カミの服装
フルールさんのアピールタイムが終わり、彼女が席に戻ってくる。その際に少しだけ笑ったけれど、声はかけてこなかった。そして、次はいよいよ僕の番だ。
「それでは最後の方、ステージでどうぞ」
執事さんにそう呼ばれ、僕は足下にえっちゃんを残して席を立ち上がる。そう、僕で最後だ。他の競技と違って、ファッションショーだけは出場する人が極端に少なかった。これは単純に服を用意するのはお金も手間もかかるからというのもあるし、貴族のフルールさんと競うことに抵抗感を感じる人が多かったからというのもある。次があればそのどちらの条件もクリアできる人が増えるだろうけど、とりあえず今は僕が最後の挑戦者だ。
「それでは、お名前をどうぞ」
「うむ。冒険者のトールだ。そして彼が……」
そこで、僕は『威圧の旅装』で纏うことが出来るようになったマントをファサッと翻す。それに合わせて一端鞄の中へと引っ込んでいたあーちゃんがぴょいんと飛び出す。その身に纏っているのは僕とおそろいの黒いマント。だがまだここからだ。
僕は『威圧の旅装』の前段階である『威圧の服装』で発現できるようになった「帽子」を発現。何も乗ってなかった僕の頭に、突如シルクハットが現れる。それを左手で手に取り大きな動きでお腹の前辺りに。その動きによって腰の鞄がマントと帽子でいい具合に隠れるので、こっそり右手で鞄からサッとソレを取り出し、僕の帽子の中へと入れる。
上下逆さまにしたシルクハットを今度は体から離すように動かして、そのままあーちゃんの頭にスポッとかぶせ、帽子を上に持ち上げれば……中から落ちてきたあーちゃん用のシルクハットが彼の頭に残り、ファッションは完成。僕はそのまま自分の頭にシルクハットをかぶせて手を離す。
「私の友。緋色の大怪盗ことあーちゃんだ」
優雅に一礼する僕と、その場でくるっと回ってポーズを決めるあーちゃん。おそろいの服装で、まずつかみはばっちりだ。
手品のような僕の演出に、観客席からも「何だ今の?」「黒すぎね?」「この暑いのに全身黒とか」「不思議ー」「まっくろー」などとざわめきがあがる。全体的に黒い事に対する意見が多い気がするけど、それはきっと気のせいだろう。気にしたら負けなのだ。
「なかなかに凝った演出ですな。しかしその帽子……トールさんの被っている物はともかく、スライム用の小さな物など扱っている店があるとは思えません。まさかご自身で作られたのですか?」
と、ここでいい具合にレンデルさんが食いついてきてくれた。誰も聞いてくれなかったら自分で言わなきゃだったけど、これなら自然に説明できる。
「うむ。私の自作だ。といっても従来の物とは違うぞ? あーちゃん用の帽子とマントは、紙で作っているのだ」
「紙……ですか? え、あのペラペラの紙?」
「ああ、そうだ。勿論独自の技術を用いて加工はしているがな」
僕の言葉にレンデルさんは目を見開き、他の人達の間にも驚きが広がる。そりゃそうだ。紙で服を作るなんて普通はしないし、できない。でも僕にだけはできた。これこそが今回の秘策その1。『威圧感』による紙の特殊加工である。
この世界における紙は、ノートの1ページみたいなペラペラの紙だ。こんなファンタジーな世界でどうやって作ってるのかは知らないけど、多少お高いとはいえそう言う紙が普通に出回っている。
勿論、その紙をそのまま使って服を作るなんて無理に決まってるし、そもそも色だって白一色しかない。ではどうしたのかと言えば……当然威圧だ。この服の作成工程はこんな感じになる。
まずは染色。水彩絵の具みたいなものは存在しないようで、代わりに油絵で使うようなぽってりした絵の具はあったけど、それで紙を塗るのは厚さ的にも費用的にもアウトだった。なので僕が着目したのは、布用の染料だ。それを水に溶かしてそこに紙を漬ければ色を染み込ませることが出来る。
ただ、ここで問題がある。この世界の紙は和紙っぽい奴じゃなく、もっとツルツルした感じの本当に日本で良く見る紙そのままだったのだ。これをただ色水につけても均一に色が浸透することなんて無いし、そもそもグショグショになって使い物にならなくなってしまう。が、ここで役に立ったのが、洗濯の時にやっていた威圧だ。
汚れの時とは反対で、染料と紙に同方向の、水には異方向の威圧をかけることで、水分の浸透を最小限に抑えつつ紙全体に均一に染料を浸透させることに成功した。これによって僕は世界で始めて「色紙」の作成に成功したのだ!
