予期せぬ来訪者
「ただいまー。っと、うぉ!?」
フラウさんとの話を終えて帰宅した僕に、スライムたちがぷにょーんと飛びついてくる。そんなみんなを1匹1匹撫でていると、畑の方でタモツ君がぶるるーんと震えて「任務完了であります!」と伝えてきた。確かにこれで僕を含めた全員が帰宅したわけだから、間違いなく初めての配達任務は終了だ。
「ただいまタモツ君。お疲れ様。みんなも良く頑張ったね。偉いよー」
まるで動物王国の王様にでもなったような気分でひたすらみんなを撫でまくる。そうすると家の方からがさごそと音がして、ぴょいんと頭に乗ってくるのはえっちゃんだ。「モテモテだな相棒」と震えるえっちゃんに、「まあ、たまにはね」と笑って答える僕。これが僕の……僕たちの日常だ。期せずして新しい神様と友達になったりしたけど、そんなことで何かが変わったりしない。人を変えるのは、いつだって同じ人なのだ。
その後も僕たちは、忙しい日々を送っていた。他の人達への配達もあるし、ようやく会計が終わったと報告を貰ったので、レンデルさん経由で当主さんに話を持っていき、正式に畑を購入。この際直接自分でやらなかったのは、ただの冒険者である僕より、商業ギルドのギルドマスターという肩書きのあるレンデルさんの方が信頼度が段違いに高いからだ。持ってきてもらった書類に書かれた地権者の名前が僕になっていることを確認してから受け取ると、書類は家の棚の中にしまっておいた。
正直金庫的なものが欲しい気分だったけど、ただの鉄の塊だと魔法のあるこの世界なら持っていく方法はいくらでもあるし、かといって魔法的な対策の施された金庫はそれそのものが貴重品なので、それこそ大商人とか国に関わるやりとりとか、そういうレベルの貴重品をしまう用途にしか使われないとのことだった。まあ僕の持ってる書類と同じ物は当主さんの家に保管されてるはずだから大丈夫だろう。
「うーん。何か感無量って感じだね」
別に線が引いてあるわけでも紐が張ってあるわけでもないので、見た目には何も変わらない。でも僕の畑が増えたことは間違いないわけで、そう考えると何となくニヤニヤしてしまう。日本にいる時は、まさか17歳で自分の稼いだお金で土地を買うとは思わなかったなぁ……そもそも農業をするつもりなんて無かったし。両親どころかお祖父ちゃんとかも普通にサラリーマンだったからね。
そんな風に内心で感動を覚えつつも、増えたやるべき事の努力は続く。今使ってる畑は最初から畑だったけど、今回増えた土地はただの地面だ。耕すだけなら『威圧の鍬』でサクサクいけるけど、小石を取り除いたりするのは手間がかかる。今使ってる畑は畑の守護者達のリーダーであるマモル君とその一派に任せてあり、こっちの畑はタモツ君と仲間達に任せるつもりなので、みんなで一緒に石を拾ったり草を毟ったりと毎日少しずつ開墾を進めていく。出来たらどんな物を植えようかなんて話ながらする作業は疲れるけど楽しい物だった。
その作業の合間にも、やるべき事は盛りだくさんだ。リタさん以外の人の所にも順次配達に行ったけど、何処でも大歓迎だった。以前にリタさんにされた提案の話をしたら、みんな1週間連続より何回かに分けてくれた方がいいということでそっちで配達したんだけど、毎日行くより何日かに一回顔を出す方が馴染みやすかったのか、住宅街の人達も割とすぐに僕たちに慣れて受け入れてくれた。フラウさんに紹介するためにえっちゃんたちも連れていったんだけど、そのえっちゃんが僕の籠から野菜を取り出し、近所のおばちゃんのところにぴょいんと跳ねていって、プルプル愛想を振りまきながらお裾分けしたのが効いたらしい。やっぱりえっちゃんは流石だ。
