六時のお茶会
「ここが生徒会室です。先輩は大体ここにいるので、困ったことがあったらいつでも来てください。あ、でも困ってなくても歓迎ですよ」
「大丈夫だろうかこの人⋯⋯」
涼城先輩の大雑把な説明に苦笑いしつつ、学校探検を進めていく。初対面という壁を、先輩はいともたやすく乗り越えてどんどん話しかけていった。
「先輩、お兄ちゃんは普段どこにいるんですか?」
「あらー、サリィちゃんはお兄さんの事が気になるんですね。うふふ〜、でも秘密です。ね、黒峯君」
「あたかも秘密があるような言い方をするのはやめて下さい。サリィ、何もないぞ」
「もおー、照れ屋なんだから」
「⋯⋯⋯⋯」
帰りたい。小夜はともかく、無言で冷ややかな視線を送るライヴが恐ろしくてたまらない。
「ライヴ、あの先輩はいつもあんな感じだから勘違いするなよ」
「うっさい、このスケコマシ」
「なんで⋯⋯」
理不尽だ。
「こちらは図書館になりまーす。借りる時は図書委員さんに言えば簡単に借りられますよ」
「随分と小さいんだな」
「ガル、お前のスケールで比べるな⋯⋯」
ここが小さいんじゃない。あっちの図書館がデカすぎるんだ。
「放送室では、校内のテレビに繋げてテレビ放送も出来るんですよ。やってみます?」
「やめてください」
そんな目的で校内放送をジャックされてたまるか。
「廊下です! 歩きます!」
「知ってる」
「黒峯君は知ってても、転校生さんたちは知らないかもしれないじゃないですか!」
「大丈夫だろうかこの人⋯⋯」
今日の先輩はなんだかいつもに増しておかしい。もしかしすると先輩、転校生の前で緊張しているのではないだろうか。
「素敵な先輩ね」
「嘘だろ?」
「嘘じゃないわ」
そんな暴走気味な先輩を何故か小夜は羨望の眼差しで見ていた。うーむ、分からない。
「私もあんな人になれたらいいわ」
「え⋯⋯え?」
「どうかした?」
「いやぁ、別に小夜がいいんならいいと思うけど⋯⋯」
魔法です、凄いです! とか言い始めそうで怖いなと一人で勝手に想像していたが、案外違和感のなさに驚いていた。
「てか、いつの間にサリィまで学校に来てんのよ」
「俺に聞くなよ。アイツが勝手に魂やらなんやら弄り回して学生になったらしいから」
「ふーん⋯⋯それで兄呼ばわりさせてるんだ⋯⋯」
「ライヴ、お前が想像するより俺は紳士だぞ」
「ただのヘタレじゃなくて?」
「ひでぇ」
そう言いつつも否定できないあたりがヘタレなんだなぁと痛感してしまう。
「⋯⋯楽しいか?」
「まぁね」
「ならいい」
「黒峯君、ライヴちゃん。二人だけで楽しくなっちゃうと先輩寂しいです⋯⋯」
「あーいえ、こいつはただの変態ゴミ男なんで楽しくないですから!」
「ひでぇ」
何はともあれ、もうそろそろ全ての施設を紹介し終わる頃だ。改めて見ると、意外とうちの学校は部屋が少ないなと思ったりもした。
「あとは見る所はありませんね〜」
「終わりですか」
「そうですね。皆さんご静聴ありがとうございました、わからないことがあったらまたいつでも聞いてくださいね」
「先輩、お姉様と呼ばせていただいてよろしいですか?!」
「お義姉さまならいいですよ〜?」
「⋯⋯」
あれ、こんな話をどっかで聞いたことがあるような気がする。まぁいいや、どうせろくでもないことだろうし。
とにかく学校探検も終わりだ。後は帰って、ゲームでもしよう。
「ところで皆さん、この後なにかご予定はありますか?」
「私は特に無いですけど」
「ワタクシも無いです!」
「別に何も無いわ」
「俺もねぇな」
「ふっふっふ〜、どうやらまだ大丈夫らしいですねぇ。ね、黒峯君?」
先輩は目を輝かせながら、まだ一人だけ返答していない俺をじっくりと見つめて来た。諦めたような表情を浮かべ、俺は先輩の思惑を今更になって感じた。
先輩はとにかく転校生が気になって仕方なかったのだ。新しい学校の仲間と仲良くなれるか不安で、俺を通してなんとか接点をもとうとしていた。だがもう、それは叶ってしまった。ならば後は、先輩の土俵だ。
「あーはいはい、どうせ生徒会室でお茶しましょって話ですよね?」
「正解です。先輩、これを見越してケーキ買ってきたんです」
「用意周到すぎる!」
「ケーキ⋯⋯!」
あ、小夜の目も光った。綺麗だなー。やっぱりみんなケーキは好きだもんなぁー。
「ていうか先輩、もしかしてこっちメインに考えてたんじゃ」
「いやいやそんな事ないですよ。決して歩き回るとお腹が空くなんて考えてないですよ?」
「はぁ⋯⋯」
なんて人なんだろう。そんな少し歩いただけでお腹が減っていたら、今頃グランドの部活勢達は死屍累々だ。
とにかく生徒会室へ戻ろう。せっかくのケーキだ、ご馳走にならないのは勿体無い。
「ねぇ真、お願いがあるのだけれど」
「ん?」
「私の事、先輩って呼んでみて」
「なんでだよ!」




