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彩色の魔女  作者: 唄海
3章 第零種永久機関
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新しい学友

 目も眩む七月の空の下、大勢の学生が夏服に身を包んで学校へと向かっている。

 決闘からはや一週間と少し。日本は夏真っ盛りの季節へと移り変わっていた。


「⋯⋯あつ」


 さんさんと照りつける太陽を睨みつけながら、俺は忌々しげに呟いた。日光を吸収しやすい黒髪がうっとおしい。どうして日本人は日光を吸収したがるんだとぼやく俺の隣には、同じく黒髪の、しかし瞳は青い少女が歩いている。


「小夜は暑いの平気なのか?」


 アスファルトの上に陽炎が揺らめく。そんな炎天下の中でも暑がる素振りすら見せない小夜に、俺は軽く疑問を抱いた。


「これも魔法のお陰よ」


 周囲の人々に聞こえない様に、彼女は静かな声でそう言った。


「なるほど。いいなぁ、俺もそんな魔法が欲しいよ」

「真の場合だと、余計に暑くなりそうだものね」

「あぁ⋯⋯確かに」


 俺の色である黒は一番熱を吸収する色だ。どう間違えても、涼しくはならない。

 落ち込みながら校門を抜け教室へ向かう。教室の窓は全開だが、相変わらずここも暑かった。


「おい真、これ以上アツくすんなよなー」

「おぉ、あちぃあちぃ」


 教室へ入るなり、いつもの二人が俺を待ち構えていた。なにやら楽しそうな顔をしているが、俺にはその理由は分からなかった。


「何かあったのか?」

「別にー?」

「そうそう、別に。真に夏が来たなーって思っただけさ」

「どういう事? 夏は誰にも来るだろ」


 俺が不思議そうな表情をすると、二人は顔を見合わせて大きなため息を吐き出す。


「俺達に夏は無い!」

「あるのは、非リア充という名の終わらない冬だけだ!」

「知らねぇよ⋯⋯」

「お前には分かるまい。野郎だけで夏祭りに行く虚しさが」

「まぁ、それはそれで楽しいんだけどね」

「知らねぇよ⋯⋯」


 そもそも夏祭りに行く時点で相当充実してると思うのだが、どうなのだろうか。


「夏祭り! 楽しそう、いつあるの?」

「いつだっけ。桐山、倉﨑、いつだ?」

「えーと⋯⋯」

「⋯⋯いつだっけか?」


 小夜の質問に、男三人が首をかしげたまま動かなくなった。


「何してんのアンタ達⋯⋯」

「あ、おはよう。なぁみっちゃん、夏祭りっていつだ?」

「夏休み初日」

「ほえー」

「さっちゃん去年行ったじゃん⋯⋯」

「そうだっけ?」


 そう言われるとそんな気がしなくもないが、いかんせん記憶が曖昧になっている。どれもこれも、暑さのせいだ。

 俺の一番の弱点は寒さで、二番目が暑さだ。四季がはっきりとしているこの国において、俺の持つ弱点は致命的だと思われる。


「今年は暑くなりそうだな⋯⋯」


 ワイワイと騒ぐ仲間達を視界の端に捉えながら、俺は窓の外から空を眺める。雲ひとつない清々しい青空。鳥は黄色い声をあげ、木々はその新緑を余すことなく広げている。その平和な景色を、俺はずっと眺めていた。


「おーし、ホームルームするぞー!」

「やべ」


 担任が教室へ入り、いつもと変わらない一日が始まる──ハズだった。


「突然だが、また転校生が来ることになった。それも二人だ」

「あー」


 教室中がざわめきだす。男か、女か。どこから来るのかと言った憶測が飛び交う中、俺はゆっくり小夜と目線を合わせた。


「別に同じクラスになるこた無いだろ⋯⋯」

「いいじゃない。楽しそうなんだから」

「まーな」

「お前ら静かにしろー。じゃあ、入ってきてくれ」


 一瞬で教室が静まり返る。皆、扉が開くのを今か今かと待ち構えている。


「よお」

「⋯⋯入るなり俺を見るな」

「うげ、アンタと一緒なの」

「⋯⋯入るなり嫌そうな顔をするな」

「え、さっちゃんの知り合い?!」

「こんな人知らない」

「なんだ黒峯の知り合いか。なら大丈夫そうだな」

「あ、じゃあ俺ら席代わりますよ」

「お前ら⋯⋯」


 俺の前に座る二人が、気を利かせて席を移ってくれた。その空いた席に座ってくれと促された二人は、悠然と着席すると揃ってこちらを向いてきた。


「あれ、ライヴ。制服デカくね」

「これが一番小さいヤツ! アンタ、わかってて言ってるでしょ!」

「今グーはダメだって転校初日から暴力沙汰はヤバイって!」


 夏服だと言うのに、ライヴの制服はどう見ても丈が長かった。おそらくこのままだと、冬服は完全に萌え袖になる。早く冬にならないかななどと思いながら、ピキピキと青筋をたてるライヴをなだめる。


