探索
「うぅ、狭い……」
端的に言って、家の中はギチギチだった。100には届かないとはいえ、それだけの数のスライムを一度に家に入れることは、当然だけど想定されていない。というか、そもそも普通に両親と子供くらいまでしか住むことを想定されていない家なので、こんな数を入れること自体が間違っていると言っていい。
とはいえ、スライム達を外に出しておくのは怖い。最近はすっかり忘れがちだけど、何せ最弱生物だ。もし町の外の魔物がまかり間違って迷い込んできたりしたら、例え威圧スライムに進化していようとも一撃で倒されてしまうだろう。『威圧の絆』でわかるのは生きているかどうかくらいなので、もし僕の目の届かない場所で1つずつスライム達の生命反応が消えていったりしたら……想像するだけで僕には耐えられそうも無い。
なので、家の中に全てのスライムを入れるのは僕自身の我が儘でしかないことなんだけど……そうは言っても、この狭さはかなりきつい。何かもう、腕とか足とか顔とか腰とか、全身至る所がむぎゅむぎゅプニュプニュしている。これがマッサージだったら気持ちがいいのかも知れないけど、狭くて詰まっているのでは息苦しさしか感じられない。
「トール! おいトール! いないのかよ!?」
そんな箱入りボーイになっていた僕の耳に、またしても切羽詰まった声が聞こえてくる。スライム達を押しのけかき分け外に出てみれば、そこにいたのは――
「ファルス?」
「おお! 何だよいるじゃねーかよ! 早く出てこいよトール!」
見覚えのある茶色い毛並みの男の子が、僕を見つけてあからさまにホッとした表情をする、が、それも一瞬のこと。
「大変なんだよ! ミャリアがいないんだ!」
「はっ!? 何故そんなことに?」
「今日は友達の女の子と遊ぶって言ってたから、俺と一緒じゃなかったんだよ。そこにさっきの避難勧告だろ? なかなか家に戻ってこないし、心当たりって言われても女の遊ぶ場所なんてわからないし……」
アワアワと視線を泳がせながら言うファルスの前にしゃがみ込み、肩を掴んで目線を合わせる。普段なら『威圧感』の影響が強くなりすぎるからやらないポーズだけど、今のファルスを落ち着かせるには効果的なはずだ。
「そうか。ならまず、一番重要なことを聞くぞ? ミャリアは町の外にいるのか?」
「わかんない……けど、多分外には行ってないと思う。流石に子供だけで町の外には門番が出してくれないと思うし……」
「そうか……」
それなら、まずは一安心だ。もし万が一外に……しかも森の方に行っていたりしたら、一刻の猶予も無いところだった。でも町の中にいるということなら、今ならまだ単なる迷子でしかない。
と、その時。まるで地響きのように重い音が、町の外から聞こえてくる。それは壁の向こうから、まるで町を包み込んで押しつぶそうとしているかの如く響き、それと同時に冒険者の人たちのときの声もまた聞こえてくる。
「な、何だ? どうしたんだコレ?」
「たぶん、戦闘が始まったんだ。この辺は壁のすぐ近くだし、森も近いからな」
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫さ。頼りになる人達が、みんなを守ってくれる」
「……トールは冒険者なのに戦わなくていいのか?」
「あー……あれだ。私はここを守っているのだ。万が一壁を抜けてきた魔物がいたときの、最終防衛ラインってところだな」
「そっか……」
軽いツッコミ待ちくらいで言ってみた台詞だったけど、ファルスはそのままうつむいてしまい、やがてその肩が少しずつ震えだす。
「トール……俺……父ちゃんは門を守りに行ってるから……俺が、男の俺がミャリアを守らなくちゃいけないのに……」
「ファルス……大丈夫だ。何の心配も無い。私を誰だと思ってるんだ?」
僕はあえて大げさな動作で立ち上がると、黒いマントをファサッと翻し、背後の家に向かって声を張り上げる。
「みんな! 出番だぞ!」
瞬間、家の扉を吹き飛ばして、スライム達が一気に外へと溢れ出してきた……扉が壊れるのは誤算だったかな? 修理費ってどのくらいかかるんだろう……いや、今はそんなことはいいのだ。
「マモル君チームは住宅街を、タモツ君チームは商店街を探索。でーやんとインドア派スライムたちは薬の準備。怪我をしてるかも知れないからね。えっちゃんは中央広場で情報の集積と近くに誰かいた場合は聞き込みを、あーちゃんは冒険者ギルドに連絡。さっちゃんは一応フラウさんに話を聞いてみて。僕はそれ以外の場所を探してみる。
さあ行けみんな! 僕たち全員の力で、ミャリアちゃんを探し出すんだ!」
ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるーーーーーーーーん!!!!!!!!