……まあ、ひょっとしたら何処かにはあるかも知れないけど、とりあえずご近所では取り扱ってなかったので、きっと初だ。
染色が終われば、次は組み立て。マントには布のようなしなやかさを、帽子には厚紙のような頑強さが求められる。その解決法も、当然『威圧感』だ。干物の経験を生かし、少しずつゆっくり威圧をかけていくことで、紙はしなやかでありながらちぎれにくい感じになった。更に威圧が有効な間はしわになってもすぐ伸びるという嬉しい福次効果も発揮してくれたため、マントはこれでOK。次に帽子だが、こちらは短時間で強力に威圧することで、段ボール程度の強度を与えることができた。丸く筒を作ったりする部分は通常の状態で作成し、後から威圧をかければ固くなって頑丈になる。折り目には再度威圧をかけてやればシャープな鋭角を示し、後は普通に市販されていた糊的な何かでくっつけてやり、シルクハットの帯の部分だけは普通に買ってきたリボンを巻いてあげたら、それで完成だ。
こうしてできあがった紙装備は、威圧が抜ければ普通の紙に戻ってしまう。だが常に『威圧感』を垂れ流している僕や、中に入れたものを威圧し続けてくれる鞄の中、そして『威圧感・』があるあーちゃんが身につけている限りは軽くて丈夫でしなやかで、加工も楽というまさに神装備と呼べる素敵衣装になったのだ!
「うぅむ、紙……あんな薄くて柔らかいもので帽子? マントのはためき方もどう見ても紙には……ん? 帽子はともかく、マントは普通に布を使った方が安価なのでは?」
「うぐっ、ま、まあそうだな……」
レンデルさんの鋭いツッコミに、僕は一瞬だけ言葉に詰まる。そう、神装備な紙装備の最大の弱点は、意外とお金がかかるということだ。端布ならその辺に捨て値で売ってるけど、紙は結構お高いからね。糊も糸よりは高いし、コストパフォーマンスは正直悪い。
「だが、今日はファッションショーだろう? 裁縫の技術など無い私としては、素材で皆を驚かせたかったのだ。祭りとはそういうものだろう?」
そう、これはみんなで楽しむお祭りだ。無駄遣いをしていいわけじゃないけど、少しくらいの出費で見た人を驚かせたり楽しませたりできるなら、それは良いお金の使い方だと思う。そう言ってニヤリと笑った僕に、レンデルさんも「ええ、まさにその通りです」といつものポーカーフェイスで返してくれた。
「それでは、アピールタイムをお願いします」
執事さんの言葉に頷いて返し、僕は改めて観客席の方へと向き直る。沢山の人が僕を見ている。かつて誰にも見られなかった僕を、そのせいで命すら落としてしまった僕をみんなが見ている。『威圧感』のせいで注目されることにもだいぶ慣れてきたけど、これだけの視線が集まれば流石に緊張してしまう。思わず足が震えそうになるけれど、そんな僕の肩にあーちゃんがぴょいんと乗って「えっちゃんが遠く離れようとも、今は私が共にいるぞ。フフフフフ……」と励ましてくれる。そんな彼を軽く撫でてから、僕はその手でファサッとマントを翻した。
「行くぞあーちゃん。イッツ、ショータイムだ!」