「また余計な事を⋯⋯」

「ガル。お前はなんと言うか⋯⋯イケメンだな。多分モテるぞ」

「そうか?」

「うん」


 お世辞ではない。実際、クラスの女子達のガルを見る視線が熱い。目つきは悪いが、よく見れば普通にコイツは整った顔立ちをしている。


「うん、なんか腹が立ってきた」

「なんでだよ?!」


 すっかりいつもの調子を戻した俺を見て、担任の先生は安心した表情を浮かべる。


「じゃあ黒峯、頼んだぞ。それではホームルームは以上だ!」

「あ、ちょ」


 反論する余地もない程の素早さでホームルームを閉じて退散する担任の背中を恨めしそうに睨みつけ、それから諦めたように椅子に深く座り直す。一時限目まで、もう少し時間がある。と言う事は⋯⋯。


「よし、退散!」

「ちょっとどこ行くのよ」

「おい真!」


 呆気に取られる二人を、クラスの様々な人間が囲んでいく。軽く飽和状態となった席を遠目に眺め、二人を観察する。

 ガルは意外にも礼儀正しく接し、ライヴは同性に対しては好意的に話している。が、どうやら男子に対しては冷たい態度だ。


「でもそれがいい」

「そうだろ?」

「ビックリした!」


 倉﨑と桐山に両肩を叩かれ、思わず飛び退きそうになった。二人は既に、ライヴとの交流を済ませた様だ。心なしか、顔がにやけている気もする。


「ああいう子こそ、デレた時がイイってんだろ?」

「なぁ真。あの子は何が好きだ?」

「知らねぇよ。て言うか、多分アイツはデレない。ツンが十割だ」


 それもかなりトゲトゲしいツンだ、と付け加えておく。余計な被害者が出る前に食い止めておかなければ。


「あ、そうそう。何でも俺らのクラス以外にも、もう一人転校生が来てるらしいぜ」

「⋯⋯え?」

「聞いた聞いた。確か一年生だった気がする」


 もう一人の転校生。タイミングがタイミングなだけに、少しだけ嫌な予感がする。


「⋯⋯小夜、心当たりは?」

「ないわ。念のため、後で見に行きましょう」

「そうだな」


 丁度良く鐘が鳴る。何はともあれ、学生は勉強が本分だ。まずは授業を受ける事にしよう。

 各々が席に着き、ガルとライヴも一旦質問攻めから解放される。


「一時限目は英語。最初からクソ教科か」

「文句言わないの。わからない所は私が教えてあげるから、頑張りましょう?」

「はーい⋯⋯」


 早くも本分を放棄しかけ、俺は嫌々と教科書類を準備する。いつも通り英語担当の教室に挨拶をして、授業が開始する──ハズだった。ハズだったパート2である。


「突然ですが、ALTの先生を紹介します」


 唐突に、英語担当の男性教師が挨拶後にそう言い始めた。クラス中が再びざわめくと、入口からは目を疑う人物が入ってきた。


「本日よりALTをさせて頂く、ベル・ウィリディスだ。皆さんの英語力に少しでも貢献出来るように、精一杯頑張って行こうと思う。どうか、宜しく頼む」


 現れたもう一人のイケメンが、爽やかな挨拶を放つ。そのまま奴は教室を一望すると、俺を見て止まった。


「⋯⋯そーりー、あいあむのーすぴーくエイゴ」

「よろしく黒峯君」

「のーさんきゅー」


 

 ガルもライヴも、小夜でさえも鳩が豆鉄砲を食らったような表情になっている。どうやら誰も知らなかったらしい。


「それじゃあまずは自己紹介から始めてみようか。もちろん英語でね。じゃあまずは私から、次に⋯⋯そうだね。倉﨑君、行ってみようか」

「yes! No problemだぜ!」


 かくして、ベル先生による英会話教室が始まった。地獄の様な一時間の末に、俺は弱点教科である英語を余すところなくさらけ出してしまったのであった。



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