液体
石造りの床を青髪女の体が排出した液体が汚していく。
これはフェイクではない。
魔法や仮死の薬を利用した『死』ではなく、リアルな『死』だ。
不意に体が浮いた。
鉄格子の間から伸ばされた手がオレをつかんでいた。ポリアンナだ。
「一つだけ聞く。おまえが殺したのか?」
「……いや」
否定の声がかすれた。一瞬うまく声が出なかった。
「オレは殺してない」
「そっか」
はぁぁぁ、と重いため息をつき、ポリアンナが下を向く。
「だったら、考えて、決断をしなくちゃな」
「決断?」
「ああ」
応じたポリアンナの目が、彼女自身が先ほど差し入れたトレーを見た。
「パンは食べられた形跡がある。スープは?」
「スープも飲んでいたと思う」
先ほどポリアンナがホウじいさんを追いかけ、この場から消えたあと、青髪女はパンを口にし「これは水分が必要だわ」と言って、スープも飲んでいた。そして「まずっ」というコメントも聞いたような気がする。
「今のところ、食事に毒が入っていた可能性が高い。そして、アカザがいる」
「アカザ?」
「あの、覚えてないかな。赤い髪で猫みたいな雰囲気の――」
「あんたの上司?」
聞くと、ポリアンナが顔をしかめる。
「そう。あいつが厄介だ。あいつは単純に騒動が好きで、混乱が嫌いだ。あのボマー探しも、予想以上に手間と時間がかかっていたからあいつはイライラしていたんだ。だから、偶然現れたおまえたちにボマーという称号を押し付けようとした」
はぁぁぁぁ。ポリアンナが息を吐く。
「あのさ、一応この国は名目上外見的には種族に優劣は無くて、どの種族も同列に扱うっていう大義名分があるんだけど、実際はあるわけよ。で、ドワーフはそのカーストが低いわけよ」
「はあ」
「で、職業にもランクがあって、職業としての王兵はまあ尊敬される職業なわけよ」
「はあ」
「でも、この場合、一番に疑いをかけられるのはアタシなわけだし、アカザはこれから遊ぼうと思っていたこのオモチャを壊されて逆上するだろうから――」
「?」
「逃げよう」
オレは鉄格子の隙間から引っ張り出された。




