祈り、願い、髪留め。
目を閉じてすぐに、真は眠りについた。隠してはいたが、相当消耗していたのだろう。聖人二人に対して、魔法使い一人。今思えば、この上ない程の悪条件。あれだけ時間を稼ぐのは、相当な腕か、余程強力な魔法を持っている証拠だ。もし違うとすれば、彼が人並み外れた精神力の持ち主だという事だ。
起こしてしまわないようにそっと顔を覗き込む。左目の上の傷は、もう跡形もなく治っていた。
「よかった⋯⋯」
ほっと胸を撫で下ろす。ライヴに連れられて戻ってきた直後の彼の体は、もう酷くて目も当てられない有様だった。だから小夜は必死になって治療した。絶対に治してみせる。その一心で、彼女は真に寄り添い続けた。
同時にそれが、無性に嬉しくもあった。彼のそばに居られることが、嬉しかった。黒峯真と言う人の役に立てる事が、とても嬉しかった。
「真⋯⋯」
これは彼女の罪。彼を引き込んだ罰で、呪い。どれほど彼から恨まれても、どれだけ罵声を浴びせられても許されない。だと言うのに、彼は決してそんな事はしなかった。
小夜の為に戦う。自分の命など投げ捨てても、彼女の為に奔走すると心から誓った。それが嬉しく、そしてそれ以上に罪悪感を彼女に与えた。
「ごめんなさい⋯⋯いえ、ありがとう。アナタはそれすら赦してくれた。謝る事は、アナタは赦してくれないから」
どんな事があっても味方だ。彼はあの夜、確かに彼女にそう言った。どんな状況になっても、どんな事があっても守ると誓った。彼女が思うよりずっと前に、彼はとっくに覚悟も決意もしていたのだ。
「私はずっとアナタのそばに居るわ。償いなんかじゃなくて、アナタの一番そばに居たいから。例えアナタが傷ついたなら、真っ先に私が治すから」
もう迷わない。もう振り向かない。彼の覚悟に真正面から答える。彼と共に戦う。それが、彼女の決めた祈り。
この胸に湧き上がる想いは、きっと彼だけに向けられた特別な物だ。何故だろう、あの時助けてくれたからだろうか?
「──違うわ。きっと、時間なんて関係ないのよ。一緒に居たいと想うなら、私は自分の心に従うだけ」
キュッと髪を結ぶリボンに触れた。これを貰った時の事が、まるで昨日の事にさえ思える。あの時の照れ顔を思い出すだけで、彼女は胸が満たされる。あぁ⋯⋯彼からは貰ってばかりだ。
「⋯⋯おやすみなさい、真。明日もまた、会いましょう」
音を立てないようにこっそりと部屋を出る。明日、また彼は戦うだろう。ならば彼女は、それを見守らなけらばならない。
「大丈夫だ」
彼の言葉を思い出す。その一言が、本当に全てを変えてくれそうな気がする。
少しだけ不安だけど、大丈夫。そう自分に言い聞かせて、彼女はひっそりと髪を解いた。




