幻視の陽炎
「っぷはぁー!」
「うめぇうめぇ」
「クソが、なんでお前らまで⋯⋯」
駅へと向かう途中の道で、自販機に硬貨を投入しながら文句をたれる。雪舟に買うつもりが、何故か桐山と倉﨑にまで買う羽目になった。
「にしても真の妹ねぇ。お前と結構一緒にいたけど初めて聞いたわ」
「てか、あんま似てなくね?」
「妹と言っても、外国で生まれたのでお兄ちゃんと会うのはほぼ初めてなんです」
「⋯⋯⋯⋯」
話の流れで、サリィは俺の両親が外国で妹という事になっていた。なってしまった。
「まさか、先輩の妹さんだったなんて⋯⋯」
「まー⋯⋯なんだ、生きてると色々あるんだなぁって⋯⋯」
適当に誤魔化し、バツが悪そうに買った紅茶を一口飲む。ミルクティーの甘さだけが、今の俺の唯一の癒しだった。
「あまり余計な事を言うなこのバカ!」
「えー!」
口に出すと誤解を招きかねないので、何とか伝達回路の方を経由してサリィと意思疎通をはかる。流れで妹扱いしてしまったが、本当に良かったものかと不安で仕方ない。
「いいなぁ、真ばっかり女の子と仲良くしやがって」
「そうだそうだ、俺達にも少し紹介しろ」
「お前らのすぐ近くにいるだろ! 気づけこの馬鹿共!」
雪舟は何やら恥ずかしそうに俯いているが、桐山と倉﨑はポカンと首をかしげて頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
雪舟の苦労をもっと知っていたわってやって欲しい。
「ていうか俺ら、これからめっちゃ部活の時間増えそうでだるいわー」
「本当にそれ。先輩が引退しちまったせいで、妙に二年生達が張り切って困る困る」
「なんだかんだ言って、その先頭はお前らだろうが」
「まぁねー」
「人望よ、人望」
なら尚更雪舟の苦労を知ってやって欲しい。仮にもキャプテン(桐山)、もう片方は部長(倉﨑)なのだから。
「そういえばサリィちゃんは、もう部活決めたんですか?」
「あー⋯⋯それがですね雪っち。お兄ちゃんが無所属の手前、ワタクシだけが部活してるのもどうかと思いまして」
「よし、じゃあ真も入部な!」
「決定だ決定!」
「お前らジュース返せゴラァ!」
空になったペットボトルでチャンバラをしながら、駅へと歩いて行く。
「いいのかサリィ、別に俺を気にする必要は無いんだぞ」
「いいんです、ワタクシはご主人様の傍に居たいですから」
「⋯⋯」
頭の中でそう話しながら、ニッコリと笑顔をこちらへ向けるサリィ。夕日のせいか、いつも以上にその顔は可憐に見えた。
「そういや、今日の夜暇?」
「俺は暇だけど?」
「ガルが俺達のゲーム持ってるらしくて、一緒にどうかって誘ったんだけど」
「丁度四人だし、する事もねーから今晩どうかなって」
「いつの間にか仲良くなっていらっしゃる⋯⋯」
俺達は今、とあるゲームにハマっていた。世界中のプレイヤーと対戦できるゲームなので、ガルが持っていても何ら不思議では無いから、何かの拍子にこの二人と会話が成立してしまったのだろう。
今までは三人でやっていたが、ガルも混ぜても余りはでない。この二人とガルの交友を深めるためにも、参加して損は無い。実際俺もやりたいし。
「OK、なら今晩な。ガルの連絡先とかは持ってんのか?」
「抜かりなく。昼休み中に交換した」
「甘いな真、俺達は遊びに対しては誰にも負けない」
「だからお前らはえーよ⋯⋯」
今から帰って夕食、そうしたらゲームになる。明日はまだ平日だが、早めに終わらせれば明日にも響かないだろう。
何か涼城先輩から確認しておく事を言われた気がするが、多分気のせいだ。
「ライヴちゃんの連絡先は貰えませんでした⋯⋯」
「クソ、ガードが硬ぇよ」
「はは⋯⋯」
ライヴはどうしてそこまで男子に冷たいのだろうか。意外とアイツ、人見知りするタイプなのだろうか。昼休みに女子達とは仲良くしてたのを見たから、もしかするとうちのクラスの男子が悪いのかもしれない。今日の昼休みは話す余裕が無かったが、明日は話しかけてみようかと思う。彼女は果たして、楽しんでくれるだろうか。
駅に着くと、電車は丁度の時間に来た。電車に揺られ、各々の降りる駅を通り過ぎてゆく。雪舟が降り、桐山と倉﨑が降り、次は俺の番だ。
「定期無いんで、魔法陣に入りますね!」
「ずるいなお前!」
電車を降りるなり、サリィは魔法陣の中へと飛び込んで姿を消してしまった。随分ケチくさいな、と苦笑しながらもどこか楽しそうに俺は家へと歩いて行く。
「夏だなぁ⋯⋯」
ぽろりと出た言葉が、燃えるように暑い空気と混ざり合う。焼けるような夏の夕暮れ、俺は遠くで聞こえる蝉の声に耳を澄ませながら家路を急いだ。




