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男と女

「1口くらい付き合えよ」

 ファメロの私室で酌をしていれば、無理矢理、手にゴブレットを渡された。

 当初から遠慮しているというのに、召使が2人分の酒を用意してしまったのだ。


 男とは会話もしないとの噂だが、さすがにそれは誇張のようで、私室内の召使は男が多い。

 と、いうか、武人らしき気配をみるところによると、護衛か、或いはファメロの秘密の共犯者なのだろう。




「嫌いなのに」

 ファメロに見つめられて、渋々グラスを口に運ぶ。

 かなり、いい酒なのだろう、芳醇な香りが鼻に抜ける、グリーム公国内では流通の珍しい蒸留酒であった。


 喉を過ぎる頃には、アルコールは魔術で分解されて、ただの不味い水として腹へと落ちていく。そのひと手間を煩わしく感じながらも、リーシアは酒に興味を持っていた。




「これ、国産ですか?」

「生産量は少なくて、国外はもちろん、国内でも金持ちしか手が出せないがな」

「何本か買いたいです」

 リーシアの言葉に、その意図を悟ったファメロがため息をついて眉を寄せた。


「恋人の土産物に勧めたわけじゃないんだが」

「でも、美味しかったので」

 アルコール分を消し飛ばしておいてなんだが、酩酊を楽しむのが目的でない限りは、蒸留酒など、口に含んだ瞬間が一番おいしいと思っている。

 ……リーシアの持論であるが。


「用意させとくよ。……代わりに、その大好きな恋人のことでも聞こうかね」




 ファメロが話題をリーシアの恋人へと移したのは、なにも、のろけ話を聞きたいわけではないだろう。

 リーシア個人が高位貴族以上の存在でないことが分かったので、要は、リーシアが匂わせている暮らしぶりの由来が、『噂の恋人』にあるだろうと紐づけただけだ。


 国の弱みを、或いは、ファメロの秘密を悟ったリーシアが、どういった立場に属しているのか、ファメロは未だ知らない。




「恋人のこと、と言ってもねぇ」

「かっこいい? 俺より」

「……顔ですか? ……精巧な方じゃありません? 私の好みではないですが」

 リーシアはどちらかというと童顔で頼りない感じの顔つきが好きなので、人形のように整った今の恋人の顔は好きではない。

 そういう意味では、前世はどストライクであったのだが。


「俺とどっちが好み? ……1番カッコいい王族って誰か知ってるか?」

「どちらも好みからは外れています。……それが真実か否かはともかく、そういう噂があるのは、トワードの王太子でしょう?」

 リーシアは脳裏に、かの、いけ好かない男の顔を思い出して内心で眉をひそめた。ファメロに、その人物とリーシアが面識があることを悟らせないために我慢したが、そうでなければ表情に表しているところだ。


 リーシアは、例の男から色々と過干渉をされた、面倒な思い出しかない。




「あぁいう完璧人間は、俺は好きじゃないんだけどな。よく比較されるもんだ。トワードの次世は安泰だとさ。文武両道に加えて大魔術師。おまけに顔までよくて、国王代理の仕事にも今のところ失点はない、どころか賞賛対象ときた。俺は、そういうところが欠点だと思うがなぁ」


 酒をグビリと飲み込んで、ファメロが愚痴る。

 リーシアは、過去はともかく、未来に向けて、その男が、ある政治上の失策を取ったことを確信していたので、ファメロの言葉を肯定した。


「自分が高潔な人間だと勘違いしているから、そうではない人間を受け入れられない。完全無欠、ではないですよ。世の中、それこそ政治中枢など、そうではない人間の方が多いのですから」




 リーシアが唯の旅の魔術師のまま一生を終えたのなら、トワード王太子の選択は政治上の失策にはつながらなかった。

 それでも、リーシアは自らが人間の国々に多大な影響力を持つようになってしまったことを、そして、その力は未来に向けて大きくなっていくだろうことを、正しく理解している。


 だから、失策なのだ。


 トワード国の次期国王が、未来の魔王妃に好まれていないということが。





「で、そのカッコいい恋人は、相手を1人で旅させて何してるんだ」

「仕事……じゃないですか?」

 元々は全く手を付けていなかった政治であるし、彼は帝王学や政治学を学んできた存在ではないので、そもそも不得手な仕事であるが、部下が優秀なので問題ない。

 今も、彼の中では、リーシアの覗き見の方が重要視されているだろう。


「2人旅にはならないわけだ」

「私、自分がすることに、口や手を出されるのはもちろん、それ以外のあらゆる干渉もして欲しくないんです。ただ居座るだけにしたって、例えばこの場に私の恋人がいたら、その存在は貴方に何らかの影響を与えるでしょう?」

「俺なら、君みたいな美人、1人でウロウロされたら心配になるけどな」

 ファメロに、顔面をまじまじと眺められて、苦笑する。


「私に危険がないよう、できる限りのことをして、自由を与えてくれているのです。閉じ込めていないと守りきる自信もない男より、ずっと甲斐性があるでしょう?」

「はいはい、ごちそうさま」


 結局はリーシアに惚気られてしまい、ファメロは苦笑しながら酒を煽るのだった。


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