無数のスライム達が一斉に動き出し、町の各地へと散っていく。その様子をあっけにとられて見ているファルスに、僕はニヤリと笑って見せる。僕のキャラじゃないってわかってるけど、それでも英雄っていうのはいつだって大胆不敵な笑顔をしているものだからね。
「すげぇ……スゲェ! トールスゲェよ!」
「ふっふっふ。そうだろう? だからファルスは安心して家に戻って……」
「スゲェけど、トールは何もしてないな!」
「うぐっ!? い、いや、指示とか出したし、これから僕……私も探すし、何もしてないってことはないんだぞ? だからほら、安心して家に帰りなさい……」
「え、でも俺もミャリアを探した方が……」
「それは駄目だ。少なくとはいえ、危険があるかも知れない。ファルスは家に帰るんだ。今自分の胸にある心配な気持ちを、これ以上お母さんに味わわせるな」
それは願い。前の世界に両親を置き去りにしてしまった僕には、二度と叶えることのできない思い。ファルスには、それを大切にして欲しい。
「……わかった。じゃ、俺は帰るから、ミャリアの事頼むな。絶対、絶対頼むな!」
「ああ、男同士の約束だ」
互いの拳を打ち合わせたら、それは絶対の約束だ。何度か僕を振り返りながらも走って家に戻っていくファルスを見送り、僕は改めて自分の中に気合いを入れ直す。
さあ、ここからが問題だ。いかにもテンプレな展開だけど、僕には人捜しの固有技能みたいなのはないし、もし万が一魔物に襲われて大ピンチ、みたいなところに駆けつけたりしたら、普通に倒されて終わりになってしまう。つまりそうなる前にミャリアちゃんを見つけなくちゃいけないわけで……そのヒントは、さっきファルス自身がきちんと口にしていたアレだ。
僕は全力で住宅街の方へと足を向ける。マモル君チームと捜索範囲が被る場所だけど、僕の目的はとある人物に会うことだ。それは……
「ディーツ! いるか!」
「あれ、トール?」
訪ねたのは、ディーツの家。子供のことは子供に聞くのが一番だ。ミャリアちゃんが誰と遊んでいたのかがわかれば、最後に別れた場所だってある程度は絞り込める。
「どうしたんだよこんな時に?」
「ちょっと聞きたいんだが、ミャリアっていう猫人族の女の子を知らないか? ファルスっていう男の子の妹なんだが……」
「あー……うん、知ってるぜ。それがどうかしたのか?」
「まだ家に帰ってないらしいんだが、今日誰と遊んでたとか、何処で見かけたみたいな話はないか?」
「俺は知らないけど……ちょっと待ってて。おーい、ファムー!」
家の中に戻ったディーツ少年が呼んできたのは、彼らのグループで最年少であるファムちゃん。手を引かれてよたよたとやってきた幼女が、僕の姿を見て満面の笑みを浮かべる。
「トールにーちゃ!」
「おお、ファムか。今日も元気そうだな。と言うか何故ここに?」
「ファムの父ちゃんが門に行ってるから、ファムはうちで預かってるんだよ。で、今日ミャリアと遊んでたのはファムとミラだから、聞けばわかるかなって」
「そういうことか! なあファム。今日ミャリアちゃんと最後に別れた場所を教えてくれないか?」
「んー? いいよ。えっとね……」
ファムの口から発せられる拙い言葉を根気よく聞き、僕は場所を特定すると二人に礼を言ってその場を後にした。
待ってろミャリアちゃん。もうすぐ行くぞ……





