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彩色の魔女  作者: 唄海
3章 第零種永久機関
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受刑者

「あぢっ」


 焼けるように熱い紅茶に口をつけ、咄嗟に離す。先輩の計らいで始まったお茶会は、まだ始まったばかりだった。テーブルの上に並んだケーキは、あっという間に無くなっていく。


「黒峯君の淹れるお茶は美味しいですねー」

「お茶なんて誰が淹れても大して変わらないと思うけどなぁ⋯⋯あ、おかわりいる人ー」

「欲しい」

「はいよ」


 ライヴのカップに二杯目の紅茶を淹れ、再び自分のティーカップに口をつける。まだ熱い。


「⋯⋯⋯⋯」

「どうしたサリィ、食わないのか」


 珍しく静かなサリィは、ケーキには手をつけずに紅茶をちびちびと飲むだけを繰り返していた。気になって声をかけると、サリィは申し訳なさそうにこっそりと囁く。


「すいません、ワタクシは人ではないので⋯⋯」

「あ、そうか⋯⋯」


 どれだけ人間らしく見えても、彼女は人では無いのだ。食事をとる必要も無ければ、体の機能も俺達とは全く違う。


「せっかく先輩が買ってきて下さったんですし、頂かないわけには⋯⋯」

「無理すんな。俺が食うよ」

「うぅ⋯⋯」

「落ち込むなって。帰ったら少しなら血やるから」

「はい」


 珍しくしゅんとしたサリィに、俺はたまらない気持ちになった。

 アニマはそもそも使い魔だ。最低限魔力があれば、あとは主にただ尽くすだけ。食事によって原動力を確保する機能は元々無い。俺にはそれが、どうしようも無く寂しかった。


「あら、サリィちゃんはもしかしてケーキ苦手でした?」

「あ、えっと、すいません⋯⋯」

「いいのいいの。ごめんなさい、そこまで気が回らなくて」

「⋯⋯⋯⋯」


 ふと一瞬、先輩になら打ち明けてもと思ってしまった。この場にいる先輩以外の人間は、サリィが人間でない事を知っている。なら、いっそ全て話してしまった方が──


「黒峯君?」

「──っハイ?!」

「どうしました、ボーッとして」

「あーいや、なんでもないです。サリィのケーキ、貰いますね」


 馬鹿か俺は。そんな事をしたら、どんな危険を招くかは目に見えるだろうに。俺はもう、あちら側の世界の人間なんだともう一度自身に言い聞かせる。


「真、大丈夫? 頭が痛いとか気持ち悪いとかだったら、無理しないでちゃんと言うのよ。そろそろ熱中症の季節だから」

「大丈夫大丈夫。ごめん小夜、ありがとう」

「どうせ変な妄想でもしてたんじゃないの?」

「かもな」

「えっ⋯⋯」


 不敵な笑みを返す俺に、ライヴは軽く引いていた。自分から言ってきたくせに、失礼な奴だ。なんだか腹が立ったので、精一杯気持ち悪い笑顔を見せつけてやる。


「キモッ! ぶっ飛ばすわよアンタ!」

「イヒーッ!」


 鋭い蹴りがスネを直撃、あまりの痛みにしばらくの間のたうち回る。その間にライヴは、サリィの分のケーキを貰っていった。


「黒峯君、本当はどんな妄想をしてたんですか?」

「冗談ですよ先輩、俺がそんな事する訳ないじゃ無いですか」

「先輩には、言えない事ですか?」

「⋯⋯言えない」

「えー」


 今更になって俺は、魔法使い達の苦労を知った。言いたい事が言えない、伝えたい事が伝えられない。普通という世界から、彼女達は隔離されて今まで生きてきた。それがどれほど辛いことかは、俺なんかには決して分からないだろう。


「今一度思い出せ、黒峯真。何の為に魔法使いになったのか。どんな覚悟を持って戦うと誓ったのかを」


 甘い自分は押し込めろ。弱い自分は捨てろ。弱音を吐きそうになった自分にそう言い聞かせる。

 彼女の敵は誰だ。敵は倒す。彼女に手を出そうとすら思わない様になるほど、完膚なきまでに消し飛ばせばいい。いっその事、皆殺しに──


「黒峯君、電話鳴ってますよ?」

「え、あっ!」


 また考え込んでしまった。気づけば、ポケットに入れた携帯から着信音が鳴り出している。

 おかげで、何を考えていたか忘れてしまった。


「⋯⋯見覚えの無い番号だな」


 えも知れぬ不安が頭をよぎる。万が一に備えて、一度生徒会室を出た方が良さそうだ。


「ちょっと席外す」


 急いで部屋を出ると、人気の無いことを確認してから電話に耳を当てる。


「黒峯君、アルクリアだ」

「何か?」

「一つ忠告、と言うよりは報告をしておこうと思ってな」

「⋯⋯そっち関係か? だったら少し移動させてくれ」

「分かった」


 魔法関係なら、先輩からはなるべく離れた方がいい。ほかの生徒にも聞かれるとマズイ。

 急いで階段を駆け上り、屋上へと出る。ここなら人はいないし、万が一人が来ても対処しやすい。


「待たせた。話しってのは何だ?」

「率直に言おう。どうやら、魔女狩りの奴らが君を危険視し始めた」

「上等じゃねえか。それで?」


 それくらいは想定の範囲内だ。だが、それだけならこんなに急いで報告するはずも無い。


「双方に名が知れ渡ったせいで、他の組織にも君の噂が立ってしまった」

「他の組織? なんだそれ」

「執行者だ」

「執行者?」


 また随分とかっこいい名前じゃないか。大アルカナの名前とか付いているのか?


「魔法使い達の世界の傭兵と思えばいい。金のためならば、魔女狩り側にも魔法使い側にも付く」

「なるほど⋯⋯」


 いつの時代も、金に群がる輩はいるらしい。そいつらを利用し俺を捕らえるのか、はたまた目障りだからと殺しに来るのか。どうだっていい、その矛先が小夜達に向かなければそれでいい。


「⋯⋯大丈夫か?」

「心配しないでくれ。そいつらが来たら、返り討ちにしてやる」

「君の性格なら油断はしないだろうが、気をつけてくれ」

「あぁ。この番号はアンタのか? また何かあったら電話するよ」

「すまない、頼んだ。何か困ったことがあればいつでも言ってくれ。できる限り力になる」


 頼もしい言葉を残し、アルクリアは電話を切る。しばらく点灯し続ける携帯の画面を眺めがら、大きなため息を吐いた。

 俺がいくら狙われようと問題は無い。危惧すべきなのは、それによって小夜達にまで争いの火の粉が降りかかる可能性があるという事だ。


「⋯⋯⋯⋯来るなら来てみやがれ」


 俺は負けない。小夜達には、指一本触れさせるものか。たとえ何があっても、どんな奴が来ようとも、絶対に守ってみせる。

 あぁ、だというのにどうして。どうして俺の口は、こんなにも嬉嬉として歪んでいるのだろう。

 

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