他にもジェイクさんは宿屋以外にも冒険者ギルドを受け取り先に指定したりして、自分の取り分の野菜をみんなに大盤振る舞いでお裾分けして声援を貰っていた。ミャルレントさんや他のギルド職員はまだしも、自分も商品を受け取っているリタさんまでそこに混じってご相伴に与っていたけど……まあこういうのはみんなで騒ぐから楽しいんだし、言うのは無粋だよね。
それと、配達以外にもう1つ、僕には重大な仕事があった。ふれあいスライム広場に遊びに来てくれていた人達へのアフターフォローだ。
結局僕はほとんど顔を出せなかったけど、ふれあいスライム広場には結構な数の人が来てくれたらしい。ほとんどは家族連れで、子供がスライムが欲しいというのに対して「魔物だから危ないのでは?」という当然の危惧を抱いた親御さんが実際にスライム達と触れ合ってみたというのが多かったらしい。他にもお年寄りがお祭りの喧噪を少し離れてのんびりと震えるスライム達を見て和んでいたり、カップルで来ていちゃいちゃしながらスライムをつついていた人達もいたらしい。中にはゴツい見た目の男性とかもいて、ミャルレントさんが話を聞いたら「可愛い物が好きだが、こんな見た目なのでスライム達に受け入れて貰えるのかわからないから」と遠巻きに見ていたりしたらしい。
そうやって良い出会いを果たせた人達のなかから、実際にスライムと暮らしたいと希望する人達のところにスライム達を連れて行く。既に顔合わせ済みということで、引き合わせるのは実にスムーズだ。満面の笑みでぎゅーっとスライムを抱きしめる女の子にみんなで温かい視線を向けたり、恐る恐る手を伸ばしては引っ込めるを繰り返していたゴツい男の人に、連れていたスライム全員で一斉に飛び付いたら予想外にもその場で地面に倒れてしまい、焦って近づいたら至福の表情でまとわりつくスライムたちをプニプニしていたりと、笑顔溢れる作業はこれもまた楽しいの一言だ。
やりがいのある仕事。応えてくれる人の笑顔。一緒に頑張る眷属。あまりにも恵まれすぎた環境に、僕の毎日はあっという間に過ぎていく。そしてその日も、僕は朝から地面を威圧し、『威圧の鍬』にて畑を耕していた。
「ふぅ。これで予定地の7割くらいは耕せたかな?」
額の汗を拭い、僕は振り返って努力の成果を確認する。『威圧感○』は遺憾なく効果を発揮してくれているけど、中腰で鍬を振り続けるのはやっぱり辛い。石とかもだいぶ混じっていたので、地面に這いつくばってそれらを取り除くのも一苦労だ。その苦労の果てにできあがるものが見えているから頑張れるけど、だからといって疲れないわけじゃない。
「とりあえず、今日はこの辺で一休みしようか」
様々な作業を並行して行っていることもあり、進捗はそこまで早くは無い。まあ急ぐ必要があることでもないので、秋口くらいまでには何とかなるかなぁという感じでやっていたんだけど……
「見つけたぞ、魔王!」
不意に家の敷地の外から、そんな声が聞こえる。と言っても、こんな所に魔王がいるわけが無い。声も子供の声だし、勇者ごっこでもして遊んでいるのかな?
「見つけたぞー! 魔王ー!」
同じ声、同じ台詞。でもさっきよりちょっと必死な気がする。何だろう、劇の練習とか? 確かにこの辺なら大声を出しても平気だろうけど……
「あのー……出てきてくださーい……」
同じ声、でも一転して気弱な感じになった。ここでえっちゃんが「ひょっとして相棒を呼んでるんじゃないか?」と震えたので、まさかと思いつつも腰を上げ、声のする方へと歩いて行った。耕したばかりの畑を歩き去り、青々とした野菜の茂る今の畑を抜けていくと、そこにいたのは剣を構えた子供。
「誰だ?」
全く見覚えの無い相手。問う僕に対してその子供は、僕の姿を見るなり一瞬嬉しそうに顔を輝かせ、そしてすぐに真面目な顔になって僕に剣を突きつけてくる。
「見つけたぞ魔王! ボクはリリン。勇者リリンだ!」





