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彩色の魔女  作者: 唄海
2章 英国の闘い
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表像が導くは我が虚無

「うわ、硬ぇ」


 カップアイスに木製のスプーンを突き刺す。長時間冷気に当てられたアイスは、その程度の攻撃で削れる程ヤワではなかった。


「もう少し暖かくなれば、すぐに溶けるのにね」

「でもそうすると、カップじゃない奴が食いづらいんだよな」

「それは、困るわ!」


 同じようにアイスにスプーンを弾かれた小夜が、真面目なトーンで呟いた。あまりの真剣さに、俺は思わず微笑ましさすら感じた。


「あー、やっぱり高いだけあって美味いな」


 やっとの事で削り取ったひと欠片を口に入れる。舌の上ですぐにアイスは溶け、ふんわりとした上品な甘さが口いっぱいに広がる。


「ねぇ真」

「ん?」

「美味しいわね」

「あぁ、美味いね」


 嬉しそうに微笑む小夜。その笑顔のあまりの輝かしさと言ったら、今日あった疲労が彼方へと消え去っていく程に美しい。思わず、小夜の顔を見つめ続けてしまった。


「どうかした?」

「いや。負けられないなぁって思ってさ」

「負けないわ」


 小夜がきっぱりと断言する。


「随分と信頼してくれるんだな」

「やっぱり、不安?」

「不安は無い。ただなんというか、改めて思ったんだ。絶対勝ってやるってな」

「⋯⋯そう。なら、勝ったらまたアイスを食べに行きましょう。祝勝会、という事で」

「オーケー!」


 負けないと誓った上での、勝った時の約束だ。小夜から、最大限の信頼を寄せられているのがハッキリとわかった。


「もちろん、真のおごりでね?」

「おい」

「うふふ、楽しみだわ」

「おーい」


 小夜が小悪魔の様に笑う。俺は財布の中身を思い出しながら、微妙な表情を浮かべていた。だがすぐに、口元が緩んでいるのに気がついた。


「⋯⋯勝てねえわ」


 心地よい敗北感を噛み締めて、俺は再びアイスにスプーンを突き立てる。時間が経ったアイスは、丁度良い溶け具合となってまた違った味わいだった。

 ゆっくりと、楽しい一時が過ぎてゆく。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。美味しかったわ」

「このアイス、微妙に量が少ないのがニクイよな。物足りないから、また買っちまう」


 ゴミ箱に空になったアイスを投げ捨てる。二個食べもいつかやってみたいが、こういうのは一つだけだからこそいい気がする。


「真ってわりと欲張り?」

「かもしれない。食っちゃ寝大好き」


 そう言いながら俺はベッドに横になる。倦怠感が全身を巡り、生の充足をひしひしと感じることが出来る。


「⋯⋯やべぇ、眠くなってきた」

「今日は大変だったもの。もう少し、寝た方がいいかもしれないわ。私の魔法、傷は直せても体力までは回復しないから」

「ん⋯⋯それでも十分助かるよ」


 とはいえ精神的にもかなりくたばっているので、目を閉じればすぐにでも眠りにつけそうだ。


「ありがとうな、小夜。君がいてくれたお陰で、俺は無事にここにいられる」

「急にどうしたの?」

「いや、別に。ただ、やっぱり生きてるってのはいいなって思ってさ」


 じわじわと迫り来る瞼を押しとどめて、俺は脈打つ胸に手を当てて呟く。


「小夜、ありがとう。俺はもう大丈夫だ。小夜もそろそろ寝た方がいい。寝不足はお肌に悪いぜ」

「そこは心配ないわ。私の魔法を忘れた?」

「癒しと水だろ。それが関係あるのか?」

「ええ。その力がずっと流れてる私は、つまりずっと癒されっぱなしと言う訳よ」

「大体察したわ。チートかよ」

「ついでに言うと無駄な脂肪も付かないわ」

「チートかよ!」


 今明かされる衝撃の事実。世の中の女性が聞いたら、嫉妬の炎で地球全土が沸騰しそうだ。


「だから私の事は心配しないで」

「あ、はい。おとなしく寝ます」


 目を閉じて、ゆっくりと意識を闇に沈めていく。


「おやすみなさい、真。良い夢を」


 無意識へと歩く俺の背中に、小夜はそっと語りかけた。あぁ、なんだか体中が熱くなる。彼女の事を想うと、自然と力が湧いて来る。彼女の為なら、俺は全てを擲つ事も厭わない。

 心の楔はより深く、より奥へと突き刺さっていく。決意は更に強固に、硬度を増して俺の心を染め上げていく。だが───


「あ⋯⋯れ?」


 何かが足りない。決意も覚悟もあるのに、埋まるはずの心は何かが欠けていた。


「まぁいい。まずは決闘の事はだけ考えよう」


 目を逸らし、目を背け、俺は眠りにつく。




真「まさか小夜⋯⋯余分な肉がつかないってことはあれ以上成長しないのか」

サリィ「どこが何ですかね」

真「そりゃもちろんおっ(ここで途切れている)」

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