表像が導くは我が虚無
「うわ、硬ぇ」
カップアイスに木製のスプーンを突き刺す。長時間冷気に当てられたアイスは、その程度の攻撃で削れる程ヤワではなかった。
「もう少し暖かくなれば、すぐに溶けるのにね」
「でもそうすると、カップじゃない奴が食いづらいんだよな」
「それは、困るわ!」
同じようにアイスにスプーンを弾かれた小夜が、真面目なトーンで呟いた。あまりの真剣さに、俺は思わず微笑ましさすら感じた。
「あー、やっぱり高いだけあって美味いな」
やっとの事で削り取ったひと欠片を口に入れる。舌の上ですぐにアイスは溶け、ふんわりとした上品な甘さが口いっぱいに広がる。
「ねぇ真」
「ん?」
「美味しいわね」
「あぁ、美味いね」
嬉しそうに微笑む小夜。その笑顔のあまりの輝かしさと言ったら、今日あった疲労が彼方へと消え去っていく程に美しい。思わず、小夜の顔を見つめ続けてしまった。
「どうかした?」
「いや。負けられないなぁって思ってさ」
「負けないわ」
小夜がきっぱりと断言する。
「随分と信頼してくれるんだな」
「やっぱり、不安?」
「不安は無い。ただなんというか、改めて思ったんだ。絶対勝ってやるってな」
「⋯⋯そう。なら、勝ったらまたアイスを食べに行きましょう。祝勝会、という事で」
「オーケー!」
負けないと誓った上での、勝った時の約束だ。小夜から、最大限の信頼を寄せられているのがハッキリとわかった。
「もちろん、真のおごりでね?」
「おい」
「うふふ、楽しみだわ」
「おーい」
小夜が小悪魔の様に笑う。俺は財布の中身を思い出しながら、微妙な表情を浮かべていた。だがすぐに、口元が緩んでいるのに気がついた。
「⋯⋯勝てねえわ」
心地よい敗北感を噛み締めて、俺は再びアイスにスプーンを突き立てる。時間が経ったアイスは、丁度良い溶け具合となってまた違った味わいだった。
ゆっくりと、楽しい一時が過ぎてゆく。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。美味しかったわ」
「このアイス、微妙に量が少ないのがニクイよな。物足りないから、また買っちまう」
ゴミ箱に空になったアイスを投げ捨てる。二個食べもいつかやってみたいが、こういうのは一つだけだからこそいい気がする。
「真ってわりと欲張り?」
「かもしれない。食っちゃ寝大好き」
そう言いながら俺はベッドに横になる。倦怠感が全身を巡り、生の充足をひしひしと感じることが出来る。
「⋯⋯やべぇ、眠くなってきた」
「今日は大変だったもの。もう少し、寝た方がいいかもしれないわ。私の魔法、傷は直せても体力までは回復しないから」
「ん⋯⋯それでも十分助かるよ」
とはいえ精神的にもかなりくたばっているので、目を閉じればすぐにでも眠りにつけそうだ。
「ありがとうな、小夜。君がいてくれたお陰で、俺は無事にここにいられる」
「急にどうしたの?」
「いや、別に。ただ、やっぱり生きてるってのはいいなって思ってさ」
じわじわと迫り来る瞼を押しとどめて、俺は脈打つ胸に手を当てて呟く。
「小夜、ありがとう。俺はもう大丈夫だ。小夜もそろそろ寝た方がいい。寝不足はお肌に悪いぜ」
「そこは心配ないわ。私の魔法を忘れた?」
「癒しと水だろ。それが関係あるのか?」
「ええ。その力がずっと流れてる私は、つまりずっと癒されっぱなしと言う訳よ」
「大体察したわ。チートかよ」
「ついでに言うと無駄な脂肪も付かないわ」
「チートかよ!」
今明かされる衝撃の事実。世の中の女性が聞いたら、嫉妬の炎で地球全土が沸騰しそうだ。
「だから私の事は心配しないで」
「あ、はい。おとなしく寝ます」
目を閉じて、ゆっくりと意識を闇に沈めていく。
「おやすみなさい、真。良い夢を」
無意識へと歩く俺の背中に、小夜はそっと語りかけた。あぁ、なんだか体中が熱くなる。彼女の事を想うと、自然と力が湧いて来る。彼女の為なら、俺は全てを擲つ事も厭わない。
心の楔はより深く、より奥へと突き刺さっていく。決意は更に強固に、硬度を増して俺の心を染め上げていく。だが───
「あ⋯⋯れ?」
何かが足りない。決意も覚悟もあるのに、埋まるはずの心は何かが欠けていた。
「まぁいい。まずは決闘の事はだけ考えよう」
目を逸らし、目を背け、俺は眠りにつく。
真「まさか小夜⋯⋯余分な肉がつかないってことはあれ以上成長しないのか」
サリィ「どこが何ですかね」
真「そりゃもちろんおっ(ここで途切れている)」




