きりではないらしい。


 良かった。


 あぁ、でも。


 急速に力が失われていく感覚が襲う。


 もう、次は目覚められない気がする。


 ならば最期に、一息に万感の想いを籠めて。


 伝えなければ。


 肺に残された僅かな呼気。


 それを余さず振り絞り、きっとそばに居る相手へと。



「あ り が と う」



 ちゃんと声は出せただろうか。


 耳は何も伝えてはくれない。


 視界は再びの闇に閉ざされてゆく。


 二度とは明けぬ闇が来る。


 予感がある。


 あぁ、あぁ……。


 思考も散り散りで。


 それでも必死に搔き集め。


 乞い願う。


 願わくは、世界が平和で……。


 ――いや違う、もう願いは違うはず。


 彼女たち、が、幸せ、で、あります、よう、に……。






【次回予告】

各キャラのエピローグをSSにてお送りします。


さて、如何だったでしょうか。

怒涛の展開となった本編最終話。

主人公は早過ぎる生涯を終えることとなってしまいました。

年齢的には、35~40と言ったところでしょうか。

魔王を倒し、人々を救い、魔物を救おうと奔走し、人々に追われる。

僅か数年でしたが、平穏な時間を過ごすことも叶いましたが、さてどう思われましたでしょうか。

ゲームで言うところのED後の世界のように、勇者が人々の元から去った理由、その解釈の一つがこの物語なのかなと、個人的には捉えております。

また、最終話の展開は多分に無○転生の影響を受けてのものと自覚があったりもしております。


完結までどうぞお付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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