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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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衝撃的だけど衝撃的でもない、少し衝撃的な話

 ミャルレントさんとのディナーデートは、何とか無事に終わったと言えるだろう。まあ若干思っていたのと違うというか、レストランのコック兼ウェイターとお客さんみたいな感じになっていた気もしなくも無いけど、少なくとも彼女が喜んでいてくれたことは間違いなさそうなので、成功としておきたい……いいよね? 正直町を普通に散策とかしても、僕の甲斐性的にこれより喜んで貰える気がしないんだよなぁ……


 とはいえ、食事中はともかくその前後には、今までに無く長時間ミャルレントさんと話すことが出来た。と言うか、よく考えると冒険者ギルドでのやりとり以外では、初めてまともに会話したんじゃないだろうか? この世界に来てだいぶ経つのに、プライベートでの会話が今更とか……凄い頑張ったな僕!


 そう、ここは落ち込むところじゃない。だって存在感の欠片も無かった日本では、小学校で6年間同じクラスだった女子に中学でも再会して、勇気を振り絞って話しかけたら「初めまして」と言われたんだ。あの時はもう、悲しいとかそういう一切の感情が沸き上がらなかった。だって、遠くから見てただけとかじゃなく、2年と4年の時は同じ係をやってたし、6年の時は委員会すら同じだったからね。仕事上とはいえ何ヶ月も一緒に活動したのに、わずか1年のブランクで存在そのものを忘れられるとは、流石の僕もショックだった。これが意地悪とかだったら逆に希望も持てたけど、普通ににこやかに挨拶されたからね。その後も用事があって話しかければ親切にされたし。あの頃に比べれば、それなりに会わない期間があっても忘れられることもなく、ましてやプライベートなお誘いに応じて貰えるとか、進歩どころか進化に近い。知恵の実を食べたお猿さんが、初めて手にした火のついた棒を壁に立てかけて、おもむろにネットで動画配信を始めちゃうくらいのミラクルエヴォリューションだよ! この調子でこれからも頑張っていこう。


 それに、今日のミャルレントさんとのお話は、とても参考になることが多かった。中でも一番興味深かったのは、ミャルレントさんの種族である猫人族(フェリシアン)についてだ。もうずーっと昔の話だけど、この世界における猫人族(フェリシアン)は、奴隷どころか家畜という扱いだったらしい。あまりの驚きに目を見開いたけど、ミャルレントさんは笑いながら続きを話してくれて、それによると、どうも日本におけるペットの猫と同じ感じの扱いだったらしい。気まぐれだけど愛嬌があって、身内と認めた存在には愛情深く、自由気ままで大らかな種族性が愛され、また野生動物だけに身体能力も高くて、家で飼えば・・・軽い泥棒や魔物よけくらいにはなるし、放っておいても自然で普通に生きるので問題ない。

 ふらっと町にやってきてはご近所に愛想を振りまいて店のおっちゃんにおやつを貰ったり、近所の子供と遊び回ったりして疲れたら勝手に外に帰って生活するという、まさにみんなに愛される愛玩動物ペットという存在そのものだったのだ。


 でも、それにある時転機が訪れる。いくつもの国を股にかけて活動するとある・・・団体が、「言葉を話し二本の足で立つなら、それは動物ではなく人間だろう!」と主張し始めたのだ。当の猫人族(フェリシアン)たちは何の興味も無かったので気にしなかったらしいけど、町の住人たちは困ることになった。人間扱いになると、町の出入りをチェックする必要性や、税金が発生したりするからだ。今のままの関係が一番いいんだと主張すると「差別だ! 虐待だ!」と騒がれるようになり、猫人族(フェリシアン)たちもその団体に「人なら服を着るべきだ」と主張されてヒラヒラした可愛い、あるいは格好いい感じの服を配られたことで彼らを「良い人」だと認識したため、結果としてフェラルと呼ばれた人語を話す魔獣は、猫人族(フェリシアン)という種族になることになった。


 そして、なってからが大変だった。自分たちだけで生活している分には何の問題も無いけど、仲良くなった人間に会いに町に入るだけでお金がかかるし、余り物をただでくれた人や、軒下で休ませてくれた人達も、「それをすると虐待として罪になる」と言って悲しい顔で言うようになった。そこで初めて奪われた物の大きさに気づいて猫人族(フェリシアン)たちが立ち上がる……などということもなく、「獣から人になるための猶予期間」というのを利用して、親切な人達の手を借りて普通に仕事を覚えていったらしい。

 元々人々から可愛がられていた存在だし、必要が無かったから知恵が身についていなかっただけで、知能は十分に高い。勿論身体能力もあるので分野を選べば人間より活躍できる場面も多々あったし、おまけに猫人族(フェリシアン)を店番とかに使うと何故かお店が繁盛するなんてジンクスまで生まれて、順調に雇用も生まれ、結果として猫人族(フェリシアン)は今の形、ごく普通に人類の一員として生活するようになった、とのことだった。


 なんともはや、激動のようでそうでもないような経歴だと思う。ちなみに、今の猫人族(フェリシアン)は普通に人間の文化に馴染んではいるけど、かつてフェラルであった頃からの本能的な感覚も根強く残っているので、一般的な人間とはやっぱり価値観の違いがあるらしい。

 例えば、一夫一婦制が標準だと理解はしているけど、多夫多妻でも気にならないらしいし、自分の夫に知らない女が声をかけたりしたら過剰に警戒して威嚇するけど、その女が妻として受け入れられることになれば問題なく家族としてやっていけるなど、「内」と「外」の差が激しく、一端内側に入った相手はとても大切にするということ。

 例えば、現実的な土地や家屋の権利なんかは理解しているけど、感覚的に自分の縄張りというのを感じていて、そこに他の猫人族(フェリシアン)が入ってくるとどうもいい気がしないこと。

 そして例えば……成人した大人が人前で手をペロペロ舐めるのは、「服を着ないのは恥ずかしい」という後々に与えられた人間としての常識よりも、はるかに恥ずかしいということ……これを教えてくれた時、ミャルレントさんの顔は真っ赤になっていた。僕としてはただ可愛いなぁという感じだっただけに、この意識の差はびっくりだ。


 まあとにかく、これらの話を聞けたことは僕にとってまさに僥倖だった。種族とか宗教とかの話って、どうしても複雑で根深い問題が発生しがちだからね。僕は本当に何も知らないけど、この世界で常識であることなら知らないことの方があり得ないわけで、そうなると「常識を知らないフリ・・をすることで、あえて屈辱的な過去を語らせる差別主義の人」みたいな最悪の行為をやりかねない。この内容なら問題なかったけど、一発でそれまでの人間関係を吹っ飛ばせるような特大の地雷なんて、回避できるならそれに超したことは無い。


 そう、今日は良くやった。僕は良くやったよ。だから……お礼をしたいというミャルレントさんに「今度は貴方の手料理が食べたい」なんて分不相応な格好つけ台詞を吐いて、表現的にはやんわりと、でも断固とした態度で断られたことくらい、気にしなくても大丈夫だよ……大丈夫だよ…………何でイケると思ったんだろうなぁ。モテない男特有の、「あ、ひょっとして今の僕ってモテてる?」みたいな勘違いをしちゃったんだろうなぁ……


 うん。まだお嬢様の方のお食事会もあるしね……頑張ろう……

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